辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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8. トーストが美味しい

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「リーナはトーストには何を付ける?」
「えっ? バターとジャムかな」
「ちょっと、待っていて」

 そう言うとお兄様はフライパンに食パンを乗せた。

「えっ、待って。それ食パンみたいだけど、この世界のパンは丸パンか平べったいパンだよね」
「そうだけど少し待っていて」

 お兄様はフライパンで食パンを両面焼くと、お皿に乗せてジャムとバターを添えて出してくれた。

「トースターがないからフライパンで焼いたけど、普通に美味しいよ。リンゴとブドウのジュースも貰っていたから煮詰めてジャムにしたんだ。液体バターも出るようになって良かったよ。まずバターを付けてから食べてみて」 

 恐る恐るトーストを手に取ってかじってみた。ああ、私の知っているトーストだ。表面にナイフで切り込みを入れているからそこにバターがトロリと溶けて黄金色。
 ジャムもジュースから作っているけど生絞りだからトロントロンとして美味しい。

「美味しい」
「うん。美味しいね」

 私たちは二人で黙々とトーストを3枚ずつ食べた。本当に日本のパンは美味しいと思う。

 お兄様の加護『パンの木』は5歳の時に発現してその時は一日に一本だけ生えて、実も一つだけだったけど年齢が上がったせいか一日に一本だけど実は五つ成っていた。
 それを頑張って、というかパンの実を美味しいパンにお願いします。と毎日強く願ってみたら……何ということでしょう。

 パンの実の中身が食パン。お兄様が思い浮かべた日本で朝食に食べていた5枚切りの食パンが出てきてびっくり。
 日本ではスーパーで売っていたありきたりな食パンだけど、この世界でこの食パンは貴重品だと思う。
 私は時間経過がなく12畳くらいの広さのアイテムボックスを『隠蔽』の加護、レベル4のおかげで手に入れていた。だので、お兄様が生やしたパンの実から食パンを取り出してせっせとアイテムボックスに保存した。

「私の加護とお兄様の加護で食べ物に困らないから、これで私たちの加護がバレル前に逃げ出せるかな」
「うん。12歳までには何とかしたいね。多分、リーナの誕生日が7月7日だから7月の25日が加護の儀だと思うんだ。俺が5月生まれだから7月に合わせるはず。だから12歳の7月7日が過ぎたらすぐに逃げだそう」

 加護の儀は7月と1月の25日に行われる事になっている。その日は貴族も平民も一緒に加護の儀を受けてそこから先の運命が決まってしまう。
 15歳が成人で平民はその年から独立して、職人に弟子入りしたり各ギルドに所属して仕事を始める。農家の場合はそのまま家で働く事が多いけど、本人が希望したら家を出る事ができる、という事になっている。

 ただ、個々に事情があって働きたい場合、冒険者ギルドだけは12歳で登録ができる。一応、職業の自由はある事になっているから。
 だので、時々貴族の子でも思ったような加護が得られず出奔する人もいて、そういう人の子孫からたまに良い加護を得る平民が出ているのかもしれない、と庭師たちが雑談で話していた。

 庭師もあまり別館に来なくて下男がすごく急いで見えるところだけ草刈りしたりしているから、私たちの住んでいる辺りは庭というよりは自然の森のようになっている。

 もちろん、私は放置されているからお兄様と一緒にご飯を食べているし、時々ピクニックをしたり野外バーべキューなんかもしている。
 調味料は塩だけなのでレモン果汁でアクセントを付けているけど、焼き肉のタレとか『液体』の加護で出てくるといいなあとお兄様とお話している。平和でのほほんとした今の暮らしは乳母たちの時折に振るわれる暴力さえなければ悪くないと思う。

 お勉強も年齢に応じた教科書がお兄様のところに届くからそれでこの世界の常識を学んでいる。私の家庭教師は月に一度だけマナーを徹底的に教えてくれるけど、それ以外は放置で乳母とお茶を飲んでいる。

「このお嬢様、教えるとすぐ覚えるし、きちんと勉強を教えたらすごくできる子になるんじゃない?」
「できる子は扱いにくいわ。読み書きだけ最低限出来ればいいのよ。どうせ家の嫁になるし、誰がご主人様だかしっかり今の内から教えておかないと」
「ご主人様って……嫁でしょう?」
「嫁は使用人のようなものよ。私は家付きだし旦那はならず者だけど用心棒としてはとても役に立つからいいけど主導権は私が握っているの。とにかく、この子は貴族の血をひいているのは間違いないから沢山子供を産ませて加護持ちを手に入れるわ。そして、いずれは成り上がる」
「あきれた。成り上がるって貴族にでもなる気?」
「まあね。私に付いてくるといい思いができるわよ」
「それはいいわね」

 なんて話を聞いてあきれているリーナです。
 確かに小さい頃から暴力振るわれているし、なんでもハイハイと言わないと怖いから言うなりになっているけど、心の中では罵倒しているんだよ。でも、もし私の前世の記憶がなかったら洗脳状態でひたすら怯えて言いなりになっていたかもしれない。

 記憶が戻って本当に良かった。
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