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Ⅱ-94 メアリーの茶会
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■セントレア 王家別邸
「あなたたちはどうして、勇者と一緒にいるようになったのですか?」
メアリーはエルとアナを応接間に招いて茶菓子を振舞うことにした。目の前には少し怯えた虎の娘が二匹並んでいる。間近で見るのは初めてだったが、目は人に近いが耳は頭の上についていて、顔以外の部分にはうっすらと体毛が生えている。どう見ても“人”ではないが、勇者はこの獣人たちを“人”として扱えと言い続けている。
「私たちはサトルお兄ちゃん・・・、勇者様が助けてくれました」
ソファに座った大きい方、姉のエルと言う獣人が小さな声で答える。
「そうですか、助けられたのですね。それは良かったですねぇ。助けられた後もずっと一緒に暮らしているのですか?」
「はい、イースタンさんのお屋敷でお世話になっていました」
「イースタンさんがどうしてあなたたちを?」
「サトルお・・・勇者様がイースタンさんにお願いしてくれて」
何故、大富豪のイースタンがこんな獣人を・・・、イースタンにとって勇者はどういう存在なのか?
「イースタンさんのところでも美味しいものを食べたでしょうけど、今日は焼き菓子を用意してあげたから、遠慮なく食べてね。甘いものはなかなか口にしないでしょ?」
メアリーは二匹の獣人が目にしたことの無いはずの砂糖がふんだんにかけられた焼き菓子と温かいお茶を勧めた。二匹はおずおずと手をのばして焼き菓子を口に入れた。メアリーは美味しさに驚く表情を期待していたが、二匹の表情はほとんど変わることが無かった。甘いものを食べたことが無いので美味しさが分からないのか?何か違う味がするのかと思って、メアリー自身も手に取って口に運んだが、砂糖の甘さと口の中で崩れる菓子の歯ごたえが広がっていつも通り美味しさが広がった。
「あなたたちは甘いものを食べるのが初めてなのですか?」
メアリーの問いかけに小さい方が不思議そうな顔をして小首をかしげている。
「もっと!もっと甘いものをサトルお兄ちゃんがたくさんくれます!」
「こら! アナ!メアリー様に失礼なことを言わないの。このお菓子も美味しいのです。でも、勇者様のお菓子が特別なので・・・」
アナは何故エルにたしなめられたのかがわからなかったが、姉に言われて口を閉ざした。しかし、特別なお菓子とはどういうものなのだろう? メアリーが少し眉間にしわを寄せて考えたのを怒りと勘違いしたのか、アナが心配そうな表情をしながら腰にぶら下げている大きな袋のようなものから小さな何かを取り出した。
「これが勇者のお菓子です。みんなは“ちょこ”って呼んでます」
アナがメアリーに手渡したのは、茶色い見たことも無い艶がある包みに包まれたものだった。不思議な包みを捻じって開くと中にも茶色い楕円のものが出てきた。
―これが甘い?まさか、毒が入っていると言うことも無いでしょうけど・・・
メアリーが心配そうにチョコを見ているので、アナが自分の袋から同じものを取り出して包みから直ぐに口の中に放り込んだ。
「うん! 甘ーい! お姫様も食べよーよ」
「だから! アナ! 失礼なことを言わないの! ・・・でも、良ければ食べてみてください。これより甘いものはこの国にはありません。勇者の甘いお菓子は他にもありますけど、これの甘さは他とも違うのです。初めて食べたときは本当に驚き・・・泣いてしまいました」
エルはそう言って、自分も同じ包みを開けて食べている。目じりが下がり、本当に美味しいものを食べている時の笑顔を見せた。
メアリーは部屋の隅にいる魔法士のアイリスに目を合わせてから、包みの中の茶色いものを口にいれた。最初は何か変な味が・・・、だが、口の中で少しずつ溶け始めると口いっぱいに甘さが・・・、そして、甘さの次に何か異なる味わいが広がって、思わず目を見開いた。
「甘いわ! 本当に美味しい! 甘いだけじゃなくて、何か違う味が広がって・・・、こんな美味しいものは生まれて初めて食べました!」
「でしょ!? サトルお兄ちゃんのお菓子が一番おいしいの!」
「アナ! 何回も言っている・・・」
「エル、良いのです。アナの言う通りですねえ、勇者様のお菓子が一番・・・」
メアリーは頭を貫かれたような快感がまだ続いていた。口の中のチョコは既に溶けきっていてほとんど残っていないが甘さと匂いはまだ残っており、余韻に浸っていた。獣人たちに食べたととの無いものを振舞う予定が、すっかり自分が勇者のお菓子の虜になってしまっている。
「このお菓子はどうやって作っているのでしょう?」
「わかりません。でも、サ、勇者様の魔法で作っているはずです」
「魔法ですか・・・」
メアリーはサトルの魔法を習得するまではサトルを絶対に殺さないと固く心に誓った。
「他にはどんなお菓子があるのですか?」
「えくれあ! ぷりん! あいすくりーむ! それとね、それとね・・・」
「アナ! もう・・・、お願いだから静かに・・・」
「良いのですよ、エル。私はアナの事が気に入りました。アナ、こちらにいらっしゃい。二人が来ている服も見せて欲しいのですよ」
メアリーはソファーの横の空いた場所を軽くたたいてアナに横に来るようにと誘った。アナはエルが止める間もなく、テーブルの反対側に回りこんでメアリーの横に座った。アナはピンクのTシャツに薄手の白いパーカーを羽織り、膝上のキュロットを履いている。
「見たことも無い生地ですねぇ・・・、全部キラキラとした艶があります」
メアリーはTシャツとキュロットの生地を指で触りながらアナの全身を眺めた。お尻には布地の切れ目があり、短いしっぽが出せるようになっていた。
「この服も、サトルお兄ちゃんの魔法だよ! 女の子は可愛しくしていなきゃダメって」
「これも魔法・・・。可愛く・・・」
改めてアナの顔を間近で見ると、確かに可愛らしい顔をしていると思った。だがメアリーが感じているのは動物を可愛いと思う心であり、人として可愛いと思っている訳では無い。
「お姫様もとっても可愛い!髪も目も綺麗だし、肌も真っ白!その服もとっても素敵」
「あら、ありがとう」
獣に褒められるとは思っていなかったメアリーは驚いた。もちろん、自分の美しさを疑ったことは無いが、獣が褒めることが出来ると言うのは想像していなかった。今日はグリーンに白いフリルの着いたドレスを着ているが、自分の目の色が良く映える組み合わせで、この屋敷にいる誰よりも“可愛い”と思っている。もちろん、この獣たちだけでなく、先の勇者の一族やエルフの女などよりも遥かに“可愛い”と信じていた。
「エルの服も素敵ですね、それも勇者様の魔法ですか?」
「はい、そうです。私たちのものはすべて勇者様からいただいたものです」
「勇者様は他にどんな魔法を使えるのですか?」
「私には良くわかりません。必要なものが色々出て来るのですが・・・」
「どんなものが出て来るのですか?」
「食べ物、服、馬車、船・・・、何でも出てきます」
―馬車や船も出て来る!?
「そ、そうですか。魔法をどのように使っているのでしょう? 何か準備や道具・・・、呪文のようなことをしていますか?」
「いえ、手を伸ばすとそこから何でも出てきます」
「・・・手だけ・・・」
―どのような魔法か全然わからない・・・、やはり見るしかない。
「勇者様は、これから先は何をするって言っていましたか?」
「獣人の里の村おこしをするって言っています」
「村おこし? それは何をするのですか?」
「詳しくは聞いていません」
―獣人の里、いや獣人自体に勇者が関係する何か秘密があるのだろうか?
「そう、二人とも今日はありがとう。これからも仲良くしてくださいね。小さいアナにはこれをプレゼントするわ。可愛いお花のペンダントよ」
「うわーい! お姉ちゃん、可愛いのもらった!」
アナはもらったペンダントを持ってエルの元へ駆け戻った。エルの手にあるペンダントを見ると小さいバラが精巧に彫り込まれた石のペンダントで、バラの周囲に綺麗な光る石が埋め込まれている。
「メアリー様、こんな高価なものをいただいて良いのでしょうか?」
「気になさらなくて結構です。高いものではありませんから、あなたにはお揃いのブローチをあげましょう」
メアリーはテーブル越しにエルにブローチを手渡した。エルは両手で受け取り、しばらく眺めた後に腰のポーチへ入れた。
「とても綺麗です。大事にさせていただきます」
「気に入ってくれたなら嬉しいわ。エル、アナ、これからも一緒にお菓子を食べましょう」
「「はい!」」
獣人の姉妹は笑顔で席を立ち、アナがメアリーに手を振りながら部屋を出ていくと、部屋に残ったメアリーは背後にいるアイリスに向き直った。
「アイリス、勇者の魔法をどのように思ったの?」
「はい。私たちの魔法とは全く異なるものでしょう。”なんでも”取り出すことが出来るということなのでしょう」
「そうみたいね・・・なんでもね。でも、あの“チョコ”は凄かったわ」
「それほどに?」
「ええ、あなたには命じておくわ。勇者には一切手を出してはダメよ。あの魔法の事が判るまではね。なんとしても、あの魔法の秘密を暴いて使えるようにならないと・・・」
メアリーはあれ以外にも美味しいものがあると聞き、何としても勇者の魔法を自分のものにするつもりになっていた。
「周りの者はどうしますか?」
「それは予定通りで良いわ。仲間を攫って、勇者に捕らわれているはずの司祭と使いを取り戻すのよ。それに、あの魔法のことも聞きださないとね」
「かしこまりました。では、私はこれから火の国にいったん戻ります」
「ええ、しっかり頼むわね」
「はい」
二人は応接を出て、メアリーは自室にアイリスは火の国から連れてきた馬の元へと向かった。アイリスは馬を乗り継いで二日後には火の国へ入る予定にしている。向こうでは王宮での勇者の動きを知らせるものと落ち合って具体的な手筈を決める。勇者達は火の国で法文書を配るために各地を回るはずだ。それも手分けして火の国を周る、勇者のいない仲間を襲うには絶好の機会だった。
「あなたたちはどうして、勇者と一緒にいるようになったのですか?」
メアリーはエルとアナを応接間に招いて茶菓子を振舞うことにした。目の前には少し怯えた虎の娘が二匹並んでいる。間近で見るのは初めてだったが、目は人に近いが耳は頭の上についていて、顔以外の部分にはうっすらと体毛が生えている。どう見ても“人”ではないが、勇者はこの獣人たちを“人”として扱えと言い続けている。
「私たちはサトルお兄ちゃん・・・、勇者様が助けてくれました」
ソファに座った大きい方、姉のエルと言う獣人が小さな声で答える。
「そうですか、助けられたのですね。それは良かったですねぇ。助けられた後もずっと一緒に暮らしているのですか?」
「はい、イースタンさんのお屋敷でお世話になっていました」
「イースタンさんがどうしてあなたたちを?」
「サトルお・・・勇者様がイースタンさんにお願いしてくれて」
何故、大富豪のイースタンがこんな獣人を・・・、イースタンにとって勇者はどういう存在なのか?
「イースタンさんのところでも美味しいものを食べたでしょうけど、今日は焼き菓子を用意してあげたから、遠慮なく食べてね。甘いものはなかなか口にしないでしょ?」
メアリーは二匹の獣人が目にしたことの無いはずの砂糖がふんだんにかけられた焼き菓子と温かいお茶を勧めた。二匹はおずおずと手をのばして焼き菓子を口に入れた。メアリーは美味しさに驚く表情を期待していたが、二匹の表情はほとんど変わることが無かった。甘いものを食べたことが無いので美味しさが分からないのか?何か違う味がするのかと思って、メアリー自身も手に取って口に運んだが、砂糖の甘さと口の中で崩れる菓子の歯ごたえが広がっていつも通り美味しさが広がった。
「あなたたちは甘いものを食べるのが初めてなのですか?」
メアリーの問いかけに小さい方が不思議そうな顔をして小首をかしげている。
「もっと!もっと甘いものをサトルお兄ちゃんがたくさんくれます!」
「こら! アナ!メアリー様に失礼なことを言わないの。このお菓子も美味しいのです。でも、勇者様のお菓子が特別なので・・・」
アナは何故エルにたしなめられたのかがわからなかったが、姉に言われて口を閉ざした。しかし、特別なお菓子とはどういうものなのだろう? メアリーが少し眉間にしわを寄せて考えたのを怒りと勘違いしたのか、アナが心配そうな表情をしながら腰にぶら下げている大きな袋のようなものから小さな何かを取り出した。
「これが勇者のお菓子です。みんなは“ちょこ”って呼んでます」
アナがメアリーに手渡したのは、茶色い見たことも無い艶がある包みに包まれたものだった。不思議な包みを捻じって開くと中にも茶色い楕円のものが出てきた。
―これが甘い?まさか、毒が入っていると言うことも無いでしょうけど・・・
メアリーが心配そうにチョコを見ているので、アナが自分の袋から同じものを取り出して包みから直ぐに口の中に放り込んだ。
「うん! 甘ーい! お姫様も食べよーよ」
「だから! アナ! 失礼なことを言わないの! ・・・でも、良ければ食べてみてください。これより甘いものはこの国にはありません。勇者の甘いお菓子は他にもありますけど、これの甘さは他とも違うのです。初めて食べたときは本当に驚き・・・泣いてしまいました」
エルはそう言って、自分も同じ包みを開けて食べている。目じりが下がり、本当に美味しいものを食べている時の笑顔を見せた。
メアリーは部屋の隅にいる魔法士のアイリスに目を合わせてから、包みの中の茶色いものを口にいれた。最初は何か変な味が・・・、だが、口の中で少しずつ溶け始めると口いっぱいに甘さが・・・、そして、甘さの次に何か異なる味わいが広がって、思わず目を見開いた。
「甘いわ! 本当に美味しい! 甘いだけじゃなくて、何か違う味が広がって・・・、こんな美味しいものは生まれて初めて食べました!」
「でしょ!? サトルお兄ちゃんのお菓子が一番おいしいの!」
「アナ! 何回も言っている・・・」
「エル、良いのです。アナの言う通りですねえ、勇者様のお菓子が一番・・・」
メアリーは頭を貫かれたような快感がまだ続いていた。口の中のチョコは既に溶けきっていてほとんど残っていないが甘さと匂いはまだ残っており、余韻に浸っていた。獣人たちに食べたととの無いものを振舞う予定が、すっかり自分が勇者のお菓子の虜になってしまっている。
「このお菓子はどうやって作っているのでしょう?」
「わかりません。でも、サ、勇者様の魔法で作っているはずです」
「魔法ですか・・・」
メアリーはサトルの魔法を習得するまではサトルを絶対に殺さないと固く心に誓った。
「他にはどんなお菓子があるのですか?」
「えくれあ! ぷりん! あいすくりーむ! それとね、それとね・・・」
「アナ! もう・・・、お願いだから静かに・・・」
「良いのですよ、エル。私はアナの事が気に入りました。アナ、こちらにいらっしゃい。二人が来ている服も見せて欲しいのですよ」
メアリーはソファーの横の空いた場所を軽くたたいてアナに横に来るようにと誘った。アナはエルが止める間もなく、テーブルの反対側に回りこんでメアリーの横に座った。アナはピンクのTシャツに薄手の白いパーカーを羽織り、膝上のキュロットを履いている。
「見たことも無い生地ですねぇ・・・、全部キラキラとした艶があります」
メアリーはTシャツとキュロットの生地を指で触りながらアナの全身を眺めた。お尻には布地の切れ目があり、短いしっぽが出せるようになっていた。
「この服も、サトルお兄ちゃんの魔法だよ! 女の子は可愛しくしていなきゃダメって」
「これも魔法・・・。可愛く・・・」
改めてアナの顔を間近で見ると、確かに可愛らしい顔をしていると思った。だがメアリーが感じているのは動物を可愛いと思う心であり、人として可愛いと思っている訳では無い。
「お姫様もとっても可愛い!髪も目も綺麗だし、肌も真っ白!その服もとっても素敵」
「あら、ありがとう」
獣に褒められるとは思っていなかったメアリーは驚いた。もちろん、自分の美しさを疑ったことは無いが、獣が褒めることが出来ると言うのは想像していなかった。今日はグリーンに白いフリルの着いたドレスを着ているが、自分の目の色が良く映える組み合わせで、この屋敷にいる誰よりも“可愛い”と思っている。もちろん、この獣たちだけでなく、先の勇者の一族やエルフの女などよりも遥かに“可愛い”と信じていた。
「エルの服も素敵ですね、それも勇者様の魔法ですか?」
「はい、そうです。私たちのものはすべて勇者様からいただいたものです」
「勇者様は他にどんな魔法を使えるのですか?」
「私には良くわかりません。必要なものが色々出て来るのですが・・・」
「どんなものが出て来るのですか?」
「食べ物、服、馬車、船・・・、何でも出てきます」
―馬車や船も出て来る!?
「そ、そうですか。魔法をどのように使っているのでしょう? 何か準備や道具・・・、呪文のようなことをしていますか?」
「いえ、手を伸ばすとそこから何でも出てきます」
「・・・手だけ・・・」
―どのような魔法か全然わからない・・・、やはり見るしかない。
「勇者様は、これから先は何をするって言っていましたか?」
「獣人の里の村おこしをするって言っています」
「村おこし? それは何をするのですか?」
「詳しくは聞いていません」
―獣人の里、いや獣人自体に勇者が関係する何か秘密があるのだろうか?
「そう、二人とも今日はありがとう。これからも仲良くしてくださいね。小さいアナにはこれをプレゼントするわ。可愛いお花のペンダントよ」
「うわーい! お姉ちゃん、可愛いのもらった!」
アナはもらったペンダントを持ってエルの元へ駆け戻った。エルの手にあるペンダントを見ると小さいバラが精巧に彫り込まれた石のペンダントで、バラの周囲に綺麗な光る石が埋め込まれている。
「メアリー様、こんな高価なものをいただいて良いのでしょうか?」
「気になさらなくて結構です。高いものではありませんから、あなたにはお揃いのブローチをあげましょう」
メアリーはテーブル越しにエルにブローチを手渡した。エルは両手で受け取り、しばらく眺めた後に腰のポーチへ入れた。
「とても綺麗です。大事にさせていただきます」
「気に入ってくれたなら嬉しいわ。エル、アナ、これからも一緒にお菓子を食べましょう」
「「はい!」」
獣人の姉妹は笑顔で席を立ち、アナがメアリーに手を振りながら部屋を出ていくと、部屋に残ったメアリーは背後にいるアイリスに向き直った。
「アイリス、勇者の魔法をどのように思ったの?」
「はい。私たちの魔法とは全く異なるものでしょう。”なんでも”取り出すことが出来るということなのでしょう」
「そうみたいね・・・なんでもね。でも、あの“チョコ”は凄かったわ」
「それほどに?」
「ええ、あなたには命じておくわ。勇者には一切手を出してはダメよ。あの魔法の事が判るまではね。なんとしても、あの魔法の秘密を暴いて使えるようにならないと・・・」
メアリーはあれ以外にも美味しいものがあると聞き、何としても勇者の魔法を自分のものにするつもりになっていた。
「周りの者はどうしますか?」
「それは予定通りで良いわ。仲間を攫って、勇者に捕らわれているはずの司祭と使いを取り戻すのよ。それに、あの魔法のことも聞きださないとね」
「かしこまりました。では、私はこれから火の国にいったん戻ります」
「ええ、しっかり頼むわね」
「はい」
二人は応接を出て、メアリーは自室にアイリスは火の国から連れてきた馬の元へと向かった。アイリスは馬を乗り継いで二日後には火の国へ入る予定にしている。向こうでは王宮での勇者の動きを知らせるものと落ち合って具体的な手筈を決める。勇者達は火の国で法文書を配るために各地を回るはずだ。それも手分けして火の国を周る、勇者のいない仲間を襲うには絶好の機会だった。
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