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8. 『コワッ』な事とコーヒー。
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翌朝、メイドさんと御者がまた、御者席に乗って馬車は村を出発した。
私はずっと馬車の中だったけど、足を伸ばして寝れたし朝早く目が覚めたので、ゆっくり朝食も取れたのは良かった。
そうして、またゴトゴトと馬車の旅は続き、途中のお昼休憩はまた、私を除いた彼らだけで昼食を取り、夕方に大きな城壁のある街に着いた。
門で手続きをして身分証の確認をした後、街の中に入ったけどそのまま馬車はどこかの宿屋らしき場所の前に停まると、暫くしてメイドさんが馬車の中に入って来た。手に何やら書類を持っている。
「アンタ、女性が一人で生きていくのは大変だと思うの。だから私の知り合いの所で働けるように紹介してあげる。これはそこで働きますって契約書。そして、こっちは領都まで連れてきてもらいましたって確認書。どちらもアンタの名前と日付を書くだけで良いから。日付はこれの通りに書いて」
そう言ってメイドさんが差し出してきた契約書には『借用書』と『奴隷契約書』と書いてあった。
色々と書いてあるのをササッと急いで流し読みしたところによると、私は彼女に8千万トルほど借りている事になっている。
そして、返せない借金のかたに奴隷契約を結び、借金を返すまでは解放されないらしい。『奴隷契約書』のほうは魔法証書になっていて一度契約すると自動的に拘束されるようになっているみたい。
コワッ!
どうして、私がこの契約書が読めるのかわからない。けどこれも聖女の能力なのかもしれない。
「あの、これは」
「煩いわね。人の親切は黙って受ければいいのよ!」
「いえ、お手数をかけるのは申し訳ないですから」
「せっかく、仕事先を紹介したげるって言ってんのに。じゃぁ、先にこちらの確認書にサインして!」
いえ、いえ、これにサインしたらお終いよね。なんにも悪い事してないのに、いきなり奴隷なんてありえない。字が読めないっと思ってこんな事をしているのだろうけどこれは酷いと思う。これまでの扱いも酷いけど人としてどうかと思うよ。
「あ、あの」
「なによ!」
「お手洗いに行ってもいいですか」
「いいけど、その前にこれにサインして! 急いでいるんだから」
「もう我慢できません。手も震えて来たし、とにかくトイレに行かないとマズイです! 馬車が汚れても良いんですか!」
「えっ? ひょっとして、流石にあの水はまずかった?」
「早く!」
「わかったわよ。こっち」
そういうとメイドさんは私の腕を掴んで宿屋の中に走り込み、「トイレ、借りるわ」と声をかけてからトイレらしき場所に連れて行ってくれた。
「早く、済ませてよ」
「多分、長いです」
「もう、仕方ないわね。終わったらカウンターに声かけて。ご飯、食べているから。薬もあげるし、何か食べさせてあげるわ」
「はい」
私がお腹を壊したのはあの壺に入った水のせいだと思ったみたい。残念。あんな汚そうな水、飲みません。
さて、急いでここから逃げなくては。私は裏口からこっそり宿屋を出ると、そのまま大通りに出た。夕方だけどまだ人通りは多い。見つかるとまずいのでフードを深くかぶりそのまま只管歩いた。入った時とは別の門にたどり着くと、身分証を呈示してそのまま外に出る。
「この時間に出るのか? もうすぐ閉門だから戻っても入れないぞ」
「大丈夫です」
「そうか、気を付けてな」
門番の人は割と親切かもしれない。でも、急いであの連中から逃げないと、何だか変な冤罪とか押し付けてきそう。攻撃手段を持ってない聖女だし、サバイバルにも慣れてないけど、奴隷なんて冗談じゃない。
只管、門を出て進み、最初は歩いていたけど、そのうち早足になり、走れそうだったから走ってしまった。私、今ならマラソンランナーになれるかもしれない。
走って、走って……、そして辺りが真っ暗になったころ、明かりを見つけた。
街道の脇にちょっとした広場があって、水場とトイレがある。あれだけ走ったのにあまり疲れてないのは聖女補正かもしれない。これは助かる。
明かりがついているという事は旅人かもしれない。こっそり足音を消して近寄るとコーヒーの香りがした。コーヒー! この世界にもコーヒーがあるのね。私には飲ませてくれなかったけど、きゃつらは宿屋で飲んでいたのかもしれない。
近づくと、そこにはキャンパーがいて、私を見るとニッコリとして手に持ったカップを持ち上げて見せた。
「やぁやぁ、コンバンワ。良い夜だね。良かったら一緒にコーヒーでもいかが? チョコレートもあるよ」
「ホントに!? 嬉しい。有り難う」
「えっ?! ええっ!? 俺の声が聞こえる?」
「聞こえるわよ」
「本当に!」
「手に持っているのはコーヒーでしょう。もうずっと温かいものに飢えていたの。御馳走してもらえる?」
「いや、ははっ、見えているんだ。俺の事が見えるんだ」
「見えるわよ。コーヒーも見えているし、チョコレートはないみたいだけど」
「はははっ、やったね。俺はちゃんと存在している。あっ、これ、えーとカップがもう一つあったはず。はい、どうぞ」
そういうとキャンパーの少年? は私にコーヒーを差し出してくれた。久々のコーヒー、しかも温かい。何だか涙が出て来た。
私はずっと馬車の中だったけど、足を伸ばして寝れたし朝早く目が覚めたので、ゆっくり朝食も取れたのは良かった。
そうして、またゴトゴトと馬車の旅は続き、途中のお昼休憩はまた、私を除いた彼らだけで昼食を取り、夕方に大きな城壁のある街に着いた。
門で手続きをして身分証の確認をした後、街の中に入ったけどそのまま馬車はどこかの宿屋らしき場所の前に停まると、暫くしてメイドさんが馬車の中に入って来た。手に何やら書類を持っている。
「アンタ、女性が一人で生きていくのは大変だと思うの。だから私の知り合いの所で働けるように紹介してあげる。これはそこで働きますって契約書。そして、こっちは領都まで連れてきてもらいましたって確認書。どちらもアンタの名前と日付を書くだけで良いから。日付はこれの通りに書いて」
そう言ってメイドさんが差し出してきた契約書には『借用書』と『奴隷契約書』と書いてあった。
色々と書いてあるのをササッと急いで流し読みしたところによると、私は彼女に8千万トルほど借りている事になっている。
そして、返せない借金のかたに奴隷契約を結び、借金を返すまでは解放されないらしい。『奴隷契約書』のほうは魔法証書になっていて一度契約すると自動的に拘束されるようになっているみたい。
コワッ!
どうして、私がこの契約書が読めるのかわからない。けどこれも聖女の能力なのかもしれない。
「あの、これは」
「煩いわね。人の親切は黙って受ければいいのよ!」
「いえ、お手数をかけるのは申し訳ないですから」
「せっかく、仕事先を紹介したげるって言ってんのに。じゃぁ、先にこちらの確認書にサインして!」
いえ、いえ、これにサインしたらお終いよね。なんにも悪い事してないのに、いきなり奴隷なんてありえない。字が読めないっと思ってこんな事をしているのだろうけどこれは酷いと思う。これまでの扱いも酷いけど人としてどうかと思うよ。
「あ、あの」
「なによ!」
「お手洗いに行ってもいいですか」
「いいけど、その前にこれにサインして! 急いでいるんだから」
「もう我慢できません。手も震えて来たし、とにかくトイレに行かないとマズイです! 馬車が汚れても良いんですか!」
「えっ? ひょっとして、流石にあの水はまずかった?」
「早く!」
「わかったわよ。こっち」
そういうとメイドさんは私の腕を掴んで宿屋の中に走り込み、「トイレ、借りるわ」と声をかけてからトイレらしき場所に連れて行ってくれた。
「早く、済ませてよ」
「多分、長いです」
「もう、仕方ないわね。終わったらカウンターに声かけて。ご飯、食べているから。薬もあげるし、何か食べさせてあげるわ」
「はい」
私がお腹を壊したのはあの壺に入った水のせいだと思ったみたい。残念。あんな汚そうな水、飲みません。
さて、急いでここから逃げなくては。私は裏口からこっそり宿屋を出ると、そのまま大通りに出た。夕方だけどまだ人通りは多い。見つかるとまずいのでフードを深くかぶりそのまま只管歩いた。入った時とは別の門にたどり着くと、身分証を呈示してそのまま外に出る。
「この時間に出るのか? もうすぐ閉門だから戻っても入れないぞ」
「大丈夫です」
「そうか、気を付けてな」
門番の人は割と親切かもしれない。でも、急いであの連中から逃げないと、何だか変な冤罪とか押し付けてきそう。攻撃手段を持ってない聖女だし、サバイバルにも慣れてないけど、奴隷なんて冗談じゃない。
只管、門を出て進み、最初は歩いていたけど、そのうち早足になり、走れそうだったから走ってしまった。私、今ならマラソンランナーになれるかもしれない。
走って、走って……、そして辺りが真っ暗になったころ、明かりを見つけた。
街道の脇にちょっとした広場があって、水場とトイレがある。あれだけ走ったのにあまり疲れてないのは聖女補正かもしれない。これは助かる。
明かりがついているという事は旅人かもしれない。こっそり足音を消して近寄るとコーヒーの香りがした。コーヒー! この世界にもコーヒーがあるのね。私には飲ませてくれなかったけど、きゃつらは宿屋で飲んでいたのかもしれない。
近づくと、そこにはキャンパーがいて、私を見るとニッコリとして手に持ったカップを持ち上げて見せた。
「やぁやぁ、コンバンワ。良い夜だね。良かったら一緒にコーヒーでもいかが? チョコレートもあるよ」
「ホントに!? 嬉しい。有り難う」
「えっ?! ええっ!? 俺の声が聞こえる?」
「聞こえるわよ」
「本当に!」
「手に持っているのはコーヒーでしょう。もうずっと温かいものに飢えていたの。御馳走してもらえる?」
「いや、ははっ、見えているんだ。俺の事が見えるんだ」
「見えるわよ。コーヒーも見えているし、チョコレートはないみたいだけど」
「はははっ、やったね。俺はちゃんと存在している。あっ、これ、えーとカップがもう一つあったはず。はい、どうぞ」
そういうとキャンパーの少年? は私にコーヒーを差し出してくれた。久々のコーヒー、しかも温かい。何だか涙が出て来た。
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