冷女が聖女。

サラ

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17. 旅の空。

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 「これで、こっそりと村を出る事ができるけど、冷蔵庫のベッドはどうしよう?」
「ベッドのおかげで隠れる事ができたし、休む場所としても便利だからこのまま持っていけば良いよ。野宿でもベッドで眠れる」
「でも、物置のベッドも貰ったし、悪くない?」
「いいって。餞別だと思えば」
「ベッドが無くなるなんて、変だと思われない?」
「今更。村長の息子がいたからベッドが現れるほうがオカシイと思われる。他の連中にもベッドがない事は見られているし」
「元々ベッドは無かったと思われる? そうね。お家を貸してもらう時もしばらく使ってないから掃除して! と言われて鍵を貰っただけだものね」
「そういう事。じゃぁ、善は急げ、でサッサと出かけようか?」

 私とアランはバイクに乗って夜半過ぎの村を走ったけど、流石に夜更けなので人影はなかった。村から出る時は少し寂しい気もしたけど、少しだけ頭を下げてサヨウナラと呟いた。何のかんのいっても親切にしてもらったのは違いないから。それにしても私とアラン、どこかに安息の地があるといいな。

 バイクの後ろに乗る私は腰に紐を付けている。その紐の先には冷蔵庫。冷蔵庫は2台で冷凍庫が隣にあって、さらに冷蔵庫の横にはベッドが付いている。その冷蔵庫たちがバイクの走るのに合わせてファーと付いてくる。
 とっても変。
 他の人達に見えないのは幸いだけど、見えたら、見えたら、笑ってしまう。

 いえ、この世界の人たちなら魔物と間違えてしまうかもしれない。なんにせよ、人に見えなくて良かった。
 ある程度走って野営場に着いた。残念ながら他に野営している人がいたので、そのまま走り抜ける。街道から別れた細い道があったのでそちらへ行くと、途中に少し開けたところがあったのでそこで少し休むことにした。

「あーあ、何だか疲れたね」
「本当に」
「せっかくだから焚火を起こして何か食べよう。キャンプ道具、出してくれる? 飯盒でご飯がいいね」

 どことなくアランが嬉しそうだ。村にいる時は台所の竈を使っていたし、貰ったパンとそれに合う料理を作っていたからキャンプ用品の出番はなかった。それもあって、アランは早く村を出たかったのかもしれない。
 アランはいそいそとキャンプの準備をして、焚火台をセットすると火を付けようとして私のほうを振り向いた。

「玲ちゃん、火魔法がまだレベル1だったよね。火を付けてくれる?」
「良いわよ」
「あっ、玲ちゃんが火を付けると火だけ見えるようになるかな?」
「うーん。大丈夫じゃない? もし、火だけが見えるようなら人が来たら消せばいいんだし」
「そうだね」

 と言いながら私達は食事の用意をした。
 丸い飯盒にご飯を炊いて、ご飯が炊けたらフライパンに厚く切ったベーコンを入れる。ジュージューときれいな焦げ目がついたら卵を4個入れて、蓋をしてしばらくしたらベーコンエッグの出来上がり。

 スープ皿にご飯を入れてその上にベーコンエッグを乗せて、少しだけガーリックの粉末をかけて、お醤油を黄身に垂らす。アランは横にマヨネーズをトッピング。黄身がトロリとして炊き立てのご飯と相まってとても美味しい。

 インスタントだけど、焼きナスのお味噌汁がとても会うと思う。時折、アランの立てる沢庵のポリポリと言う音だけが聞こえてきて、たき火のはぜる音も聞こえて、上を見ると満点の星空。ご飯は美味しいけれど、私達、随分遠くに来たんだなぁと思う。

「あーあ、満腹、満足」
「うん。美味しかった」

 美味しいご飯に満足して、たき火でコプコプとコーヒーを沸かす。コーヒーを飲みながらマドレーヌを火で炙って食べた。
 炙る為の金属の長い串は村の鍛冶屋で売っていたので、少し多めに買っておいた。端は木製の持ち手になっていて、それはアランのお手製である。お肉と野菜を刺して炙って焼いても良いかもしれない。
 アランは意外と器用なので細々したものも作ってくれるし、洋服のサイズ直しもアランがしてくれた。

「こうしてノンビリとしていると落ち着く」
「やっぱり、アランは村の生活は馴染めなかった?」
「うん。どうせ姿は見えないけど、何だか追い立てられるような気がしていた」
「ごめんね。アランは色々と忙しかったわね」

「んー、というか、玲ちゃんの危機感の無さが心配で、誰かがフライングするんじゃないかって気が気じゃなくて」
「フライング?」
「強引にお嫁さんにされたら困るなってことさ。玲ちゃんが凄くモテたおかげで助かったけど」
「えっ、そんなにモテたかしら?」
「いつも来る常連だけじゃなくて、村長に玲ちゃんが欲しいって申し込んでいた家は多いよ」
「何で村長?」
「村長の家に住んでいるから」
「そうだったんだ」

「ともあれ、逃げられてホッとした。これからしばらく、サバイバルで行こう」
「サバイバル?」
「そう。キャンプをしながらのんびりとこの世界を歩いていこうよ。バイクで距離は稼いだし、玲ちゃんは何故か体力があるみたいだから、姿を消して街道を歩けばいいんじゃないかな」
「冷蔵庫を引きずって?」
「冷蔵庫、すごく軽いんでしょ?」
「そうだけど、見た目が……」

「誰も見てないよ。食料もあるしベッドもあるし、簡易トイレもあるし、後はお風呂があればいいね」
「お風呂を引きずって歩くの? それはちょっと、それに水魔法と火魔法はレベルが低いからそんなに使えないわ」
「むしろ土魔法が欲しいな。土魔法で川の側を掘って囲んで川の水を火魔法でボン!」
「何それ! 魔法のレベルが上がればそれも良いわね。でも川の水は浄化しなくちゃ。アランはお風呂に入りたいの?」

「この世界に来てからお湯に入ってない」
「そういえばそうね。浄化で綺麗になるからこの世界の人はお風呂に入らない?」
「貴族とか金持ちは入るみたいだよ」
「いいなぁ。何だかこれまでは一杯一杯で余裕がなかったけど、考えてみれば特に急ぐこともないし、ゆっくりノンビリしながら海を目指せばいいんだよね」
「うん。のんびりしながらサバイバルしよう」
「ノンビリサバイバルね」

 キャンプで旅を続けるのはサバイバルなのかな? と思いつつアランが楽しそうだし、焚火で作るご飯は美味しいから、あまりこの国の人と関わらずにこのまま旅をするのも良いかもしれない。

 と、その時は星空を眺めながらのんびりと思っていた。

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