冷女が聖女。

サラ

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61. 魔術師

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 青い扉から少し距離を開けて私達は冷蔵庫の家を展開し、お昼を食べることにした。
 今日のお昼は獲りたての新鮮なお魚が沢山あるし、前に取ったカニとかエビの魔獣もあるので海鮮チラシを作ってみた。
 手の平くらいある貝(ハマグリに味はソックリ)のお澄ましに茶碗蒸し(作り置きしておいた)、デザートにはアンコロ餅。お餅は個包装のお餅が戸棚に沢山入っていたし、アンコの缶もあった。

 お正月用のお餅はまだ注文したのが届いてなかったけれど、12月になると何故かお餅が食べたくなってしまうのは私だけではないみたいで、ここの戸棚にもしっかりと入っている。私も最近はお餅入りのお好み焼きとか、シンプルに焼きもちに醤油を付けて海苔で巻いたのとかオヤツによく作って食べていた。

 お昼を食べながらも何かあった時のために、リビングでも靴は履いたままにした。いつもは靴を脱いで過ごしているし、アランとかレナード王子は裸足でいる事が多い。この国、いえこの世界では靴を履いて過ごす習慣のはずだけど、レナード王子なんてすっかりアランに感化されて自室でも靴を脱いで過ごしている。

 海鮮チラシのカニの身は濃厚で、ウニもホタテも身が締まった新鮮な魚も、とても美味しかった。ルナも黙ってカニの身を突いていたので気に入ったのかもしれない。小鳥だけどルナは割と何でも食べるし、その体のどこに入るの? というくらいよく食べる。
 そうして、最後にアランの入れたコーヒーを飲みながら私達は青い扉を眺めていた。誰も来ないし、扉も変化はない。

「ひょっとしてだけど、魔術師は扉が開いても、俺たちが見えなかったんじゃない? それで反応がないのかもしれない」
「アー君とレイちゃんは見えなかったかもしれないが俺は皆と手を離していたし、一瞬だけど魔術師と目が合った」
「目が合ったのですか?」
「ああ、彼は驚いた、という顔をした……」
「じゃぁ、どうして何もしないんだろう?」
「何もしないじゃなくて、できないんじゃないか?」
「兄さん、部屋の中の様子は見えた?」

「イヤ、魔術師の顔を見て、慌てて閉めてしまったから何も見てない。あまりに驚いてしまって。あの黒髪、黒目、黄色味を帯びた肌、地味な顔立ちは古の魔術師に間違いない」
「「黒髪、黒目?!」」
「なんだ、どうした? 何かあるのか?」
「だって、黒髪黒目に黄色味の肌だよ! その邪悪の魔術師ってどこから来たの?」
「さぁ、何処からともなく現われて、誰にも真似のできない不思議な魔術を使って、最初は困っている民の救世主みたいな扱いだったんだ」
「救世主?!」
「少し調子に乗りやすいところはあったみたいだけど、貴族の領主と揉める迄は、まだ普通の魔術師だった」
「それがどうして?」
「人が変わったとしか思えない。略奪と簒奪、そして、聖女を誘惑してこの領地を奪い取って新たな国を設立した。物凄く強引な手を使って、話し合いにも応じなかったそうだ」
「アラン……」
「玲ちゃん……」

 私達は顔を見合わせた。考えているのは同じだと思う。その簒奪の魔術師、多分日本人。
 何かがあったとしても、それでも無理やり領地を奪って国を作ってしまうのってどうなんだろう。
 それに、異世界から聖女を召喚するなんてうちのご先祖様は大迷惑。
 現在進行形で私も迷惑を掛けられているし、もし、冷蔵庫が付いて来てくれなかったら、私、死んでたかもしれない。ううん、間違いなく死んでいた。

「でも、古の魔術師、なんで生きているんだろう?」
「凄い年のはずだよね?」
「ヨボヨボのお爺さんなのに、良く分かりましたね」
「いや、年取ってなかった……、聖女を誘拐した時の年齢だと思う。絵姿に残っているそのままだったから」
「不老?」
「むしろ不死じゃない」
「でも、記録ではかの魔術師は段々と年齢を重ね、寿命で亡くなったことになっている」
「じゃぁ、魔術師の子孫?」
「そういえば、セイント国の王族には黒髪黒目はいなかったというか、日本人の遺伝子は何も仕事をしていないようだったけど」

「魔術師に子供はいないから。魔力が強すぎると子供はできないことが多い。できない事はないけど、希代の魔術師は規格外だったから子孫は作れなかったのだろうとの歴史家の意見だ」
「じゃぁ、今の王族は……」
「魔術師が国を存続させるために委託した者の子孫になる」
「そうしたら、あの扉の向こうにいる魔術師って誰かしら?」
「兄さんが見た魔術師って、まさかの地縛霊とか?」
「アラン!」
「だって、そうでないと説明が付かない。未練が残り過ぎて幽霊になって、幽霊って生前の姿をとる事が多いみたいだし、魔術師、自分が亡くなったって自覚がないのかも」

「地縛霊だったらあの部屋から動けない? それと、自覚したら成仏するかしら」
「わからないけど、でも、動けなくてもポルターガイストとかおこせるんじゃないか?」
「そのポルターガイストというのはわからないが、魔術師があの部屋から出られないとしたら、中に入らずにもう一度見てみようか? 少しだけ扉を開けて」
「そうだね、ずっとこうしてもいられないし」

 という事で再び、レナード王子はそっと青い扉を開けた。今度は扉を開けっぱなしにしたので、後ろから覗いた私達にも魔術師が見える。
 彼は間違いなく日本人だった。だって、学ランを着ている……。
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