冷女が聖女。

サラ

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25. アランが大変。

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 遂に着いてしまった。
 離宮に入り魔道車から降りると、直ぐに使用人の人々が並ぶ通路を通り、大きな玄関をくぐって離宮内部に案内される。そこには離宮で働く人々が詰めかけていた。レナード様は皆から慕われているのだろうか、居心地が良い温かい空気に迎えられた。

 礼節はきちんとしているのだけど、フレンドリーというかアットホームな雰囲気が私達を包んでくれる。レナード王子様御一行のみならず、私達に対してもとても感じが良くて驚いてしまった。
 前、この国の王宮に突然召喚されてしまった時の威圧的で冷たい雰囲気とは全然違う。働いている人もとても暖かい。

「レナード様、ようこそ。お待ちしておりました」
「こちらの方は初めましてですね。新しいお付きの方ですか?」
「いや、彼らは客人だ。とりあえず彼女は侍従という事にしているが」
「彼ら? ですか」
「彼ではなく彼女? 彼女が侍従? 侍女ではなく?」
「そう、美少年にみえるだろう?」
「……、何かご事情があるのですね」

「ああ、それと、見えないが精霊様も彼女と共にいらしている。それと彼女たちは事情があって侍従という形で我が国に来てもらおう、と思っている」
「「精霊様!」」
「精霊様がこちらにいらっしゃるのですか」
「ああ、姿は見えないがここに確かにいらっしゃる。我々は精霊様としばらく過ごし、そして、こちらへ来ていただいた」

 どよめく隣国の人々に対し、レナード王子は胸を張った。そして、アランに向かって恭しい態度で
「アラン様、ようこそブルーバード国の離宮へ。歓迎いたします」ときれいなお辞儀をした

「なんと有難い事だ」
「精霊様に来ていただけるなんて」
「生きているうちに精霊様にお目にかかれるなんて」

 そうして、彼らはアランのほうを見た。いえ、見えてないはずなんだけどレナード王子が私の横にいるアランのほうにお辞儀をしたものだから私の横に向かって手を合わせて拝んでくれた。
 離宮のエントランスにはレナード王子の為に人々が集まっていて、その沢山の人たちが一斉にアランに向かって拝むものだから私は隣に立っているだけで、何だか居たたまれない気持ちになってしまった。アランに至っては困った顔でちょっと上を向いている。

 そうして、皆が拝んでいると突然、ピカーッとアランが光輝いた。見えないはずのアランの姿が段々と輪郭を現し、具現化してしまった。というより、透明化、幽霊化が解けた。アランがビックリしてるけど、私も驚いた。

「おお、精霊様が降臨してくださった」
「なんと神々しいお姿だ」
「美しい光だ」
「ありがたや、ありがたや」

 人々がどよめく、

「あ、アラン、姿が見える!」
「ああ、本当だ。皆が俺を見てる」
「アラン様、アラン様、お姿が」
「レナード様に似ている」
「えっ、本当だわ。並べて見るとよく似てる。まるで兄弟みたい」

 レナード王子をみると口を開けたままアランを凝視している。
 王子さまなのに、その口を閉じて! 

 他の皆も離宮の皆さんはどよめきつつも拝んでいるけど、レナード王子様御一行は何だか、違う驚きでアランの事を見ているみたいだった。
 その後、多分執事だと思われる人に促されて応接室に連れて行かれた。

「どうぞこちらへ今お茶をご用意します。何かお好みはございますか?」
「いえ、特には。でもミルクティーでお願いします」
「畏まりました。精霊様、アラン様とお呼びしたほうがいいのでしょうか? 何かお好みはございますか?」
「あ、ああ。何でもかまわない」
「……はい。畏まりました」

 多分執事さん、精霊様も飲んだり食べたりするんだろうか、とか一瞬考えたんだと思う。精霊だから花の蜜とか思ったのかもしれない。運ばれてきたお茶には沢山の種類の蜂蜜が用意されていた。

「それは蜂蜜ですか?」

 という私の言葉にこれはサンラク地区のこういった特色のある蜜で、こちらの蜜の特徴はすっきりとした味わいが特徴のミルリィの花の蜜でございます、etc.と蜂蜜の説明をアランに向かってしていたから彼なりに精霊に気を使ってくれたのかもしれない。

「それで、祈りの力により精霊様の姿が具現化したわけだが……」
「しかし、そのお顔は……」
「並べて見ると凄くよく似ているというか、精霊様、お顔に王家の特徴をお持ちですよね」
「王家の特徴!?」
「ええ、そのうえ、ちょっと失礼」

 しばらく呆けた顔で応接室まで付いて来て、それから何か考え込んでいたレナード王子は突然立ち上がると、アランの側に近寄り、着ていた服の袖をまくり上げた。

「ええっ?」

 アランの二の腕には三角形に並んだ金の黒子があった。珍しい。というか黒子は普通黒か茶色だと思うけど、アランの黒子は金色だった。ちょうどアランの金髪のように。
 えっ? アランって茶髪だったよね? いつのまに金髪になったんだろう?

「ああ、やはり、この位置だ。まちがいない。生まれて直ぐに確認して何度も触った覚えがある」
「本当に?!」
「良かった! 嬉しい! どうしよう。大切な、消えてしまった弟が精霊になって帰ってきた」
「「弟?!」」

 レナード王子は泣いていた。
 アラン……異世界の王子様だったらしい。日本人じゃなかったの? 
 ええ?! 本当に? どうなっているの?
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