上 下
6 / 103

6. パンの木

しおりを挟む
「……」
「……」

 私とお兄様は黙ったまましばらく見つめ合った。と言ってもお兄様の目は前髪でよく見えないけど。

「ううん。違うよ、ポーションの加護じゃない。私の加護は『液体』、って加護があるってわかるの?」
「わかるよ。こんなポーションが出せて、コップもどこからか現れるなんて加護以外考えられないよ。凄く良いね、この加護。実は僕も加護がすでにあるんだ。とっても微妙な加護なんだけどね」

 お兄様はため息をついた。お兄様もすでに加護を持っているのね。気になる。微妙な加護ってなんだろう?

「微妙なの?」
「すごい微妙なんだ」
「えーと、どんな加護?」
「パンの木」
「パン?」
「そう、パンの木の加護」
「パンの木?」
「そう、パンの木にパンの実がなる加護。君を包んでいるこの葉っぱもパンの木の葉っぱなんだ。パンの実は冒険物とかで出てくるし、南方では主食になっているらしい」
「この世界で?」
「そう、この世界で、って違う世界を知っている?」
「うーん。前世とか異世界とかそんなの?」
「前世? どこの世界というかどこの国で生まれたの? 僕は日本」
「えっ! 私も日本だよ」

 という事で私以外の転生者である異母兄との初めての出会いがあり、久々に色んな話ができた。
 義兄も私も金髪で私は青い目、兄は黒に見えるほどの深い緑の目をしていた。そして貴族の血を引くせいかとても整った顔をしている。

 つまり、二人とも天使のようにかわいいと思う。義兄の金髪はフンワリ巻き毛でとても柔らかそうに見えるし、目はパッチリ綺麗な二重でまつ毛が長く深緑の目が吸い込まれそうに美しい。
 髪をかき上げたせいかお顔が良く見えるようになった。というか、時々少女漫画のように星が走るようにみえるんだけど、現実にそんな目は初めて見た。

「お兄様、目の中に星があるのね」
「あー、そうなんだよ。ほんとに目の中に時々、星が走るんだ。だからいつもはホラ、こうやって髪の毛で隠しているし、なるべく下を向いている」
「目を動かさないとよくわからないものね。ところで、お母さまは?」
「居ない、というか居なくなった。ちょうど2か月ほど前かな。突然消えたんだ。元々僕の世話は母がしていたから食べる物もなくて困ったんだ。お腹が空いてパンが食べたい! って泣いていたらパンの木が生えてきて、それ見たら色々思いだした。転生だ。パンの木だって!」

 お兄様はその時のパンの実のおかげでお腹を満たして、庭をウロウロしてパンとバナナを食べて生きてきたそうだ。お兄様は森の中の平屋に住んでいるが、生活に必要なものはいつの間にか届いているし、水は魔石で出せるし浄化の設備もあるから転生前の知識が戻ったせいもあって特に生活には困らなくなった。

 ただ、食事はこれまでお母さまが取りに行っていたので、どこに取りに行ったらいいのかわからないから、今はひたすらパンとバナナと森で採取したものを食べている。この家の庭は広いし森につながっているけど、領主の館のせいか誰も来ないので安心して採取ができるそうだ。

 誰も様子を見に来ないのは不思議だけど、お母さまがいた時さえ誰も来ないし放置されていたらしい。
 たまに見かける大人は味方かどうか分からなくてこっそりと覗いて情報収集をしていたせいで、このお屋敷の妙な状態を見聞きする事ができた。

 その話によると、かなり離れた場所に本宅があってそこに領主と正妻、側妃二人と正妻の子供に側妃の子供の男児が住んでいて、そこに住んでいる人達は大切にされているそうだ。
その他の子供たち、側妃の産んだ女の子達はいくつかの別館にわかれて住んでいる。

 というか私の住んでいる別館は私しかいない。しかも私の別館とこの付近は過去の因縁があって誰も好んで近づかない。過去の因縁ってお家騒動で身内含め人が大勢亡くなって、その時に呪いが発動したとかなんとか。

 そんな所に小さな子供を置かないでほしい。でも、特に呪いとか感じたことはないから別にいいけどね。それにそのせいでこの辺は自由気ままに過ごせるから楽でいい。
 けど、だから乳母の虐待に誰も気づかないって事かもしれない。

 とにかく、ここに生えている木はパンの木で私が包まっていた葉はパンの木の葉だった。そして、パンの木だけど本来は実の中身はお芋みたいな物なんだけど、お兄様のパンの木は中身が本当にパンなんですって。
 ただし、この世界のパンだからあまり美味しくはない。

 そう、日本のパンってとっても美味しいと思う。ああ、又あのパンが食べたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません 

柚木ゆず
ファンタジー
 厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。  厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。  そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。  陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。  わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。  ――ホズラティア様、お願いがございます――。  ――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。  ――どうか、国民の皆様をお救いください――。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...