冷女が聖女。

サラ

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小話1 星に願いを(アラン視点)

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 ベッドに横たわり空を見る。
 満点の星空。遮るものはないし、街の灯りさえもない真っ暗闇だから本当に降るような星空だ。いつか見てみたいと思った星空をこんな形で見る事になるなんて。

 星空を眺めていると小さな頃の願い事を思い出す。七夕の日に願い事を書いて笹の葉に結び付けたけど、その短冊には『可愛い子犬が欲しい』と書いた。ついでに流れ星が流れたのも見つけたので、急いで本当の願い事も唱えておいた。
『ほんとうのお父さんとお母さんに会いたい』

 自分が拾われた子である事は何となく周囲の会話から理解していた。兄が小さい頃「〇〇は俺が拾ってきたんだ」と言うのを聞くと慌てて両親が「お兄ちゃんは橋の下に居たのよ。〇〇は家の前に居たから親孝行ね」と混ぜ返した。

「俺、橋の下なら川から流れてきたんだ。じゃぁ、鬼退治にいかなくちゃ」
「よし、キビ団子じゃなくて月見団子を山ほど持たせてやろう。でも、鬼退治に行くなら修行しなくちゃな」

 そうして、兄は剣道の道場に通いだして、そのまま剣の道に進んだ。大きくなると流石に「拾ってきた」とは言わなくなったが、代わりに「俺が守ってやるからな」というようになった。別に守ってもらわなくてもいいんだけど、せっかくだから頷いておいた。
 そういえば、あの時短冊に願い事を書いた1週間ほどして我が家に真っ白い子犬がやって来た。

「○○の願い事が叶ってよかったね」
「うわーっ、本当に嬉しい。有り難う」
「大切に育てるんだよ」

 真っ白い子犬は大きくなり、実家に帰ると喜んで駆け寄ってくる。名前はシロ。名付け親は俺だけど本当に白い塊だったから喜んで、「シロ、白だ」と言っているうちにシロになってしまった。
 あれ? シロの名前だけ思い出せる? なぜだろう?
 白い色からの連想だからかな。でも、思い出せて良かった。シロ、元気かな、会いたいな。

 俺は大切に育てられたと思う。戸籍をこっそりと見て確認して『ああ、やっぱり』と思ったけど、この家族で良かったと思っていたのに、まさかこんな異世界に来てしまうなんて思わなかった。

 星が願いを叶えてくれるなら、『もう一度家族の元に帰りたい』
 流れ星が見えた。今度こそ真剣に願いを込めた。ついでに名前も思い出したい。
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