辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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38. 聖女と魔王

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「ああ、美しい枝ですね」
「本当にこのような聖女の杖は初めて見ました」
「あの、どう見ても木の枝に見えますよね。宝石が付いてキラキラしていますけど」
「ええ、聖女の杖はキラキラしているものなんです。歴代の聖女の杖のなかには手鏡とか指輪の形をしたものもあります」
「指輪! どのようにして指輪で封印するのですか?」
「その時は指輪の中に魔王を封じ込めて封印したそうです」

「あの、魔王はどうしていつも封印なのですか? それに100年ごとに出てくるなんて」
「魔王は討伐してはダメなのです。魔王の体で次元の穴を塞いでいますから」
「魔王で塞ぐ?!」
「次元の穴が開くと異次元とこの世界が繋がってしまうので、その穴を塞ぐ栓の役目を魔王が担ってくれているともいえます」
「魔王は生きているのですか?」
「約100年の間、眠りにつき少しづつ貯まった魔力で目覚めるそうです」

「そして、目覚めて直ぐ又、封印されると……」
「魔王というよりは贄のようですね」
「何だか、その何というか」

「この国が建国される前に魔王と勇者の戦いがあり、その時の約定で魔王の封印がなされたのです。魔王が目覚め、完全覚醒するとこの世界はとんでもない災厄に襲われますから仕方のない事です。ただ、魔王は寝ている間、精神だけは無力な人の体に宿る事ができるとされていますから、どこかで魔王の精神を体に宿した人間が普通に暮らして居るはずです。なまじ、目覚めて自分が魔王であると自覚する事はとても不幸だとは思いますが」
「目が覚めたら、突然自分が魔王になっていた、となるわけですか?」
「そうらしいです」
「魔王が封印されたら、その人は人に戻れますか?」
「悪夢を見た、という状態にはなりますが、ほとんどの場合、人の生活に戻れるようです」
「それも教会でわかるんですか?」
「突然、昏睡状態になりますから、たいていの場合、教会に運ばれます。魔王が目覚めている間、人の体は教会で保護されます」

私とお兄様は顔を見合わせた。この話、こんなとんでもない話、聞いてしまって良いのだろうか?
秘密を知ったからには、とならないだろうか。

それに、『隠蔽の加護』の事はどうしよう。私の加護は『液体』なんだけど、『真実の目』の加護で色々とばれてしまっているんじゃないかと思うと、あぁ、どうしよう。
ノヴァ神官は優しそうだけど、どうしたらいいのだろう。

「私の『真実の目』という加護は聖女に関しての真実という縛りがあります。」
「縛りですか?」
「私は守り人ですから聖女にとっての絶対的な味方です。そして、全ての真実が見えるわけではありません。聖女の杖が本物であるか、持ち主が聖女に相応しいかどうか、そして、聖女の加護についてわかるだけです。歴代の聖女の方は皆さん、ユニークな加護をお持ちでした」
「……」
「では、あのピンク、ピンクの髪をしたミス、フレグランス・タチワルーイについても聖女であるとか、持っている聖女の杖についてもわかるのでしょうか」

お兄様、ピンク頭と言おうとしたわね。皆、ピンクさんの事、ピンクとかピンクの方とかピンク嬢とか名前で呼んでないから私も一瞬、名前が出てこなかったのに、よく思い出した、と感心したわ。

「フレグランス嬢と言いますと、聖女の杖を手に入れたと言われている方ですね」
「ピンクさんの聖女の杖はスティックでした。一応、水晶みたいなのは杖の先についていたのですが」

アッ、私がピンクさんって言ってしまった。

「私がそのピンクさんにお会いしましょう。リーナ様の所によくお出でになるという事なので、新しい侍女候補としてお目にかかるのはどうでしょう?」
「そういえば、リーナの所の侍女はどうしたんだ? お茶会の時にも全然姿が見えないが」

アルファント殿下がちょっと首をかしげながら尋ねてきた。

「彼女はちょっと関わりたくないので放置していたら、今は街で恋人と暮らしているらしいです。時々、実家から監督の人が来るときだけ顔をだして、お給料だけもらっています」
「それは給料泥棒というのでは」
「そうですけど、まともな侍女が来られると息苦しいというか窮屈なので」
「宜しければ、私がリーナ様の所の侍女としてお仕事をいたしましょうか?」
「ノヴァ様が?」
「ええ、リーナ様が聖女になりたくないと言われるのならそれでもかまいません。まだ、桜の花も咲いていませんし、聖女の杖は間違いなくリーナ様がお持ちですから。今回、従来とは違って、その乙女ゲームというのが関係しているのなら、何かあった時のために側にいたほうが対処できると思うのです」
「……」
「私は口が堅いですし、余計な詮索はいたしませんよ」
「でも、そのノヴァ様は男性ではないですか? 侍女は普通、女性ですよね」

お兄様が困ったように尋ねてきた。確かにノヴァ様はとても美しい人だけど、神官の服装をしているしやっぱり男性なんだと思う。

「私が女性の格好をしたら男性だと思う人は誰もいませんよ」
「それは確かにそうですけど」
「ご心配でしたら『守護の規制」をかけていただいて」
「いえ、その点は心配ないと思いますけど」

「ちょっと、良いかな」

陛下が声をかけてきた。

「現状を考えると、ノヴァ神官がリーナの側にいるのが一番いいと思う。ピンクの事も把握できるし、もし、万が一だが魔王が復活した際にも役に立つだろう。もし、魔王が復活してダンジョンが活性化したら聖女に成らなくても聖女の杖が何とかしてくれるだろうから封印に強力してもらえるだろうか?」
「リーナは『水魔法』だけでも十分チート、いえ、強力な戦力です」
「チート?」
「従来とは違う水魔法の使い方をするので、ダンジョンでの闘いでもリーナのおかげで安心して戦う事ができます」
「そうか、闘う聖女か。めずらしいが頼もしいな」

いや、止めてください。何時の間にか聖女とか、戦うとか思ってもみない方向に進んでいるような。私は平凡な恋をして結婚をして、平凡な人生を送るんです。
私に期待しないでください。

「『治癒の加護』はアルファント殿下がお持ちです」

そっと聖女の杖をアルファント殿下に差し出してみると殿下が後退った。

「殿下、とりあえず、試しに持ってみてください」

ノヴァ神官の言葉と陛下が殿下を後ろから押したので殿下が仕方なく聖女の杖を受け取ると聖女の杖の光が消えた。殿下はホッとした顔をした。

「お互いにソッポを向きましたね」

ノヴァ神官が言うので今度は彼に渡してみるとボンヤリと光った。

「これからもよろしくと言われています」
「つまり!」
「聖女の世話をよろしくと言われました」

陛下もお兄様も、杖が光らなかったので、また、聖女の杖は私の所に戻ってきた。

もう、ピンクさんがまともな聖女なら私は逃げられるのに、如何してくれよう。
でも、私の加護、『水魔法』と思われているままなんだよね。

ホント、困る。どうしよう。
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