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Ⅱ-165 ネフロス国9
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■ネフロス国 鉱山
鬼はこのミッドランドやドリーミアに人族が増える前の太古の時代に生息していた。体高は3メートルから大きなものは5メートルで、強靭な肉体に俊敏性を兼ね備え炎を操ることのできる種族だった。人族が洞窟などで暮らしていたころから人肉を好んで喰い、人にとって天敵の一つだった。だが、やがて人族が増加すると鬼の一族はすぐに滅んでしまった。
それは人族が強くなったからでは無く、単純に生殖能力と免疫の問題だった。鬼の寿命は100年から200年程度で人族よりも長寿だったが、その寿命の中で産む子供の数は1~2と非常に少ない。人族が30年から40年の間に3~5の子供を産むのに対して圧倒的に少なかったのだ。それに人族は人口が増加するにつれて活動圏を大きく広げて行った。そして活動圏の広がりは生物に害をなす様々な病原菌の移動も引き起こした。中には人族でさえ滅ぼしかねない大流行を起こした病原菌もあったが、人族はその人口の多さで抵抗力のある種が生き残り、鬼族はその個体数の少なさゆえに滅んでしまったのだ。
鬼の血を飲んで鬼人化した兵士達は鬼の個体よりは小さく体高2メートル程だったが、強靭な肉体と俊敏性、それに炎を操る能力はそのまま受け継いでいた。透き通るような高熱の青い炎を猿に向けて放ち、炎に立ちすくんでいる体の急所を爪で切り裂いた。迸る血潮に飢餓感が襲ってきたが、食事は狩りの後と本能が教えてくれた。
-次の獲物は・・・、あそこか!
木の柵がある方向へ逃げる猿を見つけて炎を放ち、火の中で悶える猿に向けて駆け寄る。密林から開けた空き地のような場所へ飛び出したところで、体が後方へ弾けとんだ。
-一体何が?
「お前達! 走り続けろ!」
サトルは青い炎に包まれる猿人たちに、装甲車から拡声器で指示をだした。敵の炎魔法はサリナの火炎風と違ってその場所で燃えているだけだ。走れば炎がついて来るわけでは無い。だが、猿人たちはその場に立ちすくんで炎を引きはがすかのように悶えているだけだった。走り続けた猿人は炎に一瞬包まれても、すぐに炎から抜け出して体毛が少し焦げた程度で済んでいる。
サリナは砲塔の中から走って来る猿人と青い炎、そしてその後ろの“赤く大きいの”を見て、サトルの指示を待たずに主砲を発射した。練習の成果もあり、狙い通りに胸の中心へ35mm機関砲がさく裂して、上半身を破壊しながら相手を吹き飛ばした。
「良いぞ!サリナ! どんどんやれ!」
「うん! 任せてよ!」
サトルに褒められてご機嫌になったサリナは次のターゲットを求めて砲塔を回転させた。
-居た!
”赤い大きなの”が左から現れた。すぐに照準を合わせようとしたが、あっという間に視界から消えて行った。
「サトル! 早くて狙いがつけられない!」
「やっぱりそうか、人型の魔獣みたいだけど、ゴーレムとは比べ物にならない速さだ。装甲車の武器じゃ戦いにくいかもしれないな・・・、よし、一度後退する。サリナは機銃を森の方に向けて掃射してくれ!」
「わかった!」
装甲戦闘車のギアをリバースにして、アクセルを全開にして後退した。キャタピラが土と砦の残骸を踏みつぶしながら鉱山の入り口付近まで車両を戻した。俺の目には敵がちらちらと見えていたが、左右にステップしながら素早くミーシャの銃弾をかわして・・・いない。ミーシャは砲塔の上から身を乗り出してアサルトライフルで7.62㎜弾を胸のあたりに叩き込んでいるのだが、相手は全く動じていない。
「ミーシャ、どうなっているんだ?」
「うん、死人の兵士と同じじゃないかな?それに、すぐに傷がふさがっているようだ。サリナが最初に撃ったやつはまだ倒れているが、私が撃っている2匹は当たっても平気みたいだ。当たると木の陰に隠れるがすぐに出て来る」
「そうか、じゃあ大きい方に変えるか?」
「そうだな・・・、だが、そうすると相手の動きについて行けないかもしれないな」
さすがのミーシャ様も動きの速い相手を50口径の対物ライフルで追い回すのは難しいようだった。
「じゃあ、相手の動きを止めてミーシャの射線に入るようにするよ。爆薬を用意するから、それまではその銃で相手を追い払っておいてくれ」
「了解した」
「サリナも当たらなくていいから、撃ち続けろ」
「はーい♪」
緊張感の無いサリナの返事を聞いてから、ドローンを2機取り出して上空へ飛ばした。鬼の動きは早いがおおよその位置は掴めている。二人は近寄って来ないように右にいる方をサリナが、左にいる方をミーシャが分担して撃っている。サリナが撃っている方は警戒しながらもこちらへ少しづつ近づきつつあった。
「ミーシャ! 右の方から行くからな。1.2.3で吹き飛ばすぞ!銃を持ち替えてくれ!」
「了解だ!」
ドローンをそれぞれの鬼の後方に着陸させて、右のドローンに搭載した10kgのC4爆薬にセットした雷管へ信号を送るリモコンを握った。
「1.2.さーん!」
-ドグォォオーン!
爆音と爆風が吹き荒れて、右側の奴がこっち向かって飛んできた。ミーシャは素早くトリガーを引いて首筋に3発の銃弾を叩き込んだ。頭部が千切れかかったところで、俺は相手の正体がようやくわかった。
-鬼だったのか・・・、それも不死の鬼だな。
「よし、もう一丁! 1.2.さーん!」
左に居た鬼も最初の爆発で態勢を崩していたところへ横から爆風を受けて地面を転がった。ミーシャは砲塔から身を乗り出して、対物ライフルの銃弾を首筋から背中に向けて5発撃ちこんだ。銃弾が当たるたびに鬼の体が弾かれたように震えている。
「良し!トドメを刺しに行くぞ。念のために周囲を警戒してくれ!」
「はーい♪」
「了解した」
ギアを前進に入れてフルスロットルで左側の鬼が倒れているところへ装甲戦闘車で突っ込んで行く。トドメはこの30トン近い重量を誇る車両のキャタピラを使った。キャタピラで踏まれ、潰され、肉も骨もズタズタに崩されて行く。1匹、2匹、3匹目は最初に主砲で倒した鬼だったが、恐ろしいことに胸の大部分を破壊されても立ち上がって来ようとしていた。だが、結局は先の2匹と同じようにミンチ状になって地面と一体化した。
3匹が立ち上がれないことを確認できたので、車両から飛び降りてストレージに3匹とも格納する。不死で再生能力のある鬼だが、俺のストレージに入れておけば現状維持で復活するリスクはゼロだった。
「ミーシャ、もう大丈夫かな?」
「うん・・・、大丈夫みたいだな。他には居ないと思うぞ」
「そうか、じゃあ逃げている猿人たちを呼び戻そうか。・・・おーい! 無事な奴は戻って来いよー!」
大きな声で猿人たちを呼んでから、装甲戦闘車を鉱山前に戻して猿人たちの帰還を待つことにした。もちろん、怖がって戻って来ない可能性もあるが、それを咎めるつもりは全くない。俺だってあんな牙や角がある化け物相手に鉄の棒で戦うのは絶対お断りだ。銃があっても怖いぐらいなのだから。
-動きの速い相手・・・、対策が必要かもな。
猿人の戻りを待ちながら、小道具をいくつか作る準備を始めることにした。
鬼はこのミッドランドやドリーミアに人族が増える前の太古の時代に生息していた。体高は3メートルから大きなものは5メートルで、強靭な肉体に俊敏性を兼ね備え炎を操ることのできる種族だった。人族が洞窟などで暮らしていたころから人肉を好んで喰い、人にとって天敵の一つだった。だが、やがて人族が増加すると鬼の一族はすぐに滅んでしまった。
それは人族が強くなったからでは無く、単純に生殖能力と免疫の問題だった。鬼の寿命は100年から200年程度で人族よりも長寿だったが、その寿命の中で産む子供の数は1~2と非常に少ない。人族が30年から40年の間に3~5の子供を産むのに対して圧倒的に少なかったのだ。それに人族は人口が増加するにつれて活動圏を大きく広げて行った。そして活動圏の広がりは生物に害をなす様々な病原菌の移動も引き起こした。中には人族でさえ滅ぼしかねない大流行を起こした病原菌もあったが、人族はその人口の多さで抵抗力のある種が生き残り、鬼族はその個体数の少なさゆえに滅んでしまったのだ。
鬼の血を飲んで鬼人化した兵士達は鬼の個体よりは小さく体高2メートル程だったが、強靭な肉体と俊敏性、それに炎を操る能力はそのまま受け継いでいた。透き通るような高熱の青い炎を猿に向けて放ち、炎に立ちすくんでいる体の急所を爪で切り裂いた。迸る血潮に飢餓感が襲ってきたが、食事は狩りの後と本能が教えてくれた。
-次の獲物は・・・、あそこか!
木の柵がある方向へ逃げる猿を見つけて炎を放ち、火の中で悶える猿に向けて駆け寄る。密林から開けた空き地のような場所へ飛び出したところで、体が後方へ弾けとんだ。
-一体何が?
「お前達! 走り続けろ!」
サトルは青い炎に包まれる猿人たちに、装甲車から拡声器で指示をだした。敵の炎魔法はサリナの火炎風と違ってその場所で燃えているだけだ。走れば炎がついて来るわけでは無い。だが、猿人たちはその場に立ちすくんで炎を引きはがすかのように悶えているだけだった。走り続けた猿人は炎に一瞬包まれても、すぐに炎から抜け出して体毛が少し焦げた程度で済んでいる。
サリナは砲塔の中から走って来る猿人と青い炎、そしてその後ろの“赤く大きいの”を見て、サトルの指示を待たずに主砲を発射した。練習の成果もあり、狙い通りに胸の中心へ35mm機関砲がさく裂して、上半身を破壊しながら相手を吹き飛ばした。
「良いぞ!サリナ! どんどんやれ!」
「うん! 任せてよ!」
サトルに褒められてご機嫌になったサリナは次のターゲットを求めて砲塔を回転させた。
-居た!
”赤い大きなの”が左から現れた。すぐに照準を合わせようとしたが、あっという間に視界から消えて行った。
「サトル! 早くて狙いがつけられない!」
「やっぱりそうか、人型の魔獣みたいだけど、ゴーレムとは比べ物にならない速さだ。装甲車の武器じゃ戦いにくいかもしれないな・・・、よし、一度後退する。サリナは機銃を森の方に向けて掃射してくれ!」
「わかった!」
装甲戦闘車のギアをリバースにして、アクセルを全開にして後退した。キャタピラが土と砦の残骸を踏みつぶしながら鉱山の入り口付近まで車両を戻した。俺の目には敵がちらちらと見えていたが、左右にステップしながら素早くミーシャの銃弾をかわして・・・いない。ミーシャは砲塔の上から身を乗り出してアサルトライフルで7.62㎜弾を胸のあたりに叩き込んでいるのだが、相手は全く動じていない。
「ミーシャ、どうなっているんだ?」
「うん、死人の兵士と同じじゃないかな?それに、すぐに傷がふさがっているようだ。サリナが最初に撃ったやつはまだ倒れているが、私が撃っている2匹は当たっても平気みたいだ。当たると木の陰に隠れるがすぐに出て来る」
「そうか、じゃあ大きい方に変えるか?」
「そうだな・・・、だが、そうすると相手の動きについて行けないかもしれないな」
さすがのミーシャ様も動きの速い相手を50口径の対物ライフルで追い回すのは難しいようだった。
「じゃあ、相手の動きを止めてミーシャの射線に入るようにするよ。爆薬を用意するから、それまではその銃で相手を追い払っておいてくれ」
「了解した」
「サリナも当たらなくていいから、撃ち続けろ」
「はーい♪」
緊張感の無いサリナの返事を聞いてから、ドローンを2機取り出して上空へ飛ばした。鬼の動きは早いがおおよその位置は掴めている。二人は近寄って来ないように右にいる方をサリナが、左にいる方をミーシャが分担して撃っている。サリナが撃っている方は警戒しながらもこちらへ少しづつ近づきつつあった。
「ミーシャ! 右の方から行くからな。1.2.3で吹き飛ばすぞ!銃を持ち替えてくれ!」
「了解だ!」
ドローンをそれぞれの鬼の後方に着陸させて、右のドローンに搭載した10kgのC4爆薬にセットした雷管へ信号を送るリモコンを握った。
「1.2.さーん!」
-ドグォォオーン!
爆音と爆風が吹き荒れて、右側の奴がこっち向かって飛んできた。ミーシャは素早くトリガーを引いて首筋に3発の銃弾を叩き込んだ。頭部が千切れかかったところで、俺は相手の正体がようやくわかった。
-鬼だったのか・・・、それも不死の鬼だな。
「よし、もう一丁! 1.2.さーん!」
左に居た鬼も最初の爆発で態勢を崩していたところへ横から爆風を受けて地面を転がった。ミーシャは砲塔から身を乗り出して、対物ライフルの銃弾を首筋から背中に向けて5発撃ちこんだ。銃弾が当たるたびに鬼の体が弾かれたように震えている。
「良し!トドメを刺しに行くぞ。念のために周囲を警戒してくれ!」
「はーい♪」
「了解した」
ギアを前進に入れてフルスロットルで左側の鬼が倒れているところへ装甲戦闘車で突っ込んで行く。トドメはこの30トン近い重量を誇る車両のキャタピラを使った。キャタピラで踏まれ、潰され、肉も骨もズタズタに崩されて行く。1匹、2匹、3匹目は最初に主砲で倒した鬼だったが、恐ろしいことに胸の大部分を破壊されても立ち上がって来ようとしていた。だが、結局は先の2匹と同じようにミンチ状になって地面と一体化した。
3匹が立ち上がれないことを確認できたので、車両から飛び降りてストレージに3匹とも格納する。不死で再生能力のある鬼だが、俺のストレージに入れておけば現状維持で復活するリスクはゼロだった。
「ミーシャ、もう大丈夫かな?」
「うん・・・、大丈夫みたいだな。他には居ないと思うぞ」
「そうか、じゃあ逃げている猿人たちを呼び戻そうか。・・・おーい! 無事な奴は戻って来いよー!」
大きな声で猿人たちを呼んでから、装甲戦闘車を鉱山前に戻して猿人たちの帰還を待つことにした。もちろん、怖がって戻って来ない可能性もあるが、それを咎めるつもりは全くない。俺だってあんな牙や角がある化け物相手に鉄の棒で戦うのは絶対お断りだ。銃があっても怖いぐらいなのだから。
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