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50. 聖石
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聖堂の中はステンドグラスの明かりがアチコチに反射してキラキラと美しく輝いている。
元になっているのは真ん中のドームに囲まれた聖石だと思われるけど、聖堂の扉を開けたとたんに柔らかな光が聖石から発せられた。凄く清浄な気配が当たりに立ち込める。森林浴ならぬ聖石浴……なんてね。
「まぁー、何てきれいなの?」
「本当にこれは素晴らしいな」
シオリが甲高い声で聖堂の天井を見回しながら叫んだ。シオリ、仮にも神聖なこの場所でそんな大声をあげるものではないと思うわ。傍でブギウ王太子も感嘆の声を上げているけど、こちらは控えめに声を落としている。
今、私たちは王宮の中にある神殿、その中にある聖堂に来ていた。聖女であるシオリと聖石を会わせるためだ。
セイント国の王太子であるブギウ王子を聖堂の中に入れるのはお断りしたかったけれど、聖女の仮婚約者として離れられないと主張され、仕方なく同行を許可したのだった。王太子の警護と侍従も付いてきたのでセイント国からは聖女も合わせて全部で5人。
ブルーバード国からは国王とレナード王子に私、警護の3人と侍従2人、サンクトゥス公爵とここの神殿長にサンクトゥス神殿の司教と神官二人だから全部で13人、プラス姿を隠したアラン、合わせて19人の人たちが粛々と聖堂の中で聖石を囲んでいる。
「光っているわ」
「そうですね。聖なる光と清浄な空気が発せられています」
「これまでは点滅だけ、していたというのに……」
無言で聖石を囲む人達のなかでシオリが能天気に明るい声を上げた。
「聖女に会えて、喜んでいるのね。じゃぁ、あたしと離れたくないでしょうから、この光る石、貰ってあげてもいいわ」
「はっ! 何を」
「いえいえいえ、何をおっしゃいますか?」
「あっ、そうね。ほとんど土に埋まっているんだった。じゃぁ、上の部分を削ってペンダントかピアスに加工したらどうかしら。聖女の身を飾るアクセになれたら聖石も喜ぶんじゃない?」
シオリの発想が恐い。これはこの国の根幹をなす聖なる石なのに、よくそんな事を口に出せるものだわ。皆も呆れて絶句している。ブギウ王太子でさえ、シオリの発言に困ってモゾモゾしている。でも、セイント国の聖石もこの国から奪った半分だから一つにできたら、と思っているのかもしれない。
シーンとしてしまった空間にシオリとはまた違う甲高い声が響いた。
「皆、此処に居たのね。あたしだって聖女なんだから聖石が光っているのなら立ち会わなくちゃ、ダメでしょ!」
「シオリーヌ様、どうかお戻りください」
追いすがる警護の人を振り切るように
「嫌よ。あたしが聖石を見たいって言うのになかなか、許可を出してくれないんですもの」
と言いながら、バーンと扉を開けて入って来たシオリーヌは聖石を見るとツカツカと近寄ってきた。すっとシオリーヌと聖石の間にレナード王子が立ちふさがり、
「どうやって此処に来た!?」
「どうやってって、移転の魔法陣を使って来たんだけど」
「あれは王族しか使えないはず」
「それが動いたのよねぇ。止めようとした警護の連中も驚いていたから、どうせ使えないと思ったんでしょうけど、あたしは王族より立場が上の聖女だからチートなのよ」
「チート? なんだそれは?」
不審げに眉を顰めるレナード王子の前にシオリが割り込んできた。
「あー、もう何よ、ヨシンババア。これからあたしの為のイベントが起こるとこなんだから邪魔しないで! 悪役令嬢はすっこんでて!」
「何よ、イベントって。抜け作シオリはこの話をしっているの?」
「知らないわよ。アンタこそ知っているわけ? でも、このシチュエーションだと聖女のあたしの為に何かが起こるのは間違いないわね。公爵令嬢なんて、何の小説やゲームでも悪役じゃない」
「知らないの? 最近は悪役令嬢のほうが主人公になるんだから、抜け作シオリがザマァされる悪役聖女でしょ!」
「何よ」
「やる気!」
「止めろ! 神聖な聖堂で争うな」
「アアーン、レナードさま~、この女がひどいんです~」
「キモッ、何て声出してんのよ、猫かぶり! 年増のくせに」
「あたしは二十歳のピチピチ女子大生で~す。ヨシンババアこそ公爵令嬢の着ぐるみ被っているんじゃないの? 後ろにチャックある?」
「この、バカにして!」
二人の言い争いの間も聖石は穏やかに光を発していたが、
「あれ、ヨシンババア、何で胸が光っているの?」
「ん? あれ、何か熱い」
そうしてシオリーヌが胸元から取り出したのは、小さな青い石が付いたペンダントだった。ペンダントの上からネックレスをしているので分かりづらかったが、今はそのペンダントについている青い石がキラキラと光を放っている。あれ、あのペンダントどこかで見た事がある?
「あっ、ひょっとして、そのペンダントあたしの無くした奴じゃない?」
「えっ、ち、違うわよ。これはあたしが貰ったモノで、生まれた時に握っていたからあたしのペンダントよ」
「ふうん。じゃぁ、見せて。もし、あたしが無くしたのだったらペンダントの裏に玲って彫ってあるはずだけど」
「嫌よ! これはあたしのモノよ」
「良いから見せなさいよ」
あの、シオリ……、ペンダントの裏に玲と彫ってあるのは私のペンダントじゃない? 小さな青い石だけど、子供の頃、お祖母さまから頂いたもので、探してもどうしても見つからずにいたものだわ。
そもそもの所有権は私にあるんじゃないかしら。シオリは私の事がわからないみたいだし、私の姿がすっかり変わってしまっているから、どうやって取り返したら……。
というか、そのペンダント、いえ、青い石は何故光っているの?
元になっているのは真ん中のドームに囲まれた聖石だと思われるけど、聖堂の扉を開けたとたんに柔らかな光が聖石から発せられた。凄く清浄な気配が当たりに立ち込める。森林浴ならぬ聖石浴……なんてね。
「まぁー、何てきれいなの?」
「本当にこれは素晴らしいな」
シオリが甲高い声で聖堂の天井を見回しながら叫んだ。シオリ、仮にも神聖なこの場所でそんな大声をあげるものではないと思うわ。傍でブギウ王太子も感嘆の声を上げているけど、こちらは控えめに声を落としている。
今、私たちは王宮の中にある神殿、その中にある聖堂に来ていた。聖女であるシオリと聖石を会わせるためだ。
セイント国の王太子であるブギウ王子を聖堂の中に入れるのはお断りしたかったけれど、聖女の仮婚約者として離れられないと主張され、仕方なく同行を許可したのだった。王太子の警護と侍従も付いてきたのでセイント国からは聖女も合わせて全部で5人。
ブルーバード国からは国王とレナード王子に私、警護の3人と侍従2人、サンクトゥス公爵とここの神殿長にサンクトゥス神殿の司教と神官二人だから全部で13人、プラス姿を隠したアラン、合わせて19人の人たちが粛々と聖堂の中で聖石を囲んでいる。
「光っているわ」
「そうですね。聖なる光と清浄な空気が発せられています」
「これまでは点滅だけ、していたというのに……」
無言で聖石を囲む人達のなかでシオリが能天気に明るい声を上げた。
「聖女に会えて、喜んでいるのね。じゃぁ、あたしと離れたくないでしょうから、この光る石、貰ってあげてもいいわ」
「はっ! 何を」
「いえいえいえ、何をおっしゃいますか?」
「あっ、そうね。ほとんど土に埋まっているんだった。じゃぁ、上の部分を削ってペンダントかピアスに加工したらどうかしら。聖女の身を飾るアクセになれたら聖石も喜ぶんじゃない?」
シオリの発想が恐い。これはこの国の根幹をなす聖なる石なのに、よくそんな事を口に出せるものだわ。皆も呆れて絶句している。ブギウ王太子でさえ、シオリの発言に困ってモゾモゾしている。でも、セイント国の聖石もこの国から奪った半分だから一つにできたら、と思っているのかもしれない。
シーンとしてしまった空間にシオリとはまた違う甲高い声が響いた。
「皆、此処に居たのね。あたしだって聖女なんだから聖石が光っているのなら立ち会わなくちゃ、ダメでしょ!」
「シオリーヌ様、どうかお戻りください」
追いすがる警護の人を振り切るように
「嫌よ。あたしが聖石を見たいって言うのになかなか、許可を出してくれないんですもの」
と言いながら、バーンと扉を開けて入って来たシオリーヌは聖石を見るとツカツカと近寄ってきた。すっとシオリーヌと聖石の間にレナード王子が立ちふさがり、
「どうやって此処に来た!?」
「どうやってって、移転の魔法陣を使って来たんだけど」
「あれは王族しか使えないはず」
「それが動いたのよねぇ。止めようとした警護の連中も驚いていたから、どうせ使えないと思ったんでしょうけど、あたしは王族より立場が上の聖女だからチートなのよ」
「チート? なんだそれは?」
不審げに眉を顰めるレナード王子の前にシオリが割り込んできた。
「あー、もう何よ、ヨシンババア。これからあたしの為のイベントが起こるとこなんだから邪魔しないで! 悪役令嬢はすっこんでて!」
「何よ、イベントって。抜け作シオリはこの話をしっているの?」
「知らないわよ。アンタこそ知っているわけ? でも、このシチュエーションだと聖女のあたしの為に何かが起こるのは間違いないわね。公爵令嬢なんて、何の小説やゲームでも悪役じゃない」
「知らないの? 最近は悪役令嬢のほうが主人公になるんだから、抜け作シオリがザマァされる悪役聖女でしょ!」
「何よ」
「やる気!」
「止めろ! 神聖な聖堂で争うな」
「アアーン、レナードさま~、この女がひどいんです~」
「キモッ、何て声出してんのよ、猫かぶり! 年増のくせに」
「あたしは二十歳のピチピチ女子大生で~す。ヨシンババアこそ公爵令嬢の着ぐるみ被っているんじゃないの? 後ろにチャックある?」
「この、バカにして!」
二人の言い争いの間も聖石は穏やかに光を発していたが、
「あれ、ヨシンババア、何で胸が光っているの?」
「ん? あれ、何か熱い」
そうしてシオリーヌが胸元から取り出したのは、小さな青い石が付いたペンダントだった。ペンダントの上からネックレスをしているので分かりづらかったが、今はそのペンダントについている青い石がキラキラと光を放っている。あれ、あのペンダントどこかで見た事がある?
「あっ、ひょっとして、そのペンダントあたしの無くした奴じゃない?」
「えっ、ち、違うわよ。これはあたしが貰ったモノで、生まれた時に握っていたからあたしのペンダントよ」
「ふうん。じゃぁ、見せて。もし、あたしが無くしたのだったらペンダントの裏に玲って彫ってあるはずだけど」
「嫌よ! これはあたしのモノよ」
「良いから見せなさいよ」
あの、シオリ……、ペンダントの裏に玲と彫ってあるのは私のペンダントじゃない? 小さな青い石だけど、子供の頃、お祖母さまから頂いたもので、探してもどうしても見つからずにいたものだわ。
そもそもの所有権は私にあるんじゃないかしら。シオリは私の事がわからないみたいだし、私の姿がすっかり変わってしまっているから、どうやって取り返したら……。
というか、そのペンダント、いえ、青い石は何故光っているの?
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