295 / 343
Ⅱ-134 勇者一族の役割
しおりを挟む
■神殿上部
俺達は舷側が高い小型のプレジャーボートに乗り換えて巨大な鷹が出てきた岩穴へと舞い戻った。入り口付近へ対戦車ロケットAT4の榴弾を3発叩き込んで、塞いであった岩を粉砕して中へと進もうとしたのだが・・・。
「ここは・・・」
「・・・臭い!」
「死臭ですね」
船を横付けして入り口へ立っただけでも中から吹き出す死臭と不気味な雰囲気で腰が引けてしまう。ママさんが言う死臭の元を想像すると足がすくむが、ミーシャの綺麗な顔を思い起こして少しだけ中へと入ってみた。外からの明かりで見えるのは20メートルぐらい先までだが、通路はだんだんと大きくなっていて光が届くぎりぎりのところは天井が3メートルぐらいはありそうだ。通路が大きいのは歩きやすい・・・が、大きな敵が出てくることになる可能性がある。
「サリナ、あの先に炎で明かりを出してくれ」
「うん、わかった! ふぁいあ」
サリナはロッドも使わずに軽い調子で炎を出そうとした。しかし、意図した場所には何の炎も生まれなかった。
「あれ? どうしてかな・・・、ふぁいあ!」
今度はロッドで示しながら炎を出そうとした、それでも結果は同じだった。
「えー!? 出来ない! なんで!? そんなぁ・・・」
「結界ですね」
「結界? ここでは魔法は使えないのですか?」
「おそらくは・・・、あらかじめ封じ込まれた魔法だけが発動するようになっているのだと思います」
「あらかじめ・・・、どんな魔法が発動するんでしょうか?」
「それは判りませんが、土魔法や炎魔法の仕掛けがあると思った方が良いでしょう」
「・・・」
これは想定外だった。結局のところ、サリナやママさんの魔法があることに安心しきっていたのが正直なところだ。俺の銃よりもはるかに破壊力のある魔法や多少の怪我ならすぐに治療できる魔法・・・、そういったものがある事を前提に戦おうとしていたのに。しかし、先へ進まないとミーシャを助けることが出来ない。魔法の使えない二人を連れて行くよりは・・・。
「判りました。二人は地上で待っていてください。魔法が使えないなら危険ですから」
「ダメだよ! サリナはサトルと一緒に行くんだから!」
「だけど、魔法の使えないお前を守りながら進むのは面倒だ」
「そんなぁ・・・」
ちょっときつめに言うとサリナは泣きそうな顔で俺を見上げているが、自分の身を守れるかも不安な状況でサリナやママさんまでカバーする余裕が無いのは本音だった。
「でも、最初の洞窟の時だって頑張ったよ! あの時は今みたいに魔法が使えなかったけど・・・後ろを見たり明かりをつけたりは出来るもん!」
「・・・」
確かにサリナの言う通りだったかもしれないが、あの時相手にしていたのは獣-魔獣だったから、飛び道具と距離さえあれば勝てる自信があった。今回の敵は人-少なくとも人の知恵を持ったやつが相手で、この洞窟には仕掛けだらけだと言う。敵にとっては的が多い方が狙いやすい筈だろう。やはり、連れて行くのはリスクが高い。そう判断して地上へ戻ろうと決めたところでママさんが冷やかに告げた。
「私は降りませんよ。あなたについて行きます」
「いや、でも、魔法が使えないなら、敵の的になるだけですよ」
「何か勘違いをしているようですね。私は勇者の一族です。使えるのは魔法だけではありません、剣も体術もそこいらの剣士に後れを取ることはありません」
「えっ!? マリアンヌさんは魔法以外もできるんですか?」
「もちろんです。ですから、何か適当な剣とあなたが使っている“銃”というのを貸してください」
「銃を・・・貸すのは構いませんが、使うのは初めてですよね?」
「いえ、貴方が居ないときにミーシャに借りて練習していますから大丈夫です」
-いつのまに・・・、こういう局面も想定していたのか?
「サリナも銃の練習はした! ミーシャほどじゃないけど、使えるもん!一緒に行く!」
「・・・」
確かにサリナも撃つぐらいはできる・・・が、本当に一緒に連れて行って大丈夫だろうか?俺一人ならいざという時にはストレージに逃げ込むつもりだったが、二人がいるとそれが出来ない。悩んでいる俺にママさんが不思議な笑みを浮かべて近づいて来た。
「サトルさん、あなたはもう一つ考え違いをしています。私達は“先の勇者”の一族です。そして、あなたはこの時代の勇者。私たちの使命はあなたの力になる事です。その私達があなた一人を危険な場所に行かせることなどできるはずがないのですよ。はっきり言うと、私達の命などどうでも良いのです」
「そんな!?でも・・・」
アッサリした死ぬ覚悟を聞いて言い返そうとした俺をとどめて、ママさんは続けた。
「私は父親のやり方が納得できませんでしたが、決して勇者の一族であることを後悔したことも無ければ、その役割を放棄しようとしたこともありません。ですから、あなた一人を危険な場所へ行かせることはしません。これが私の結論です・・・、さあ、ぐずぐずしている時間はありません。3人で洞窟に入る準備をしましょう!」
「準備しよう!!」
どさくさ紛れにサリナも行くつもりでロッドを持った右手を振り上げてやる気を示している。
-そのロッドが使えないんだが・・・。
二人の決意が固いとわかったので、魔法無しの戦いをするための準備を死臭漂う入り口で始めることにした。
俺達は舷側が高い小型のプレジャーボートに乗り換えて巨大な鷹が出てきた岩穴へと舞い戻った。入り口付近へ対戦車ロケットAT4の榴弾を3発叩き込んで、塞いであった岩を粉砕して中へと進もうとしたのだが・・・。
「ここは・・・」
「・・・臭い!」
「死臭ですね」
船を横付けして入り口へ立っただけでも中から吹き出す死臭と不気味な雰囲気で腰が引けてしまう。ママさんが言う死臭の元を想像すると足がすくむが、ミーシャの綺麗な顔を思い起こして少しだけ中へと入ってみた。外からの明かりで見えるのは20メートルぐらい先までだが、通路はだんだんと大きくなっていて光が届くぎりぎりのところは天井が3メートルぐらいはありそうだ。通路が大きいのは歩きやすい・・・が、大きな敵が出てくることになる可能性がある。
「サリナ、あの先に炎で明かりを出してくれ」
「うん、わかった! ふぁいあ」
サリナはロッドも使わずに軽い調子で炎を出そうとした。しかし、意図した場所には何の炎も生まれなかった。
「あれ? どうしてかな・・・、ふぁいあ!」
今度はロッドで示しながら炎を出そうとした、それでも結果は同じだった。
「えー!? 出来ない! なんで!? そんなぁ・・・」
「結界ですね」
「結界? ここでは魔法は使えないのですか?」
「おそらくは・・・、あらかじめ封じ込まれた魔法だけが発動するようになっているのだと思います」
「あらかじめ・・・、どんな魔法が発動するんでしょうか?」
「それは判りませんが、土魔法や炎魔法の仕掛けがあると思った方が良いでしょう」
「・・・」
これは想定外だった。結局のところ、サリナやママさんの魔法があることに安心しきっていたのが正直なところだ。俺の銃よりもはるかに破壊力のある魔法や多少の怪我ならすぐに治療できる魔法・・・、そういったものがある事を前提に戦おうとしていたのに。しかし、先へ進まないとミーシャを助けることが出来ない。魔法の使えない二人を連れて行くよりは・・・。
「判りました。二人は地上で待っていてください。魔法が使えないなら危険ですから」
「ダメだよ! サリナはサトルと一緒に行くんだから!」
「だけど、魔法の使えないお前を守りながら進むのは面倒だ」
「そんなぁ・・・」
ちょっときつめに言うとサリナは泣きそうな顔で俺を見上げているが、自分の身を守れるかも不安な状況でサリナやママさんまでカバーする余裕が無いのは本音だった。
「でも、最初の洞窟の時だって頑張ったよ! あの時は今みたいに魔法が使えなかったけど・・・後ろを見たり明かりをつけたりは出来るもん!」
「・・・」
確かにサリナの言う通りだったかもしれないが、あの時相手にしていたのは獣-魔獣だったから、飛び道具と距離さえあれば勝てる自信があった。今回の敵は人-少なくとも人の知恵を持ったやつが相手で、この洞窟には仕掛けだらけだと言う。敵にとっては的が多い方が狙いやすい筈だろう。やはり、連れて行くのはリスクが高い。そう判断して地上へ戻ろうと決めたところでママさんが冷やかに告げた。
「私は降りませんよ。あなたについて行きます」
「いや、でも、魔法が使えないなら、敵の的になるだけですよ」
「何か勘違いをしているようですね。私は勇者の一族です。使えるのは魔法だけではありません、剣も体術もそこいらの剣士に後れを取ることはありません」
「えっ!? マリアンヌさんは魔法以外もできるんですか?」
「もちろんです。ですから、何か適当な剣とあなたが使っている“銃”というのを貸してください」
「銃を・・・貸すのは構いませんが、使うのは初めてですよね?」
「いえ、貴方が居ないときにミーシャに借りて練習していますから大丈夫です」
-いつのまに・・・、こういう局面も想定していたのか?
「サリナも銃の練習はした! ミーシャほどじゃないけど、使えるもん!一緒に行く!」
「・・・」
確かにサリナも撃つぐらいはできる・・・が、本当に一緒に連れて行って大丈夫だろうか?俺一人ならいざという時にはストレージに逃げ込むつもりだったが、二人がいるとそれが出来ない。悩んでいる俺にママさんが不思議な笑みを浮かべて近づいて来た。
「サトルさん、あなたはもう一つ考え違いをしています。私達は“先の勇者”の一族です。そして、あなたはこの時代の勇者。私たちの使命はあなたの力になる事です。その私達があなた一人を危険な場所に行かせることなどできるはずがないのですよ。はっきり言うと、私達の命などどうでも良いのです」
「そんな!?でも・・・」
アッサリした死ぬ覚悟を聞いて言い返そうとした俺をとどめて、ママさんは続けた。
「私は父親のやり方が納得できませんでしたが、決して勇者の一族であることを後悔したことも無ければ、その役割を放棄しようとしたこともありません。ですから、あなた一人を危険な場所へ行かせることはしません。これが私の結論です・・・、さあ、ぐずぐずしている時間はありません。3人で洞窟に入る準備をしましょう!」
「準備しよう!!」
どさくさ紛れにサリナも行くつもりでロッドを持った右手を振り上げてやる気を示している。
-そのロッドが使えないんだが・・・。
二人の決意が固いとわかったので、魔法無しの戦いをするための準備を死臭漂う入り口で始めることにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
891
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる