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Ⅱ-117 タロウの城

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■森の国 北部の山地

 俺達はエリーサの先導で馬が通った跡を追いかけて森の奥へと進み始めた。何かが森の中にいると言う二人は腰から短剣を抜いて臨戦態勢で警戒している。俺はその後ろからアサルトライフルを構えて続く、そしてママさんはだらだらと歩いている・・・。

「近いぞ!」

 エリーサの声がしたところで俺にも森の奥で木が揺れているのが見えた、100メートル以上向こうだと思うが木と下草の間から見えているのは茶色い壁のような・・・ゴーレムだ!後ろからも同じ色のゴーレムが2体続き、ゆっくりではあるが確実に俺達を目指して歩いて来ている。

「どうする? あれは何だ?」

 ゴーレムを初めて見るエリーサの声が震えている。

「あれは土の魔法士が操るゴーレムです。・・・壊しましょう」
「どうやって壊すのだ? 大きいぞ?」

 ゴーレムは2メートル程の身長で昨日のゴーレムよりはかなり小さく見えたが、生き物なら大型獣の部類に入るからエルフ達には大きく感じるのだろう。

「動きが遅いですから、何とでもなりますよ」
「サトルさん、あれは父のゴーレムでしょう。私が始末します」

 ストレージから重機関銃を取り出した俺を制して、ママさんはダルそうに右手を上げて口の中でブツブツ何かをつぶやいた。何の前触れもなく前方に直径50㎝ぐらいある氷柱が10本ぐらい浮かび上がると、次の瞬間にはゴーレムの胸辺りを串刺しにしていた。

 -ピシィッ! -ピシィッ! -ピシィッ! 

 硬いものが割れるような音がして、動きを止めたゴーレムの上半身が粉々になった。

「凄い! 凄い魔法だ! さすが勇者の一族だな!」
「私は初めて見るが氷・・・なのか?」
「そうですよ。水の魔法の一種です。水を氷に変えてから風魔法で飛ばすのです」

 ママさんは何事も無いようにエルフへ説明しているが、水を氷に変えるのは簡単では無かった。俺も自主練で色々試しているのだが、浮かせた水を氷に変えることは出来なかった。うつわに入れた水を凍らせることは出来るのだが、魔法で水を出しながら同時に氷に変えると言うのはハードルが高いようだ。ママさんの場合は水→氷→風がワンセットになっていると思うのだが、俺には立て続けに魔法を発動させることができなかった。

「あのゴーレムはお父さんの作ったものなのですか?」
「そうだと思いますよ。ちょっと驚かせる程度の動きしかしないようですから。番犬替わりに置いているのでしょう」

 壊したゴーレムのそばに近づくと今までのゴーレムと違って頭部に鼻や耳、そして目の形がある。実際に機能するものでは無いだろうが、今までののっぺらぼうと違って細かい部分の造形にこだわっているようだ。

「凄い魔法だな・・・、だが、まだたくさんいるようだぞ。さっきよりも気配が増えた」

 エリーサは感心しながらも、森の奥を見て少し険しい顔になった。

「大丈夫でしょう。襲ってくるほどのことは無いと思います。人や獣を近寄らせないために置いてあるのでしょうから、その先にいるんでしょう・・・あの人が」

 -父親をあの人呼ばわりか・・・。

 ママさんの言う通り、先に進んで出てきたゴーレムはサイズが大きいものや4足獣に似せた形のものと3回遭遇したが、ママさんの魔法ですべてを破壊した。タロウさんから苦情が出ないことを祈るばかりだ。

 最後のゴーレムを通り抜けてしばらく進むと背の高い木がなくなって広場のようになっている場所が見えた。そして、その先には巨大な土のお城?があった。どう見ても中世ヨーロッパにあったようなお城だろう。城壁に囲まれた中に高い尖塔が何本も立つ石造りの居館で、城壁の周りには幅5メートルぐらいある掘がかけられている。城壁には大きな木製の門が見えているが不思議なことに掘に橋が架かっていない。向こう側に跳ね上げ式の橋があるようにも見えないが、他にも入り口があるのだろうか?

「間違いなくここでしょうね。こんなものを作れる人は他に居ないでしょうからね」
「これもお父さんが全部土魔法で作ったんですか?」
「そうでしょうね・・・」
「あそこに門がありますが橋が無いですよね?どうやって渡るんでしょうか?」
「渡るときにだけ橋を架けるのでしょう。私は土では出来ませんが、氷で同じものを作りましょう」

 ママさんは面倒くさそうに右手を上げると堀の中の水を凍らせて盛り上げると、こちらから城壁に渡れる氷の橋を完成させた。氷の中には堀で泳いでいた魚たちも凍結させられ巻き添えになっている。滑る足元に注意しながら橋を渡って城門の前にたどり着いたが、高さ3メートル以上ある大きな城門は中から閂がかかっているようで開かなかった。

「こんにちはー! エルフの里から来たサトルです! どなたかいますか!」

 大きな声で呼んでみたが中から返事はなかった。

「壊してしまいましょう」
「いやいや、それはまずいでしょう。もう少し穏便にやらないと・・・」
「では、どうするのですか? こんな扉壊しても、すぐに修理できると思いますよ」
「そうかもしれませんけど、お願い事で来たのにケンカ腰だと良くないでしょ?」
「お願い・・・、あの人に・・・、お願い・・・」

 ママさんの目つきはサングラスでよくわからないが、口元だけでも不満であることが十分にうかがい知れる。

「ちょっと中を覗いてみますよ」

 ストレージから5メートル延びるアルミ製のはしごを取り出して、城壁に掛けて上まで昇ると城壁は厚さ1メートルはある頑丈なものだった。城壁の中は広場のようになっていて、城の入り口横にある馬小屋には5頭の馬が繋がれていた。城の尖塔は5階建てのマンションぐらいの高さは有りそうだったが、その部分は飾りなのかもしれない。窓等は開いていないし、幅からいっても中に階段を作るのは難しそうだ。窓がある場所にはちゃんとガラスがはめ込んであるが、そこから人の動きは見えなかった。

「こんにちはー! 誰かいませんかー!・・・中に入りますよー!」

 壁の上に立ち上がって叫んでみても誰も出てこない。馬がいるから中にいるかと思ったが、他にも馬を持っているのかもしれない。仕方なく、はしごを城壁の中に下ろして中庭に降りると城門の閂を開けてママさん達を呼び入れた。

「サビーナ、中に人はいるだろうか?」
「ああ、居るはずだ。何人かの気配がするからな・・・」
「何人か?一人では無いのですか?」

 ママさんは怪訝そうな顔でサビーナに確認した。

「ああ、ひょっとすると人では無いかも知れないが、生き物が4、あるいは5はいるはずだ。少し向こう・・・、建物の反対側のあたりだと思う」

 タロウさんは一人では寂しいから山奥でペットでも買って暮らしているのだろうか?それとも、友達とか・・・新しい家族!? 嫌な予感を感じながら俺は城の中へと足を踏み入れた。
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