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46. サンクトゥス公爵
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離宮からサンクトゥス公爵家と隣り合わせにあるサンクトゥス教会には転移で行く事が出来る。転移の魔法陣を使うには王家の許可がいるし、王家の人間がその場に立ち会わないと利用する事が出来ない。
今回はレナード王子が一緒に来てくれて、急きょ、サンクトゥス公爵家の公爵とその夫人にお会いする事になった。
教会に着いた時、サンクトゥス教会の最高責任者である司教は私の顔を見て、一瞬驚いたように目を見張ったが、直ぐに綺麗なお辞儀をしてから挨拶をしてくれた。そして、教会でお会いした公爵夫妻は穏やかそうな人たちだった。
「彼女が、前夫人が出産の時にいなくなったシオリーヌ嬢の双子の姉妹に当たるレイン嬢になります」
「初めまして」
と挨拶する私に公爵夫妻は驚きの目を向けた。公爵は目がウルウルとしている。
「おお、なんと、これは……貴女が私の、……無事でいてくれて良かった」
「ソックリでいらっしゃるわ」
「彼女は前に説明した通り、この世界とは異なる世界で育ちました。ですので、この世界の事は詳しくありません。一通り、私たちのほうでレクチャーはしていますし、聡明なので大丈夫だとは思いますが、今回の歓迎会でお披露目をしておきたいと思います」
「そうですか。聖女さまと同じ世界からいらしたとの事ですが、環境が急に違って、驚いた事でしょう」
「お顔に髪の色、目の色はシオリーヌとソックリでいらっしゃるけど、雰囲気はだいぶん違いますね」
「ええ、聖女さまと同じ世界から来たという事は秘密ですので、事情があって隠されて育ったのを今回お披露目と、公式には発表します」
「実は誘拐されて孤児として市井で育ったのを、レナード殿下が見出した、という裏設定で行くわけですね」
「そうです。私が大切にしている女性という事も匂わせたいと思います」
「シオリーヌは怒るでしょうね」
「あの子は殿下達への好意を隠しませんから」
「頭を打ってから、本当に性格が変わってしまって、それまでも割と我儘でしたけど、今はどうも自分のためにこの世界があると勘違いしている節があって……殿下たちには本当にご迷惑をおかけしております」
「あの、シオリーヌは今回の歓迎会には出さないほうが良いのでしょうか?」
「いえ、公爵令嬢としての出席は仕方ないでしょうし、双子であると周囲に認識してもらうためには、一緒に出席して並んでいただく事が必要です」
「……」
「何か、騒ぎをおこさないと良いのですが」
公爵夫妻の心配顔を見ると、どんな女の子なんだろうと気が重くなってしまう。いきなりご対面で大丈夫なんだろうか。
「前もって、双子の姉妹がお披露目される事だけはパーティーの直前に言っておいてください。その時にレナードが大切に囲い込んでいると伝えていただくと」
「なるほど、そう言う事ですか」
「そう言う事です」
えっと、どういう事ですか? 聞いていませんけど。その言い方だと私がレナード王子の大切な人、即ち恋人? みたいな立ち位置になってしまうという事? 聞いていませんけど。確かにレナード王子と一緒にいると楽だし、嫌いじゃないけど、何も言われてないし。
私、レナード王子の事、どう思っているのかしら? アランを大切にする気のいいお兄様で、側にいても気にならない人……。実は私、恋をした事がないから恋愛感情って良く分からない。彼氏も一応、居たけどあれは付き合ってと言われて一緒にいただけで、距離を詰められると何だか嫌で、そのまま別れてしまったし、どうなのかしら。
「という事で、もしよければレイちゃん、俺の事も意識してくれると嬉しいな」
「えっ?」
「レイちゃんが恋愛的な面で凄く奥手だというのはこれまでに接してきてわかっているし、アー君と仲が良いのも良いけど、俺としてはレイちゃんが俺の側にいてほしいと思う」
「えっ、えええっ!」
「いや、俺もまだ熱い情熱を感じるまではないんだけど、結婚するならレイちゃんみたいな子がいいな、ずっと側にいてくれたらいいなぁと好感を持っているんだ。お互いに意識する事で距離が近づけばいいなぁと思って」
「えっ……」
「最初は軽いお友達感覚で良いよ。俺の事、嫌いじゃないだろう?」
「そ、それはそうですけど」
「それじゃぁ、これからもよろしく」
そう言ってレナード王子は爽やかに笑った。この人、改めて見るととてもイケメン。性格もいいし、優良物件なんだよね。
でも、そういう対象として見てなかったし、私、いずれは日本に帰るんだけど。帰るのに公爵令嬢としての立ち場を手に入れてしまって良いのかしら。
当初の予定では普通にお店かなんかを開いてアランと一緒に生活する予定だったんだけど。レナード王子と結婚すると、アランが弟になるのか……、それはどうなんだろう。
「ごめん。混乱させたね。今はあまり考えなくても」
「そ、そうですね」
そう、問題は先送りにしよう。とりあえずは歓迎会。歓迎会にはあのシオリがいるし、公爵令嬢も問題がありそうだし、前途多難だわ。
悩みつつ離宮に帰るとアランが能天気な顔で迎えてくれた。
「玲ちゃん、どうだった? 公爵は真面な人だって話だけど、どんなひとだったの?」
「公爵夫妻は穏やかで良い人だったわ」
「それは良かった。ところでさ、俺、ケーキが食べたい。やっぱり、日本のケーキは美味しいよ」
「アー君は食いしん坊だね。俺もご相伴に預かろうかな」
「良いけど。レナード兄ちゃんも好きだねぇ」
「アランの顔を見ながら、美味しいモノを食べられるのは幸せだな」
嬉しそうにオヤツを待つ二人はよく似た顔をしている。レナード王子、アランが好きだからついでに私も好きになったんじゃないの。
さっきのは告白? 告白なのかしら?
今回はレナード王子が一緒に来てくれて、急きょ、サンクトゥス公爵家の公爵とその夫人にお会いする事になった。
教会に着いた時、サンクトゥス教会の最高責任者である司教は私の顔を見て、一瞬驚いたように目を見張ったが、直ぐに綺麗なお辞儀をしてから挨拶をしてくれた。そして、教会でお会いした公爵夫妻は穏やかそうな人たちだった。
「彼女が、前夫人が出産の時にいなくなったシオリーヌ嬢の双子の姉妹に当たるレイン嬢になります」
「初めまして」
と挨拶する私に公爵夫妻は驚きの目を向けた。公爵は目がウルウルとしている。
「おお、なんと、これは……貴女が私の、……無事でいてくれて良かった」
「ソックリでいらっしゃるわ」
「彼女は前に説明した通り、この世界とは異なる世界で育ちました。ですので、この世界の事は詳しくありません。一通り、私たちのほうでレクチャーはしていますし、聡明なので大丈夫だとは思いますが、今回の歓迎会でお披露目をしておきたいと思います」
「そうですか。聖女さまと同じ世界からいらしたとの事ですが、環境が急に違って、驚いた事でしょう」
「お顔に髪の色、目の色はシオリーヌとソックリでいらっしゃるけど、雰囲気はだいぶん違いますね」
「ええ、聖女さまと同じ世界から来たという事は秘密ですので、事情があって隠されて育ったのを今回お披露目と、公式には発表します」
「実は誘拐されて孤児として市井で育ったのを、レナード殿下が見出した、という裏設定で行くわけですね」
「そうです。私が大切にしている女性という事も匂わせたいと思います」
「シオリーヌは怒るでしょうね」
「あの子は殿下達への好意を隠しませんから」
「頭を打ってから、本当に性格が変わってしまって、それまでも割と我儘でしたけど、今はどうも自分のためにこの世界があると勘違いしている節があって……殿下たちには本当にご迷惑をおかけしております」
「あの、シオリーヌは今回の歓迎会には出さないほうが良いのでしょうか?」
「いえ、公爵令嬢としての出席は仕方ないでしょうし、双子であると周囲に認識してもらうためには、一緒に出席して並んでいただく事が必要です」
「……」
「何か、騒ぎをおこさないと良いのですが」
公爵夫妻の心配顔を見ると、どんな女の子なんだろうと気が重くなってしまう。いきなりご対面で大丈夫なんだろうか。
「前もって、双子の姉妹がお披露目される事だけはパーティーの直前に言っておいてください。その時にレナードが大切に囲い込んでいると伝えていただくと」
「なるほど、そう言う事ですか」
「そう言う事です」
えっと、どういう事ですか? 聞いていませんけど。その言い方だと私がレナード王子の大切な人、即ち恋人? みたいな立ち位置になってしまうという事? 聞いていませんけど。確かにレナード王子と一緒にいると楽だし、嫌いじゃないけど、何も言われてないし。
私、レナード王子の事、どう思っているのかしら? アランを大切にする気のいいお兄様で、側にいても気にならない人……。実は私、恋をした事がないから恋愛感情って良く分からない。彼氏も一応、居たけどあれは付き合ってと言われて一緒にいただけで、距離を詰められると何だか嫌で、そのまま別れてしまったし、どうなのかしら。
「という事で、もしよければレイちゃん、俺の事も意識してくれると嬉しいな」
「えっ?」
「レイちゃんが恋愛的な面で凄く奥手だというのはこれまでに接してきてわかっているし、アー君と仲が良いのも良いけど、俺としてはレイちゃんが俺の側にいてほしいと思う」
「えっ、えええっ!」
「いや、俺もまだ熱い情熱を感じるまではないんだけど、結婚するならレイちゃんみたいな子がいいな、ずっと側にいてくれたらいいなぁと好感を持っているんだ。お互いに意識する事で距離が近づけばいいなぁと思って」
「えっ……」
「最初は軽いお友達感覚で良いよ。俺の事、嫌いじゃないだろう?」
「そ、それはそうですけど」
「それじゃぁ、これからもよろしく」
そう言ってレナード王子は爽やかに笑った。この人、改めて見るととてもイケメン。性格もいいし、優良物件なんだよね。
でも、そういう対象として見てなかったし、私、いずれは日本に帰るんだけど。帰るのに公爵令嬢としての立ち場を手に入れてしまって良いのかしら。
当初の予定では普通にお店かなんかを開いてアランと一緒に生活する予定だったんだけど。レナード王子と結婚すると、アランが弟になるのか……、それはどうなんだろう。
「ごめん。混乱させたね。今はあまり考えなくても」
「そ、そうですね」
そう、問題は先送りにしよう。とりあえずは歓迎会。歓迎会にはあのシオリがいるし、公爵令嬢も問題がありそうだし、前途多難だわ。
悩みつつ離宮に帰るとアランが能天気な顔で迎えてくれた。
「玲ちゃん、どうだった? 公爵は真面な人だって話だけど、どんなひとだったの?」
「公爵夫妻は穏やかで良い人だったわ」
「それは良かった。ところでさ、俺、ケーキが食べたい。やっぱり、日本のケーキは美味しいよ」
「アー君は食いしん坊だね。俺もご相伴に預かろうかな」
「良いけど。レナード兄ちゃんも好きだねぇ」
「アランの顔を見ながら、美味しいモノを食べられるのは幸せだな」
嬉しそうにオヤツを待つ二人はよく似た顔をしている。レナード王子、アランが好きだからついでに私も好きになったんじゃないの。
さっきのは告白? 告白なのかしら?
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