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54. サバイバル?
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シオリーヌこと、有村嘉子さんは恋人とちょっとした諍いがあって、軽く恋人を小突いたら彼が道路に飛び出してしまって、そこに大型ダンプが突っ込んできたので、慌てて彼をかばって代わりに身を投げ出して、そのままダンプに轢かれるかと思ったら、視界が暗転してシオリーヌとして生まれ変わったそうだ。
生まれた直後から意識はあったらしいけど、ずっと表には出れなくて、転んで頭を打った拍子にやっとシオリーヌとして動けるようになったらしい。では、それまでシオリーヌとして生きてきたもう一つの人格は何処にいってしまったんだろう?
アランがそこを尋ねると
「知らないわよ。元々あたしがシオリーヌなんだから、正しい姿に戻っただけでしょう! 前のあたしはクソ真面目で面白くなかったから、消えて良かったんじゃない? ねぇ、そう思うでしょう」
「いや、前のシオリーヌは真面だったんだよね。君が乗っ取っただけじゃないか?」
「乗っ取ったなんて、違う。あたしがシオリーヌよ」
「見た目はまんま日本人の日焼けギャルだけどな」
「ああっ、そうだった? ちょっと、鏡、鏡は無いの?」
「無いよ」
「うそー、もう私はどうなっているのよ!」
うそ。本当は鏡も姿見もあるけど有村さんは見ないほうが精神衛生上、良いと思う。レナード王子はいつの間にか、小振りなテーブルを出して、頬杖をつきながらアランと有村さんの言い合いを見ていた。
テーブルの上にはワイングラス。ワインを飲みながら有村さんを観察しているみたい。
「あっ、レナードさま~、自分だけ何飲んでいるんですか~。あたしにも下さい~」
そう言いながら有村さんがワイングラスをつかみ取ろうとしたら、スッとワイングラスを持ってレナード王子は立ち上がった。
「君はひとまず水でも飲んで落ち着いたら?」
そう言いながらアイテムボックスから取り出したのは武骨な鉄製のマグカップ。なみなみとお水が入ったそのマグカップは今にもこぼれそうだった。
有村さんは不満そうな顔をしながらもレナード王子がテーブルに置いたそのカップを取ると、ゴクゴクと一気に飲んだ。喉が渇いていたらしい。でも、腰に手を当てて飲むのはどうかと思うよ。
「あれ? 全部飲んだと思ったのに……」
有村さんが不思議そうな顔をした。マグカップにはまた、ナミナミとお水が入っていた。
「それ、魔道具なんだ。一日に12杯分の水を出すから、水分補給には充分だろう。君に貸してあげるからそれで水分を取ると良いよ」
「あら、レナード王子はやっぱりあたしの事が心配だったんですね。嬉しいわ」
「その顔で馴れ馴れしく話しかけられるのも変な気分だな」
「ふふっ、多少見かけが変わってもレナード殿下はあたしの婚約者ですものね」
「いつ、婚約者になったんだ! そんな覚えはない」
「もう、照れちゃって。いいんですよ。真実の愛で二人が結ばれるのは決まってるから。ほら、アニメでも見た事あるけど、姿がお婆さんになっても愛は変わらない、ですよね」
そのアニメというか映画、知っているけど、今回は全然違うと思う。第一、有村さん、その庇ったという恋人は良いのかしら? 日焼けギャルの恋人って日焼けチャラ男? 一体どんな人なんだろう?
話が通じない有村さんとの頓珍漢な会話は続き、呆れたレナード王子は
「もう、お手上げだ。俺は休憩する。アランもいつまでもそいつに構っているな」
「そうだね。でも、このまま放置する?」
「簡易テントを貸してやろう。中に携帯食料も入っているし、水もあるから構わないだろう」
「じゃぁ、開け扉!」
とアランが唱えると冷蔵庫の扉が現れた。
「玲ちゃん、お願い」
という事で、お客様登録をしたレナード王子が扉をくぐり、姿が消えた。続いて、アランが扉に近づくと凄い勢いで有村さんが扉の中に飛び込んだ。そうして、彼女は扉の向こう側の草原に足を踏み入れ、「えーっ、どこでもドアじゃないの!」と大声で叫んだ。
アランが笑いながら
「その扉は心が清らかな人しか通れないんだ。妖精の宮殿に続いているから。君も聖女のように清らかな心で祈れば入れるかもね」
と嘘っぱちな事を言うから、有村さんは急いで手を前に組んで祈りを捧げ始めた。何だか可哀そうな気がしてきたけど、彼女を冷蔵庫の中に入れると絶対アチコチ勝手に開けて回るから、冷蔵庫の家には入れたくない。
アランが冷蔵庫に入るとドアは消えてしまったけれど、有村さんは一生懸命祈りと捧げていた。草原にベッドとテーブルに椅子とテント。何もない空間に祈りを捧げる煌びやかなドレスを着た日焼けギャル。
うーん。何というか、気の毒なので籠に入ったこちらの世界のサンドイッチと果物の盛り合わせをテーブルに載せておいた。
ついでに彼女に浄化を掛けるとホワンと淡く光り、
「やっぱり、あたしが聖女だわ。あっ、これは」
と言ってテーブルの上の籠の覆いをめくると「食べ物だわ。えーと、確かワインとパンが無限に出てくるんだった。今回はサンドイッチが無限に出てくるんだ。あたしが神子、神の子、いえ、この世界では聖女ね。やっぱりあたしが主人公じゃない。レナードと美少年がどこに行ったか分からないけど、大事なあたしを放って置くわけないし、」
ブツブツ言いながら有村さんは食事を始めた。食欲もあるようで一安心。
そうして、次の日から私達は冷蔵庫の中で、有村さんは草原の上でサバイバル生活を始めたのだった。
生まれた直後から意識はあったらしいけど、ずっと表には出れなくて、転んで頭を打った拍子にやっとシオリーヌとして動けるようになったらしい。では、それまでシオリーヌとして生きてきたもう一つの人格は何処にいってしまったんだろう?
アランがそこを尋ねると
「知らないわよ。元々あたしがシオリーヌなんだから、正しい姿に戻っただけでしょう! 前のあたしはクソ真面目で面白くなかったから、消えて良かったんじゃない? ねぇ、そう思うでしょう」
「いや、前のシオリーヌは真面だったんだよね。君が乗っ取っただけじゃないか?」
「乗っ取ったなんて、違う。あたしがシオリーヌよ」
「見た目はまんま日本人の日焼けギャルだけどな」
「ああっ、そうだった? ちょっと、鏡、鏡は無いの?」
「無いよ」
「うそー、もう私はどうなっているのよ!」
うそ。本当は鏡も姿見もあるけど有村さんは見ないほうが精神衛生上、良いと思う。レナード王子はいつの間にか、小振りなテーブルを出して、頬杖をつきながらアランと有村さんの言い合いを見ていた。
テーブルの上にはワイングラス。ワインを飲みながら有村さんを観察しているみたい。
「あっ、レナードさま~、自分だけ何飲んでいるんですか~。あたしにも下さい~」
そう言いながら有村さんがワイングラスをつかみ取ろうとしたら、スッとワイングラスを持ってレナード王子は立ち上がった。
「君はひとまず水でも飲んで落ち着いたら?」
そう言いながらアイテムボックスから取り出したのは武骨な鉄製のマグカップ。なみなみとお水が入ったそのマグカップは今にもこぼれそうだった。
有村さんは不満そうな顔をしながらもレナード王子がテーブルに置いたそのカップを取ると、ゴクゴクと一気に飲んだ。喉が渇いていたらしい。でも、腰に手を当てて飲むのはどうかと思うよ。
「あれ? 全部飲んだと思ったのに……」
有村さんが不思議そうな顔をした。マグカップにはまた、ナミナミとお水が入っていた。
「それ、魔道具なんだ。一日に12杯分の水を出すから、水分補給には充分だろう。君に貸してあげるからそれで水分を取ると良いよ」
「あら、レナード王子はやっぱりあたしの事が心配だったんですね。嬉しいわ」
「その顔で馴れ馴れしく話しかけられるのも変な気分だな」
「ふふっ、多少見かけが変わってもレナード殿下はあたしの婚約者ですものね」
「いつ、婚約者になったんだ! そんな覚えはない」
「もう、照れちゃって。いいんですよ。真実の愛で二人が結ばれるのは決まってるから。ほら、アニメでも見た事あるけど、姿がお婆さんになっても愛は変わらない、ですよね」
そのアニメというか映画、知っているけど、今回は全然違うと思う。第一、有村さん、その庇ったという恋人は良いのかしら? 日焼けギャルの恋人って日焼けチャラ男? 一体どんな人なんだろう?
話が通じない有村さんとの頓珍漢な会話は続き、呆れたレナード王子は
「もう、お手上げだ。俺は休憩する。アランもいつまでもそいつに構っているな」
「そうだね。でも、このまま放置する?」
「簡易テントを貸してやろう。中に携帯食料も入っているし、水もあるから構わないだろう」
「じゃぁ、開け扉!」
とアランが唱えると冷蔵庫の扉が現れた。
「玲ちゃん、お願い」
という事で、お客様登録をしたレナード王子が扉をくぐり、姿が消えた。続いて、アランが扉に近づくと凄い勢いで有村さんが扉の中に飛び込んだ。そうして、彼女は扉の向こう側の草原に足を踏み入れ、「えーっ、どこでもドアじゃないの!」と大声で叫んだ。
アランが笑いながら
「その扉は心が清らかな人しか通れないんだ。妖精の宮殿に続いているから。君も聖女のように清らかな心で祈れば入れるかもね」
と嘘っぱちな事を言うから、有村さんは急いで手を前に組んで祈りを捧げ始めた。何だか可哀そうな気がしてきたけど、彼女を冷蔵庫の中に入れると絶対アチコチ勝手に開けて回るから、冷蔵庫の家には入れたくない。
アランが冷蔵庫に入るとドアは消えてしまったけれど、有村さんは一生懸命祈りと捧げていた。草原にベッドとテーブルに椅子とテント。何もない空間に祈りを捧げる煌びやかなドレスを着た日焼けギャル。
うーん。何というか、気の毒なので籠に入ったこちらの世界のサンドイッチと果物の盛り合わせをテーブルに載せておいた。
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ブツブツ言いながら有村さんは食事を始めた。食欲もあるようで一安心。
そうして、次の日から私達は冷蔵庫の中で、有村さんは草原の上でサバイバル生活を始めたのだった。
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