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35. 誤解
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シオリのティアラが落ちそうになっている。
「あら、嫌だ」
「おや、きちんと留めてなかったんだな。可哀そうに」
王太子がそっと落ちそうになっているシオリのティアラを直した。手つきが優しい。声も優しい。とても、大切にされてるみたい。最初の頃の私との待遇の差を考えると、納得いかない。
その後、国王と王族、シオリは両側に王太子とその下の弟王子を侍らせて、その横にレナード王子が並び、レナード王子の少し斜め後ろに側近2人と私が並んだ。どうして、私がここに並ぶのか理解できない。
アランは私の耳もとで「ちょっとこっちの宮殿の中を探検してくる」と言って出ていってしまった。私も探検のほうが良いのに……。此処にいると場違い感が半端ない。普通は従僕が王族と一緒に前に立つって事はないんじゃないの?
高位貴族から順番に挨拶をしてくるんだけど、少し後ろに並んでいる私に皆さん、挨拶をして来るのが困る。
私は側近2人に挟まれて立っているんだけど、「ようこそ、わが国へ。私は○○地方を治める△△と申します」とか「こちらは嫡男の○○です」とか一言、二言なんだけど、必ず身分と名前を名乗るのが不思議。そして、親は必ず子息を紹介してくる。
やっとご挨拶タイムが終わって次はダンスの音楽が始まり、ダンスを踊る人と歓談をする人たちとに分かれた。そして、私達はそのまま貴族の人たちに囲まれた。
舞踏会って退屈。
でも、ずっとレナード王子の側にいたけど、色んな人に話しかけられて、いわゆる腹の探り合いというか、表面はにこやかに国と国の駆け引きをしているのを聞いていると、レナード王子ってちゃんと国の代表なんだな、って思う。高位貴族と一通り軽くお話したかな、と思うと煌びやかなドレスの集団が集まってきた。
レナード王子は独身で今も婚約者さえいないので、とても人気でお嬢様方に囲まれては話しかけられている。貴族のお嬢様なのに、あんなに距離が近くて良いのかしら。アチコチからお誘いが凄い。
私はいつの間にかお嬢様に押しのけられてしまった。側近の二人はしっかりと側に張り付いているのは凄いと思う。所詮、私は素人なので要人に張り付くのは無理。
少し、離れたところからレナード王子を眺めていると、
「姫様、お一人では退屈ですね」と話しかけられた。
「???」
私が何を言ってんのこの人、という顔でにこやかに話しかけてきたオジサンを見ると、
「私は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、2年ほど前に御国に使節団の一員として訪問した事があります。その時もすでに大変美しいお姿でしたが、成長なさってまた一段と綺麗になられた」
「えっ、あの……」
「ああ、申し訳ない。今はレナード殿下の侍従という事になっていたんでした。失礼しました」
「そうですよ。せっかく男装されているのに。お忍び、なんですよ」
「それにしても、ドレス姿もさぞ美しいことでしょう」
「今は男性でもドレスを着る事がありますから、是非、レイン様も試されてはいかがでしょう」
「それはいい」
「よくお似合いだと思いますよ。そうして、この国の誰かを気に入っていただいて、このままこの国にいて下さると皆、喜びます」
「ああ、本当に、私が若ければお誘いしたのに、いえ、ひょっとして年若い子よりもいぶし銀のようなすこうし年上が好みかな?」
「いや、侯爵、少しどころか、かなり年上ではないか。年上が好みならばむしろ私のほうが」
「私は独身ですぞ」
「なんと、図々しい」
私は貴族のオジサンたちに囲まれていた。一応、「従僕のレインです」としか名乗ってないのに、勝手に推測して、私の事を公爵令嬢だと思っているみたい。
レナード王子の従妹ってそんなに私に似ているのかしら。レナード王子は若い女性に囲まれているのに、私はむさいオジサンたちに囲まれているなんて解せない。
しかも、おじさん達、好き勝手な事を言っているけど、私が若い女性と想定して話しているし、困る。絶対、変装の意味ないよね。
オジサンの向こう側には若い男性たちが待ち構えているし、あれは順番待ちをしているのかしら。モテるって辛い。私が困惑していると、レナード王子の側近の一人が人波をかき分けて側に来てくれた。
「レイン、殿下がお呼びだ」
「ええ」
「それでは失礼いたします」
レイン王子の側近はそのまま私の手を取り、囲っていたオジサンたちに軽く会釈をすると、人の囲みの中から連れ出してくれた。だけど、手の差し出し方が女性に対するエスコートになっていて、私もそのままつい、手を乗せてしまってから気がついたけど、これって私は女性です、って言っているようなモノかもしれない。
そういえば、「今は男性も少し、顔を整えるんですよ」と言われて薄く化粧をされたんだった。化粧をしている従僕っていないんじゃないの?
「モテモテでしたね」
「本当に囲まれていたから驚いたよ。私から離れないように、と言っていたのに」
「ドレスに押し流されたんです」
「ああ、ドレスは意外と強いからね」
「本当に」
レナード王子と私達は軽食コーナーに移動し、レナード王子はワインを、私はオレンジジュースを頂いた。色取り取りのお菓子やデザート類も並んでいるので、軽く摘まんでいると、王太子とシオリがやって来た。
「レナードさま~、お話したいと思っていたんです~。もう~、どこに行っていたんですか~。探したんですよ~」
「これは聖女様、探していただいたとは光栄です」
シオリが語尾を変に伸ばして話しかけているのは気に入った証拠。語尾を伸ばして甘えたように腕を組んでくれば大抵の男性は鼻の下が伸びる。そんなに親しくなくても引っ付いていけるシオリって凄いと思う。
でもね、王太子が不機嫌そうだけど、良いのかしら。
「あら、嫌だ」
「おや、きちんと留めてなかったんだな。可哀そうに」
王太子がそっと落ちそうになっているシオリのティアラを直した。手つきが優しい。声も優しい。とても、大切にされてるみたい。最初の頃の私との待遇の差を考えると、納得いかない。
その後、国王と王族、シオリは両側に王太子とその下の弟王子を侍らせて、その横にレナード王子が並び、レナード王子の少し斜め後ろに側近2人と私が並んだ。どうして、私がここに並ぶのか理解できない。
アランは私の耳もとで「ちょっとこっちの宮殿の中を探検してくる」と言って出ていってしまった。私も探検のほうが良いのに……。此処にいると場違い感が半端ない。普通は従僕が王族と一緒に前に立つって事はないんじゃないの?
高位貴族から順番に挨拶をしてくるんだけど、少し後ろに並んでいる私に皆さん、挨拶をして来るのが困る。
私は側近2人に挟まれて立っているんだけど、「ようこそ、わが国へ。私は○○地方を治める△△と申します」とか「こちらは嫡男の○○です」とか一言、二言なんだけど、必ず身分と名前を名乗るのが不思議。そして、親は必ず子息を紹介してくる。
やっとご挨拶タイムが終わって次はダンスの音楽が始まり、ダンスを踊る人と歓談をする人たちとに分かれた。そして、私達はそのまま貴族の人たちに囲まれた。
舞踏会って退屈。
でも、ずっとレナード王子の側にいたけど、色んな人に話しかけられて、いわゆる腹の探り合いというか、表面はにこやかに国と国の駆け引きをしているのを聞いていると、レナード王子ってちゃんと国の代表なんだな、って思う。高位貴族と一通り軽くお話したかな、と思うと煌びやかなドレスの集団が集まってきた。
レナード王子は独身で今も婚約者さえいないので、とても人気でお嬢様方に囲まれては話しかけられている。貴族のお嬢様なのに、あんなに距離が近くて良いのかしら。アチコチからお誘いが凄い。
私はいつの間にかお嬢様に押しのけられてしまった。側近の二人はしっかりと側に張り付いているのは凄いと思う。所詮、私は素人なので要人に張り付くのは無理。
少し、離れたところからレナード王子を眺めていると、
「姫様、お一人では退屈ですね」と話しかけられた。
「???」
私が何を言ってんのこの人、という顔でにこやかに話しかけてきたオジサンを見ると、
「私は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、2年ほど前に御国に使節団の一員として訪問した事があります。その時もすでに大変美しいお姿でしたが、成長なさってまた一段と綺麗になられた」
「えっ、あの……」
「ああ、申し訳ない。今はレナード殿下の侍従という事になっていたんでした。失礼しました」
「そうですよ。せっかく男装されているのに。お忍び、なんですよ」
「それにしても、ドレス姿もさぞ美しいことでしょう」
「今は男性でもドレスを着る事がありますから、是非、レイン様も試されてはいかがでしょう」
「それはいい」
「よくお似合いだと思いますよ。そうして、この国の誰かを気に入っていただいて、このままこの国にいて下さると皆、喜びます」
「ああ、本当に、私が若ければお誘いしたのに、いえ、ひょっとして年若い子よりもいぶし銀のようなすこうし年上が好みかな?」
「いや、侯爵、少しどころか、かなり年上ではないか。年上が好みならばむしろ私のほうが」
「私は独身ですぞ」
「なんと、図々しい」
私は貴族のオジサンたちに囲まれていた。一応、「従僕のレインです」としか名乗ってないのに、勝手に推測して、私の事を公爵令嬢だと思っているみたい。
レナード王子の従妹ってそんなに私に似ているのかしら。レナード王子は若い女性に囲まれているのに、私はむさいオジサンたちに囲まれているなんて解せない。
しかも、おじさん達、好き勝手な事を言っているけど、私が若い女性と想定して話しているし、困る。絶対、変装の意味ないよね。
オジサンの向こう側には若い男性たちが待ち構えているし、あれは順番待ちをしているのかしら。モテるって辛い。私が困惑していると、レナード王子の側近の一人が人波をかき分けて側に来てくれた。
「レイン、殿下がお呼びだ」
「ええ」
「それでは失礼いたします」
レイン王子の側近はそのまま私の手を取り、囲っていたオジサンたちに軽く会釈をすると、人の囲みの中から連れ出してくれた。だけど、手の差し出し方が女性に対するエスコートになっていて、私もそのままつい、手を乗せてしまってから気がついたけど、これって私は女性です、って言っているようなモノかもしれない。
そういえば、「今は男性も少し、顔を整えるんですよ」と言われて薄く化粧をされたんだった。化粧をしている従僕っていないんじゃないの?
「モテモテでしたね」
「本当に囲まれていたから驚いたよ。私から離れないように、と言っていたのに」
「ドレスに押し流されたんです」
「ああ、ドレスは意外と強いからね」
「本当に」
レナード王子と私達は軽食コーナーに移動し、レナード王子はワインを、私はオレンジジュースを頂いた。色取り取りのお菓子やデザート類も並んでいるので、軽く摘まんでいると、王太子とシオリがやって来た。
「レナードさま~、お話したいと思っていたんです~。もう~、どこに行っていたんですか~。探したんですよ~」
「これは聖女様、探していただいたとは光栄です」
シオリが語尾を変に伸ばして話しかけているのは気に入った証拠。語尾を伸ばして甘えたように腕を組んでくれば大抵の男性は鼻の下が伸びる。そんなに親しくなくても引っ付いていけるシオリって凄いと思う。
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