66 / 69
62. 勘違い
しおりを挟む
「やあ、やっと来てくれた」
レナード王子を見た魔術師はおおらかに声を掛けてきた。
「おや、コーヒーのニオイがする。懐かしい。いつの間にコーヒーが飲めるようになったんだ? 時の流れは凄いな。扉の向こうでコーヒーを飲んで落ち着いてきた、というところか。我にも御馳走してくれると嬉しい」
「貴方は誰ですか?」
「我がわからないのか? 君は王族ではないのか?」
「王族ですが……」
「我は始まりの祖、偉大なる魔術師シン・ファーム・マウンテンだ」
「魔術師……」
「セイント国は我が創ったんだ」
「創世の魔術師ですか。長生きですね」
「ふふん。こんなに、永く生きるつもりはなかったが、囚われてしまって逃げられないんだ。我の魔力がセイント国のシステムの根幹に繋がってしまって」
「……」
「間違って繋がってしまったシステムから解放してほしい。望みは何でもかなえよう」
「望み、ですか。どうすれば?」
「その剣、聖剣だろう? キラキラした神力が凄い。その剣で我の足に繋がっているパイプを切ってくれるだけで良いから」
「そうしたら、この国のシステムはどうなるのですか?」
「何とかなるから大丈夫だ。一時的にちょっと君の魔力を貸してくれればいい。そうして、今回の聖女は力が強いみたいだから、聖女をこの王座に座らせれば完璧だ」
「王座?」
「王座だよ。この席からセイント国を動かしているのだから」
「王座でしたらいつまでも座っていたいのではないですか?」
「いや、もう飽きた。いつの間にか増改築を繰り返して、王宮を広げてくれた上に王座や謁見の間、会議室なども新宮のほうに移してくれたから子孫たちの様子も気配や噂話でしかわからん。この国のシステムを動かしているのは旧城だというのに、動くのが当たり前のように思いおって! 伝達事項も忘れ去ったと見える。お前もこのシステムの事は聞いておらんのか?」
「伝達事項ですか? それは王族に伝わっているのでしょうか? 私は王族と言っても王太子ではないのですが」
「うむ、王と王太子にしか伝えないようにしているのが仇となったか。今の王、もしくは王太子をここへ連れてこい」
「と、言われましても……ちょっと、考えさせてください」
「構わんが、何か食べ物を持っていたら貰えないか?」
「霊魂なのに食べられるんですか?」
「我は幽霊ではない」
「人はそんなに生きられません。貴方は既に生きていないのです。それを認めれば成仏できるのではないですか」
「いや、我は生きている」
「生きている、生物的な意味で? その椅子に座ってから飲食はされたんですか?」
「いや、もうずっと飲まず食わずだ……、だが我は魔力で生きている」
「そうですか」
「頼む、助けてくれ」
「偉大な魔術師は不思議な力を使うそうですが、魔術で何とかなるのでは?」
「今の我はただの人間だ……、聖女から力を奪えば何とかなるんだが」
「奪えるんですか?」
「聖女と握手をしさえすれば、力を移せる。この部屋は隠し部屋になっているせいで誰も気がつかず、これ迄ここに過ごしてきた」
「見た目がお若いですね」
「我はこの世界に飛ばされてから歳をとらないんだ。魔術でずっと歳は誤魔化してきた」
「年を取らない、不老不死ですか? 何故?」
「わからない。頼む、もうここに座っているのは嫌だ」
「代わりに今代の聖女に座らせるんですか?」
「我よりも今代の聖女に座らせると、弱ってきたシステムが生き返るぞ。今代の聖女の力は物凄く強い」
「わかるんですか?」
「ああ、聖女が召喚されてから凄い力を感じる。我が例え半分、イヤ8割から9割、取ったとしても後の力で充分国を回せる」
「少し頭を冷やしてきます」
「ああ、頼む。コーヒーを持ってきてくれ」
レナード王子は隠し部屋を出ると、難しい顔をして私達のほうを見た。でも、ちょっと方向がずれています。私が冷蔵庫の部屋を出すとレナード王子は扉を開けて部屋にはいり、ため息をついた。ちなみに冷蔵庫の部屋はレベルアップして防音になっているから内緒話には最適。これでキッチンが付けば完璧なのに。
「どう思う?」
「凄く怪しいです。でも、慣れ慣れしいですね」
「彼は完全に勘違いしている。私達は王族には間違いないけど、この国の王族ではない」
「勘違いはさせたままのほうが良いけど、近づいて握手をするとその能力とか、魔力とか取られるんじゃないか」
「王座の側のテーブルに王笏があった。あれで触られると位置を変えられるとか、椅子に座る相手と入れ替わるとかありそうで怖い」
「囚われの魔術師は囚われのままにしておきたいわ」
「この国とかこの世界を乗っ取りそうだ。でも俺、アイツの事、知っている」
「えっ? アランの知り合い? あの魔術師」
「知り合いというほど知らないけど、顔を見た事がある。大学の対抗戦で応援に行った時に学ラン姿のアイツとぶつかった事があるんだ。ぶつかっておきながら態度が悪かったし、鼻の頭に黒子があったから、変わったところに黒子があるなぁと覚えていたんだ」
「あれは創世の魔術師だぞ」
「年代的に随分差があるわ。アランがこの世界から日本に飛ばされた、と考えても年齢的な差があるけど、彼の場合は随分と昔にこの世界に来たという事?」
「でも、日本からこの異世界に来たとして、魔力に恵まれていたとしたら色んな魔法を使えるようになっても不思議はないよ」
「日本の魔術はそんなに進んでいるのか?」
「ある意味、進んでいるかな。日本には魔力がないから使えないけど」
「?」
レナード王子は不思議そうな顔をした。でも、説明が難しいし後でゆっくり説明するとして、どうしよう、この状況。
「ピピピッ、ピピピッ」
ルナが何かを伝えたいらしいけど、鳥語がわからない。意思疎通ができれば何が言いたいのかわかるのに。どうして、袖を引っ張っているのかしら?
レナード王子を見た魔術師はおおらかに声を掛けてきた。
「おや、コーヒーのニオイがする。懐かしい。いつの間にコーヒーが飲めるようになったんだ? 時の流れは凄いな。扉の向こうでコーヒーを飲んで落ち着いてきた、というところか。我にも御馳走してくれると嬉しい」
「貴方は誰ですか?」
「我がわからないのか? 君は王族ではないのか?」
「王族ですが……」
「我は始まりの祖、偉大なる魔術師シン・ファーム・マウンテンだ」
「魔術師……」
「セイント国は我が創ったんだ」
「創世の魔術師ですか。長生きですね」
「ふふん。こんなに、永く生きるつもりはなかったが、囚われてしまって逃げられないんだ。我の魔力がセイント国のシステムの根幹に繋がってしまって」
「……」
「間違って繋がってしまったシステムから解放してほしい。望みは何でもかなえよう」
「望み、ですか。どうすれば?」
「その剣、聖剣だろう? キラキラした神力が凄い。その剣で我の足に繋がっているパイプを切ってくれるだけで良いから」
「そうしたら、この国のシステムはどうなるのですか?」
「何とかなるから大丈夫だ。一時的にちょっと君の魔力を貸してくれればいい。そうして、今回の聖女は力が強いみたいだから、聖女をこの王座に座らせれば完璧だ」
「王座?」
「王座だよ。この席からセイント国を動かしているのだから」
「王座でしたらいつまでも座っていたいのではないですか?」
「いや、もう飽きた。いつの間にか増改築を繰り返して、王宮を広げてくれた上に王座や謁見の間、会議室なども新宮のほうに移してくれたから子孫たちの様子も気配や噂話でしかわからん。この国のシステムを動かしているのは旧城だというのに、動くのが当たり前のように思いおって! 伝達事項も忘れ去ったと見える。お前もこのシステムの事は聞いておらんのか?」
「伝達事項ですか? それは王族に伝わっているのでしょうか? 私は王族と言っても王太子ではないのですが」
「うむ、王と王太子にしか伝えないようにしているのが仇となったか。今の王、もしくは王太子をここへ連れてこい」
「と、言われましても……ちょっと、考えさせてください」
「構わんが、何か食べ物を持っていたら貰えないか?」
「霊魂なのに食べられるんですか?」
「我は幽霊ではない」
「人はそんなに生きられません。貴方は既に生きていないのです。それを認めれば成仏できるのではないですか」
「いや、我は生きている」
「生きている、生物的な意味で? その椅子に座ってから飲食はされたんですか?」
「いや、もうずっと飲まず食わずだ……、だが我は魔力で生きている」
「そうですか」
「頼む、助けてくれ」
「偉大な魔術師は不思議な力を使うそうですが、魔術で何とかなるのでは?」
「今の我はただの人間だ……、聖女から力を奪えば何とかなるんだが」
「奪えるんですか?」
「聖女と握手をしさえすれば、力を移せる。この部屋は隠し部屋になっているせいで誰も気がつかず、これ迄ここに過ごしてきた」
「見た目がお若いですね」
「我はこの世界に飛ばされてから歳をとらないんだ。魔術でずっと歳は誤魔化してきた」
「年を取らない、不老不死ですか? 何故?」
「わからない。頼む、もうここに座っているのは嫌だ」
「代わりに今代の聖女に座らせるんですか?」
「我よりも今代の聖女に座らせると、弱ってきたシステムが生き返るぞ。今代の聖女の力は物凄く強い」
「わかるんですか?」
「ああ、聖女が召喚されてから凄い力を感じる。我が例え半分、イヤ8割から9割、取ったとしても後の力で充分国を回せる」
「少し頭を冷やしてきます」
「ああ、頼む。コーヒーを持ってきてくれ」
レナード王子は隠し部屋を出ると、難しい顔をして私達のほうを見た。でも、ちょっと方向がずれています。私が冷蔵庫の部屋を出すとレナード王子は扉を開けて部屋にはいり、ため息をついた。ちなみに冷蔵庫の部屋はレベルアップして防音になっているから内緒話には最適。これでキッチンが付けば完璧なのに。
「どう思う?」
「凄く怪しいです。でも、慣れ慣れしいですね」
「彼は完全に勘違いしている。私達は王族には間違いないけど、この国の王族ではない」
「勘違いはさせたままのほうが良いけど、近づいて握手をするとその能力とか、魔力とか取られるんじゃないか」
「王座の側のテーブルに王笏があった。あれで触られると位置を変えられるとか、椅子に座る相手と入れ替わるとかありそうで怖い」
「囚われの魔術師は囚われのままにしておきたいわ」
「この国とかこの世界を乗っ取りそうだ。でも俺、アイツの事、知っている」
「えっ? アランの知り合い? あの魔術師」
「知り合いというほど知らないけど、顔を見た事がある。大学の対抗戦で応援に行った時に学ラン姿のアイツとぶつかった事があるんだ。ぶつかっておきながら態度が悪かったし、鼻の頭に黒子があったから、変わったところに黒子があるなぁと覚えていたんだ」
「あれは創世の魔術師だぞ」
「年代的に随分差があるわ。アランがこの世界から日本に飛ばされた、と考えても年齢的な差があるけど、彼の場合は随分と昔にこの世界に来たという事?」
「でも、日本からこの異世界に来たとして、魔力に恵まれていたとしたら色んな魔法を使えるようになっても不思議はないよ」
「日本の魔術はそんなに進んでいるのか?」
「ある意味、進んでいるかな。日本には魔力がないから使えないけど」
「?」
レナード王子は不思議そうな顔をした。でも、説明が難しいし後でゆっくり説明するとして、どうしよう、この状況。
「ピピピッ、ピピピッ」
ルナが何かを伝えたいらしいけど、鳥語がわからない。意思疎通ができれば何が言いたいのかわかるのに。どうして、袖を引っ張っているのかしら?
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
常識的に考えて
章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。
しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる