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Ⅱ-115 マリアンヌと父

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■スローンの町 森の奥

 ママさんが渋々教えてくれた話は・・・。

「私は勇者の一族として父に厳しく育てられました。物心ついた時からひたすら魔法の練習をさせられて、次の魔竜復活は私たちが生きているときに必ずあると言い聞かされていたのです。勇者の一族と言っても次の勇者は別世界から来るはずだから、その時に備えて手伝えるようにしておけと言うのが父の口癖でした。小さい頃は魔法が使えるようになって魔法の練習も楽しかったのですが、私も10歳を過ぎたころからは村以外の場所の話を教会の人たちから聞いて、大きな町や綺麗なもの、美味しいものにあこがれを持つようになり、徐々に魔法しか教えない父に反発するようになったのです」
「15歳ごろが一番険悪でした。一度魔法で殺してやろうかと思ったこともあったぐらいです。もちろん、実行しませんでしたし、父が言う魔竜復活に備えてと言うのをすべて否定していた訳では無いのです・・・。ただ、私も若い娘でしたから色々なことを経験したかっただけなのです」
「ちょうどそんなときに、リカルドが私たちのいる場所に訪ねてきました。勇者についてしつこく質問するリカルドを父は邪険に扱っていましたが、私は村の外の話を聞けるので、できるだけ一緒に居るようにしていたのですが、父はそれが気に入らなかったのです。父は私の結婚相手は自分で見つけて来るつもりのようでした。私の子も魔竜復活の時に十分に戦える素質を持つ子である必要があるから、私の夫は魔法力の高い人間から選ぶ…そんな風に考えていたようです」
「だから私は父に反抗するためにより一層リカルドと一緒にいるようにしたのです。はっきり言って嫌がらせです。そして、ある日魔法の修練をせずにリカルドと一緒にいる私を父が怒鳴りつけて殴った時に強く決意したのです。父とは縁を切って自分のしたいように生きるとね」
「そこで、私はリカルドと結婚することにしました。順番から言うと、先にベッドに連れ込んでから結婚と言うことになりましたけどね。子供が出来たと言った時の父の顔は今でも忘れられません。初めて自由を勝ち取った・・・、その時はそんな風に思ったのですが・・・」
「父はその日の夕方に黙って村を出て行きました。村には聖教会の関係者もたくさんいたのですが、何も言わず、何も持たず、散歩をするように出て行き、それ以来私は会っていません」

 俺は最後まで話を聞いていたが・・・、なんじゃそりゃ?って感じだった。要するに親に反抗するためにリカルドと結ばれたってことか?

「あのー、リカルドさんの事は好きだったんですか?」
「まあ、嫌いではないって言う程度でしょうかね。他に若い男はいませんでしたから」
「お父さんの事は探さなかった?」
「ええ、縁を切ると決めた以上は私には関係ない人です」
「・・・」

 -そんなに簡単に割り切れるものか?

 ママさんはあっけらかんとして言っているが、俺はリカルドが可哀そうになってきた。何と言えばいいんだろうか・・・、父親への反発から子供を作った・・・、サリナには聞かせない方が良いな。要するに反抗期だったってことかもしれないが、それで子供を作るって・・・無茶苦茶な話だな。自分の親だったらと思うとぞっとする。

「それで、お父さんが今どこにいるかは全然心当たりが無いんですか?」
「心当たり・・・、エルフの長老は知っているような気がします。父はあの村にも何度か行っていましたから、それにサリナとはどこかで会っているはずです」
「どこかで?」
「ええ、私がいないところで・・・、そういう人です」
「サリナは居場所を知っているんですか?」
「それはどうでしょうか? いずれにせよ、今は聞けませんからね」
「じゃあ、一度エルフの里に戻りましょう。預けたミーシャも心配だし、お父さんの行方を聞いてここに連れてくれば、サリナ達を助けてくれるでしょ?」

 ママさんははっきりと嫌がっている表情で俺に尋ねた。

「あなたの魔法で何か良いものは無いのですか? こう・・・、大きな穴を開けるような道具どか?」
「私が使える道具には無いですね。洞窟を破壊する道具はありますけど、中のサリナ達がケガをするかもしれませんから使えません。マリアンヌさんの魔法はどうです?」
「風魔法ならある程度の穴は開くと思いますけど、さすがに私もあの洞窟を崩さずに外から穴を開けるのは難しいです。中が見えれば何とかなるのですが・・・」

 二人とも同じ結論に達している。やはり、ここは土魔法の達人を見つけに行く必要があるだろう。それもできるだけ早くにだ。それなのに、この人は父親を捜しに行くのが嫌なようだ。もっとも、俺は違う点で父親を捜しに行くのがベストなのか悩んでいた。要するにどのぐらい時間がかかるかが問題になってくる。

「マリアンヌさんはサリナの事が心配じゃないんですか?」
「心配と言えば心配ですが、あのは大丈夫ですから」
「大丈夫?どうしてそう思うんですか?」
「だって、あのはあなたと巡り合ったんですもの。それは神の導き以外の何物でもないです。それにあの魔法力もそうです、私などよりも遥かに神に愛されています。ですから、あなたが生きている間はあのも大丈夫なのです」

 少し引っかかる部分はあるが、確かに俺と出会ったのが“偶然”だとしたら凄い確率だろう。先の勇者の一族が“たまたま”異世界から来た男(勇者)と会う・・・、気に入らないが何かの力が働いていると考えてもおかしくない。

「それに、リンネも一緒ですからね」
「まあ、サリナ一人よりは良いですけど、リンネは死者を扱う以外はあまり役に立たないですからね」
「そうでしょうか? 私はあの人は他にも特別な力を持っていると思いますよ」
「特別な力? それが何だとしても、今のところ洞窟を出ることは出来ないようですから、やはりエルフの里へ行って、お父さんの情報を聞いてみましょう」
「まあ、あなたがそう言うなら仕方ないですね」

 不満そうなマリアンヌさんに気絶した男を運ぶのを手伝わせて、俺達は魔法士を入れた檻の場所まで戻った。檻の中の魔法士を銃口で押してみたが全く反応が無い、俺が投与した鎮静剤は間違いなく効果があったのだろう。これでは洞窟のサリナ達をこの男に助け出させるのは当分無理だ。

「転移魔法でこいつらもエルフの里に連れて行きましょう」
「そうですね、ここに置いておくよりは良いでしょう」

 俺は倉庫から持って来ていた光聖教石を俺達を取り囲む5角形を描くように地中に埋めた。この石を持ち歩くことで、エルフの里、獣人の村、セントレアにはどこからでも瞬時に移動できるようになった。もっとも、ワンセットしかないから、次はここに戻ってくる必要がある。

「じゃあ、行きますよ」
「お願いします」

 ママさんは仏頂面で右手を上げると目を閉じた。その瞬間に雨降る森の中から日が暮れたエルフの里へと移動していた。俺は広場にいるエルフ達に連れてきた男達を見張るように頼んでから、ミーシャを預けたノルド長老の家へと向かった。ノルドはベッドで眠るミーシャの横で何かの木をナイフで削りながら俺達を迎えてくれた。

「ふむ、どうした。まだこの娘は目を覚ましておらんぞ」
「ええ、ミーシャも心配なんですが、実は・・・」

 サリナ達と土魔法の洞窟の状況を説明して、ママさんの父親の事を尋ねるとノルドは居場所を知っているが、今もそこにいるかは判らないと言った。

「この前・・・半年ほど前じゃな。ふらりと里に立ち寄った時はここから馬で3日ほど離れた北東の山で小屋を建てたと言っておった。じゃが、その前に来たときは風の国で暮らして居ると言っていたからな、あまり一か所に留まるのを良しとせぬようじゃな」
「馬車で三日ですか?北東の山のもう少し詳しい場所は判りませんか?」
「いや、わしも聞いただけじゃからな。だが、あたりには誰も住んでおらんとは言っておった」

 ざっくり過ぎる情報としか言いようがないが、この世界はこんな感じだ。GPSはおろか住居表示なども無いのだから仕方がない。車で3時間ほどの場所だから、行って探してみるのも選択肢だが・・・。
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