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40. ピンクさんとノヴァ神官
しおりを挟む「寒い時の豚マンって美味しいよな」
「お兄様、豚マンなの? 私は肉マンって呼んでいたわ」
「豚マンと肉マンの違いってある? 俺んちでは豚マンって呼んでいたから、豚マンと肉マンは単に好き好きで呼んでいるかと思ってた」
「中身は同じよね。もっともこの肉まんは魔獣の肉だから豚マンではないわ」
「そうだな。肉マンだ。でも、カレーマンはカレーマンだ」
「本当、お兄様ってカレーが好きねぇ」
「リーナの出してくれるカレーって、家庭の味のカレーもあるし、レストランの高級なカレーもあるし、本場のカレーもあるから色々な味が楽しめて美味しい。以前食べた事のある味を再現できるなんて本当に素晴らしい加護だ。もし、俺だったら給食と学食のカレーか家のカレーぐらいしか再現できないし、やっぱり経験って大事だと思う。でも、アルファント殿下がパイに入っていたカレーがカレーパンと違うと言いだしたのは困った」
「結局、パイに入れる為に調味料を足したって事で納得したんでしょう? 男の人は料理をしないからその辺で誤魔化せるけど、これからは気を付けないといけないわ。この肉マンのカレーもパイと同じ味のカレーにしたけど、やっぱり、殿下に持っていくの?」
「もちろん。殿下、カレーが好きだから。でも、肉マンもカレーマンも好きだと思うんだ。殿下にパンを持っていくとすごく喜ぶからこっちまで嬉しくなってくるよ。クロワッサンのサンドもかなり好きみたいだし、ぶどうパンも懐かしいって喜んでいた」
お兄様の出すパンはこの世界のパンと比べるとかなり美味しいので知っている人には凄い人気になっている。
レベルごとに色んなパンが出せるけど、その辺は内緒にしてごく一部の人だけに渡しているけど、お礼にお金を貰えるようになった。
最初は断ったけど結局市販のパンよりかなり高い値段設定で売る事になった。陛下とか殿下とか学生会の面々に。
つまり、顧客限定のパン屋をやっているようなものである。
ノヴァ神官は週3の割合でやって来る。
侍女の仕事というのは実際にはお仕えするお嬢様のお世話だし、お茶を入れたり着替えを手伝ったり、細々した用事を代わりに片付けたりするけれど、浄化の魔石があるし清掃も定期的に業者が入るので特にする事はない。
私は一応、お嬢様だけど、放置されていたので自分の事は自分で出来る。お茶会の時のドレスはフルール様の侍女が態々着付けに来てくれる。フルール様は相変わらず、空気のような存在感だけど私とは仲よくしてもらっているし、チョコレートの差し入れも度々頂いているのが嬉しい。
代わりに私の作った焼き菓子を差し上げるのだが、それがとても美味しいと喜ばれる。
『液体』の加護でだした材料がこの世界で手に入るものよりレベルが高いせいとは思うけど、お菓子作りの才能があると評判になっているそうだ。
で、ノヴァ神官が何をしているかというと、主に聖女と魔王についてのお話である。
資料を持ってきて、過去の魔王封印の話とか聖女の加護の使い方とか詳しく話してくれる。
「ねえ、お兄様、何だか聖女に成る為のお勉強をしているような気がするんだけど」
「なんだ、今頃、気がついたのか。いつ、聖女に成ってもいいように少しづつ知識を学んでいるらしいよ。それに監視と護衛も兼ねているみたいだ。リーナ、チートだから護衛なんていらないのに」
「何、それ! 聞いてないんですけど」
「えっ、だってノヴァ神官がわざわざやって来るなんて他に考えられないじゃないか。それも女装までして」
「えっー」
迂闊だった。確かにわざわざ王宮の特別な神官が侍女に変装して来るなんて、聖女になるのを期待されているとしか思えない。でも、聖女になれ、とは言われない。あくまでも私の意志を尊重してくださるらしい。
その見えない期待が重い。
さて、時々突撃してくるピンクさん。
一応、先ぶれは出してくれるようになったけど、当日に先ぶれを出してオヤツの時間にいらっしゃいました。
ランチはラクアート様とご一緒するので、お昼を出せ、と言われないのは助かる。なんせ、ずっと好き勝手におしゃべりするのを聞きながらご飯を食べるのは辛いと思うから。
「リーナ、この人誰?」
ピンクさん、最初の一言がそれですか。
ノヴァ神官と共にピンクさんを出迎えるとピンクさんはノヴァ神官を凝視していきなりそう言った。
「この方はご縁があって一時的に侍女をしていただく事になったノヴァーラさんです。美しい方でしょう」
「そ、それは確かにそうだけど、だけど……」
「初めまして、タチワルーイ家のお嬢様。ノヴァーラと申します。仕えていた主が儚くなられまして、しばらくはこちらでお世話になる事になりました。よろしくお願いいたします」
「一時的にいるだけよね」
「一応、そういうお話でお預かりしている方ですけど」
「そ、そうなの」
いつも来たとたんに煩くしゃべるピンクさんが大人しい。何だか、ギクシャクしている。
ノヴァ神官がお茶を入れて運んできても、お菓子をセッティングしても黙っている。これはこれで不気味だ。
「あ、あのリーナ」
「はい。なんでしょう?」
「ノヴァーラ、お使いに出したりしないの? するよね。何か、買ってきてほしいモノとかあるんじゃないの? あるよね。ほら、新作のケーキとかあのチョコレート専門店で出てるらしいよ。それ、買ってきてもらったらいいんじゃない。と、いうか、そのケーキ食べたい」
「チョコレートケーキですか?」
「そう、ケーキ食べたいの!」
「宜しければそのチョコレートケーキ、買ってまいりましょうか」
「ええっ、わざわざ? 」
「わざわざ行くのが侍女でしょ!」
「行ってまいります」
「では、申し訳ないのですがお願いいたします」
何だか様子のおかしいピンクさんに急き立てられるようにノヴァ神官は出て行った。
ノヴァ神官が出ていくとフゥーとため息をついてピンクさんはソファにドンともたれ掛かかると。
「リーナ、あの人首にして!」
「えっ!?」
「何だかとても嫌な感じがするの。一緒に居たくない! とにかく不吉な予感がするから首にして」
よその家の侍女を首にしろ、なんてピンクさん、何様!?
どうしてそんなに嫌うんだろう?
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