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44. 涙の……
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涙の洪水……、王家の皆さんが泣いています。
というか、ポロポロと涙を流しているのは王様と王妃様、お兄様のルクスフォンス殿下。
王宮の奥まった一室でアランは王妃さまに抱きしめられていた。その王妃様ごと国王さまが抱きしめて、横から長男のルクスフォンス殿下も抱きついていて、まるで押しくらまんじゅう状態。
王妃のドレスを引っ張っているのが14歳になるミティラ王女で、横からのぞき込んでいるのが11歳のアストールム殿下。
そして、此処にいていいのかしら、場違いなんじゃないの、と思いつつ佇んでいるのが私。
その私にご自分も涙ぐみながら、あの方が何番目の殿下で、何歳でお名前が……、と一々小さな声で囁くように教えてくれるのが多分、古くから王家に仕えているんだろうな、と思われる白髪でダンディな執事? いえ、王家だから侍従? の方。
そういえば、アランは私の従者だった……。レナード王子はもうずっとアランと一緒だからか、余裕の表情で腕組みしながら王家の皆さんの様子を眺めている。時折、うん、うんと肯きながら。
王宮の奥、王家の皆さまのプライベートゾーンには結界があって、許可を得た人しか入れない。薄い水色のベールに見えたけど、レナード王子が触るとベールがカーテンのように開いたから何かをしたのかもしれない。
私とアランは裏門からこっそり王宮に入城し、そして、客室に通されるかと思いきや、そのまま曲がりくねった通路を通って、奥のほうへと向かい、そうして王家の皆さま、勢ぞろいされている応接間というよりはこじんまりしているからプライベートの居間かもしれない、そこに案内された。
扉を開けたとたんに、「ああっ!」とか「オウッ!」とか叫んだかと思うとアランは取り囲まれ、抱きすくめられてしまった。
日本人の感性を持ったアランはきっと困っているに違いない。といっても私にできる事は何もないけど。
しばらく抱擁が続き、やっと、王妃がアランを手放し、涙目でアランの顔を眺めた、と思いきや、ルクスフォンス殿下がアランを引っ張り、そのまま抱きしめた。この世界はハグが当たり前の愛情表現、何だろうか。
欧米も親愛の意味を込めてスキンシップが普通に行われているし、こっちの文化もそうなのかもしれない。ん? けど村や街ではそうでもなかったような……、いえ、セイント国ではスキンシップは特になかったから、ブルーバード国、いえ、レナード王子はアランにだけやたらとハグをしていたから、この国の家族間スキンシップがこんなのかもしれない。
「そろそろ、落ち着いてお茶でも飲まないか」
レナード王子の呼びかけに
「そうだな、アランは何が飲みたい?」
そう言いながらルクスフォンス殿下はアランの手を引いてソファーに座った。王妃さまも急いでアランの隣に座った。置いて行かれた王さまも慌てて王妃さまの隣に座ると、二人して、アランの顔を嬉しそうに眺めている。んん? ルクスフォンス殿下、何故アランって呼んでいるの?
「兄さんはアー君の事を昔からアランって呼んでいるんだ。アー君のほうが可愛いのに」そう言いながら、レナード王子は
「父上、母上、ただいま帰りました。アラードとサンクトゥス公爵家の隠された姫であるレイン嬢を紹介します」
その呼びかけに私は急いでにわか仕込みのカーテシーをお披露目した。これ、結構きつい。
「ああ、レナード、お疲れ。良く帰って来てくれた。こんな素晴らしいお土産をありがとう。それと、」
「本当に、まさかアラードにまた、会える日が来るとは」
「本当に、いい仕事をしてくれた」
王さま、王妃様、ルクスフォンス殿下がそれぞれレナード王子に声をかけた。彼らは本当に嬉しそうだった。
「あっと、ゴホン。サンクトゥス公爵家のレイン嬢、アラードと共に仲良くしてくれていたと聞く、楽にしてくれ」
「ここはプライベートな場所なので、格式ばった礼儀作法はいりませんよ。どうぞ、お座りになって。アラードに会えたのが嬉しくて、ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
「ルクスフォンスだ。よろしく」
「レナード兄さま、アラード兄さまは精霊の国に行かれていたんじゃないの? どうやって帰ってきたの?」
アストールム殿下の無邪気な質問にレナード王子は一瞬、声を詰まらせたが
「アストールム、これは内緒の話になる」
「うん。だから、すでに人払いをしているんだよね」
「そうなんだ。実はこの二人は精霊の国で長く過ごし、この度、故あってこちらの世界に帰ってきた。小さい時にあちらの世界に招かれたから、この世界の常識を覚えていない。だから」
「教えてあげればいいのね」
ミティラ王女が嬉しそうに声を上げた。
「私と同じくらいの年ですよね。私、ミティラ・フルー・ドゥ・スピーリトゥスと申します。お友達になれると嬉しいわ」
「ええっ、有り難うございます。私はその……」
私は困ってしまって、レナード王子を見た。若く見えるけど中身は20歳の女子大生なんです。どう説明したらいいんだろう。
見かけも年も実物と変わってしまっているけど、正直に言っても良いのだろうか?
アランを見ると、放心していて、あてにならないし、何処まで王家の皆さんに話すのか打ち合わせをしてないから、困ってしまう。
というか、ポロポロと涙を流しているのは王様と王妃様、お兄様のルクスフォンス殿下。
王宮の奥まった一室でアランは王妃さまに抱きしめられていた。その王妃様ごと国王さまが抱きしめて、横から長男のルクスフォンス殿下も抱きついていて、まるで押しくらまんじゅう状態。
王妃のドレスを引っ張っているのが14歳になるミティラ王女で、横からのぞき込んでいるのが11歳のアストールム殿下。
そして、此処にいていいのかしら、場違いなんじゃないの、と思いつつ佇んでいるのが私。
その私にご自分も涙ぐみながら、あの方が何番目の殿下で、何歳でお名前が……、と一々小さな声で囁くように教えてくれるのが多分、古くから王家に仕えているんだろうな、と思われる白髪でダンディな執事? いえ、王家だから侍従? の方。
そういえば、アランは私の従者だった……。レナード王子はもうずっとアランと一緒だからか、余裕の表情で腕組みしながら王家の皆さんの様子を眺めている。時折、うん、うんと肯きながら。
王宮の奥、王家の皆さまのプライベートゾーンには結界があって、許可を得た人しか入れない。薄い水色のベールに見えたけど、レナード王子が触るとベールがカーテンのように開いたから何かをしたのかもしれない。
私とアランは裏門からこっそり王宮に入城し、そして、客室に通されるかと思いきや、そのまま曲がりくねった通路を通って、奥のほうへと向かい、そうして王家の皆さま、勢ぞろいされている応接間というよりはこじんまりしているからプライベートの居間かもしれない、そこに案内された。
扉を開けたとたんに、「ああっ!」とか「オウッ!」とか叫んだかと思うとアランは取り囲まれ、抱きすくめられてしまった。
日本人の感性を持ったアランはきっと困っているに違いない。といっても私にできる事は何もないけど。
しばらく抱擁が続き、やっと、王妃がアランを手放し、涙目でアランの顔を眺めた、と思いきや、ルクスフォンス殿下がアランを引っ張り、そのまま抱きしめた。この世界はハグが当たり前の愛情表現、何だろうか。
欧米も親愛の意味を込めてスキンシップが普通に行われているし、こっちの文化もそうなのかもしれない。ん? けど村や街ではそうでもなかったような……、いえ、セイント国ではスキンシップは特になかったから、ブルーバード国、いえ、レナード王子はアランにだけやたらとハグをしていたから、この国の家族間スキンシップがこんなのかもしれない。
「そろそろ、落ち着いてお茶でも飲まないか」
レナード王子の呼びかけに
「そうだな、アランは何が飲みたい?」
そう言いながらルクスフォンス殿下はアランの手を引いてソファーに座った。王妃さまも急いでアランの隣に座った。置いて行かれた王さまも慌てて王妃さまの隣に座ると、二人して、アランの顔を嬉しそうに眺めている。んん? ルクスフォンス殿下、何故アランって呼んでいるの?
「兄さんはアー君の事を昔からアランって呼んでいるんだ。アー君のほうが可愛いのに」そう言いながら、レナード王子は
「父上、母上、ただいま帰りました。アラードとサンクトゥス公爵家の隠された姫であるレイン嬢を紹介します」
その呼びかけに私は急いでにわか仕込みのカーテシーをお披露目した。これ、結構きつい。
「ああ、レナード、お疲れ。良く帰って来てくれた。こんな素晴らしいお土産をありがとう。それと、」
「本当に、まさかアラードにまた、会える日が来るとは」
「本当に、いい仕事をしてくれた」
王さま、王妃様、ルクスフォンス殿下がそれぞれレナード王子に声をかけた。彼らは本当に嬉しそうだった。
「あっと、ゴホン。サンクトゥス公爵家のレイン嬢、アラードと共に仲良くしてくれていたと聞く、楽にしてくれ」
「ここはプライベートな場所なので、格式ばった礼儀作法はいりませんよ。どうぞ、お座りになって。アラードに会えたのが嬉しくて、ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
「ルクスフォンスだ。よろしく」
「レナード兄さま、アラード兄さまは精霊の国に行かれていたんじゃないの? どうやって帰ってきたの?」
アストールム殿下の無邪気な質問にレナード王子は一瞬、声を詰まらせたが
「アストールム、これは内緒の話になる」
「うん。だから、すでに人払いをしているんだよね」
「そうなんだ。実はこの二人は精霊の国で長く過ごし、この度、故あってこちらの世界に帰ってきた。小さい時にあちらの世界に招かれたから、この世界の常識を覚えていない。だから」
「教えてあげればいいのね」
ミティラ王女が嬉しそうに声を上げた。
「私と同じくらいの年ですよね。私、ミティラ・フルー・ドゥ・スピーリトゥスと申します。お友達になれると嬉しいわ」
「ええっ、有り難うございます。私はその……」
私は困ってしまって、レナード王子を見た。若く見えるけど中身は20歳の女子大生なんです。どう説明したらいいんだろう。
見かけも年も実物と変わってしまっているけど、正直に言っても良いのだろうか?
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