冷女が聖女。

サラ

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30. グダグダと

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 レナード王子が落ち着いてから、アランがどうやら自分の意志で姿を消したり、現わしたりできる事が判明したと説明したら、隠密行動に最適だと喜ばれた。

「隠密行動ですか?」
「ああ、この国と我が国は微妙な関係にあるから、何かあった時には隠れる事ができる。最も、長い平和に胡坐をかいたこの国が何かできるとも思わないが」
「微妙な関係……、でもこの国は長く平和だったんですね」
「聖女のおかげでね。詳しく話をすると長くなるから、また新ためて場を設けよう」

 聖女のおかげと言ったレナード王子の顔はちょっと歪んでいた。いつもおおらかなレナード王子にしては珍しい。
 この国において聖女はとても大切な存在だけど、他の国にとっては……、でもこの世界に聖女は必要みたいな事を言ってたような……。ウーン、私も聖女なんだけど、打ち明けたほうがいいのだろうか? この国でなくても聖女は大切にされるのかしら……、と考えていたら。
 ん? パリパリと軽やかな音がする。あれ、いつもの間にかレナード王子とアランがポテチを食べている。

「これ、美味いな」
「だろう。コーラにはポテチが合うんだ」
「ポテチというのか」
「正確にはポテトチップスですけど。レナード王子、コーラは大丈夫なんですか」
「ああ、最初はこれ、なんだ! って思ったけど、慣れると刺激的で美味いな。これとワインを半分ずつ合わせたのは初めて飲んだけどかなり美味い」
「そうだろう。コーラとビールを合わせても結構飲める。俺はウイスキーで割ったのも好きだけど」

 二人の目の前にはワインのビンとコーラのペットボトルが置いてあった。氷の入ったアイスペールにポテトチップスの袋、オードブルのお皿もある。まさに酒のつまみを添えた飲み会になっている。もう、アランったらアイス食べたら休むんじゃなかったんですか。そういえば、私達ってこれまでお酒は飲んだことがなかった。

「アラン、何で飲み会になっているの?」
「いや、何かコーラ飲んでいたらお酒、飲みたくなって。さっき玲ちゃんとコーラ割りの話をしたせいかなぁ。一応、玲ちゃんに冷蔵庫、開けて良い? って聞いたんだけど。返事がなくて勝手につまみとワインをお借りしました。ついでにポテチも」
「ポテチはアランが持っていたの? 聞いてなかったけど」
「玲ちゃんの冷蔵庫の隣の戸棚に入ってたよ」
「えっ? 戸棚?」

 慌てて、冷蔵庫を見て見ると確かに隣に戸棚があった。前に開けてみようとして開かなかったのでそのままスルーしていたんだけど、扉を開けるとお菓子とか乾物とか調味料とかが詰め込まれていた。いつのまに。

「知らなかった」
「俺もさっき冷蔵庫からオードブル出した時に、戸棚が目についたから何か乾き物ないかな、って扉開けたら目の前にポテチの袋があったから持ってきたんだ。どうせ明日になったら補充されるし」
「まぁ、そうなんだけどね」
「ふーん、そっちの世界のアイテムボックスはこっちと随分違っているようだ」

 レナード王子が感心している。いえいえ、日本にアイテムボックスなんて持っている人はいません。いないよね、多分。私とアランは顔を見合わせると、説明が難しいので、

「まぁ、そんなもの」とアランが簡単に誤魔化してしまった。まぁ、冷蔵庫の説明から始めるのはメンドクサイし、ある意味冷蔵庫ってアイテムボックスの一種かもしれない。
 そういえば、レナード王子は何故ここに来たのだろう? 
「何かあったらお呼び下さい。こちらの呼び鈴を鳴らしていただければ、直ぐに侍女が伺います」と言って執事の人が簡単な軽食と飲み物を用意して去って行ったから、もう誰も来ないと思っていたのに。
 ひょっとして、大事な弟と一緒に寝たくてやって来たとか、まさかね。

「ところで、レナード王子。何か用があったんじゃないですか?」
「ああ、君たちはこの離宮の事を良く分かってないから、一応説明しておこうと思って来たんだ。どうせなら良く知っている顔のほうが安心できるし、寝る前にアー君にお休みって言いたかったから」
「説明だったら、執事の方からされましたが」
「いや、何というか、この上の階の世話をしてくれるのは割と年寄りが多いせいか、部屋があまり涼しくないんだ。冷え過ぎは身体に悪いと思っているみたいで、いつもちょっとだけ涼しくない」
「それって、冷房があるって事?!」
「冷房? なんだそれ? いや、部屋に涼しい空気を循環させるんだ。魔石を利用するんだけど」

 涼しい空気の循環って、もうそれは冷房だと思うけど。そういえば、応接間に比べてこの部屋は暑いかな、って思っていたけど、この世界にも冷房の設備があったのね。

「常識になっているから、部屋の説明をする時にわざわざ、部屋の温度の説明をしないじゃないかと思って」
「確かに、「スイッチ関係はこちらになっております。ダイヤル式なので左右で動かせます」とは言われたけど聞き流していたわ。ちょっと上の空状態だったの」
「執事が心配してたんだ。説明不足だったかもしれないけど、何度も訪ねると煩わしいと思われるんじゃないかと。執事も少し舞い上がっていて、冷静じゃなかったからって。今、離宮の連中は皆落ち着かない状態だけどな」
「それは皆さま、お騒がせしました」
「いや、嬉しいニュースだ」

 そうして、レナード王子は魔石の使い方をレクチャーして、オードブルとポテチを食べつくし、ワインのビンを1本開けて機嫌よくアランにハグをしてから去って行った。
 レナード王子、単にアランの顔を見たかっただけみたい。
 愛されているね、アラン。
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