冷女が聖女。

サラ

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18. 焼き魚は美味しそう。

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 山奥の清流のほとりで私はまったりとロッキングチェアに腰かけていた。
 このロッキングチェアは借りていた家の物置にあったもので、椅子の部分が壊れていたのをアランが直して、さらに全体にクッションを付けてくれたのでとても座り心地が良い。

 日曜大工が得意なアランは得難い存在だと思う。私の従者にしておくのがもったいないくらい。もちろん、ロッキングチェアの下を平らに均してくれたのもアランで、考えて見るとアラン、確かに従者みたいに甲斐甲斐しくお世話してくれているような気も……しないでもない。
 でも、気がつくとアランが先回りして面倒見てくれるから、楽だけど、良いのかしらと時々思う。

 片手で氷の入った桃のジュースを飲みながら、遠くにいるアランをボンヤリと眺める。何だか、マイナスイオンに満たされて、のんびりして幸せな気分になってきた。
 しばらくして、アランが川の中からザブザブと水をかき分けてきた。銛に魚を突き刺して片手でガッツポーズをしている。

「玲ちゃん、ほら魚が取れた。これイワナかなぁ?」
「凄い! 銛でお魚取るなんて。アラン、日本でもこうやってお魚取ってたの?」
「まさか! でも、こっちに来て身体能力が上がったような気がするんだ。動体視力も上がったせいか、魚の動きを捕らえられる。この身体能力で日本に帰ったら、オリンピックとか出られないかな」
「20歳で?」
「アーチェリーとか、マイナー競技だったらいけるかもしれない」
「そうね。でも、その前に帰る方法を見つけないと」
「そうなんだよなー。あっ、こちらの罠のほうは結構かかっている。えーと、5匹いるけどヤマメ?」

「こっちの魚と日本の魚は名前が違うんじゃない? 私、ヤマメとイワナの区別がつかないんだけど、これはどっちに似ているの?」
「う、そう言われれば、どっちなんだろう? でも、スーパーで売っていたのはヤマメだったかな? これは何だか大きめだけど色は茶色っぽいし見た事あるような気がする」
「これ、食べられるの?」
「川魚だから焼けば大丈夫。焚火を起こして串刺しにして焼こう」
「火の回りにグルリと串にさして焼くのはよくテレビで見ていたわ。何だか楽しみ」
「遠赤外線効果で焼くと美味しく食べられるよ。遠火でじっくりがコツなんだ」

「アラン、詳しいわね」
「キャンプのために勉強したんだ。一応、鹿とか猪の解体の方法もシュミレーションした」
「アラン……どこでキャンプするつもりだったの?」
「一応、だよ。一応。でも、こっちの世界だと解体の勉強が役に立つかもしれないし」
「でも、私達、攻撃手段を持ってないわ」
「そこが問題なんだよ。とりあえず、ご飯と山菜鍋と魚の塩焼きにしよう」

 そう言いながらアランは手早く魚の処理をして塩を付け、魚にグリグリと串打ちをした。アランの手つきが慣れているのは居酒屋でバイトをしたせいらしい。
 山菜鍋は近くで取ってきた山菜も入っている。これも日本のものと似ているから問題ない、とアランが言うから多分、大丈夫なんだと思う。

 アランは採取をしてその場で調理しながらキャンプをしたいと思っていたそうで、今みたいに色々と食料調達をするのが楽しいみたい。といっても、冷蔵庫の中にある野菜やお肉がタップリ入った鍋は出汁も日本産なんだけど、その辺はいいのかしら。
 食料を完全に現地調達にすると、私が耐えられないからいいけどね。

 今、私達は滝壺の横でキャンプをして居る。崖の上から落ちてくる滝の流れは薄い水のカーテンのようで、見ているだけで涼しい。実際、この滝の周りはひんやりとして過ごしやすい。
 今は酷暑だから私達も涼を求めて山の上に登り、偶然見つけた滝の側に避難をすることにした。

 この世界の酷夏は暑い。酷夏というのは年に一度、本当に暑い日が1週間ほど続く。その時は皆、家にこもって暑さに耐えるか、水魔法を使える人の秘書場でゴロゴロする。貴族やお金持ちは避暑地で氷魔法を使える人をこき使ってゆっくり過ごすらしい。
 アランも最初は暑さ、寒さを感じなかったのに最近は気候の変化を身体で感じるようになって不便だと言っていた。

「何だか、最近暑くなって来たね」という私の言葉に「そういえば、この世界は酷暑ってのがあるんだった。忘れてた」というアランの言葉で急きょ、避暑地を探してここにキャンプ地を張ったのだけど、この場所は大当たりだった。人は来ないし本当に気持ちが良い。

「ご飯も炊けたし、そろそろ魚もいい具合に焼けてきた」
「本当だ。美味しそうね。串に刺したまま食べるの?」
「玲ちゃんはお皿にのっけて食べたほうが食べやすいんじゃないかな。金属の串だから熱くなっているし」
「そうね」

 私達がテーブルの上にお皿を用意して山菜鍋を装おうとしたら、ガサガサと後ろの茂みが揺れてそこから大きな男たちが3人現れた。目が串刺しの魚にロックオン。涎が出そうなお顔をしている。

「あ、あの?」
「ああ、ごめん。あまりに美味しそうな匂いがしてきたから、誘われてしまった」
「お嬢さん、その焼き魚は一人で食べるのかな? もし、良かったら売ってくれないか。言い値で払う!」
「オイ、レオナルド」
「だって、お腹が空いているんだ」

 そう言いながらレオナルド? さんはお腹をさすった。お腹からグーッと音が聞こえる。

「あの、お魚だけで良いんですか?」
「他にもあるのか? 確かに美味しそうなスープの匂いもしているが、そこには何も、いや、なんでテーブルと椅子が? 持ち運び? どうやって?」
「ふーん、テーブルと椅子は見えるけど、山菜鍋は見えないんだな」
「な、何処から声が?」
「アランの声が聞こえるんですか?」
「アラン? 姿は見えないが。ハッ! もしかして精霊か! お嬢さんには精霊が付いているのか?」
「だとしたら、なんだっていうんだ?」
「精霊様、初めまして。レオナルドと申します。本名はレナード・ドゥ・スピーリトゥスと言いまして、隣国の第二王子になります。精霊様の気配を微かに感じる事が出来まして、懐かしく慕わしい気持ちがしております」
「レナード様!」
「そんな簡単に、」

 隣国の第二王子の挨拶に後の二人は慌てていたが、確かにそんな簡単に身分を明かしていいのだろうか? というより、何で隣国の第二王子がこんな山奥に3人だけでいるわけ?

 しかもお腹を空かせて!?
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