上 下
18 / 103

18. 入学式と公爵令嬢

しおりを挟む
入学式当日はとても良い天気だった。

 私はお兄様にエスコートされて入学式の会場に向かった。このタウンハウスは学園のちかくに配置されている。
 男女でそれぞれ管理棟を挟んで右と左に分かれているが、それぞれの敷地には許可を得ないと入れないようになっている。

 本来は王家、公爵家、侯爵家、辺境伯家までがタウンハウスに入れる事になっていたが、近年、高位貴族の出生率が下がっているせいで、伯爵家もこのタウンハウスに入れるようになった。
 でも、本当は出生率ではなくて魔法の加護が出にくくなってきているらしい。それで、魔法省と神殿がその原因を探るべく必死で研究をしているという話をお兄様がこっそり聞いてきた。

 私の『隠蔽』の加護がレベル7になった時、任意の人(個人)を隠せるというか、見えなくする事ができるようになった。ので、それ以来お兄様は姿を消して「スパイ活動は楽しいよね」と言いながらあちこち偵察に行くようになった。
 楽しそうで何よりである。

 タウンハウスから中庭に出ると、3軒ほど向こうのハウスから侍女と共に出てくる女の子がいた。

 入寮当日に各タウンハウスにはご挨拶を済ませているが、此処は15歳までの高位貴族の学院生が居るところなので今年度はそんなに住んでいる者はいない。今年の入寮は私と公爵令嬢のフルール・フォスキーア様だけである。

 彼女は入学式の前日、つまり昨日に入寮した。侍女を通して挨拶はあったが、来週末、すなわち4月10日の土曜日にご挨拶のお茶会をタウンハウスで行うとのご招待状が届いた。タウンハウスに今入居しているのは

 1年生が私たち2人、2年生が1人、3年生が3人、4年生が2人である。2年生のお姉さまは伯爵家で、3年生は侯爵家が1人、伯爵家が2人、4年生が公爵家1人、侯爵家1人で私たちも入れると合わせて8人になる。

 今年度はこの8人で繋がりを作り、ここに他の貴族を招いて社交のひな型を展開していくことになる。面倒くさい。
 でも、幸いにして公爵家のお嬢様がいらっしゃるので、そちらが中心になるから私はそこまで気を回さなくてもいいかもしれない。

「おはようございます。私、リーナ・アプリコットでございます。辺境伯家の5女になります」

 フルール・フォスキーア様と目があったのでササっと淑女の挨拶をした。

「おはようございます。フルール・フォスキーアです。フォスキーア家の次女ですが、タウンハウスに同学年の方がいらして嬉しいわ。どうぞ、フルールと名前でお呼びになって」

 フルール様は大人しそうだが、綺麗な金髪に伏し目がちな緑の目、透き通るような白い肌が正統派美少女といえる。そしてとても綺麗な声をしていた。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。リーナとお呼びください」
「私、人見知りなのであまり社交はしたくないの。でも、リーナ様とは仲良くしたいのでよろしくお願いしますね」

 にっこり笑ったフルール様はとても可愛らしかった。
 でも、二人で他愛無い話をしながら校舎に近づくと

「ごめんなさい。私、これから気配を消しますがお気になさらないでくださいね」

 フルール様がそう言ったかと思うとまとう空気が薄くなった。というか気配が薄くなってそこに人がいるのはわかるのだが、はっきりと認識ができなくなってしまったのだ。

「エッ?!」
「ああ、これは消し過ぎました。これではどうですか?」

 少し、気配が濃くなって、フルール様と認識はできるのだがものすごく存在感が薄い人になった。

「あ、あの?!」
「私、実は人が苦手ですの。ですからできれば空気のような存在になれたらと思って。でも、リーナ様が私の事を意識してくださったらそこにいるとわかりますから」

 フルール様は少し、変わった人のようだった。

 会場に着いた時に出欠のチェックがあり、案内をされて私たちは前列の端の方に座った。どうも爵位の順に席が決められているらしいがフルール様の横に座る事ができた。
 同学年での高位貴族は公爵家と伯爵家の人が二人だけだったが、男女の配慮がされているらしく「男性、女性で分けてあります」と案内の人から告げられた。クラス分けは入学式が始まる前に紙が配られた。

 在校生を代表して挨拶をしたのは、第一王子のアルファント・ド・レクシャエンヤ・パール様だった。アルファント様は2学年だが、王家の方が学生になると慣例的に2学年から学生会に入る。

 副会長と会長補佐は同学年から選ぶ為、侯爵家の次男ガーヤ・ジートリス様が副会長、魔法庁長官の三男・リンドン・マジーク様が会長補佐。騎士団長の三男・トーリスト・ガーター様がアルファント様の騎士見習いとして側に着く事になったそうだ。
 後は上級生の書記と会計、庶務が2人の計7名が学生会のメンバーになる。

 入学式は滞りなく行われその後はすぐ解散となったが、フルール様にお茶に誘われてタウンハウスにお邪魔した。

「私、加護が『風魔法』と『霞』の二つありますの。『霞』の加護で自分の存在を限りなく薄める事ができるのです。本当は人が苦手なので学園には通いたくないのですけど、『風魔法』の継承者が私しかいなくて仕方なくここにいます」
「『風魔法』はフルール様しかいないんですか?」
「そうなのです。このままでは私が公爵家を継ぐ事になってしまうので本当に困っているのです。」

 フルール様は悩まし気な顔をしていた。そして、これからも存在感を消していくけどよろしくお願いしますねと頼まれた。
 因みに高位貴族はAクラスに決まっているので一緒のクラスだった。

 とりあえず、存在感は薄いけれどお友達ができたのは良かったと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません 

柚木ゆず
ファンタジー
 厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。  厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。  そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。  陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。  わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。  ――ホズラティア様、お願いがございます――。  ――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。  ――どうか、国民の皆様をお救いください――。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

処理中です...