冷女が聖女。

サラ

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16. 異世界怖い。

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足音が聞こえる。ドサドサと階段を登ってくるのは一人じゃない。3、いいえ4人ぐらいいる?

「おい、もっと静かにしろよ、起きるだろ」
「今更。もう起きてもかまわないじゃないか」
「フン、ここは丘の上だし、人通りがないから、多少音がしても大丈夫だ」
「不用心だな」
「一応、鍵はかかる」
「その鍵があれば夜這いし放題」
「よく、これまで無事だったな」
「皆が牽制していたからだろう」
「言えてる」

 2階の寝室の灯りが付けられた。ちなみに灯りは魔道具で日本の灯りと比べるとそんなに明るくない。そして、灯りが付けられた部屋には

「居ない!」
「どういう事だ?」
「いや、だって夜明け前に出るって話だったじゃないか、夜中に出ていくなんて不用心だ」
「じゃぁ、夕方に出たのか?」
「まさか、夜、街道を行くなんてありえない」
「意外と、どっかに隠れているんじゃないか」
「なんで?」
「虫の知らせとかで」
「よし、一応、家の中を探すぞ」

 家の中に侵入してきたのはパン屋でいつも親切にしてくれていた若者たちだった。こんなに大勢で何をするつもりだったんだろう? 
 2階の寝室にはベッドが二つあったけど、一つは私の冷蔵庫がくっ付いているので彼らには見えない。そして、そこで横になっている私の姿も彼らには見えない。

 まさか、弟みたいに思っていた彼らがこんな狼藉を働くとは。
 もし、普通にベッドに寝ていたら………怖いじゃないですか。昨日まで普通にベッドで朝まで寝こけていた、と考えると今夜、ベッドに冷蔵庫を付けようと思った私、偉い! 

 彼らはもう一つのベッドの下とかクローゼットの中とか調べると、そのまま他の部屋を探しに行った。私はベッドの上にいるけど、彼らはそのまま私を通り過ぎる。
 これはこれで怖いけど、多分、次元が違うせいで私が幽霊みたいに同じ空間にいるわけじゃない、と思う。

 幽霊、といえばアランだけど、彼は1階の客室にいる。幽霊状態だから見つからないけれど、むしろアランが何かしそうで心配。
 もうこのまま寝るのは流石に無理なので、冷蔵庫に触りながらトートバックの所まで行って、そのままベッドの上にバッグを持ってきた。

 ちなみにこのバッグ、私の手を離れると自動で元の場所に戻る。つまり、引ったくりに会っても大丈夫という事で、いやいや、現実逃避は止めよう。ベッドの上でそそくさと旅人の服に着替える。
 男の子バージョンで髪は纏めて帽子に詰めた。
 悲しい事に私は美少女だけど成長途中のせいか、見た目は美少年と言っても通る。爪も髪も伸びているから段々と年を重ねているのは間違いない。

 それにしても、この冷蔵庫、動かす事が出来ないんだよね。触っていると姿を消せるし、どこでも呼び出せるけど。アランみたいに存在が消せるとうまく逃げ出せるのに、どうしよう。
 冷蔵庫からブドウジュースを出して飲みながら、困ったなぁとボンヤリしているとしばらくして、

「玲ちゃん」
「アラン!」

 アランが来たので声を出してから慌てて口を押えた。ん? そういえば私の場合、声も聞こえなくなるんだった。でも、アランには声が聞こえる。最初は聞こえなかったのに、従者になってから声だけは聞こえるようになったんだった。アランはいまだに自分が従者だとは知らないけどね。

「アイツらは散々家探しして帰って行ったよ」
「出ていったんだ」
「荷物とか食糧庫も空っぽだったから本当に家を出たんだと思ったみたい」
「良かった」
「うん。奴ら、誰かに先を越されて、玲ちゃんが拉致されたんじゃないかって話してた」
「えっ?」
「玲ちゃんを狙っていたのは彼らだけじゃないって事」
「へっ?!」

「パン屋に口が軽いのが居るから、朝、夜明け前に村の入り口を見張っているのは他にもいるみたいだ。モテモテだね」
「嫌だ。でも、ビックリした。普通、こんな強引な手に出る?」
「若くて、実家の後ろ盾のない女の子は貴重なんだよ。どうとでもできるから」
「うーん、異世界、怖い。女の子じゃなくて、ムキムキのマッチョに変身させてくれたら良かったのに」
「マッチョ……、それはちょっと嫌かな」
「まぁ、それはそれとして。あのね、アランのバイクに私が乗ると私だけ見えてしまうでしょ?」
「うん。そこが難点なんだよね」
「でね、考えたんだけど」

 私が考えたのはバイクに後ろ向きに乗って後ろを振り向き、そのままバイクに乗ったまま冷蔵庫に向き直ると、私がバイクに乗ったままで姿を消せるんじゃないかという事。試しにしてみたらちゃんと姿は消えた。でも、目の前に冷蔵庫があるのは凄く邪魔。

「玲ちゃん、ベッドをひっ付けて消せるんだから冷蔵庫の取っ手にタオルとか紐を付けて見たらどうだろう?で、横向きにバイクに跨る」
「それもそうね」

 バイクに横向きに座って、冷蔵庫に紐を付けたら確かに、前向きに座りなおしても姿は消えた。でも、アランがバイクを押して動かしてみても冷蔵庫はデンと固定されて動かなかった。
 うーん、どうやって、この村を脱出しよう。この紐、いや冷蔵庫が動けばいいんだけど。いや、動くけど単に重いだけ? 

 その時ピロローン♪と音楽が聞こえてきた。

「あら、久々のレベルアップ、こんな時に」
「冷蔵庫に羽とか生えるといいなぁ」
「まさか?」

 と言いつつちょっと期待してステータスを出すと

『玲。冷蔵庫(広義)と共に玲の祝福を持つ聖女』
 聖女  レベル1
 冷蔵庫 レベル3
 浄化  レベル2
 光魔法 レベル2
 水魔法 レベル2
 火魔法 レベル1
(従者  アラン)

 と出て来た。ちなみにステータスは任意で隠せるみたいだから、それがわかってすぐアランの従者を隠しておいた。やっぱり、知らないほうがいいと思うから。

「冷蔵庫のレベルが上がったのね」
「何ができるんだろう?」
「そうね。むしろ今、上がっても何にも役に、」

 と言いつつ何気なく紐を引っ張ったら冷蔵庫が動いた。
 本当に軽―く紐と共に冷蔵庫が動いた。まるで紐の先に着いた風船のように。冷蔵庫は浮かないけどね。
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