冷女が聖女。

サラ

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64. 幽霊?

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 輝く宝石のような岩の光は隠し部屋の中を淡く照らしていたけれど、その岩の後ろにぼんやりと人の姿が現れ出た。女性の形をしている? と思ったらシオリーヌが現れた、いえ違う、ひょっとして聖女? でも、向こうが透けて見えるから幽霊?

「まさか! 幽霊」
「どうして玲ちゃんが? いやこれはシオリーヌ? じゃないまさかの聖女?」
「古の聖女か! 本当に霊魂だけになっているのか? レイちゃんそっくりだ」

 半透明の聖女は穏やかな微笑みを浮かべ、私達に向かってカーテシーをした。でも、彼女の足がない……、ドレスの下の方が消えている。幽霊って本当に足がないんだ

 《ごきげんよう。お待ちしておりました。本当に永く、永くお待ちしておりました》
 聖女の声はどことなくエコーが掛かっているように聞こえる。

「あの、貴女のお名前は?」
 《私はクリステーヌと申します。家名は捨てましたのでただのクリステーヌでございます》
「古の聖女……昔、スピーリトゥス王国から出奔したクルステーヌ姫でしょうか?」
 《そうですね。確かに私の出身はスピーリトゥス国でございます》
「あの、霊魂として残っているのでしょうか?」
 《霊魂? ああ、幽霊という事でしょうか? ある意味そうかもしれませんが、幽霊とはまた違っていると私は思っています》

「あ、あの、足がありませんよね」
 《ええ、実体化するにはお借りする力が足りなくて……核となる部分の力が足りないのです。どうしてでしょう。でも、何とか存在を具現化する事が出来ましたから良し、としなくては》
「あの、どうして今更出てこられたのですか?」
 《今更ではございませんのよ。ただ、私の姿を認識していただく事がこれ迄できなかったというだけで》
(それを幽霊というのでは……)

 私達は全員が、かの聖女の正体は幽霊だ、と思ったのだけど、それを指摘してしまう事はできなくて、ただ、黙って彼女の話を聞いていた。

 《私、あの悪党の魔術師に騙されたんですの。この世界の終焉が近づいているから世界を救う為にこの地に宝玉を取り戻さなくてはいけない、と彼はほざきまして、この地に国を築く事でまずは聖石を基準に世界を救ってから、そうしてまた、真実を話して別れた国に併合されれば良いと言われたのです》
「宝玉?」
 《聖石の事ですわ。彼が言うには、聖石とは宝玉であって、それは7つに分かれていて、その7つの聖石を集める事で願いを叶えることができるんだそうです》
「どこかで聞いたような話だ」
「ドラゴンは出てこないですよね?」
 《あら、よくおわかりですわね。始まりのドラゴンが願いを叶えてくれるそうですわ》

「ピピピッ、ピピ!」

 突然、ルナが激しく鳴いた。どうしたのかしら。ドラゴンに反応している? ドラゴンの7つの宝玉なんて眉唾ものだけど、ひょっとして有り、なのかしら。ここって異世界だし。

「ドラゴンは見たことないけど、って、ドラゴンって居るのですか?」
「伝説の生き物だが、……古い伝承のなかにドラゴンが願いをかなえるという話はある」
「あるんだ」
 《それよりあの魔術師より取り返さなくてはいけないものがあります》
「魔術師、からですか」
 《ええ、彼のそもそもの力の源です。どういうわけ彼はこの世界にやって来た時から不思議な力がありました。それはこの世界に由来するモノです》

「力の源?」
 《ええ、彼はその力の源となる宝玉をピアスにして常に身に付けています。それを取り返してこの聖石に取り込めば聖石の力は元に戻るはずなんです。でも、私は実体がないのでどうしても取り戻せなくて、》
「魔術師が付けているピアスを取るには……、彼を動かないようにしないといけないですけど」
 《バカな魔術師は自分が作ったシステムに囚われて魔力を吸われていますから、囚われたままの今なら何とかなると思うのです。でも、この聖石の中に囚われているので誰も訪れるものがいなくて》

「あの、聖石の中は過去の時代ですよね」
 《過去でもあるし、現在でもあるし、未来でもあります。いつの時代というより、何時の時代でもあると言えますわ》
「私達は元の時代、元の場所に戻れるのでしょうか? 聖石に入った時点で過去の世界に飛ばされたと思ったのですが、このセイント国の場所の時間はどうなっているのでしょうか、それと一体何故、私達は聖石に取り込まれてしまったのでしょう」
「俺たち、聖石に入った時、その時間軸に戻りたいのです」
 《んんっー、聖石が聖女を求めたから、貴女がたは聖石の世界に入れたんだと思いますよ。私も助けを求めましたし。戻るのは聖石の求めに答えたら戻れると思います。まずは魔術師からピアスを取り戻しましょう》

「つまり、魔術師と戦わなくてはいけないという事ですか……」
「魔術師に近づくのは嫌だな」
「魔術師と握手をすると能力を取られてしまうのではないですか?」
 《ああ、そうでした。彼は人の能力を取る事が出来るのです。それがとても厄介で……、でも奪い取った能力は劣化版になりますし、今は魔力がそんなにない状態ですから、力を増幅する王笏を取り上げてしまえば良いかもしれません》

 どうしても、魔術師と事を構えなければ何もできないという事はわかった、けど魔術師を何とかして聖石から出ても、ここが既にセイント国として成り立っているという事実は変えられない。その辺は何とかなるのか心配だし、この岩が聖石? としたら セイント国はこの隠し部屋を知っているの?

 それに、このルナの青い卵は? 
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