24 / 69
23. 王都に逆もどり……。
しおりを挟む
酷暑の期間、私とアランに隣国の王子様御一行は恙無く穏やかに日々を過ごした。
王子様たちとアランはセッセとヤマメに似た川魚を取って来たので、串に刺して焚火で焼いたり、アルミホイルで包み焼にしたり、バターでこんがりとムニエルにしたり、スープに入れたりと色々と料理の仕方を変えて楽しんだ。
私はムニエルにレモンソースをかけて食べるのが好きだけど、アランと王子様はカラッと揚げて黒酢餡かけが気に入っているみたい。王子様の侍従と護衛の二人は普通の塩焼きが好きだそうだ。
お王子様とアランは罠で取るほうが沢山取れるのに、ワザワザ川に入って魚を銛でついて取るのがとても楽しいみたいだ。
不思議なのはアランの姿は王子様たちには見えないはずなのに、何となくいる場所がわかっているみたいで……、これはアランの幽霊化がほどけ掛かっているのかもしれない。アランのためにはいいんだけど、人に見えないって言うのはこれまでこの国では有利だったから、この後がちょっと心配。
「こんなにノンビリと日々を過ごしたのは久しぶりだ」
「本当に、任務で仕事にきたというよりは避暑に来たようになっている」
「何と言っても毎日の飯が美味い。酷暑がいつまでも続けば良いと思ってしまうほどだ。魚も沢山取れるし、此処にいると涼しくて過ごしやすい」
「仕事を忘れてノンビリというのが良いよな~」
王子様一行は河原に土魔法で土台を作り、ハンモックを作ってゴロゴロしていた。
そのうちに土壁を作って露天風呂も拵えてしまった。水魔法と火魔法でちょうど良い湯加減にできるみたいだ。
私のためにちゃんと目隠しの壁も作ってくれたので自然の中のお風呂を楽しむ事ができたのは嬉しかった。一応、浄化で綺麗にはなっているけど、お風呂に入るのは久しぶりだし、まして露天風呂は初めてだったので楽しかった。アランもお風呂を楽しんだけれど、「精霊さまもお湯に入るんだ……」と驚かれていた。
最初はお互いに気を使っていたのだけれど、段々慣れてきて私達は仲良くなった。
王子様たちはあまり貴族らしくなかったし、お忍びという事もあり、いつの間にか敬語ではなく普通にしゃべるようになった。
アランは精霊と思われているから様付けだけど、私の事はアランが冷ちゃんと呼ぶのでいつの間にかレイちゃんと呼ばれるようになってしまった。
彼らが渡してくれるお肉はそれぞれに変わった風味があるけど意外に美味しい。
「レイちゃん、このお肉はこの間食べさせてくれたスパイシーな焼き肉のタレが合うと思うんだ。ちょっと癖があるけど、それが好きな人にはたまらないし、魔力も補える」
「魔力?」
「うん。これは魔物の肉だから」
「魔物?」
「魔物と魔力は切り離せない。魔法も魔力が必要だし」
「魔法……」
「うん。この国は魔法の研究とかはあまり行われてないせいか、魔力を使った攻撃や防御もそんなに威力がない、というか、たいした事がないけど」
「たいした事がないのか?」
「ああ、アラン様。そう、この国の魔法はおくれているんだ」
「他の国では魔法が良く使われている?」
「他の国では魔法によって国を守っているからな。我が国は魔法もだけど蒼の乙女たちが頑張って結界を支えてくれるから助かっているけど」
「蒼の乙女?」
「乙女と言いつつもう既にお年を召している方もいるけど」
「一番年上で87歳だから」
「えーと、それで乙女?」
「乙女というのは単なる呼び名で既婚者の方もいるし、結婚したら『蒼の乙女』ではなく他の呼び方にしようという話が出た事もあったんだけど、当の乙女たちに大反対されたんだ。気持ちだけでも若い乙女だから乙女と呼ばれたいそうなんだ」
「87で乙女?」
「うん、まあ。影では乙女の長老と呼ばれている」
「省略して長老、だな」
何だか隣国は色々と楽しそうな気がする。話を聞いた限りでは割と身分差があっても普段から庶民とも交流があるみたいだし、何となく女性の地位が高いみたい。これは、隣国でのスローライフは楽しいかもしれない。
私がこんな事を考えていると、
「もうずっとここでバカンスを楽しみたいけど、そうも言っていられないから酷暑が終わったらすぐに出発したいんだけど良いかな?」
「一応、レイちゃんは俺たちの従者という事にしてこの国の王宮まで来てもらえたら助かる」
「王宮の中に俺らの国の離宮があるんだ。そこに料理人も一応いるけどレイちゃんのご飯が食べられたら嬉しいな」
「離宮?」
「そう。離宮は治外法権になっているんだ。過去に色々経緯があって」
「この国のご飯、特に王宮のご飯はあまり美味しくないから、俺たちの国の連中はどうしてもこの国に来る時は離宮でご飯を食べているんだ。是非、レイちゃんには料理の教示をお願いしたい」
という事で私達は王子様御一行について、逃げ出してきたこの国の王都、そして王宮へ逆もどり……する事になってしまった。シオリに会いたくないなぁ。
でも、何処からどうみても私とはわからないと思うからそれはいいかもしれない。王子様たちが何やら隠している事も気になるし、彼らと一緒だとひょっとして王宮の中も探れるかもしれないから、そうしたら、帰る方法もわかるかもしれない。
元の世界に戻ったらきっと、アランの名前もわかるし、元に戻ると思う。
戻るよね、多分。
王子様たちとアランはセッセとヤマメに似た川魚を取って来たので、串に刺して焚火で焼いたり、アルミホイルで包み焼にしたり、バターでこんがりとムニエルにしたり、スープに入れたりと色々と料理の仕方を変えて楽しんだ。
私はムニエルにレモンソースをかけて食べるのが好きだけど、アランと王子様はカラッと揚げて黒酢餡かけが気に入っているみたい。王子様の侍従と護衛の二人は普通の塩焼きが好きだそうだ。
お王子様とアランは罠で取るほうが沢山取れるのに、ワザワザ川に入って魚を銛でついて取るのがとても楽しいみたいだ。
不思議なのはアランの姿は王子様たちには見えないはずなのに、何となくいる場所がわかっているみたいで……、これはアランの幽霊化がほどけ掛かっているのかもしれない。アランのためにはいいんだけど、人に見えないって言うのはこれまでこの国では有利だったから、この後がちょっと心配。
「こんなにノンビリと日々を過ごしたのは久しぶりだ」
「本当に、任務で仕事にきたというよりは避暑に来たようになっている」
「何と言っても毎日の飯が美味い。酷暑がいつまでも続けば良いと思ってしまうほどだ。魚も沢山取れるし、此処にいると涼しくて過ごしやすい」
「仕事を忘れてノンビリというのが良いよな~」
王子様一行は河原に土魔法で土台を作り、ハンモックを作ってゴロゴロしていた。
そのうちに土壁を作って露天風呂も拵えてしまった。水魔法と火魔法でちょうど良い湯加減にできるみたいだ。
私のためにちゃんと目隠しの壁も作ってくれたので自然の中のお風呂を楽しむ事ができたのは嬉しかった。一応、浄化で綺麗にはなっているけど、お風呂に入るのは久しぶりだし、まして露天風呂は初めてだったので楽しかった。アランもお風呂を楽しんだけれど、「精霊さまもお湯に入るんだ……」と驚かれていた。
最初はお互いに気を使っていたのだけれど、段々慣れてきて私達は仲良くなった。
王子様たちはあまり貴族らしくなかったし、お忍びという事もあり、いつの間にか敬語ではなく普通にしゃべるようになった。
アランは精霊と思われているから様付けだけど、私の事はアランが冷ちゃんと呼ぶのでいつの間にかレイちゃんと呼ばれるようになってしまった。
彼らが渡してくれるお肉はそれぞれに変わった風味があるけど意外に美味しい。
「レイちゃん、このお肉はこの間食べさせてくれたスパイシーな焼き肉のタレが合うと思うんだ。ちょっと癖があるけど、それが好きな人にはたまらないし、魔力も補える」
「魔力?」
「うん。これは魔物の肉だから」
「魔物?」
「魔物と魔力は切り離せない。魔法も魔力が必要だし」
「魔法……」
「うん。この国は魔法の研究とかはあまり行われてないせいか、魔力を使った攻撃や防御もそんなに威力がない、というか、たいした事がないけど」
「たいした事がないのか?」
「ああ、アラン様。そう、この国の魔法はおくれているんだ」
「他の国では魔法が良く使われている?」
「他の国では魔法によって国を守っているからな。我が国は魔法もだけど蒼の乙女たちが頑張って結界を支えてくれるから助かっているけど」
「蒼の乙女?」
「乙女と言いつつもう既にお年を召している方もいるけど」
「一番年上で87歳だから」
「えーと、それで乙女?」
「乙女というのは単なる呼び名で既婚者の方もいるし、結婚したら『蒼の乙女』ではなく他の呼び方にしようという話が出た事もあったんだけど、当の乙女たちに大反対されたんだ。気持ちだけでも若い乙女だから乙女と呼ばれたいそうなんだ」
「87で乙女?」
「うん、まあ。影では乙女の長老と呼ばれている」
「省略して長老、だな」
何だか隣国は色々と楽しそうな気がする。話を聞いた限りでは割と身分差があっても普段から庶民とも交流があるみたいだし、何となく女性の地位が高いみたい。これは、隣国でのスローライフは楽しいかもしれない。
私がこんな事を考えていると、
「もうずっとここでバカンスを楽しみたいけど、そうも言っていられないから酷暑が終わったらすぐに出発したいんだけど良いかな?」
「一応、レイちゃんは俺たちの従者という事にしてこの国の王宮まで来てもらえたら助かる」
「王宮の中に俺らの国の離宮があるんだ。そこに料理人も一応いるけどレイちゃんのご飯が食べられたら嬉しいな」
「離宮?」
「そう。離宮は治外法権になっているんだ。過去に色々経緯があって」
「この国のご飯、特に王宮のご飯はあまり美味しくないから、俺たちの国の連中はどうしてもこの国に来る時は離宮でご飯を食べているんだ。是非、レイちゃんには料理の教示をお願いしたい」
という事で私達は王子様御一行について、逃げ出してきたこの国の王都、そして王宮へ逆もどり……する事になってしまった。シオリに会いたくないなぁ。
でも、何処からどうみても私とはわからないと思うからそれはいいかもしれない。王子様たちが何やら隠している事も気になるし、彼らと一緒だとひょっとして王宮の中も探れるかもしれないから、そうしたら、帰る方法もわかるかもしれない。
元の世界に戻ったらきっと、アランの名前もわかるし、元に戻ると思う。
戻るよね、多分。
5
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜
黄舞
ファンタジー
勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。
そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは……
「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」
見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。
戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中!
主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です
基本的にコメディ色が強いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる