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33. 夏休み
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もうすぐ、夏休み。
魔法学園は8月一杯が夏休みになる。この世界でも四季があって夏は暑いので、夏休みは実家に帰る人が多い。
「ねぇ、お兄様。かき氷をそんなに急いで食べると頭が痛くなるわよ」
「だって、この抹茶に練乳掛けたやつ、凄くうまい。この白玉がなんともモチモチしてたまらないしアンコも良い。殿下も凄く喜んでいたじゃないか」
「アルファント殿下の蜜は紅茶だし、それにアンコを付けたのだからお兄様の食べているかき氷とは違うわよ」
「なんか、殿下が可哀そうになってきてさ。変わった水魔法で出すことができたって言って抹茶とか麦茶とかカレーとか食べさせてあげたいかなって」
「駄目よ。殿下に一度、食べさせたら際限なく後を付いてきそうだもの」
「もうリーナ。ラクちゃんから殿下に乗り換えたら? 大事にしてくれるよ」
「もう、お兄様ったら、今度は何を貰ったの?」
「ウメンのラム酒漬け。あれ、ホントにうまい。ほろ酔いになれるし」
「あきれた。ウメンで妹を売らないでよ。それに、アルコールが結構入っているからあまり食べ過ぎないでね。」
とりあえず、魔法学園での生活はそれなりに充実したものだった。魔法についての知識が色々とついたのは良かった。
魔王については過去の文献をアルファント殿下が中心になって調べているけど、勇者と聖女、その仲間で何度も封印しているらしい。
だいたい100年置きぐらいの間隔で魔王が封印を破って復活するそうだ。でも、前回の魔王復活から今は60年ほどなので、本来だったら魔王は復活しないはずだ。
ただし、40年後に復活するとしたら丁度、私達が年配になるころだから、どのみち魔王について調べる事は無駄にはならない。
でも、どの文献にも具体的な魔王の封印の場所とか、方法が書いてないのがすごく不思議。
殿下が王宮の秘匿されている資料がないか探ってみると言っていたからそちらに期待したい。
それにしてもラクアート様とピンクさんがウザい。
ピンクさん、前倒しで聖女に成りたいみたいで、辺境伯家に避暑に行きたいって言いだした。それに、ラクアート様が乗っかって、「一緒に行ってもいいよ」ですって。
何処の世界に、婚約者の実家に「愛人つれて避暑に行きたい」なんていう人がいますか! ここにいるけど。
もう、信じられない。
予定が詰まっていますからと断ったけど、私はとーっても忙しいのに、君たち、暇なの?
かき氷を食べながらラクアート様とピンクさんの愚痴をこぼしていたらお兄様の相槌がない。
ふと見ると、お兄様が固まっていた。
「どうしたの?」
「リーナ。大変だ」
「なにが?」
「俺、パンのレベルが上がっていた。殿下の為にアンパンばかり出していたから気が付かなかったけど、カレーパンが出せる」
「カレーパン?!」
「ちょっと、待ってて」
そういうと、お兄様はパンの木を生やした。そしてパンの実から取り出したのは熱々揚げたてのカレーパンだった。
「うわー、カレーパンなんて久しぶり」
「リーナ。これ、あの美味しいパン屋のカレーパンだ。しかも、出来立て熱々なんて俺、食べたことない」
「ちょ、お兄様、泣いているの?」
「ば、そんなことは無い。これ、美味い。美味いパンだ」
「ホントだ。すごく美味しい」
「殿下、喜んでくれるかな」
「お兄様、すっかり殿下が好きになってしまったわね」
「そりゃ、殿下、いい奴だから。よし、殿下にカレーパンをご馳走しよう」
「人に見られないようにね」
「もちろんさ」
という会話があって、こっそりと学生会の会議室でアルファント殿下にカレーパンを御馳走した。お兄様が。
殿下は薄っすらと涙目でカレーパンを食べている。
「アーク、俺は君に会えて良かった。本当にこの出会いに感謝だ」
「いや、これは美味しいですね。癖になります。何でしょう。この辛い中にもコクがあって虜になりますね」
「ランディ、お前は食べるのが早すぎる。もっと味わって食え!」
殿下と侍従のランディ様はアッという間にカレーパンを2個づつ食べてしまった。
アンパンも美味しいのにこれからどうしよう、という殿下にお兄様がアイテムボックスからクロワッサンにハムときゅうりと卵の入ったサンドも差し出したので、殿下は混乱してしまった。
そういえばこの世界にクロワッサンのようなパンはないし、マヨネーズもなかった。
「アークの『パンの木』の加護が羨ましい。俺もその加護が良かった」
「いや、王族がこの微妙な加護だとまずいでしょう」
「いいんだ。臣籍降下して、美味しいパン屋を開く」
「もう、殿下。臣籍降下しても精々、公爵です。それに王族がパン屋にはなれませんよ。アーク様を臣下にすればいいだけです」
「あっ、そうか。アーク、俺の元に来てくれないか」
アルファント殿下は本当にお兄様を手元に置いておきたいらしい。お兄様は困った顔をしていた。
だって、お兄様、私の『液体の加護』から離れたくないものね。
『液体の加護』がばれたら大変なのでシッカリとお兄様のお口にチャックをしとかなくては。
「殿下、アーク様もリーナ様もまだ13歳です。魔法学園の1年生ですよ。進路を決めるのは早すぎます。これからゆっくり口説いていけばいいのです」
「そうか。そうだよな」
と、いう事でお兄様はセッセとカレーパンを量産して、殿下のアイテムボックスに入れていった。この世界でも高価ではあるがアイテムボックスは存在していて、王族はいつも身に付けているそうだ。
夏休みの予定は学生会で1週間、ウオーター公爵家で1週間、王都にあるアプリコット辺境伯家で1週間、領地で1週間の予定である。
ウオーター公爵家ではご親戚の方への顔つなぎのお茶会があり、公爵家のうち向けの執務や水魔法に関するお勉強などがある。王都にあるアプリコット辺境伯家でも魔法学園のお勉強のおさらいや、マナーの確認と転移の魔法について学ぶ事になっている。
学生会では2学期の行事についてのお仕事がかなりある。実家からは学生会に入った事や成績がトップだった事をかなり褒められ、しっかりと学生会の為に役立つようにと言われている。
夏休みなのに休みがない
魔法学園は8月一杯が夏休みになる。この世界でも四季があって夏は暑いので、夏休みは実家に帰る人が多い。
「ねぇ、お兄様。かき氷をそんなに急いで食べると頭が痛くなるわよ」
「だって、この抹茶に練乳掛けたやつ、凄くうまい。この白玉がなんともモチモチしてたまらないしアンコも良い。殿下も凄く喜んでいたじゃないか」
「アルファント殿下の蜜は紅茶だし、それにアンコを付けたのだからお兄様の食べているかき氷とは違うわよ」
「なんか、殿下が可哀そうになってきてさ。変わった水魔法で出すことができたって言って抹茶とか麦茶とかカレーとか食べさせてあげたいかなって」
「駄目よ。殿下に一度、食べさせたら際限なく後を付いてきそうだもの」
「もうリーナ。ラクちゃんから殿下に乗り換えたら? 大事にしてくれるよ」
「もう、お兄様ったら、今度は何を貰ったの?」
「ウメンのラム酒漬け。あれ、ホントにうまい。ほろ酔いになれるし」
「あきれた。ウメンで妹を売らないでよ。それに、アルコールが結構入っているからあまり食べ過ぎないでね。」
とりあえず、魔法学園での生活はそれなりに充実したものだった。魔法についての知識が色々とついたのは良かった。
魔王については過去の文献をアルファント殿下が中心になって調べているけど、勇者と聖女、その仲間で何度も封印しているらしい。
だいたい100年置きぐらいの間隔で魔王が封印を破って復活するそうだ。でも、前回の魔王復活から今は60年ほどなので、本来だったら魔王は復活しないはずだ。
ただし、40年後に復活するとしたら丁度、私達が年配になるころだから、どのみち魔王について調べる事は無駄にはならない。
でも、どの文献にも具体的な魔王の封印の場所とか、方法が書いてないのがすごく不思議。
殿下が王宮の秘匿されている資料がないか探ってみると言っていたからそちらに期待したい。
それにしてもラクアート様とピンクさんがウザい。
ピンクさん、前倒しで聖女に成りたいみたいで、辺境伯家に避暑に行きたいって言いだした。それに、ラクアート様が乗っかって、「一緒に行ってもいいよ」ですって。
何処の世界に、婚約者の実家に「愛人つれて避暑に行きたい」なんていう人がいますか! ここにいるけど。
もう、信じられない。
予定が詰まっていますからと断ったけど、私はとーっても忙しいのに、君たち、暇なの?
かき氷を食べながらラクアート様とピンクさんの愚痴をこぼしていたらお兄様の相槌がない。
ふと見ると、お兄様が固まっていた。
「どうしたの?」
「リーナ。大変だ」
「なにが?」
「俺、パンのレベルが上がっていた。殿下の為にアンパンばかり出していたから気が付かなかったけど、カレーパンが出せる」
「カレーパン?!」
「ちょっと、待ってて」
そういうと、お兄様はパンの木を生やした。そしてパンの実から取り出したのは熱々揚げたてのカレーパンだった。
「うわー、カレーパンなんて久しぶり」
「リーナ。これ、あの美味しいパン屋のカレーパンだ。しかも、出来立て熱々なんて俺、食べたことない」
「ちょ、お兄様、泣いているの?」
「ば、そんなことは無い。これ、美味い。美味いパンだ」
「ホントだ。すごく美味しい」
「殿下、喜んでくれるかな」
「お兄様、すっかり殿下が好きになってしまったわね」
「そりゃ、殿下、いい奴だから。よし、殿下にカレーパンをご馳走しよう」
「人に見られないようにね」
「もちろんさ」
という会話があって、こっそりと学生会の会議室でアルファント殿下にカレーパンを御馳走した。お兄様が。
殿下は薄っすらと涙目でカレーパンを食べている。
「アーク、俺は君に会えて良かった。本当にこの出会いに感謝だ」
「いや、これは美味しいですね。癖になります。何でしょう。この辛い中にもコクがあって虜になりますね」
「ランディ、お前は食べるのが早すぎる。もっと味わって食え!」
殿下と侍従のランディ様はアッという間にカレーパンを2個づつ食べてしまった。
アンパンも美味しいのにこれからどうしよう、という殿下にお兄様がアイテムボックスからクロワッサンにハムときゅうりと卵の入ったサンドも差し出したので、殿下は混乱してしまった。
そういえばこの世界にクロワッサンのようなパンはないし、マヨネーズもなかった。
「アークの『パンの木』の加護が羨ましい。俺もその加護が良かった」
「いや、王族がこの微妙な加護だとまずいでしょう」
「いいんだ。臣籍降下して、美味しいパン屋を開く」
「もう、殿下。臣籍降下しても精々、公爵です。それに王族がパン屋にはなれませんよ。アーク様を臣下にすればいいだけです」
「あっ、そうか。アーク、俺の元に来てくれないか」
アルファント殿下は本当にお兄様を手元に置いておきたいらしい。お兄様は困った顔をしていた。
だって、お兄様、私の『液体の加護』から離れたくないものね。
『液体の加護』がばれたら大変なのでシッカリとお兄様のお口にチャックをしとかなくては。
「殿下、アーク様もリーナ様もまだ13歳です。魔法学園の1年生ですよ。進路を決めるのは早すぎます。これからゆっくり口説いていけばいいのです」
「そうか。そうだよな」
と、いう事でお兄様はセッセとカレーパンを量産して、殿下のアイテムボックスに入れていった。この世界でも高価ではあるがアイテムボックスは存在していて、王族はいつも身に付けているそうだ。
夏休みの予定は学生会で1週間、ウオーター公爵家で1週間、王都にあるアプリコット辺境伯家で1週間、領地で1週間の予定である。
ウオーター公爵家ではご親戚の方への顔つなぎのお茶会があり、公爵家のうち向けの執務や水魔法に関するお勉強などがある。王都にあるアプリコット辺境伯家でも魔法学園のお勉強のおさらいや、マナーの確認と転移の魔法について学ぶ事になっている。
学生会では2学期の行事についてのお仕事がかなりある。実家からは学生会に入った事や成績がトップだった事をかなり褒められ、しっかりと学生会の為に役立つようにと言われている。
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