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5.後編2
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20歳を過ぎたらもう大人……のような気がする。この国では18歳が成人なんだけど何となく20歳まではお酒も飲むのが憚られて、これまでは飲まなかった。
「リリアージュ、誕生日おめでとう」
「おめでとう。リリアージュ。そろそろお酒を飲んで見るかい?」
「ありがとう、お父様にお母様、お兄様。そうね、ちょっとだけ飲んで見ようかしら」
「おおっー、やっとか。これは領地から取り寄せたのだが、リリアージュが教えてくれたやり方で作ったとても美味い酒だ」
「まあ、ありがとうございます」
渡されたお酒はシュワシュワと綺麗な泡が立ち、とても美味しかった。
頭の中に浮かんできたやり方でお酒を造ってほしいとお願いした時は不思議そうな顔をされたけど、あの時は何でも聞いてもらえる雰囲気だったので、お父様が私の為のお酒工房を作って下さったのだった。
まさか、工房までつくって本格的にするとは思わなかったけれど、そのおかげで美味しい泡のお酒、シャンパンが飲めるようになったのは良かったと思う。と言っても、私がほんの少しの味見以外に飲むのはこれが初めて。
初めてのお酒、シャンパン……美味しい。
「リリアージュは年々、綺麗になるような気がするな」
「まぁ、そんな」
「いや、リリアージュが考案した化粧水のおかげかもしれない」
「本当にリリアージュが考え付くものは貴重だ。この国の発展にも役立っている」
「まぁ、そう言っていただくと嬉しいですわ。ただ、私の欲しいものが形になっただけですけど」
「それがこれまで誰も考え付かなかったものだから素晴らしいんだ」
家族から褒められて気恥ずかしかった。
何となくこんなのがあったらいいな、と思うと頭の中に欲しいモノの設計図みたいなのが浮かんできて、材料も分かるし作り方も分かる。これは神様からの贈り物かもしれない。私は恵まれている。だからこれ以上望んではいけないのかもしれない。
7月7日、今日は私の誕生日。
この日は会いたい人に会える気がする。そんな気がしたんだけど、結局一目、見る事もかなわず普通に家族から誕生日をお祝いされて終わってしまった。
夜、そーっと秘密の本を開く。
本の中をくりぬいて小さな鍵が付いている私の宝物。その中にはカンジーン様の制服のボタンが入っている。
彼の袖のボタンが取れかかっているのを見つけて、本当は教えて縫い付けてあげたら良かったんだけど、言えなくてそのまま落ちてしまったボタンを渡さなくては、と持っているうちに新しいボタンが付いているのを見て、そのまま貰ってしまった。
それと彼の手書きの申請書。処理済の書類の中に入っていたのを偶然見つけて拾い上げた。そして、こっそり持って帰ってしまった。
カンジーン様のボタンと手書きの文字……。見ているだけで彼の笑顔が浮かんできて胸が苦しい。
あの時、勇気がなくて何も言えなかったけど、嫌われてはなかったと思う。
思い切って手紙を書いてみようか、と思いつつご迷惑になってはと躊躇してこの日にいたっている。
どうぞ、カンジーン様が無事でつつがなくお過ごしくださるように、と神様にお祈りしておく。
接点はないけれど、彼のおかれている状況がわかるこのお仕事が有難い、と思う。
今は正式に宰相補佐という役職でお給料もかなり貰っている。
発明と言うか思いついたモノの販売で個人的な資産もかなり多い。これから先、一人でも生きていけると思う。
以前、天使の焼き菓子は孤児院で販売していたけれど、今は王都に店舗を構えて焼き菓子だけでなくケーキや各種お菓子を扱う人気店となっている。孤児院には支店と言う形で焼き菓子だけ常時おいてもらっているけれど、お店の店員は孤児院出身者を雇っているので雇用の確保という点では助かっている。
あれからずっと私の日常は変わらない。平穏に日々が過ぎていく。
「まさか本当ですか?」
「ああ、まさかの宣戦布告だ」
「どうして、急に」
「国王が倒れて、好戦派の第3王子が軍部を押さえたらしい。王太子と第2王子の生死はわからない」
「それでどうして戦争に?」
「どうも国境の鉱山がほしいらしい。これから軍事国家を作るために鉱山がいくつもある国境の町を手に入れておきたいんだろう」
宰相であるお父様はため息をついた。隣国のクラーン国はこれまでは普通に付き合いのある穏やかな国だったのに、第3王子が権力を握ったとたんに野心をむき出しにした危険な国となってしまった。
「第3王子……」
「3番目の王子と言うのは何か鬱屈したモノがあるのかもしれないな」
「そう、ですね」
「うちの第3王子は洗脳もすっかり解けて、心を入れ替えたようにみえるが」
「そう、ですね」
「リリアージュに直接、謝りたいと言っていた」
「お父様、それは」
「わかっている。会いたくないよな」
「ええ……」
「一応、一応だが、もしリリアージュさえ良ければ王子妃として迎えたいとの話も」
「お父様!」
「おちろん、断った」
「なら、いいです。私、結婚はしません」
「それは……そうだよな。うん。もちろん、ずっと結婚なんてしなくていいとも」
お父様はちょっと嬉しそうだった。女性は結婚すべき、だとは思っているけど、私は傷物なので無理に結婚を勧めなくていい。複雑だけど内心は嬉しいのだと以前言っていたのを聞いたので、お嫁に行かせたくないとうのはお父様の本音なのだと思う。
それよりも、戦争! これまで何十年も戦争なんて起こった事はない。もし戦争となったら騎士たちは戦争に駆り出され、つまり、これまで魔獣討伐で功績を上げ続けてきたカンジーン様も、もちろん戦争に行かれる事になる。
カンジーン様、魔獣討伐の功績でもうすぐ準男爵になるはずだったのに……。
どうしよう。戦争にいかれてもしもの事があったら、……。
どうぞ、カンジーン様、無事でいて下さい。
遠くで祈るしかできないのが悲しい。
「リリアージュ、誕生日おめでとう」
「おめでとう。リリアージュ。そろそろお酒を飲んで見るかい?」
「ありがとう、お父様にお母様、お兄様。そうね、ちょっとだけ飲んで見ようかしら」
「おおっー、やっとか。これは領地から取り寄せたのだが、リリアージュが教えてくれたやり方で作ったとても美味い酒だ」
「まあ、ありがとうございます」
渡されたお酒はシュワシュワと綺麗な泡が立ち、とても美味しかった。
頭の中に浮かんできたやり方でお酒を造ってほしいとお願いした時は不思議そうな顔をされたけど、あの時は何でも聞いてもらえる雰囲気だったので、お父様が私の為のお酒工房を作って下さったのだった。
まさか、工房までつくって本格的にするとは思わなかったけれど、そのおかげで美味しい泡のお酒、シャンパンが飲めるようになったのは良かったと思う。と言っても、私がほんの少しの味見以外に飲むのはこれが初めて。
初めてのお酒、シャンパン……美味しい。
「リリアージュは年々、綺麗になるような気がするな」
「まぁ、そんな」
「いや、リリアージュが考案した化粧水のおかげかもしれない」
「本当にリリアージュが考え付くものは貴重だ。この国の発展にも役立っている」
「まぁ、そう言っていただくと嬉しいですわ。ただ、私の欲しいものが形になっただけですけど」
「それがこれまで誰も考え付かなかったものだから素晴らしいんだ」
家族から褒められて気恥ずかしかった。
何となくこんなのがあったらいいな、と思うと頭の中に欲しいモノの設計図みたいなのが浮かんできて、材料も分かるし作り方も分かる。これは神様からの贈り物かもしれない。私は恵まれている。だからこれ以上望んではいけないのかもしれない。
7月7日、今日は私の誕生日。
この日は会いたい人に会える気がする。そんな気がしたんだけど、結局一目、見る事もかなわず普通に家族から誕生日をお祝いされて終わってしまった。
夜、そーっと秘密の本を開く。
本の中をくりぬいて小さな鍵が付いている私の宝物。その中にはカンジーン様の制服のボタンが入っている。
彼の袖のボタンが取れかかっているのを見つけて、本当は教えて縫い付けてあげたら良かったんだけど、言えなくてそのまま落ちてしまったボタンを渡さなくては、と持っているうちに新しいボタンが付いているのを見て、そのまま貰ってしまった。
それと彼の手書きの申請書。処理済の書類の中に入っていたのを偶然見つけて拾い上げた。そして、こっそり持って帰ってしまった。
カンジーン様のボタンと手書きの文字……。見ているだけで彼の笑顔が浮かんできて胸が苦しい。
あの時、勇気がなくて何も言えなかったけど、嫌われてはなかったと思う。
思い切って手紙を書いてみようか、と思いつつご迷惑になってはと躊躇してこの日にいたっている。
どうぞ、カンジーン様が無事でつつがなくお過ごしくださるように、と神様にお祈りしておく。
接点はないけれど、彼のおかれている状況がわかるこのお仕事が有難い、と思う。
今は正式に宰相補佐という役職でお給料もかなり貰っている。
発明と言うか思いついたモノの販売で個人的な資産もかなり多い。これから先、一人でも生きていけると思う。
以前、天使の焼き菓子は孤児院で販売していたけれど、今は王都に店舗を構えて焼き菓子だけでなくケーキや各種お菓子を扱う人気店となっている。孤児院には支店と言う形で焼き菓子だけ常時おいてもらっているけれど、お店の店員は孤児院出身者を雇っているので雇用の確保という点では助かっている。
あれからずっと私の日常は変わらない。平穏に日々が過ぎていく。
「まさか本当ですか?」
「ああ、まさかの宣戦布告だ」
「どうして、急に」
「国王が倒れて、好戦派の第3王子が軍部を押さえたらしい。王太子と第2王子の生死はわからない」
「それでどうして戦争に?」
「どうも国境の鉱山がほしいらしい。これから軍事国家を作るために鉱山がいくつもある国境の町を手に入れておきたいんだろう」
宰相であるお父様はため息をついた。隣国のクラーン国はこれまでは普通に付き合いのある穏やかな国だったのに、第3王子が権力を握ったとたんに野心をむき出しにした危険な国となってしまった。
「第3王子……」
「3番目の王子と言うのは何か鬱屈したモノがあるのかもしれないな」
「そう、ですね」
「うちの第3王子は洗脳もすっかり解けて、心を入れ替えたようにみえるが」
「そう、ですね」
「リリアージュに直接、謝りたいと言っていた」
「お父様、それは」
「わかっている。会いたくないよな」
「ええ……」
「一応、一応だが、もしリリアージュさえ良ければ王子妃として迎えたいとの話も」
「お父様!」
「おちろん、断った」
「なら、いいです。私、結婚はしません」
「それは……そうだよな。うん。もちろん、ずっと結婚なんてしなくていいとも」
お父様はちょっと嬉しそうだった。女性は結婚すべき、だとは思っているけど、私は傷物なので無理に結婚を勧めなくていい。複雑だけど内心は嬉しいのだと以前言っていたのを聞いたので、お嫁に行かせたくないとうのはお父様の本音なのだと思う。
それよりも、戦争! これまで何十年も戦争なんて起こった事はない。もし戦争となったら騎士たちは戦争に駆り出され、つまり、これまで魔獣討伐で功績を上げ続けてきたカンジーン様も、もちろん戦争に行かれる事になる。
カンジーン様、魔獣討伐の功績でもうすぐ準男爵になるはずだったのに……。
どうしよう。戦争にいかれてもしもの事があったら、……。
どうぞ、カンジーン様、無事でいて下さい。
遠くで祈るしかできないのが悲しい。
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