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Ⅱ-122 手掛かり3

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■火の国 北西の森

 暗い森の中で虫たちの鳴き声が響いている。雨が降った後の湿った空気の中で寛いでいるのかもしれない。目の前の男達は寛ぎとは程遠い状況だったが、俺の質問には何一つ答えてはくれなかった。いつものように電撃や濡れタオル等で追い詰めたのだが、繰り返し失神しても口を開こうとしない。試しに金をやると言ってみたのだが、全く興味を示すことも無かった。

 -少し時間を空けてみるか・・・、それと・・・

 全員に目隠しをして、手錠の上から手足をダクトテープでぐるぐる巻きにして完全に身動きできなくしておく。その周りにタロウさんが土牢を作ってから俺達は車で離れた場所まで移動した。キャンピングカーをストレージから出して、着替えと休憩をしながら土牢の中をうかがうつもりだ。

 土牢の中にはカメラとマイクを仕掛けてある。床に転がっている男達の動きとはモニターから、声はスピーカーからはっきり聞こえている。最初は誰も一言も話さなかったが、しばらくすると男達が身じろぎしながら話し出した。

「おい、あいつらは何処へ行った?」
「さあ・・・、まだ近くにいるかもしれないぞ」
「いや、動く気配がした。この近くには人はいないはずだ」
「ふむ・・・。誰か手足が動かせる奴はいないか?」
「無理だ。完全に固定されている。せめて、周りが見えれば良いのだが」
「ならばどうする? 大声で助けを呼ぶか?」
「このあたりには我らしかおらんだろう。それに、そのうち奴らが戻ってくるはずだ」
「あいつらは我らの神殿の場所を聞き出したいのだろう?」
「そうだ、全員に何度も同じことを聞いていたからな」
「・・・神殿を襲うつもりなのだろうな」
「間違いないだろう。口が裂けても教えることは出来ん」
「もちろんだ。だが、何とかして首領あるじにこのことをお伝えしたいものだ・・・」

 男達の忠誠心は揺らぐことが無かったので、俺はミルクティーを飲みながら次の手を考えつつモニターを見続けていた。モニターの中は暗視カメラによる緑色の世界で男達が動かせるのは首から上ぐらいのものだった。土牢の上部にある開口部から入る月明かりだけでも、内部の様子は鮮明に見えていた。だが、画面全体が暗くなったと同時にマイクが変な音を拾った。

 -ファサッ -ファサッ

 マイクに向かって風が直接吹き付けられたような音がすると、カメラには黒い何かが飛んでいるのが映っている。

 -鳥か? いや、こんな暗闇で・・・蝙蝠か・・・。

 蝙蝠は不規則な飛翔を狭い土牢内で繰り広げていたが、カメラの死角に入ったか、出て行ったかして見えなくなった。

「なんとも、情けないことよ」
「「「!」」」

 思わずモニターに向かって身を乗り出した。今までとは違う女性の声が突然スピーカーから聞こえてきたのだ、地面の男達も一斉に身じろぎしている。

首領あるじ様ですか?」
「神殿の剣士が揃いも揃って、芋虫のように転がされておるとはな」
「・・・面目ございません・・・」
「で、何があったのだ?」
「実は・・・」

 男の一人がカメラに映らない女に向かって、虎に襲われ、足を傷つけられ、拷問されたことを丁寧に説明した。

「なるほどのう、神殿に来たいのか・・・、ならば教えてやれ」
「! 何とおっしゃいましたか!?」
「神殿の場所を教えてやれと言っておるのだ」
「しかし・・・」
「神殿は別に隠しておるわけでもない。それに押し入られたとしても、奪うものも無いであろう」
「しかし、数百人の信者がおります。それに、神聖な祭壇が汚されては・・・」
「大丈夫であろう。あの者たちは人殺しは好きではないようじゃからな、お前たちが生きているのがその証拠じゃ。神殿に来る目的はわしらの首だけであろう」
「ならば、なおのこと!」
「神殿に来れたからと言って、わしらの元にたどり着けるわけでは無かろう。空でも飛べるのなら別じゃが」
「確かに、それで神殿におびき寄せてどうされるのですか?」
じゅをかけて、今度こそ身動きできぬようにするのだ。お前たちは祭壇まで連れて来い」
「わかりました。ですが、頑なに口を閉ざしていた我らが急に協力しだすと、怪しむのでは無いかと」
「そうじゃな・・・、ならば・・・」

 土牢の中の奴らは俺達に疑われないようにと筋書きを調整してから、土牢の壁を破壊したようだ。はっきり分からないのは土壁を破壊したときにセットしてあったマイクやカメラが吹っ飛んで、真っ暗な映像と無音が続くようになってしまったからだった。

「サトル、聞こえなくなっちゃったけど、どうするの?」
「・・・」

 神殿に行くしかないことは判っていた。敵の作戦も聞けたし、呪いをかけられないように気を付ければ問題ない気もする。だが、どうしても一つだけ気になっていることがあった。

 -空でも飛べるのなら別・・・。

 女の声は確かにそう言っていた。と言うことは、そいつがいるのは飛ばなければたどり着けない場所なのだろう。祭壇で呪を掛けるときには傍にいるのだろうか?いや、違う可能性が高い。だとすれば・・・。

「一度、エルフの里に戻ろう。準備が必要だ」
「うん・・・」

 サリナは怪訝そうな顔をしている。俺がミーシャのことを後回しにしないことを良くわかっているから、今すぐ行くと言わなかったことが不思議なのだ。確かに今すぐ行きたいと言う気持ちもあるが、行っても行き詰まるのは見えている。だったら、解決できるだけの準備を整えてから行くべきだ。

 だが、その準備ができるだけの自信は俺にも無かった。
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