19 / 26
19. 小話 私はヒロイン(ウンデ視点)
しおりを挟む
あ~あ、もうどのくらい経ったんだろう。
もう何年も牢屋に入っている。ベッドは木の枠と薄いマットがあるし、毛布も何枚かもらえたから何とか過ごせる。
最初に入れられた牢屋はなーんにもなくて、お話で出てくるような「ザ・牢屋」だったから耐えられないと思ったけど、人間は順応するものだ。
何とか過ごしているうちに私は悪くないってのが少しはわかったのか、同じ牢屋でも地下ではなくて塔の3階に移された。結構高い塔の階段をグルグル回って、各階にいくつか部屋があるみたいだけど3階は結構広い部屋だった。
そこにベッドと机と椅子、水回りは別の一部屋になっていた。トイレがあるのは有難かった。ボットンだったけど。
後はシャワールームみたいなのがあって、ボタンを押すと水とぬるま湯が出るようになっていた。これは朝と夕方しか使えないそうだけど。食事も最初の牢屋よりは少しマシになってきて、病院食みたいなのが出る。パンとスープと青菜の煮たのに、焼いて塩味がついただけのお肉の塊が時々。
これ、何のお肉だろう。牢屋に入るまでは食べた事のない肉だけどお肉が食べられるのは嬉しい。
「わーい。今日はベーコンがスープに浮いている。嬉しいなぁ」
「……」
「ねぇ、お兄さん。時々、ううん一度でいいから甘いもの、食べてみたいなぁ~」
「……」
「きっと、しゃべっちゃ、いけないって言われてるんだよね。でもね。ここ、誰も居ないよ」
「……」
「お兄さん、いくつ?」
食事を持ってくる兵士は多分下っ端。だから、話しかけ続けるときっと反応があると思う。この塔に移されてから辛抱強く話し掛け続けたら、ある日、返事はないんだけど食事のトレーに小さな焼き菓子が乗っていた。
やったー! 『愛の手助け』がなくても私はヒロインなんだから逆境を乗り越えたらハッピーエンドがくるに違いない。
「お兄さん、今日は良い天気だね。ここは日向ぼっこができるくらい日が差し込んでくるから嬉しいんだ。前はね、真っ暗な地下に居たんだよ。酷いと思わない。私、何にも悪い事なんてしてないのに」
「……」
「でもね。私、負けない。きっとわかってくれる人は居るはずなんだ。いつかきっとここを出て、幸せに、ハッピーエンドになるんだ。私の王子様、どこにいるんだろう。案外、お兄さんが私の王子様だったりしてね。フフッ」
ちょっと、恥じらいながら可愛らしく笑う。最初は押し付けがましくないように、さり気なさが大事。この兵士、何も話さないけど、前より牢の前にいる滞在時間が長い。きっと、気になってきていると思う。もうゲームは最初からと思って、少しづつ経験値を上げて行かなくては。
と、地道に努力を続けていた今日この頃、突然の訪問者が来た。
「今日は。ウンデさん」
「誰?」
「初めまして、ですね。私は聖国の神官です。」
「神官! 聖国の! じゃぁ、じゃぁ、私が本当の聖女だってわかったの!」
「……本当の聖女、ですか?」
「ええ、私が神様から選ばれた聖女なのに、リリアージュは魔女なのに皆、騙されているの!」
「貴女が牢に繋がれているのはリリアージュ様を傷つけただけでなく、盗まれた国宝を持っていたからと聞きましたが?」
「国宝なんて知らなかったんだってば。あれは『愛の手助け』っていう主人公のお助けアイテムなのに、何度言っても信じてもらえないのよ!」
「お助けアイテムですか?」
「そうなの、だけど、取り上げられちゃったし、それに『切り裂くナイフ』はどこ行っちゃったんだろう?」
「『切り裂くナイフ』ですか?」
「そうなの。そのナイフがあればリリアージュが魔女だって証明できるのに。あの時は時期が早すぎたの」
「証明、できるのですか?」
「ええ、私は主人公だからリリアージュに十字をつき付ける事で魔女の正体を暴く事ができるのよ」
「……なるほど」
「ねぇ、お願い。私を助けて。無実の罪で捕らわれているの」
「なるほど。私は神官ですから、あなたの救いの為に時々伺います。神は全てを見ています。神に祈りを捧げて下さい」
「ねぇ、いつ助けてくれるの!?」
「また、いずれ……」
そうして、聖国の神官は去って行ってしまった。何しに来たんだろう? 神官だから焦って助けを求めたけど、魔女に汚染されているこの国では自由に動けないのかもしれない。
でも、光明は見えてきた。だって、私はヒロインだもの。
ここから逆転よ!
もう何年も牢屋に入っている。ベッドは木の枠と薄いマットがあるし、毛布も何枚かもらえたから何とか過ごせる。
最初に入れられた牢屋はなーんにもなくて、お話で出てくるような「ザ・牢屋」だったから耐えられないと思ったけど、人間は順応するものだ。
何とか過ごしているうちに私は悪くないってのが少しはわかったのか、同じ牢屋でも地下ではなくて塔の3階に移された。結構高い塔の階段をグルグル回って、各階にいくつか部屋があるみたいだけど3階は結構広い部屋だった。
そこにベッドと机と椅子、水回りは別の一部屋になっていた。トイレがあるのは有難かった。ボットンだったけど。
後はシャワールームみたいなのがあって、ボタンを押すと水とぬるま湯が出るようになっていた。これは朝と夕方しか使えないそうだけど。食事も最初の牢屋よりは少しマシになってきて、病院食みたいなのが出る。パンとスープと青菜の煮たのに、焼いて塩味がついただけのお肉の塊が時々。
これ、何のお肉だろう。牢屋に入るまでは食べた事のない肉だけどお肉が食べられるのは嬉しい。
「わーい。今日はベーコンがスープに浮いている。嬉しいなぁ」
「……」
「ねぇ、お兄さん。時々、ううん一度でいいから甘いもの、食べてみたいなぁ~」
「……」
「きっと、しゃべっちゃ、いけないって言われてるんだよね。でもね。ここ、誰も居ないよ」
「……」
「お兄さん、いくつ?」
食事を持ってくる兵士は多分下っ端。だから、話しかけ続けるときっと反応があると思う。この塔に移されてから辛抱強く話し掛け続けたら、ある日、返事はないんだけど食事のトレーに小さな焼き菓子が乗っていた。
やったー! 『愛の手助け』がなくても私はヒロインなんだから逆境を乗り越えたらハッピーエンドがくるに違いない。
「お兄さん、今日は良い天気だね。ここは日向ぼっこができるくらい日が差し込んでくるから嬉しいんだ。前はね、真っ暗な地下に居たんだよ。酷いと思わない。私、何にも悪い事なんてしてないのに」
「……」
「でもね。私、負けない。きっとわかってくれる人は居るはずなんだ。いつかきっとここを出て、幸せに、ハッピーエンドになるんだ。私の王子様、どこにいるんだろう。案外、お兄さんが私の王子様だったりしてね。フフッ」
ちょっと、恥じらいながら可愛らしく笑う。最初は押し付けがましくないように、さり気なさが大事。この兵士、何も話さないけど、前より牢の前にいる滞在時間が長い。きっと、気になってきていると思う。もうゲームは最初からと思って、少しづつ経験値を上げて行かなくては。
と、地道に努力を続けていた今日この頃、突然の訪問者が来た。
「今日は。ウンデさん」
「誰?」
「初めまして、ですね。私は聖国の神官です。」
「神官! 聖国の! じゃぁ、じゃぁ、私が本当の聖女だってわかったの!」
「……本当の聖女、ですか?」
「ええ、私が神様から選ばれた聖女なのに、リリアージュは魔女なのに皆、騙されているの!」
「貴女が牢に繋がれているのはリリアージュ様を傷つけただけでなく、盗まれた国宝を持っていたからと聞きましたが?」
「国宝なんて知らなかったんだってば。あれは『愛の手助け』っていう主人公のお助けアイテムなのに、何度言っても信じてもらえないのよ!」
「お助けアイテムですか?」
「そうなの、だけど、取り上げられちゃったし、それに『切り裂くナイフ』はどこ行っちゃったんだろう?」
「『切り裂くナイフ』ですか?」
「そうなの。そのナイフがあればリリアージュが魔女だって証明できるのに。あの時は時期が早すぎたの」
「証明、できるのですか?」
「ええ、私は主人公だからリリアージュに十字をつき付ける事で魔女の正体を暴く事ができるのよ」
「……なるほど」
「ねぇ、お願い。私を助けて。無実の罪で捕らわれているの」
「なるほど。私は神官ですから、あなたの救いの為に時々伺います。神は全てを見ています。神に祈りを捧げて下さい」
「ねぇ、いつ助けてくれるの!?」
「また、いずれ……」
そうして、聖国の神官は去って行ってしまった。何しに来たんだろう? 神官だから焦って助けを求めたけど、魔女に汚染されているこの国では自由に動けないのかもしれない。
でも、光明は見えてきた。だって、私はヒロインだもの。
ここから逆転よ!
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

さようなら、あなたとはもうお別れです
四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。
幸せになれると思っていた。
そう夢みていたのだ。
しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。

エデルガルトの幸せ
よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。
学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。
彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。
全5話。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる