冷女が聖女。

サラ

文字の大きさ
上 下
49 / 69

46. サンクトゥス公爵

しおりを挟む
 離宮からサンクトゥス公爵家と隣り合わせにあるサンクトゥス教会には転移で行く事が出来る。転移の魔法陣を使うには王家の許可がいるし、王家の人間がその場に立ち会わないと利用する事が出来ない。
 今回はレナード王子が一緒に来てくれて、急きょ、サンクトゥス公爵家の公爵とその夫人にお会いする事になった。

 教会に着いた時、サンクトゥス教会の最高責任者である司教は私の顔を見て、一瞬驚いたように目を見張ったが、直ぐに綺麗なお辞儀をしてから挨拶をしてくれた。そして、教会でお会いした公爵夫妻は穏やかそうな人たちだった。

「彼女が、前夫人が出産の時にいなくなったシオリーヌ嬢の双子の姉妹に当たるレイン嬢になります」
「初めまして」

 と挨拶する私に公爵夫妻は驚きの目を向けた。公爵は目がウルウルとしている。

「おお、なんと、これは……貴女が私の、……無事でいてくれて良かった」
「ソックリでいらっしゃるわ」

「彼女は前に説明した通り、この世界とは異なる世界で育ちました。ですので、この世界の事は詳しくありません。一通り、私たちのほうでレクチャーはしていますし、聡明なので大丈夫だとは思いますが、今回の歓迎会でお披露目をしておきたいと思います」
「そうですか。聖女さまと同じ世界からいらしたとの事ですが、環境が急に違って、驚いた事でしょう」
「お顔に髪の色、目の色はシオリーヌとソックリでいらっしゃるけど、雰囲気はだいぶん違いますね」
「ええ、聖女さまと同じ世界から来たという事は秘密ですので、事情があって隠されて育ったのを今回お披露目と、公式には発表します」
「実は誘拐されて孤児として市井で育ったのを、レナード殿下が見出した、という裏設定で行くわけですね」

「そうです。私が大切にしている女性という事も匂わせたいと思います」
「シオリーヌは怒るでしょうね」
「あの子は殿下達への好意を隠しませんから」
「頭を打ってから、本当に性格が変わってしまって、それまでも割と我儘でしたけど、今はどうも自分のためにこの世界があると勘違いしている節があって……殿下たちには本当にご迷惑をおかけしております」
「あの、シオリーヌは今回の歓迎会には出さないほうが良いのでしょうか?」
「いえ、公爵令嬢としての出席は仕方ないでしょうし、双子であると周囲に認識してもらうためには、一緒に出席して並んでいただく事が必要です」
「……」
「何か、騒ぎをおこさないと良いのですが」

 公爵夫妻の心配顔を見ると、どんな女の子なんだろうと気が重くなってしまう。いきなりご対面で大丈夫なんだろうか。

「前もって、双子の姉妹がお披露目される事だけはパーティーの直前に言っておいてください。その時にレナードが大切に囲い込んでいると伝えていただくと」
「なるほど、そう言う事ですか」
「そう言う事です」

 えっと、どういう事ですか? 聞いていませんけど。その言い方だと私がレナード王子の大切な人、即ち恋人? みたいな立ち位置になってしまうという事? 聞いていませんけど。確かにレナード王子と一緒にいると楽だし、嫌いじゃないけど、何も言われてないし。

 私、レナード王子の事、どう思っているのかしら? アランを大切にする気のいいお兄様で、側にいても気にならない人……。実は私、恋をした事がないから恋愛感情って良く分からない。彼氏も一応、居たけどあれは付き合ってと言われて一緒にいただけで、距離を詰められると何だか嫌で、そのまま別れてしまったし、どうなのかしら。

「という事で、もしよければレイちゃん、俺の事も意識してくれると嬉しいな」
「えっ?」
「レイちゃんが恋愛的な面で凄く奥手だというのはこれまでに接してきてわかっているし、アー君と仲が良いのも良いけど、俺としてはレイちゃんが俺の側にいてほしいと思う」
「えっ、えええっ!」
「いや、俺もまだ熱い情熱を感じるまではないんだけど、結婚するならレイちゃんみたいな子がいいな、ずっと側にいてくれたらいいなぁと好感を持っているんだ。お互いに意識する事で距離が近づけばいいなぁと思って」
「えっ……」
「最初は軽いお友達感覚で良いよ。俺の事、嫌いじゃないだろう?」
「そ、それはそうですけど」
「それじゃぁ、これからもよろしく」

 そう言ってレナード王子は爽やかに笑った。この人、改めて見るととてもイケメン。性格もいいし、優良物件なんだよね。
 でも、そういう対象として見てなかったし、私、いずれは日本に帰るんだけど。帰るのに公爵令嬢としての立ち場を手に入れてしまって良いのかしら。
 当初の予定では普通にお店かなんかを開いてアランと一緒に生活する予定だったんだけど。レナード王子と結婚すると、アランが弟になるのか……、それはどうなんだろう。

「ごめん。混乱させたね。今はあまり考えなくても」
「そ、そうですね」

 そう、問題は先送りにしよう。とりあえずは歓迎会。歓迎会にはあのシオリがいるし、公爵令嬢も問題がありそうだし、前途多難だわ。
 悩みつつ離宮に帰るとアランが能天気な顔で迎えてくれた。

「玲ちゃん、どうだった? 公爵は真面な人だって話だけど、どんなひとだったの?」
「公爵夫妻は穏やかで良い人だったわ」
「それは良かった。ところでさ、俺、ケーキが食べたい。やっぱり、日本のケーキは美味しいよ」
「アー君は食いしん坊だね。俺もご相伴に預かろうかな」
「良いけど。レナード兄ちゃんも好きだねぇ」
「アランの顔を見ながら、美味しいモノを食べられるのは幸せだな」

 嬉しそうにオヤツを待つ二人はよく似た顔をしている。レナード王子、アランが好きだからついでに私も好きになったんじゃないの。

 さっきのは告白? 告白なのかしら?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...