冷女が聖女。

サラ

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58. 行動指針

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 それから私達は有村さんに別れを告げ、セイント国に旅立つことにした。
 と言っても私は彼女には会わなくて、レナード王子が「しばらく調査の為にここを離れるけど、危険があるかもしれないのでここで待っているように」と有村さんに伝えた。

 簡易トイレも水もあるし、非常食とベッドもある。有村さんにはデイドレスを何着か渡しておいたし、回数制限はあるけど浄化の魔道具もレナード王子が使えるようにレクチャーしておいたから、何とかなると思う。飛ばされた辺りは聖域となっているみたいで魔獣が来ることもないから安心だし。ただ、ご飯が提供できないから食生活はかなり質素になってしまうけど。

 有村さん、何もする事がなくて退屈かな、と思ったので一人でもできるゲームやトランプ(この世界にもトランプがあったのは不思議)を渡したら、ひたすら恋占いをしていたらしい。
 そうして、レナード王子が来ると
「今日は恋愛運が最高で、私達の運命も動き出すと出ました」とか
「私達って運命の恋人になれるみたいです」とか
「今日はどうしても試練が与えられるようで日が悪いですから、せっかく会いに来てくださっているのにあまりお相手できません」とか
 脳内で勝手にレナード王子との恋愛を妄想しているらしい。

 いくら違うといっても「そんなに照れないで」と自分に都合よく変換されるので、レナード王子がある意味凄いと感心していた。
 アランが「自分の見た目が変わっても気にしないんだ」と有村さんに聞いたら、
「悪い魔女に姿形を変えられてもいずれ元に戻るのが主人公」と自信満々に答えたそうだ。

 メンタルが強くて良いのかもしれない。恋愛小説を読みたいとおねだりされたので、長編の冒険小説をいずれ恋愛も出てくるからと渡したら、途中放棄したらしい。
 旅をしたりサバイバルをするには最適の情報が散りばめられた実用書よりの本なので役にたつのに、とレナード王子が残念そうに呟いたら、アランが読みたいと食いついていた。
 アラン、そういうのが好きだものね。

「さて、冒険の旅に出発だ」
「でも、セイント国はそんなに遠くないし、既に行った国だから冒険って言う?」
「いや、でも聖石の中のセイント国だよ。聖石の中が過去の世界に当たるとしたら、ひょっとして、昔の聖女と簒奪の魔術師に出会うかもしれない」
「過去の世界と言っても原初の過去だから、あの魔術師とは出会わないと思うが……むしろ、会ったら困る」
「お兄ちゃん、魔術師に勝てない?」
「勝てない。負ける自信はある」
「随分はっきり言うね」
「あれは規格外の魔術師だったらしい。今、戦わなくて済むのは幸いだと思う」
「そういえば、俺ら、戦う術がない」
「無いわね」
「邪悪の魔術師だったら、浄化とかでなんとかならない?」
「どうだろう? やってみないとわからないが無理だろう」

 私とアランはため息をついた。
 私の魔法のレベルがかなり上がったのは確かだし、火魔法で大きな火の玉が出るようになった時は的に向かって打ってみたりした。
 ただ、大きな火の玉は飛んでいくけど、スピードが遅い。水魔法も飛んでいくけど遅い。レナード王子が簡単に剣で火の玉も水の玉も弾き飛ばしてしまった。
 でも、光魔法は眩しい光を出せるので「これは目くらましに使えるかもしれない」と褒められた。

 アランも水魔法はできるようになったけど、私より攻撃力はショボい。水の玉も出せるけどスピードがすごく遅い。
 私が追い付いて突いたらドボンと落ちてしまってアランが落ち込んでしまった。ごめんね。大きな水玉がフヨンフヨンと飛んでいくのを見たら我慢できなくて。
 でも、大きな水玉が出せるという事は魔力が大きいという事だと慰められて復活していた。アランって割と単純だと思う。
 それでも練習のかいあって、指先で任意の場所に浄化を掛ける事が出来るようになったから、汚い人とすれ違っても気づかれずに清潔にすることができる。

「それ、何の役にたつの?」
「世の中が綺麗になる、と病気の予防になるから世界の平穏につながる、かもしれない」
「アンデッドとか幽霊とかの攻撃手段にはなるわね。もう、それはそれとして、聖石の世界から脱出すると直ぐに現在に戻れるとしたら、不味くないですか? いきなりセイント国に私達が出現するわけでしょう?」
「そこで、アー君の出番だ」
「俺?」
「皆で手を結べば姿をかくせる」
「みんなで渡れば怖くないって奴?」
「それ、ちょっと違うと思う」

 アランは存在レベルを変更する事で限りなくその存在を消す事が出来る。その上、レベルがあがったせいで手をつないだ人もその存在感を失くして、つまり姿を消せる。皆で姿を消して隠密行動をすれば何も問題ないとレナード王子が言うけど、はたしてそうかしら?

「姿を消さなくても聖石に飛ばされてセイント国に来てしまった、とすれば何も問題はないんじゃないですか?」
「こんなチャンスは滅多にないから、セイント国の王宮を隅々まで探索したい」
「でも、レナード殿下は結界に阻まれるんじゃなかったですか?」
「聖石の中からだと何とかなるような気がする」
「あのさ、俺たちまだ聖石の中から出られてないんだよ」
「今のうちに行動指針を決めてほうがいい」

 話し合いの結果、とりあえず、セイント国に行く事にした。行けば何かわかるかもしれないし。なにごともなく無事に聖石から脱出して、無事にお家に帰れるといいなぁ、と思う。
 けれど、古の聖女にソックリの色彩になってしまった私の姿は、はたして元に戻るのだろうか?
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