47 / 69
44. 涙の……
しおりを挟む
涙の洪水……、王家の皆さんが泣いています。
というか、ポロポロと涙を流しているのは王様と王妃様、お兄様のルクスフォンス殿下。
王宮の奥まった一室でアランは王妃さまに抱きしめられていた。その王妃様ごと国王さまが抱きしめて、横から長男のルクスフォンス殿下も抱きついていて、まるで押しくらまんじゅう状態。
王妃のドレスを引っ張っているのが14歳になるミティラ王女で、横からのぞき込んでいるのが11歳のアストールム殿下。
そして、此処にいていいのかしら、場違いなんじゃないの、と思いつつ佇んでいるのが私。
その私にご自分も涙ぐみながら、あの方が何番目の殿下で、何歳でお名前が……、と一々小さな声で囁くように教えてくれるのが多分、古くから王家に仕えているんだろうな、と思われる白髪でダンディな執事? いえ、王家だから侍従? の方。
そういえば、アランは私の従者だった……。レナード王子はもうずっとアランと一緒だからか、余裕の表情で腕組みしながら王家の皆さんの様子を眺めている。時折、うん、うんと肯きながら。
王宮の奥、王家の皆さまのプライベートゾーンには結界があって、許可を得た人しか入れない。薄い水色のベールに見えたけど、レナード王子が触るとベールがカーテンのように開いたから何かをしたのかもしれない。
私とアランは裏門からこっそり王宮に入城し、そして、客室に通されるかと思いきや、そのまま曲がりくねった通路を通って、奥のほうへと向かい、そうして王家の皆さま、勢ぞろいされている応接間というよりはこじんまりしているからプライベートの居間かもしれない、そこに案内された。
扉を開けたとたんに、「ああっ!」とか「オウッ!」とか叫んだかと思うとアランは取り囲まれ、抱きすくめられてしまった。
日本人の感性を持ったアランはきっと困っているに違いない。といっても私にできる事は何もないけど。
しばらく抱擁が続き、やっと、王妃がアランを手放し、涙目でアランの顔を眺めた、と思いきや、ルクスフォンス殿下がアランを引っ張り、そのまま抱きしめた。この世界はハグが当たり前の愛情表現、何だろうか。
欧米も親愛の意味を込めてスキンシップが普通に行われているし、こっちの文化もそうなのかもしれない。ん? けど村や街ではそうでもなかったような……、いえ、セイント国ではスキンシップは特になかったから、ブルーバード国、いえ、レナード王子はアランにだけやたらとハグをしていたから、この国の家族間スキンシップがこんなのかもしれない。
「そろそろ、落ち着いてお茶でも飲まないか」
レナード王子の呼びかけに
「そうだな、アランは何が飲みたい?」
そう言いながらルクスフォンス殿下はアランの手を引いてソファーに座った。王妃さまも急いでアランの隣に座った。置いて行かれた王さまも慌てて王妃さまの隣に座ると、二人して、アランの顔を嬉しそうに眺めている。んん? ルクスフォンス殿下、何故アランって呼んでいるの?
「兄さんはアー君の事を昔からアランって呼んでいるんだ。アー君のほうが可愛いのに」そう言いながら、レナード王子は
「父上、母上、ただいま帰りました。アラードとサンクトゥス公爵家の隠された姫であるレイン嬢を紹介します」
その呼びかけに私は急いでにわか仕込みのカーテシーをお披露目した。これ、結構きつい。
「ああ、レナード、お疲れ。良く帰って来てくれた。こんな素晴らしいお土産をありがとう。それと、」
「本当に、まさかアラードにまた、会える日が来るとは」
「本当に、いい仕事をしてくれた」
王さま、王妃様、ルクスフォンス殿下がそれぞれレナード王子に声をかけた。彼らは本当に嬉しそうだった。
「あっと、ゴホン。サンクトゥス公爵家のレイン嬢、アラードと共に仲良くしてくれていたと聞く、楽にしてくれ」
「ここはプライベートな場所なので、格式ばった礼儀作法はいりませんよ。どうぞ、お座りになって。アラードに会えたのが嬉しくて、ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
「ルクスフォンスだ。よろしく」
「レナード兄さま、アラード兄さまは精霊の国に行かれていたんじゃないの? どうやって帰ってきたの?」
アストールム殿下の無邪気な質問にレナード王子は一瞬、声を詰まらせたが
「アストールム、これは内緒の話になる」
「うん。だから、すでに人払いをしているんだよね」
「そうなんだ。実はこの二人は精霊の国で長く過ごし、この度、故あってこちらの世界に帰ってきた。小さい時にあちらの世界に招かれたから、この世界の常識を覚えていない。だから」
「教えてあげればいいのね」
ミティラ王女が嬉しそうに声を上げた。
「私と同じくらいの年ですよね。私、ミティラ・フルー・ドゥ・スピーリトゥスと申します。お友達になれると嬉しいわ」
「ええっ、有り難うございます。私はその……」
私は困ってしまって、レナード王子を見た。若く見えるけど中身は20歳の女子大生なんです。どう説明したらいいんだろう。
見かけも年も実物と変わってしまっているけど、正直に言っても良いのだろうか?
アランを見ると、放心していて、あてにならないし、何処まで王家の皆さんに話すのか打ち合わせをしてないから、困ってしまう。
というか、ポロポロと涙を流しているのは王様と王妃様、お兄様のルクスフォンス殿下。
王宮の奥まった一室でアランは王妃さまに抱きしめられていた。その王妃様ごと国王さまが抱きしめて、横から長男のルクスフォンス殿下も抱きついていて、まるで押しくらまんじゅう状態。
王妃のドレスを引っ張っているのが14歳になるミティラ王女で、横からのぞき込んでいるのが11歳のアストールム殿下。
そして、此処にいていいのかしら、場違いなんじゃないの、と思いつつ佇んでいるのが私。
その私にご自分も涙ぐみながら、あの方が何番目の殿下で、何歳でお名前が……、と一々小さな声で囁くように教えてくれるのが多分、古くから王家に仕えているんだろうな、と思われる白髪でダンディな執事? いえ、王家だから侍従? の方。
そういえば、アランは私の従者だった……。レナード王子はもうずっとアランと一緒だからか、余裕の表情で腕組みしながら王家の皆さんの様子を眺めている。時折、うん、うんと肯きながら。
王宮の奥、王家の皆さまのプライベートゾーンには結界があって、許可を得た人しか入れない。薄い水色のベールに見えたけど、レナード王子が触るとベールがカーテンのように開いたから何かをしたのかもしれない。
私とアランは裏門からこっそり王宮に入城し、そして、客室に通されるかと思いきや、そのまま曲がりくねった通路を通って、奥のほうへと向かい、そうして王家の皆さま、勢ぞろいされている応接間というよりはこじんまりしているからプライベートの居間かもしれない、そこに案内された。
扉を開けたとたんに、「ああっ!」とか「オウッ!」とか叫んだかと思うとアランは取り囲まれ、抱きすくめられてしまった。
日本人の感性を持ったアランはきっと困っているに違いない。といっても私にできる事は何もないけど。
しばらく抱擁が続き、やっと、王妃がアランを手放し、涙目でアランの顔を眺めた、と思いきや、ルクスフォンス殿下がアランを引っ張り、そのまま抱きしめた。この世界はハグが当たり前の愛情表現、何だろうか。
欧米も親愛の意味を込めてスキンシップが普通に行われているし、こっちの文化もそうなのかもしれない。ん? けど村や街ではそうでもなかったような……、いえ、セイント国ではスキンシップは特になかったから、ブルーバード国、いえ、レナード王子はアランにだけやたらとハグをしていたから、この国の家族間スキンシップがこんなのかもしれない。
「そろそろ、落ち着いてお茶でも飲まないか」
レナード王子の呼びかけに
「そうだな、アランは何が飲みたい?」
そう言いながらルクスフォンス殿下はアランの手を引いてソファーに座った。王妃さまも急いでアランの隣に座った。置いて行かれた王さまも慌てて王妃さまの隣に座ると、二人して、アランの顔を嬉しそうに眺めている。んん? ルクスフォンス殿下、何故アランって呼んでいるの?
「兄さんはアー君の事を昔からアランって呼んでいるんだ。アー君のほうが可愛いのに」そう言いながら、レナード王子は
「父上、母上、ただいま帰りました。アラードとサンクトゥス公爵家の隠された姫であるレイン嬢を紹介します」
その呼びかけに私は急いでにわか仕込みのカーテシーをお披露目した。これ、結構きつい。
「ああ、レナード、お疲れ。良く帰って来てくれた。こんな素晴らしいお土産をありがとう。それと、」
「本当に、まさかアラードにまた、会える日が来るとは」
「本当に、いい仕事をしてくれた」
王さま、王妃様、ルクスフォンス殿下がそれぞれレナード王子に声をかけた。彼らは本当に嬉しそうだった。
「あっと、ゴホン。サンクトゥス公爵家のレイン嬢、アラードと共に仲良くしてくれていたと聞く、楽にしてくれ」
「ここはプライベートな場所なので、格式ばった礼儀作法はいりませんよ。どうぞ、お座りになって。アラードに会えたのが嬉しくて、ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
「ルクスフォンスだ。よろしく」
「レナード兄さま、アラード兄さまは精霊の国に行かれていたんじゃないの? どうやって帰ってきたの?」
アストールム殿下の無邪気な質問にレナード王子は一瞬、声を詰まらせたが
「アストールム、これは内緒の話になる」
「うん。だから、すでに人払いをしているんだよね」
「そうなんだ。実はこの二人は精霊の国で長く過ごし、この度、故あってこちらの世界に帰ってきた。小さい時にあちらの世界に招かれたから、この世界の常識を覚えていない。だから」
「教えてあげればいいのね」
ミティラ王女が嬉しそうに声を上げた。
「私と同じくらいの年ですよね。私、ミティラ・フルー・ドゥ・スピーリトゥスと申します。お友達になれると嬉しいわ」
「ええっ、有り難うございます。私はその……」
私は困ってしまって、レナード王子を見た。若く見えるけど中身は20歳の女子大生なんです。どう説明したらいいんだろう。
見かけも年も実物と変わってしまっているけど、正直に言っても良いのだろうか?
アランを見ると、放心していて、あてにならないし、何処まで王家の皆さんに話すのか打ち合わせをしてないから、困ってしまう。
1
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
常識的に考えて
章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。
しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる