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26. 混乱してます。
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レナード王子はアランを抱きしめて泣いていた。
アランは途方にくれたような顔をして私を見た。それはそうよね。これまで日本人だったと思っていたのに、突然異世界の王子様って言われても困るよね。
ひとしきり、抱きしめてほおずりしてレナード王子が落ち着いてから話を聞くと、14年前に突然アラン、というかアラード王子が目の前で消えてしまったとの事。
その当時アラード王子2歳。レナード王子は7歳で弟が可愛くてたまらなかったので、毎日のように一緒に過ごして何かと構っていたそうだ。
そして、ある日、芝生の中庭で遊んでいる時にアラード王子が突然フッと消えてしまった。まるでかき消すように。それは王宮の侍女や護衛の人間だけでなく、微笑ましく兄弟の様子を見守っていた母である王妃も見ていたので凄い騒ぎになってしまったそうだ。
誘拐が疑われたが、その時王宮の結界には何もひずみはなかったので、王宮内にいるのではと、隅から隅まで探し回ったが痕跡もなく、アラード王子はついに見つからなかった。
「あの時、もう少し俺が手を伸ばしていれば、むしろ抱きしめていたら居なくならなかったのではないか、と後悔した。抱きしめようとした矢先の事だったんだ。消えていく弟に手が届かなかった」
「え、えっと……」
「俺の事、覚えてないか? お前は2歳になったばかりで舌足らずに『レーチャ』と呼んでいつも抱っこをせがんでいた」
「レーチャ……」
「ああ、にー様だよ。アー君」
「兄さま……」
二人のやり取りが何故か可愛い。レナード王子の後ろに見えないシッポがブンブンと揺れているような気がする。この世界に獣人っていたんだっけ?
けれど兄弟の再会は良いとして、アランは確か20歳の大学生と言っていたから年齢が合わないと思う。
14年前にもし異世界転移したとしたら2歳のアランは今、16歳。4年の歳月はどこにいったんだろう? まさか2歳が6歳に間違われるわけないし、ひょっとして転生? 日本人に生まれ変わったけど、こっちの世界に引きずられて元の姿を取り戻した?
この世界で姿が見えなかったのは魂だけだったから? じゃぁ、今はまさかの本当に精霊になっているの? そもそも精霊って何? 私は混乱していた。
「アー君、どうして精霊になって山の奥に居たの? にー様の所に帰って来てくれても良かったじゃないか」
「いや、レナード様、アラード様はレナード様に会ってもわからなかったみたいですし」
「今も、わからないって顔をされていますよ」
「アラード様っていうより、いや、アラン様はアラード様なんだけど今現在、人間ではなく精霊様ですよね」
「アー君、アー君は人ではなく精霊なの?」
アランはすごく困った顔をしている。
私は温かい紅茶を飲んだ。美味しい。飲み干したら執事の人がすかさず新しいお茶を入れてくれた。普通、お茶を入れるのは侍女さんとか女の人が接待してくれると思うけど、何故か執事さんだけが部屋の中に控えている。
ミルリィの花の蜜をそっと指さすとスッと目の前のテーブルに差し出してくれた。コポコポとお茶に入れて少しだけスプーンに落として食べて見ると爽やかな甘さが私好みだった。ああ、お茶が美味しい。
「玲ちゃん……」
「なあに、アラン? じゃなくて、えーと、アラード王子?」
「玲ちゃん!」
「どっちで呼ぼうか?」
「アランでいいよ。でも、そうじゃなくて! どうしよう?」
「どうしようと言われてもどうしよう?」
お互いに顔を見合わせてため息をついた。想定外の出来事になってしまった。当初の計画が狂ってしまったのは間違いない。どうしたら良いのかなんて私にわかるはずはない。
「とりあえず、アランの姿が皆に見えるようになったのは良かったわ。見えないより、見えるほうが良いでしょ?」
「それはそうだけど」
私達が顔を合わせて悩んでいるのを見てレナード王子は
「ごめん。突然のことでビックリさせたね。俺もちょっと嬉しいけど混乱していて。アー君の姿が見えるようになったのは離宮の皆の祈りが届いたんだと思うけど、また、姿が見えなくなったりしてしまうのだろうか?」
「それは……わからないです」
「うん。自分でもびっくりしたし」
「アラン、あの時光輝いていたし、祈りが力になったのは間違いないかもしれないわ」
「レナード様、取り合えず、本日はお互い休んでいただいてはどうでしょう」
「そうですよ。離宮に着いたばかりで予想外の事ばかりで皆さん、浮足立ってますよ」
側近の人達の言葉にレナード王子は頷くと、執事の人を見た。執事の人は「直ぐにお部屋を用意させます。第一客間と第二客間でよろしいでしょうか?」
「あっ、俺たちは一緒の部屋で」
慌ててアランが被せるように言った。
「はい。ですが」
「いや、百合とリラの間にしてくれ。あそこなら隣り合っているし、コネクティングルームだから居間を繋げる事ができる」
「レナード様の近くですしね」
「ああ、本当は弟でもあるアー君と一緒に休みたいが、アー君も俺も落ちつかないし、話をするのは明日にしよう。俺の部屋はすぐ隣だから何かあっても直ぐ駆けつける事が出来る」
「頭も冷やしたほうが良いですしね」
「本当に。国元に知らせてやりたいが」
「いや、それはまだでしょう」
「でも、皆が見てましたし、簡単な連絡だけでも」
「……皆が来ると困る」
「そうですね。聖女の件が片付かないと」
「とりあえず、箝口令だ」
「そうですね」
という事で話し合いは明日に持ち越された。もう、ほんと、どうなるんだろう。
アランは途方にくれたような顔をして私を見た。それはそうよね。これまで日本人だったと思っていたのに、突然異世界の王子様って言われても困るよね。
ひとしきり、抱きしめてほおずりしてレナード王子が落ち着いてから話を聞くと、14年前に突然アラン、というかアラード王子が目の前で消えてしまったとの事。
その当時アラード王子2歳。レナード王子は7歳で弟が可愛くてたまらなかったので、毎日のように一緒に過ごして何かと構っていたそうだ。
そして、ある日、芝生の中庭で遊んでいる時にアラード王子が突然フッと消えてしまった。まるでかき消すように。それは王宮の侍女や護衛の人間だけでなく、微笑ましく兄弟の様子を見守っていた母である王妃も見ていたので凄い騒ぎになってしまったそうだ。
誘拐が疑われたが、その時王宮の結界には何もひずみはなかったので、王宮内にいるのではと、隅から隅まで探し回ったが痕跡もなく、アラード王子はついに見つからなかった。
「あの時、もう少し俺が手を伸ばしていれば、むしろ抱きしめていたら居なくならなかったのではないか、と後悔した。抱きしめようとした矢先の事だったんだ。消えていく弟に手が届かなかった」
「え、えっと……」
「俺の事、覚えてないか? お前は2歳になったばかりで舌足らずに『レーチャ』と呼んでいつも抱っこをせがんでいた」
「レーチャ……」
「ああ、にー様だよ。アー君」
「兄さま……」
二人のやり取りが何故か可愛い。レナード王子の後ろに見えないシッポがブンブンと揺れているような気がする。この世界に獣人っていたんだっけ?
けれど兄弟の再会は良いとして、アランは確か20歳の大学生と言っていたから年齢が合わないと思う。
14年前にもし異世界転移したとしたら2歳のアランは今、16歳。4年の歳月はどこにいったんだろう? まさか2歳が6歳に間違われるわけないし、ひょっとして転生? 日本人に生まれ変わったけど、こっちの世界に引きずられて元の姿を取り戻した?
この世界で姿が見えなかったのは魂だけだったから? じゃぁ、今はまさかの本当に精霊になっているの? そもそも精霊って何? 私は混乱していた。
「アー君、どうして精霊になって山の奥に居たの? にー様の所に帰って来てくれても良かったじゃないか」
「いや、レナード様、アラード様はレナード様に会ってもわからなかったみたいですし」
「今も、わからないって顔をされていますよ」
「アラード様っていうより、いや、アラン様はアラード様なんだけど今現在、人間ではなく精霊様ですよね」
「アー君、アー君は人ではなく精霊なの?」
アランはすごく困った顔をしている。
私は温かい紅茶を飲んだ。美味しい。飲み干したら執事の人がすかさず新しいお茶を入れてくれた。普通、お茶を入れるのは侍女さんとか女の人が接待してくれると思うけど、何故か執事さんだけが部屋の中に控えている。
ミルリィの花の蜜をそっと指さすとスッと目の前のテーブルに差し出してくれた。コポコポとお茶に入れて少しだけスプーンに落として食べて見ると爽やかな甘さが私好みだった。ああ、お茶が美味しい。
「玲ちゃん……」
「なあに、アラン? じゃなくて、えーと、アラード王子?」
「玲ちゃん!」
「どっちで呼ぼうか?」
「アランでいいよ。でも、そうじゃなくて! どうしよう?」
「どうしようと言われてもどうしよう?」
お互いに顔を見合わせてため息をついた。想定外の出来事になってしまった。当初の計画が狂ってしまったのは間違いない。どうしたら良いのかなんて私にわかるはずはない。
「とりあえず、アランの姿が皆に見えるようになったのは良かったわ。見えないより、見えるほうが良いでしょ?」
「それはそうだけど」
私達が顔を合わせて悩んでいるのを見てレナード王子は
「ごめん。突然のことでビックリさせたね。俺もちょっと嬉しいけど混乱していて。アー君の姿が見えるようになったのは離宮の皆の祈りが届いたんだと思うけど、また、姿が見えなくなったりしてしまうのだろうか?」
「それは……わからないです」
「うん。自分でもびっくりしたし」
「アラン、あの時光輝いていたし、祈りが力になったのは間違いないかもしれないわ」
「レナード様、取り合えず、本日はお互い休んでいただいてはどうでしょう」
「そうですよ。離宮に着いたばかりで予想外の事ばかりで皆さん、浮足立ってますよ」
側近の人達の言葉にレナード王子は頷くと、執事の人を見た。執事の人は「直ぐにお部屋を用意させます。第一客間と第二客間でよろしいでしょうか?」
「あっ、俺たちは一緒の部屋で」
慌ててアランが被せるように言った。
「はい。ですが」
「いや、百合とリラの間にしてくれ。あそこなら隣り合っているし、コネクティングルームだから居間を繋げる事ができる」
「レナード様の近くですしね」
「ああ、本当は弟でもあるアー君と一緒に休みたいが、アー君も俺も落ちつかないし、話をするのは明日にしよう。俺の部屋はすぐ隣だから何かあっても直ぐ駆けつける事が出来る」
「頭も冷やしたほうが良いですしね」
「本当に。国元に知らせてやりたいが」
「いや、それはまだでしょう」
「でも、皆が見てましたし、簡単な連絡だけでも」
「……皆が来ると困る」
「そうですね。聖女の件が片付かないと」
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という事で話し合いは明日に持ち越された。もう、ほんと、どうなるんだろう。
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