冷女が聖女。

サラ

文字の大きさ
上 下
60 / 69

56. そろそろ

しおりを挟む
 レナード王子が言うにはこの聖石世界の地形は原初の、国がまだ成立している前の状態になっているので、そもそもの始まりの地に行けばここから抜け出せるのではないかとの事。
 ひょっとして、始まりの地に本来の聖石があって、そこから帰れるかもしれないと……。これまで楽しそうにサバイバルをしていると思ったけど、実は地形とかその他色々調べていたそう。

 気にせずにサバイバルを楽しんでいるのかと思っていました。場所によっては現在のブルーバード国の状況というか、蒼の乙女の結界を感じられるところもあるので、現世の上にこの聖石の世界が透明化して乗っているんじゃないかって……。
 それって、上を見上げれば生活している私達が見れたって事? えっ? トイレとか着替えもしているけど。

「いや、誰にも見えてないよ。多分」
「特に玲ちゃんの結界の中はこれまでも見えない状態になっていたじゃないか。大丈夫だよ」
「それならいいですけど……。ひょっとして蒼の乙女の結界から戻れますか?」
「いや、蒼の乙女の結界は強固だからどうやって破るというか、どうやって下界に降りるか分からない。ただ、始まりの地に行けば結界はないし、そもそもあちらから聖石を運んできているから、行ってみれば何とかなるかもしれないと思う。此処は聖石の中のはずだけど、肝心の聖石が何処にあるのか、聖石の果てが何処にあるのかがわからない」

「始まりの地から聖石を運んできたんですか?」
「うん、まぁ。今はセイント国になっている場所に聖石があって、最初の国はそこから始まったんだ。ただ、あの国の場所だけでは手狭になって、どんどん海を渡って国が広がり首都を国の中心に置く事になって、聖石を移した」
「と、いう事は始まりの地はセイント国にあるのですか?」
「そうなんだ。王家は聖石を女神に託されてこの世界を守る役割があると伝えられているんだけど、永い時を経て言い伝えも形骸化したようになって、聖女もいなくなって……」

 とレナード王子は苦い顔をした。

「兄さん、何かまずい事でもあるの?」
「うん……、まだ表立ってはいないけど、昔に比べると世界全体の神気が段々と薄くなって来ているんだ。それは聖女が召喚されても、持ち直しはしてもそこまで改善される事はなかった。神官の中には緩やかに滅びに向かっているのではと言う者もいて……。ただ、この度の聖女召喚ではこれ迄よりも神気の改善が早い、だから、今回の聖女は本当の聖女ではないかと言われていて、」
「だけど、今回は二人の聖女が召喚されているから、単純に考えて聖女のちからが2倍になったとも考えられる、という事?」
「レイちゃんが聖女であるならあの聖女の力が強いのではなく、レイちゃんが補完しているのかもしれない」
「だったら、……」
「あの国、セイント国は聖女が存在する事で国が成り立っている。しかし、召喚された聖女は2、3年で元居たところに帰ってしまうんだ。セイント国では何とか引き留めようとしていたらしいけど、いつも必ず帰ってしまう。ただ、その前にその力を他の聖女、というか選ばれた巫女に移して帰るんだ。それはどうやっているのか分からない」

 その召喚されている聖女って私のご先祖様じゃないかと思うんだけど、皆、どうやって帰っているのかしら。
 聖女の力を渡す事で帰れるとしたら、あのセイント国ではなく、ブルーバード国に渡すほうが良いなぁ。それにしても、これまで割とノンビリとここで過ごしてきたけど、突然消えてしまって皆、ビックリしているのでは……。

「あの、今さらですが、皆さん心配されていますよね」
「ああ、一応心配はしていると思うが、飛ばされたのが聖石の中というのは見えたと思うし、俺の生存に関しては確認ができるから、その点は心配してないと思う。いざという時の食料や魔道具なども常に持ち歩いているのに合わせて、レイちゃんが食料の無限に湧くアイテムボックス持ちだという事も皆、知っているし」

「食料が無限に湧く……、」
「だって、こちらの世界に冷蔵庫なんてないから他の人にはそういう認識なんだよ。しかも冷蔵庫も今は進化して家状態だし、『何処でも家』なんてホント便利だよ」
「それはそうだけど、この家、キッチンがないのが、」
「そこが不便だよなぁ」
「アランのキャンプ道具がなければ冷たいものばかり食べる羽目になっていたわ」
「一応俺も、野営のための道具は持っていたが」
「そうでした。レナード王子の装備で簡単な火起こしとか簡易の調理はできましたね」
「それでも、ベッドはないから」
「ああ、寝る時に警戒しなくていいのと、ベッドで寝られるのは有難い。風呂まであるし。ただ、そろそろ移動しても良いと思う」

「玲ちゃん、聖女だし何か感じるものはない?」
「そうね。ここはとても居心地の良い空間というか、気持ちが良いとは感じるんだけど、ん? そういえばルナはどうしたのかしら?」
「ルナは玲ちゃんが名前を付けたから呼べば来るんじゃないか。「ルナ、お出で」とか言ってみたら」
「まさか、来るかしら? 聖石の中なのに」
「呼んでみたら良いよ」
「ルナ! 側に来て!」

 アランの言葉の通りに呼んでみたら

「ピピピ、ピピッ」

 聖鳥のルナが私の肩に乗って「ピピピッ」って話しかけてきた。嬉しいという気持ちが伝わってくる。本当に来た。でも、どうやって此処に来たのかしら? 聖石の中に飛ばされた時にルナは一緒ではなかったはずなのに。

「凄いな。本当に来た」
「あのさ、玲ちゃん……」
「何?」
「俺も玲ちゃんが呼べば瞬間移動みたいに転移できるんじゃない?」
「まさか」
「ちょっと、やってみよう」

 そうして試してみたら、かなり離れたところから、冷蔵庫の中にアランが飛んできた。

「姿消しと瞬間移動、もうスパイし放題」

 アランが嬉しそう。レナード王子も羨ましそうに私を見つめてくるけど、でも、これってアランが私の従者になっているせいだよね。

「レイちゃん!」
 いえ、いえ、いえ。そんな目で見ないで、レナード王子。王子を従者になんてできません。
 あっ、アランも一応、王子だった……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

「お前の代わりはいくらでもいる」と聖女を剥奪され家を追放されたので、絶対に家に戻らないでおこうと思います。〜今さら戻れと言ってももう遅い〜

水垣するめ
恋愛
主人公、メアリー・フォールズ男爵令嬢だった。 メアリーは十歳のころに教皇から聖女に選ばれ、それから五年間聖女として暮らしてきた。 最初は両親は聖女という名誉ある役職についたことに喜んでくれたが、すぐに聖女の報酬のお金が莫大であることに目の色を変えた。 それから両親は「家のために使う」という口実を使い、聖女の報酬を盛大なパーティーや宝石のために使い始める。 しかしある日、それに苦言を呈していたところ、メアリーが高熱を出している間に聖女をやめさせられ、家も追放されてしまう。 そして平民の子供を養子として迎え入れ、「こいつを次の聖女に仕立て上げ、報酬の金を盛大に使う」と言い始めた。 メアリーは勝手に聖女をやめさせられたことに激怒するが、問答無用で家を追放される。 そうして両親は全てことが上手く行った、と笑ったが違った。 次の聖女に誰がなるか権力争いが起こる。 男爵家ごときにそんな権力争いを勝ち残ることができるはずもなく、平民の子供を聖女に仕立て上げることに失敗した。 そして金が欲しい両親はメアリーへ「戻ってきてほしい」と懇願するが、メアリーは全く取り合わず……。 「お前の代わりはいる」って追放したのはあなた達ですよね?

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界で安心安全お手軽(?)に、キャンプします。

新条 カイ
恋愛
キャンプをしたくて母に相談したら、なんと良い場所(異世界)とモノ(イケメン騎士)があると言う。キャンプ道具かなと思ったら、想像もつかないモノが出て来ちゃった… 魔王なんていません。意地悪な貴族はそもそも出て来ません。本当に楽してキャンプするだけです。 ヒーローがチョロインな気がします。 ◆ネタの思い付きは→無人島に行きたい→行くとしたら一週間位行きたいなぁ…ひたすらぼーっとするのいいかも→食料どうしよう→鳥とか動物って狩りしてもいいのかなぁと思った私は異世界転移とか転生とかファンタジー脳に染まり切ってしまっているのだろうと思う。考えてすぐに、あ。無理だ何考えてるんだってなったので、多分まだ現代人です(何)。捌いたことないのにな…パック製品しか扱ったことないのにな…なんでそう考えついたのか。 せっかくなのでネタにしました。ヒーローありきのご都合主義です。

処理中です...