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23. 王都に逆もどり……。
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酷暑の期間、私とアランに隣国の王子様御一行は恙無く穏やかに日々を過ごした。
王子様たちとアランはセッセとヤマメに似た川魚を取って来たので、串に刺して焚火で焼いたり、アルミホイルで包み焼にしたり、バターでこんがりとムニエルにしたり、スープに入れたりと色々と料理の仕方を変えて楽しんだ。
私はムニエルにレモンソースをかけて食べるのが好きだけど、アランと王子様はカラッと揚げて黒酢餡かけが気に入っているみたい。王子様の侍従と護衛の二人は普通の塩焼きが好きだそうだ。
お王子様とアランは罠で取るほうが沢山取れるのに、ワザワザ川に入って魚を銛でついて取るのがとても楽しいみたいだ。
不思議なのはアランの姿は王子様たちには見えないはずなのに、何となくいる場所がわかっているみたいで……、これはアランの幽霊化がほどけ掛かっているのかもしれない。アランのためにはいいんだけど、人に見えないって言うのはこれまでこの国では有利だったから、この後がちょっと心配。
「こんなにノンビリと日々を過ごしたのは久しぶりだ」
「本当に、任務で仕事にきたというよりは避暑に来たようになっている」
「何と言っても毎日の飯が美味い。酷暑がいつまでも続けば良いと思ってしまうほどだ。魚も沢山取れるし、此処にいると涼しくて過ごしやすい」
「仕事を忘れてノンビリというのが良いよな~」
王子様一行は河原に土魔法で土台を作り、ハンモックを作ってゴロゴロしていた。
そのうちに土壁を作って露天風呂も拵えてしまった。水魔法と火魔法でちょうど良い湯加減にできるみたいだ。
私のためにちゃんと目隠しの壁も作ってくれたので自然の中のお風呂を楽しむ事ができたのは嬉しかった。一応、浄化で綺麗にはなっているけど、お風呂に入るのは久しぶりだし、まして露天風呂は初めてだったので楽しかった。アランもお風呂を楽しんだけれど、「精霊さまもお湯に入るんだ……」と驚かれていた。
最初はお互いに気を使っていたのだけれど、段々慣れてきて私達は仲良くなった。
王子様たちはあまり貴族らしくなかったし、お忍びという事もあり、いつの間にか敬語ではなく普通にしゃべるようになった。
アランは精霊と思われているから様付けだけど、私の事はアランが冷ちゃんと呼ぶのでいつの間にかレイちゃんと呼ばれるようになってしまった。
彼らが渡してくれるお肉はそれぞれに変わった風味があるけど意外に美味しい。
「レイちゃん、このお肉はこの間食べさせてくれたスパイシーな焼き肉のタレが合うと思うんだ。ちょっと癖があるけど、それが好きな人にはたまらないし、魔力も補える」
「魔力?」
「うん。これは魔物の肉だから」
「魔物?」
「魔物と魔力は切り離せない。魔法も魔力が必要だし」
「魔法……」
「うん。この国は魔法の研究とかはあまり行われてないせいか、魔力を使った攻撃や防御もそんなに威力がない、というか、たいした事がないけど」
「たいした事がないのか?」
「ああ、アラン様。そう、この国の魔法はおくれているんだ」
「他の国では魔法が良く使われている?」
「他の国では魔法によって国を守っているからな。我が国は魔法もだけど蒼の乙女たちが頑張って結界を支えてくれるから助かっているけど」
「蒼の乙女?」
「乙女と言いつつもう既にお年を召している方もいるけど」
「一番年上で87歳だから」
「えーと、それで乙女?」
「乙女というのは単なる呼び名で既婚者の方もいるし、結婚したら『蒼の乙女』ではなく他の呼び方にしようという話が出た事もあったんだけど、当の乙女たちに大反対されたんだ。気持ちだけでも若い乙女だから乙女と呼ばれたいそうなんだ」
「87で乙女?」
「うん、まあ。影では乙女の長老と呼ばれている」
「省略して長老、だな」
何だか隣国は色々と楽しそうな気がする。話を聞いた限りでは割と身分差があっても普段から庶民とも交流があるみたいだし、何となく女性の地位が高いみたい。これは、隣国でのスローライフは楽しいかもしれない。
私がこんな事を考えていると、
「もうずっとここでバカンスを楽しみたいけど、そうも言っていられないから酷暑が終わったらすぐに出発したいんだけど良いかな?」
「一応、レイちゃんは俺たちの従者という事にしてこの国の王宮まで来てもらえたら助かる」
「王宮の中に俺らの国の離宮があるんだ。そこに料理人も一応いるけどレイちゃんのご飯が食べられたら嬉しいな」
「離宮?」
「そう。離宮は治外法権になっているんだ。過去に色々経緯があって」
「この国のご飯、特に王宮のご飯はあまり美味しくないから、俺たちの国の連中はどうしてもこの国に来る時は離宮でご飯を食べているんだ。是非、レイちゃんには料理の教示をお願いしたい」
という事で私達は王子様御一行について、逃げ出してきたこの国の王都、そして王宮へ逆もどり……する事になってしまった。シオリに会いたくないなぁ。
でも、何処からどうみても私とはわからないと思うからそれはいいかもしれない。王子様たちが何やら隠している事も気になるし、彼らと一緒だとひょっとして王宮の中も探れるかもしれないから、そうしたら、帰る方法もわかるかもしれない。
元の世界に戻ったらきっと、アランの名前もわかるし、元に戻ると思う。
戻るよね、多分。
王子様たちとアランはセッセとヤマメに似た川魚を取って来たので、串に刺して焚火で焼いたり、アルミホイルで包み焼にしたり、バターでこんがりとムニエルにしたり、スープに入れたりと色々と料理の仕方を変えて楽しんだ。
私はムニエルにレモンソースをかけて食べるのが好きだけど、アランと王子様はカラッと揚げて黒酢餡かけが気に入っているみたい。王子様の侍従と護衛の二人は普通の塩焼きが好きだそうだ。
お王子様とアランは罠で取るほうが沢山取れるのに、ワザワザ川に入って魚を銛でついて取るのがとても楽しいみたいだ。
不思議なのはアランの姿は王子様たちには見えないはずなのに、何となくいる場所がわかっているみたいで……、これはアランの幽霊化がほどけ掛かっているのかもしれない。アランのためにはいいんだけど、人に見えないって言うのはこれまでこの国では有利だったから、この後がちょっと心配。
「こんなにノンビリと日々を過ごしたのは久しぶりだ」
「本当に、任務で仕事にきたというよりは避暑に来たようになっている」
「何と言っても毎日の飯が美味い。酷暑がいつまでも続けば良いと思ってしまうほどだ。魚も沢山取れるし、此処にいると涼しくて過ごしやすい」
「仕事を忘れてノンビリというのが良いよな~」
王子様一行は河原に土魔法で土台を作り、ハンモックを作ってゴロゴロしていた。
そのうちに土壁を作って露天風呂も拵えてしまった。水魔法と火魔法でちょうど良い湯加減にできるみたいだ。
私のためにちゃんと目隠しの壁も作ってくれたので自然の中のお風呂を楽しむ事ができたのは嬉しかった。一応、浄化で綺麗にはなっているけど、お風呂に入るのは久しぶりだし、まして露天風呂は初めてだったので楽しかった。アランもお風呂を楽しんだけれど、「精霊さまもお湯に入るんだ……」と驚かれていた。
最初はお互いに気を使っていたのだけれど、段々慣れてきて私達は仲良くなった。
王子様たちはあまり貴族らしくなかったし、お忍びという事もあり、いつの間にか敬語ではなく普通にしゃべるようになった。
アランは精霊と思われているから様付けだけど、私の事はアランが冷ちゃんと呼ぶのでいつの間にかレイちゃんと呼ばれるようになってしまった。
彼らが渡してくれるお肉はそれぞれに変わった風味があるけど意外に美味しい。
「レイちゃん、このお肉はこの間食べさせてくれたスパイシーな焼き肉のタレが合うと思うんだ。ちょっと癖があるけど、それが好きな人にはたまらないし、魔力も補える」
「魔力?」
「うん。これは魔物の肉だから」
「魔物?」
「魔物と魔力は切り離せない。魔法も魔力が必要だし」
「魔法……」
「うん。この国は魔法の研究とかはあまり行われてないせいか、魔力を使った攻撃や防御もそんなに威力がない、というか、たいした事がないけど」
「たいした事がないのか?」
「ああ、アラン様。そう、この国の魔法はおくれているんだ」
「他の国では魔法が良く使われている?」
「他の国では魔法によって国を守っているからな。我が国は魔法もだけど蒼の乙女たちが頑張って結界を支えてくれるから助かっているけど」
「蒼の乙女?」
「乙女と言いつつもう既にお年を召している方もいるけど」
「一番年上で87歳だから」
「えーと、それで乙女?」
「乙女というのは単なる呼び名で既婚者の方もいるし、結婚したら『蒼の乙女』ではなく他の呼び方にしようという話が出た事もあったんだけど、当の乙女たちに大反対されたんだ。気持ちだけでも若い乙女だから乙女と呼ばれたいそうなんだ」
「87で乙女?」
「うん、まあ。影では乙女の長老と呼ばれている」
「省略して長老、だな」
何だか隣国は色々と楽しそうな気がする。話を聞いた限りでは割と身分差があっても普段から庶民とも交流があるみたいだし、何となく女性の地位が高いみたい。これは、隣国でのスローライフは楽しいかもしれない。
私がこんな事を考えていると、
「もうずっとここでバカンスを楽しみたいけど、そうも言っていられないから酷暑が終わったらすぐに出発したいんだけど良いかな?」
「一応、レイちゃんは俺たちの従者という事にしてこの国の王宮まで来てもらえたら助かる」
「王宮の中に俺らの国の離宮があるんだ。そこに料理人も一応いるけどレイちゃんのご飯が食べられたら嬉しいな」
「離宮?」
「そう。離宮は治外法権になっているんだ。過去に色々経緯があって」
「この国のご飯、特に王宮のご飯はあまり美味しくないから、俺たちの国の連中はどうしてもこの国に来る時は離宮でご飯を食べているんだ。是非、レイちゃんには料理の教示をお願いしたい」
という事で私達は王子様御一行について、逃げ出してきたこの国の王都、そして王宮へ逆もどり……する事になってしまった。シオリに会いたくないなぁ。
でも、何処からどうみても私とはわからないと思うからそれはいいかもしれない。王子様たちが何やら隠している事も気になるし、彼らと一緒だとひょっとして王宮の中も探れるかもしれないから、そうしたら、帰る方法もわかるかもしれない。
元の世界に戻ったらきっと、アランの名前もわかるし、元に戻ると思う。
戻るよね、多分。
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