冷女が聖女。

サラ

文字の大きさ
上 下
37 / 69

35. 誤解

しおりを挟む
 シオリのティアラが落ちそうになっている。

「あら、嫌だ」
「おや、きちんと留めてなかったんだな。可哀そうに」

 王太子がそっと落ちそうになっているシオリのティアラを直した。手つきが優しい。声も優しい。とても、大切にされてるみたい。最初の頃の私との待遇の差を考えると、納得いかない。

 その後、国王と王族、シオリは両側に王太子とその下の弟王子を侍らせて、その横にレナード王子が並び、レナード王子の少し斜め後ろに側近2人と私が並んだ。どうして、私がここに並ぶのか理解できない。

 アランは私の耳もとで「ちょっとこっちの宮殿の中を探検してくる」と言って出ていってしまった。私も探検のほうが良いのに……。此処にいると場違い感が半端ない。普通は従僕が王族と一緒に前に立つって事はないんじゃないの? 

 高位貴族から順番に挨拶をしてくるんだけど、少し後ろに並んでいる私に皆さん、挨拶をして来るのが困る。
 私は側近2人に挟まれて立っているんだけど、「ようこそ、わが国へ。私は○○地方を治める△△と申します」とか「こちらは嫡男の○○です」とか一言、二言なんだけど、必ず身分と名前を名乗るのが不思議。そして、親は必ず子息を紹介してくる。

 やっとご挨拶タイムが終わって次はダンスの音楽が始まり、ダンスを踊る人と歓談をする人たちとに分かれた。そして、私達はそのまま貴族の人たちに囲まれた。
 舞踏会って退屈。
 でも、ずっとレナード王子の側にいたけど、色んな人に話しかけられて、いわゆる腹の探り合いというか、表面はにこやかに国と国の駆け引きをしているのを聞いていると、レナード王子ってちゃんと国の代表なんだな、って思う。高位貴族と一通り軽くお話したかな、と思うと煌びやかなドレスの集団が集まってきた。

 レナード王子は独身で今も婚約者さえいないので、とても人気でお嬢様方に囲まれては話しかけられている。貴族のお嬢様なのに、あんなに距離が近くて良いのかしら。アチコチからお誘いが凄い。
 私はいつの間にかお嬢様に押しのけられてしまった。側近の二人はしっかりと側に張り付いているのは凄いと思う。所詮、私は素人なので要人に張り付くのは無理。
 少し、離れたところからレナード王子を眺めていると、

「姫様、お一人では退屈ですね」と話しかけられた。
「???」
 私が何を言ってんのこの人、という顔でにこやかに話しかけてきたオジサンを見ると、

「私は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、2年ほど前に御国に使節団の一員として訪問した事があります。その時もすでに大変美しいお姿でしたが、成長なさってまた一段と綺麗になられた」
「えっ、あの……」
「ああ、申し訳ない。今はレナード殿下の侍従という事になっていたんでした。失礼しました」
「そうですよ。せっかく男装されているのに。お忍び、なんですよ」
「それにしても、ドレス姿もさぞ美しいことでしょう」
「今は男性でもドレスを着る事がありますから、是非、レイン様も試されてはいかがでしょう」
「それはいい」
「よくお似合いだと思いますよ。そうして、この国の誰かを気に入っていただいて、このままこの国にいて下さると皆、喜びます」
「ああ、本当に、私が若ければお誘いしたのに、いえ、ひょっとして年若い子よりもいぶし銀のようなすこうし年上が好みかな?」
「いや、侯爵、少しどころか、かなり年上ではないか。年上が好みならばむしろ私のほうが」
「私は独身ですぞ」
「なんと、図々しい」

 私は貴族のオジサンたちに囲まれていた。一応、「従僕のレインです」としか名乗ってないのに、勝手に推測して、私の事を公爵令嬢だと思っているみたい。
 レナード王子の従妹ってそんなに私に似ているのかしら。レナード王子は若い女性に囲まれているのに、私はむさいオジサンたちに囲まれているなんて解せない。

 しかも、おじさん達、好き勝手な事を言っているけど、私が若い女性と想定して話しているし、困る。絶対、変装の意味ないよね。
 オジサンの向こう側には若い男性たちが待ち構えているし、あれは順番待ちをしているのかしら。モテるって辛い。私が困惑していると、レナード王子の側近の一人が人波をかき分けて側に来てくれた。

「レイン、殿下がお呼びだ」
「ええ」
「それでは失礼いたします」

 レイン王子の側近はそのまま私の手を取り、囲っていたオジサンたちに軽く会釈をすると、人の囲みの中から連れ出してくれた。だけど、手の差し出し方が女性に対するエスコートになっていて、私もそのままつい、手を乗せてしまってから気がついたけど、これって私は女性です、って言っているようなモノかもしれない。
 そういえば、「今は男性も少し、顔を整えるんですよ」と言われて薄く化粧をされたんだった。化粧をしている従僕っていないんじゃないの?

「モテモテでしたね」
「本当に囲まれていたから驚いたよ。私から離れないように、と言っていたのに」
「ドレスに押し流されたんです」
「ああ、ドレスは意外と強いからね」
「本当に」

 レナード王子と私達は軽食コーナーに移動し、レナード王子はワインを、私はオレンジジュースを頂いた。色取り取りのお菓子やデザート類も並んでいるので、軽く摘まんでいると、王太子とシオリがやって来た。

「レナードさま~、お話したいと思っていたんです~。もう~、どこに行っていたんですか~。探したんですよ~」
「これは聖女様、探していただいたとは光栄です」

 シオリが語尾を変に伸ばして話しかけているのは気に入った証拠。語尾を伸ばして甘えたように腕を組んでくれば大抵の男性は鼻の下が伸びる。そんなに親しくなくても引っ付いていけるシオリって凄いと思う。
 でもね、王太子が不機嫌そうだけど、良いのかしら。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...