冷女が聖女。

サラ

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62. 勘違い

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「やあ、やっと来てくれた」
 レナード王子を見た魔術師はおおらかに声を掛けてきた。

「おや、コーヒーのニオイがする。懐かしい。いつの間にコーヒーが飲めるようになったんだ? 時の流れは凄いな。扉の向こうでコーヒーを飲んで落ち着いてきた、というところか。我にも御馳走してくれると嬉しい」
「貴方は誰ですか?」
「我がわからないのか? 君は王族ではないのか?」
「王族ですが……」
「我は始まりの祖、偉大なる魔術師シン・ファーム・マウンテンだ」
「魔術師……」

「セイント国は我が創ったんだ」
「創世の魔術師ですか。長生きですね」
「ふふん。こんなに、永く生きるつもりはなかったが、囚われてしまって逃げられないんだ。我の魔力がセイント国のシステムの根幹に繋がってしまって」
「……」
「間違って繋がってしまったシステムから解放してほしい。望みは何でもかなえよう」
「望み、ですか。どうすれば?」
「その剣、聖剣だろう? キラキラした神力が凄い。その剣で我の足に繋がっているパイプを切ってくれるだけで良いから」
「そうしたら、この国のシステムはどうなるのですか?」
「何とかなるから大丈夫だ。一時的にちょっと君の魔力を貸してくれればいい。そうして、今回の聖女は力が強いみたいだから、聖女をこの王座に座らせれば完璧だ」

「王座?」
「王座だよ。この席からセイント国を動かしているのだから」
「王座でしたらいつまでも座っていたいのではないですか?」
「いや、もう飽きた。いつの間にか増改築を繰り返して、王宮を広げてくれた上に王座や謁見の間、会議室なども新宮のほうに移してくれたから子孫たちの様子も気配や噂話でしかわからん。この国のシステムを動かしているのは旧城だというのに、動くのが当たり前のように思いおって! 伝達事項も忘れ去ったと見える。お前もこのシステムの事は聞いておらんのか?」
「伝達事項ですか? それは王族に伝わっているのでしょうか? 私は王族と言っても王太子ではないのですが」
「うむ、王と王太子にしか伝えないようにしているのが仇となったか。今の王、もしくは王太子をここへ連れてこい」
「と、言われましても……ちょっと、考えさせてください」

「構わんが、何か食べ物を持っていたら貰えないか?」
「霊魂なのに食べられるんですか?」
「我は幽霊ではない」
「人はそんなに生きられません。貴方は既に生きていないのです。それを認めれば成仏できるのではないですか」
「いや、我は生きている」
「生きている、生物的な意味で? その椅子に座ってから飲食はされたんですか?」
「いや、もうずっと飲まず食わずだ……、だが我は魔力で生きている」
「そうですか」
「頼む、助けてくれ」
「偉大な魔術師は不思議な力を使うそうですが、魔術で何とかなるのでは?」
「今の我はただの人間だ……、聖女から力を奪えば何とかなるんだが」

「奪えるんですか?」
「聖女と握手をしさえすれば、力を移せる。この部屋は隠し部屋になっているせいで誰も気がつかず、これ迄ここに過ごしてきた」
「見た目がお若いですね」
「我はこの世界に飛ばされてから歳をとらないんだ。魔術でずっと歳は誤魔化してきた」
「年を取らない、不老不死ですか? 何故?」
「わからない。頼む、もうここに座っているのは嫌だ」
「代わりに今代の聖女に座らせるんですか?」
「我よりも今代の聖女に座らせると、弱ってきたシステムが生き返るぞ。今代の聖女の力は物凄く強い」
「わかるんですか?」
「ああ、聖女が召喚されてから凄い力を感じる。我が例え半分、イヤ8割から9割、取ったとしても後の力で充分国を回せる」
「少し頭を冷やしてきます」
「ああ、頼む。コーヒーを持ってきてくれ」

 レナード王子は隠し部屋を出ると、難しい顔をして私達のほうを見た。でも、ちょっと方向がずれています。私が冷蔵庫の部屋を出すとレナード王子は扉を開けて部屋にはいり、ため息をついた。ちなみに冷蔵庫の部屋はレベルアップして防音になっているから内緒話には最適。これでキッチンが付けば完璧なのに。

「どう思う?」
「凄く怪しいです。でも、慣れ慣れしいですね」
「彼は完全に勘違いしている。私達は王族には間違いないけど、この国の王族ではない」
「勘違いはさせたままのほうが良いけど、近づいて握手をするとその能力とか、魔力とか取られるんじゃないか」
「王座の側のテーブルに王笏があった。あれで触られると位置を変えられるとか、椅子に座る相手と入れ替わるとかありそうで怖い」
「囚われの魔術師は囚われのままにしておきたいわ」

「この国とかこの世界を乗っ取りそうだ。でも俺、アイツの事、知っている」
「えっ? アランの知り合い? あの魔術師」
「知り合いというほど知らないけど、顔を見た事がある。大学の対抗戦で応援に行った時に学ラン姿のアイツとぶつかった事があるんだ。ぶつかっておきながら態度が悪かったし、鼻の頭に黒子があったから、変わったところに黒子があるなぁと覚えていたんだ」
「あれは創世の魔術師だぞ」
「年代的に随分差があるわ。アランがこの世界から日本に飛ばされた、と考えても年齢的な差があるけど、彼の場合は随分と昔にこの世界に来たという事?」
「でも、日本からこの異世界に来たとして、魔力に恵まれていたとしたら色んな魔法を使えるようになっても不思議はないよ」
「日本の魔術はそんなに進んでいるのか?」
「ある意味、進んでいるかな。日本には魔力がないから使えないけど」
「?」

 レナード王子は不思議そうな顔をした。でも、説明が難しいし後でゆっくり説明するとして、どうしよう、この状況。

「ピピピッ、ピピピッ」

 ルナが何かを伝えたいらしいけど、鳥語がわからない。意思疎通ができれば何が言いたいのかわかるのに。どうして、袖を引っ張っているのかしら?
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