上 下
33 / 103

33. 夏休み

しおりを挟む
 もうすぐ、夏休み。
 魔法学園は8月一杯が夏休みになる。この世界でも四季があって夏は暑いので、夏休みは実家に帰る人が多い。

「ねぇ、お兄様。かき氷をそんなに急いで食べると頭が痛くなるわよ」
「だって、この抹茶に練乳掛けたやつ、凄くうまい。この白玉がなんともモチモチしてたまらないしアンコも良い。殿下も凄く喜んでいたじゃないか」
「アルファント殿下の蜜は紅茶だし、それにアンコを付けたのだからお兄様の食べているかき氷とは違うわよ」
「なんか、殿下が可哀そうになってきてさ。変わった水魔法で出すことができたって言って抹茶とか麦茶とかカレーとか食べさせてあげたいかなって」

「駄目よ。殿下に一度、食べさせたら際限なく後を付いてきそうだもの」
「もうリーナ。ラクちゃんから殿下に乗り換えたら? 大事にしてくれるよ」
「もう、お兄様ったら、今度は何を貰ったの?」
「ウメンのラム酒漬け。あれ、ホントにうまい。ほろ酔いになれるし」
「あきれた。ウメンで妹を売らないでよ。それに、アルコールが結構入っているからあまり食べ過ぎないでね。」

 とりあえず、魔法学園での生活はそれなりに充実したものだった。魔法についての知識が色々とついたのは良かった。
 魔王については過去の文献をアルファント殿下が中心になって調べているけど、勇者と聖女、その仲間で何度も封印しているらしい。

 だいたい100年置きぐらいの間隔で魔王が封印を破って復活するそうだ。でも、前回の魔王復活から今は60年ほどなので、本来だったら魔王は復活しないはずだ。
 ただし、40年後に復活するとしたら丁度、私達が年配になるころだから、どのみち魔王について調べる事は無駄にはならない。
 でも、どの文献にも具体的な魔王の封印の場所とか、方法が書いてないのがすごく不思議。
 殿下が王宮の秘匿されている資料がないか探ってみると言っていたからそちらに期待したい。

 それにしてもラクアート様とピンクさんがウザい。
 ピンクさん、前倒しで聖女に成りたいみたいで、辺境伯家に避暑に行きたいって言いだした。それに、ラクアート様が乗っかって、「一緒に行ってもいいよ」ですって。

 何処の世界に、婚約者の実家に「愛人つれて避暑に行きたい」なんていう人がいますか! ここにいるけど。 
 もう、信じられない。
 予定が詰まっていますからと断ったけど、私はとーっても忙しいのに、君たち、暇なの?

 かき氷を食べながらラクアート様とピンクさんの愚痴をこぼしていたらお兄様の相槌がない。
 ふと見ると、お兄様が固まっていた。

「どうしたの?」
「リーナ。大変だ」
「なにが?」
「俺、パンのレベルが上がっていた。殿下の為にアンパンばかり出していたから気が付かなかったけど、カレーパンが出せる」
「カレーパン?!」
「ちょっと、待ってて」

 そういうと、お兄様はパンの木を生やした。そしてパンの実から取り出したのは熱々揚げたてのカレーパンだった。

「うわー、カレーパンなんて久しぶり」
「リーナ。これ、あの美味しいパン屋のカレーパンだ。しかも、出来立て熱々なんて俺、食べたことない」
「ちょ、お兄様、泣いているの?」
「ば、そんなことは無い。これ、美味い。美味いパンだ」
「ホントだ。すごく美味しい」
「殿下、喜んでくれるかな」
「お兄様、すっかり殿下が好きになってしまったわね」
「そりゃ、殿下、いい奴だから。よし、殿下にカレーパンをご馳走しよう」
「人に見られないようにね」
「もちろんさ」 

 という会話があって、こっそりと学生会の会議室でアルファント殿下にカレーパンを御馳走した。お兄様が。
 殿下は薄っすらと涙目でカレーパンを食べている。

「アーク、俺は君に会えて良かった。本当にこの出会いに感謝だ」
「いや、これは美味しいですね。癖になります。何でしょう。この辛い中にもコクがあって虜になりますね」
「ランディ、お前は食べるのが早すぎる。もっと味わって食え!」

 殿下と侍従のランディ様はアッという間にカレーパンを2個づつ食べてしまった。
 アンパンも美味しいのにこれからどうしよう、という殿下にお兄様がアイテムボックスからクロワッサンにハムときゅうりと卵の入ったサンドも差し出したので、殿下は混乱してしまった。
 そういえばこの世界にクロワッサンのようなパンはないし、マヨネーズもなかった。

「アークの『パンの木』の加護が羨ましい。俺もその加護が良かった」
「いや、王族がこの微妙な加護だとまずいでしょう」
「いいんだ。臣籍降下して、美味しいパン屋を開く」
「もう、殿下。臣籍降下しても精々、公爵です。それに王族がパン屋にはなれませんよ。アーク様を臣下にすればいいだけです」
「あっ、そうか。アーク、俺の元に来てくれないか」

 アルファント殿下は本当にお兄様を手元に置いておきたいらしい。お兄様は困った顔をしていた。
 だって、お兄様、私の『液体の加護』から離れたくないものね。
『液体の加護』がばれたら大変なのでシッカリとお兄様のお口にチャックをしとかなくては。

「殿下、アーク様もリーナ様もまだ13歳です。魔法学園の1年生ですよ。進路を決めるのは早すぎます。これからゆっくり口説いていけばいいのです」
「そうか。そうだよな」

 と、いう事でお兄様はセッセとカレーパンを量産して、殿下のアイテムボックスに入れていった。この世界でも高価ではあるがアイテムボックスは存在していて、王族はいつも身に付けているそうだ。

 夏休みの予定は学生会で1週間、ウオーター公爵家で1週間、王都にあるアプリコット辺境伯家で1週間、領地で1週間の予定である。

 ウオーター公爵家ではご親戚の方への顔つなぎのお茶会があり、公爵家のうち向けの執務や水魔法に関するお勉強などがある。王都にあるアプリコット辺境伯家でも魔法学園のお勉強のおさらいや、マナーの確認と転移の魔法について学ぶ事になっている。

 学生会では2学期の行事についてのお仕事がかなりある。実家からは学生会に入った事や成績がトップだった事をかなり褒められ、しっかりと学生会の為に役立つようにと言われている。

 夏休みなのに休みがない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません 

柚木ゆず
ファンタジー
 厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。  厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。  そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。  陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。  わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。  ――ホズラティア様、お願いがございます――。  ――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。  ――どうか、国民の皆様をお救いください――。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...