冷女が聖女。

サラ

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51. ここはどこ? 貴女は誰?

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「ちょっと、それ、キーアイテムだわ。寄こしなさいよ」

 そう言うとシオリは手を伸ばしてペンダントを直接引っ張った。ブチンと鎖が取れて、勢い余ったのかそのままペンダントは私のほうへ飛んできた。

「ああっ、あたしのペンダント!」

 そう言いながらシオリーヌがペンダントを取ろうとして私にぶつかってきて、そうして、私は体勢を崩して聖石の上に倒れ込んだ。

「レイ」と言いながらレナード王子が慌てて引っ張ってくれたけど、そのまま聖石の上を覆っているドームの上に手をついてしまって、そうして白い光に包まれたかと思うと、……そこは草原だった。柔らかい草の上にレナード王子に抱き込まれるように転がった私は爽やかな草原の風に吹かれていた。

「玲ちゃん、大丈夫?」

 アランが心配そうに手を差し出してきた。その手を取って立ち上がるといつの間にか私の腕にあのペンダントがブレスレットになって付いている。ペンダントがブレスレットになって帰ってくるなんて……どうなっているのだろう? 
 でも、相変わらず青い石は光を放っている。先ほどよりは穏やかな淡い光になっているけど。ペンダントトップになっていた部分をひっくり返すと『玲』と漢字が刻まれていた。私が昔、失くしたモノで間違いはない。
 でも、右を見ても、左を見ても草原が広がっている。さっきまで聖堂に居たはずなのにここはどこかしら?

「怪我はないか?」
「ええ、大丈夫です。レナード殿下こそ怪我はありませんか? 私の下敷きになっていたでしょう?」
「ああ、大事無い」
「それより、何が起こったんだろう? 玲ちゃんが聖石のドームに触れると同時に凄い光に包まれてここに飛ばされたんだ。俺、玲ちゃんが突き飛ばされたから急いで助けようとしたんだけど……あれ、誰だ?」
「ドレスから見るとシオリーヌ様みたいだけど……」
「服と髪型はシオリーヌだが……」

 すぐ側にうつぶせに倒れているシオリーヌらしき人は髪がすすけた茶髪になっていて、袖が捲れて見えている肌がこんがりと日に焼けて貴族令嬢の肌ではなくなっている。日本人がわざと日に焼けるとこんな色になると思う。
 所謂日焼けギャルと言えばいいんだろうか。うつ伏せになっている顔を見るのが恐い。レナード王子とアランはお互いに突き合っている。

「……」
「……」

「フゥー」とため息を一つ吐くと、レナード王子がそろそろ近寄り、シオリーヌの服を両手でつかんでひっくり返した。するとそこには何という事でしょう。これまでのシオリーヌとは似ても似つかぬ日本人女性、日本人の日焼けギャルが倒れていた。

「あれ、多分、有村嘉子だ」
「そうみたいね」
「化けの皮がはがれた」
「でも、サンクトゥス公職家にシオリーヌとして生まれたんでしょ?」
「ああ、その、今はレイちゃんが身に付けている青い宝石、その青い宝石のペンダントを握りしめて生まれたんだ」
「これ、今はブレスレットになっているけど、これを渡したらまた、シオリーヌに戻るかしら?」
「いや、どうだろう? でも、それ元々、ペンダントはレイちゃんのだったんだろう?」
「ええ、そう、だけど……このままでは、シオリーヌは居場所が無くなってしまうのではない?」
「自業自得だろう。でも、起きたら『有村嘉子』がどうして異世界転生したのか、この世界に来る前は何をしていたのか確認したほうが良いと思うんだ」

 私達は話し合って、ベッドを取り出して彼女を寝かせた。シオリーヌの顔はギャルの化粧が剝げかかっていて可哀そうな事になっていたけど、この化粧方法もこれまでの公職令嬢としての化粧ではなく、現在日本の化粧になっていたので、彼女は日本人としか見えない状態になっていた。
 私達だって、シオリーヌが同じドレスを着ていなかったら、これ誰? と思ったに違いない。

「あのさ、俺、多分こいつ、知っている。面影がある。」
「知り合い?」
「昔、追いかけられた事がある」
「追いかけられた?」
「俺、それなりにカッコ良かったから、ストーカーみたいに付きまとわれたんだ。はっきり断ったのに、まずはお友達からとか、お互いを知り合わないと始まらないとか言って」
「ウワー」
「いや、わかる。これはとてもシツコク寄ってくる」
「レナード殿下にも?」
「顔が良い高位貴族には一通り」
「シオリとソックリ」
「ああ、聖女とこれはよく似ている」

 アランが言うには私の姿形は金髪、青い目で変わってないそうだ。ドレスも良く似合っていると言われた。けれど、此処は草原、直ぐに帰れればいいけど、ドレスでは動きにくい。

「ここはどこでしょう?」
「草原の真ん中だけど、居心地は良いというか、なんだろう……空気が清浄な感じがして」
「多分だけど、ここは聖石の中なんじゃないか?」
「聖石!」
「レイちゃんが聖石にぶつかると同時に聖石が発光して取り込まれるような感覚がしたんだ。この青い石はひょっとして、聖石の欠片で……レイちゃんは聖石に呼ばれた……しかし、何故? 普通は聖女が呼ばれるんじゃないのか? それにその青い石が聖石の欠片だとしたら何故、その石はレイちゃんのモノだったんだ?」

 それは、多分私が聖女だからだと思います。
 私とアランは顔を見合わせた。今、今こそ打ち明ける時だよね。
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