初恋の行方

サラ

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19. 小話 私はヒロイン(ウンデ視点)

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 あ~あ、もうどのくらい経ったんだろう。
 もう何年も牢屋に入っている。ベッドは木の枠と薄いマットがあるし、毛布も何枚かもらえたから何とか過ごせる。
 最初に入れられた牢屋はなーんにもなくて、お話で出てくるような「ザ・牢屋」だったから耐えられないと思ったけど、人間は順応するものだ。

 何とか過ごしているうちに私は悪くないってのが少しはわかったのか、同じ牢屋でも地下ではなくて塔の3階に移された。結構高い塔の階段をグルグル回って、各階にいくつか部屋があるみたいだけど3階は結構広い部屋だった。
 そこにベッドと机と椅子、水回りは別の一部屋になっていた。トイレがあるのは有難かった。ボットンだったけど。

 後はシャワールームみたいなのがあって、ボタンを押すと水とぬるま湯が出るようになっていた。これは朝と夕方しか使えないそうだけど。食事も最初の牢屋よりは少しマシになってきて、病院食みたいなのが出る。パンとスープと青菜の煮たのに、焼いて塩味がついただけのお肉の塊が時々。
 これ、何のお肉だろう。牢屋に入るまでは食べた事のない肉だけどお肉が食べられるのは嬉しい。

「わーい。今日はベーコンがスープに浮いている。嬉しいなぁ」
「……」
「ねぇ、お兄さん。時々、ううん一度でいいから甘いもの、食べてみたいなぁ~」
「……」
「きっと、しゃべっちゃ、いけないって言われてるんだよね。でもね。ここ、誰も居ないよ」
「……」
「お兄さん、いくつ?」

 食事を持ってくる兵士は多分下っ端。だから、話しかけ続けるときっと反応があると思う。この塔に移されてから辛抱強く話し掛け続けたら、ある日、返事はないんだけど食事のトレーに小さな焼き菓子が乗っていた。

 やったー! 『愛の手助け』がなくても私はヒロインなんだから逆境を乗り越えたらハッピーエンドがくるに違いない。

「お兄さん、今日は良い天気だね。ここは日向ぼっこができるくらい日が差し込んでくるから嬉しいんだ。前はね、真っ暗な地下に居たんだよ。酷いと思わない。私、何にも悪い事なんてしてないのに」
「……」
「でもね。私、負けない。きっとわかってくれる人は居るはずなんだ。いつかきっとここを出て、幸せに、ハッピーエンドになるんだ。私の王子様、どこにいるんだろう。案外、お兄さんが私の王子様だったりしてね。フフッ」

 ちょっと、恥じらいながら可愛らしく笑う。最初は押し付けがましくないように、さり気なさが大事。この兵士、何も話さないけど、前より牢の前にいる滞在時間が長い。きっと、気になってきていると思う。もうゲームは最初からと思って、少しづつ経験値を上げて行かなくては。
 と、地道に努力を続けていた今日この頃、突然の訪問者が来た。

「今日は。ウンデさん」
「誰?」
「初めまして、ですね。私は聖国の神官です。」
「神官! 聖国の! じゃぁ、じゃぁ、私が本当の聖女だってわかったの!」
「……本当の聖女、ですか?」
「ええ、私が神様から選ばれた聖女なのに、リリアージュは魔女なのに皆、騙されているの!」

「貴女が牢に繋がれているのはリリアージュ様を傷つけただけでなく、盗まれた国宝を持っていたからと聞きましたが?」
「国宝なんて知らなかったんだってば。あれは『愛の手助け』っていう主人公のお助けアイテムなのに、何度言っても信じてもらえないのよ!」
「お助けアイテムですか?」
「そうなの、だけど、取り上げられちゃったし、それに『切り裂くナイフ』はどこ行っちゃったんだろう?」

「『切り裂くナイフ』ですか?」
「そうなの。そのナイフがあればリリアージュが魔女だって証明できるのに。あの時は時期が早すぎたの」
「証明、できるのですか?」
「ええ、私は主人公だからリリアージュに十字をつき付ける事で魔女の正体を暴く事ができるのよ」
「……なるほど」

「ねぇ、お願い。私を助けて。無実の罪で捕らわれているの」
「なるほど。私は神官ですから、あなたの救いの為に時々伺います。神は全てを見ています。神に祈りを捧げて下さい」
「ねぇ、いつ助けてくれるの!?」
「また、いずれ……」

 そうして、聖国の神官は去って行ってしまった。何しに来たんだろう? 神官だから焦って助けを求めたけど、魔女に汚染されているこの国では自由に動けないのかもしれない。
 でも、光明は見えてきた。だって、私はヒロインだもの。
 ここから逆転よ!
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