冷女が聖女。

サラ

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63. もう一つの隠し部屋

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「ルナ、何が言いたいのか分からないわ」
「ピピピッ、ピピピッ、ピピ」
「何かを伝えたいのはわかるけど、どうしたいんだろうな」
「この隠し部屋に連れて来たのはルナだから、何か知っているんだろうけど……、あっ、ルナって聖獣の眷属とかじゃないのか?」
「眷属、聖獣の?」
「そうだな。聖獣も古の昔にこの国に来ているとしたら、魔術師が生きているんだから聖獣だってどこかに居るかもしれない。聖獣は我々とは寿命が違うらしいから生きている可能性もある。まさかとは思うけど古の聖女もいる可能性もあるな」

「ピピピッ、ピピ」
 ルナの首が肯いたように見えた。

「ルナ、ひょっとして聖獣のいる場所とか、古の聖女の居場所とか分かるの?」
「ピピピッ、ピピ」
「古の聖女って、もうとうに亡くなっても良いお年だと思うけど、まさか亡霊とかになっていないよな。聖石に憑りついていたりして。そういえば兄さん、魔術師の顔を地味な顔って言っていたけど、魔術師の甘いマスク、って前は言ってなかった?」
「我々の顔に比べると鋭さがなく、甘さのある顔だと思うが」
「そうなんだ……ううーん、彼は日本人レベルだと甘いマスクのイケメンと言えるかもしれない、か。聖女はむしろ魔術師に憑いていたりするかな~」
「もう、アラン……」
「……」

 確かに彫りが深い外国風の顔に比べて、日本人の顔は良い言い方をすると辛くない柔らかい顔、つまり甘い顔と言えなくもない。優しそうに見えるかも。そこに古の聖女は騙されたのかしら。まさか本当に亡霊になんてなってない、……どうぞ成仏しています様に。

「魔術師は年を取らないって言っていたけど……」
「あれはひょっとして次元を超えた時に昔の時代に飛ばされたから、追い付くまで時が動かなかったんじゃないか? 俺たちと同じ時代の人間、というか学ランの奴は同じ学生だとしたら、もう時は動いている?」
「魔術師には攻撃魔法が効かなかったし、物理的にも攻撃が無効だったとの資料がある」
「だって、過去には存在しなかったはずの人間だから、いない人間にいくら攻撃しても無駄? そんなの無敵じゃないか」
「しかし、時が動いている今なら攻撃できるという事だ」
「相手も油断しているしね」
「ピピピッ、ピピ」

 何だか、私達の話し合いにルナも参加しているみたいに囀っている。そしてまた、嘴でわたしの袖をクイクイと引っ張った。

「あのさ、もう何百年も飲まず食わずなら日本の食事は彼にとって垂涎の的にならないかな」
「コーヒーも飲みたがっていた」
「よし、コーヒーとお握りで揺さぶってみよう」
「コーヒーにお握りは合わないと思うわ」
「えっ、俺は好きだけど」

 レナード王子にとってお握りとか卵焼きはオヤツ感覚なので、この組み合わせでも抵抗はないみたいだけど、私は何となくお握りにはお茶とか麦茶とかせめて紅茶と思ってしまう。
 とりあえず、食べ物で揺さぶって情報を絞り出せるだけ絞ろう、という方針が決まったので冷蔵庫の部屋を出た。
 するとまたルナが私の袖口を引っ張り、青い光の帯が私のブレスレットから現れた。

「えーと、誘導している?」
「この帯に沿って来いって言うのか」

 私達はお互いに顔を見合わせて、これほどルナが誘っているのだからこの帯の道の先に行ってみることにした。アチコチと曲がりくねった廊下を進んだ帯の先は行き止まりだった。

「あっ、此処、何となく見覚えがあるような気がする」
「見覚えが?」
「前にルナが連れてきた場所のような気がする。でも、あの時はルナがこの横の壁を嘴で3回つついて、反対側を・・・― ― ―・・・」

 と言いながらアランが壁を軽く叩いて、なぞって叩くと壁がクルンと回った。回った先にぽっかり空いた空間は真っ暗で何もないように見える。

「アラン、よくこんな真っ暗で怪しいところに入ったわね」
「よく無事だった」
「ピピピッ、ピピ」

 いつの間にかルナがアランの肩に止まり、私に向かって心外だ、とばかりにさえずった。

「あの時は何も考えずに入ったけど、中は真っ暗じゃなかった。入っても大丈夫じゃないかなぁ」
「そうね。ルナは聖鳥ですもの」
 〈ルナは聖鳥か……でも、白色だ。ルナが聖獣? まさかな〉

 レナード王子が何か呟いていたけど、何と言ったか聞き取れなかった。中に入ると仄明るく室内が見通せる。前にアランが言っていた通りに大きな岩、いえ青く輝く宝石の岩がデンと部屋の真ん中に鎮座ましましていた。

「大きい……」
「凄い綺麗な青い宝石」
「これは聖石? いや、まさかこんなに大きくなるなんて、でも、聖石?」
「レナード様、これは聖石なんですか?」
「俺の知っている聖石とは全然違うけど、この輝きは聖石? なんだろうか」
「ピピピッ、ピピ」

 ルナが鳴きながら羽ばたいて岩の横側に止まった。そこには窪みがあって前にアランが言ったように丸い小さな卵があった。

「青い卵……」
「ルナは白い鳥だけど、この卵が帰ったら青い鳥が生まれるとか?」
「青い鳥って聖獣じゃないか」
「あの、ほら不死鳥、フェニックスっているじゃない? そんな感じで火の鳥じゃなくて岩というか聖石から蘇るとか」
「そんな話は聞いたことがない」
「こちらの世界に不死鳥はいないのですか?」
「ある意味、聖獣が不死鳥と言えるのかもしれない」
「だとしたら、ルナはずっと聖獣を守って来たということ!?」
「ルナ、お前、偉いな」

 私達は皆でルナを見た。ルナは小さな卵を大事そうに抱えたが

「ピピピ!」
 何となく抗議しているように見えた。

「褒めてほしいんじゃなくて何かしてほしいのか?」
「卵が孵るためには何かが必要なの?」
「ピピピッ、ピピ、ピーピピッ」

 まさか魔術師を成敗してほしいと言っているのかしら? そうしたら聖獣も誕生するとか? 
 でも、それは難易度の高い案件だと思う。
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