冷女が聖女。

サラ

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60. セイント国

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 そうして海の幸を満喫し、冷蔵庫の家を滑らせて到着したセイント国の浜辺には何もなかった。見渡す限り自然の風景が広がっている。

「ここって、セイント国だよね」
「方向的にはセイント国の港があった場所に間違いはない」
「ここがまだ聖石の中だとしたら原初の世界だから、まだ国ができてなくて人すらいないってことか」
「えーと、国が出来たのはまず聖石があって、そこから国を作ったって事で良いんでしょうか?」
「国の誕生にはまず聖石ありき、と聞いている。元々聖石があった場所に行ってみよう」
「それはどこ?」

「セイント国の王宮の深部になる。セイント国の王宮は元々わが国の王宮が元になって、そのまま改築を繰り返して今の形になっている」
「兄さん、その王宮の深部って何処か分かるの?」
「セイント国の王宮の詳細図は頭の中に入っている。入る事は出来なくなったが、昔から王族にその内容は伝えられているんだ」
「そうなんだ。じゃぁ、隠し部屋もわかる? 前に俺が入り込んだ所」
「それはわからない。王宮が乗っ取られてから作られた部屋については知りようがないし、伝えられているのは設計図だ」

「アラン、一度行ったからもう一度行けるのではないの?」
「あの時はルナについて行っただけだし、行きも帰りもルナ頼り。俺、あんまり道を覚えるタイプじゃないから」
「まさかの方向音痴?」
「いや、そこまではいかないと思う。たまに迷子になるくらい、だった」
「興味を持ったら一目散、みたいな子が迷子になりやすいそうよ」
「アー君は好奇心が強いんだね。良い事だ」

 レナード王子、アランの事だったらもう何でもいいのかもしれない。それにしても聖石の中には転移陣もないし、どうやって王宮まで行くのかしら?

「よし、この転移陣が使えるみたいだ」
「「えっ?」」

 砂地を抜けたところに転移陣がポツンと設置してあった。この聖石の世界って過去の世界だって聞いていたのに、転移陣、あるんだ……何故?

「多分だけど、転移陣は過去に設置したからあるんじゃないかな」
「この転移陣の行く先は王宮でいいの?」
「今のセイント国でもこの辺の位置にあったと思うから行けるんじゃないかな」

 と、レナード王子が言うのでそのまま転移陣に乗って移動した。王族の魔力に転移陣は反応するので利用する事が出来たわけで、セイント国の転移陣はブルーバード国の王族は全員利用できるはずとの事。
 最も、セイント国はブルーバード国、単体で転移陣を使わせてはくれない。そして、ブルーバード国の転移陣はセイント国の王族は利用できない。以前に勝手に利用しようとしたセイント国の王族がいて、使えない事が判明したのだそうだ。

 転移陣の先は王宮の一室だった。
 念のためにアランが存在感を薄くして皆で手をつないでいたけど、そこには誰も居なかった。転移陣だけがポツンと置かれている部屋はとてもレトロな雰囲気のある部屋で家具は何もないけど、壁や天井に見事な彫刻がされていた。
 ちなみに私のブレスレットの青い光はいつの間にか消えている。

「人の気配がない。よし、この部屋を出てみよう」

 声を潜めてレナード王子が囁いた。私の両手を二人が繋いでいるから動きづらい。レナード王子は抜き身の剣を右手に持ってそろそろと転移陣のある部屋の戸を開けた。

「ピピピ、ピピ」

 扉を開けた先にはルナが待っていた。いつの間に。ルナはホバリングしながら「ピッ、ピピピ」と話しかけてくる。

「俺たち、姿消しているよな」
「人には見えないはず」
「ルナは聖鳥だから見えるんじゃないですか。名前を付けたのは私だし」
「ああ、そういう事か」
「俺たちカルテットだ」
「ピピ、ピピピッ」

 ルナが嬉しそうに上下に揺れた。笑っているように見えるのは気のせいかしら。そうして、ルナに先導されながら王宮の中を進んだけど、人っ子一人いなかった。無人のお城、ガラーンとしている。

「何で、誰も居ないんだ……」
「過去の世界だからか?」
「でも、廃墟ってわけでもなく、今にも人が出てきそうにお城の中は綺麗だわ」
「きれいすぎてかえって不気味だ」
「幽霊とか過去の亡霊とか出てきたりして?」
「まさか、なんてこと言うのよ。アラン」

 最初はずっと3人で手をつないでいたけど、何処まで行っても人の気配がないので、レナード王子を先頭に後ろからアランと私がついて行く形にした。正確にはルナが先頭だけど、人から見たら私とアランは見えないからレナード王子が剣を持って、小さな小鳥の後をついて行っているように見えるかもしれない。

「ピピピ、ピピ」

 曲がりくねった王宮の奥に進み、何もない壁の前でルナが鳴いた。嘴で壁をツンツンと突くとそこに青い扉が現れた。

「あれ? 前に連れてきてもらった所と違うみたいだ」
「こんなところに隠し部屋があったのか」
「まさか、王宮の隠し財産とか財宝とかある?」
「そんなものはないはずだ。財宝はすべて引っ越す時に運んだはずだから」
「残念」
「それより、開けるぞ」

 レナード王子がそっと青い扉を開けた。そして、直ぐに閉めた。

「えっ、どうしたの? なんで閉めたの?」
「いや、変なモノがいる」
「何、ダンジョンボスとか?」
「何だ、そのダンジョンボスというのは? そうではない。魔術師がいた」
「魔術師! まさか、あの邪悪の魔術師?」
「わからない。でも、伝承に伝わっている姿、というかあの魔術師の顔だった」

「ピピピ、ピピ」
「ルナ、どうして?」

 私達は扉の横で途方にくれていた。
 3人で手を繋いでいるから魔術師には見えないはず。何故、レナード王子が扉を開けて、直ぐ閉めたのに何も反応しないんだろう。というか、何故魔術師がこの聖石の世界にいるの? ここは過去の世界だけど時代が違うはずなのに。

 ルナはこの部屋に入ってほしいらしくてピピピと鳴いている。まさか、邪悪の魔術師を成敗しろとか? まさかね。
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