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Ⅱ‐77 精霊の腕輪

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■エルフの里

 エルフのみんなに順調に肉と酒が行き渡っていくと、用意していた肉も酒もあっという間になくなったので、おれはハンスとショーイに手伝わせてテントから追加の食材と酒をサリナ達の元に運んだ。ハンスは腕が元通りになると獣人本来の怪力を発揮して、一升瓶の6本入りケースを3段積み上げて軽々と運んでいく。俺とショーイはクーラーボックスに肉をどっさり入れて、焼肉奉行のところに持って行った。

「サトル、サトルの分も焼いたから食べて」
「お前たちは食べているのか?」
「うん! エルとアナも食べてるよ」

 サリナはひたすら焼き続けているが、その合間に自分の口にも入れていたようだ。後ろにあるテーブルにはコーラと自分達用の皿が使われた跡があった。俺も少し焼いた肉をもらって、そのテーブルで立ったまま口に入れた。

 ―ご飯が欲しいが、ここで出すと面倒になるかもな・・・。

 米は我慢して、肉と野菜を少し食べてから俺は長老に腕輪の事を聞きに行くことにした。

「ミーシャ、腕輪の事を長老に聞きたいから一緒に来てよ」
「わかった。リンネ、ここを頼んだぞ」
「はいよ。少しは休ませてほしいけどね」
「わかったよ。俺が戻ってきたら休憩してくれ」

 ミーシャとリンネは次々とやってくるエルフ達にサリナが焼いた肉にタレを少しかけて渡してやっていたが、今は最初にあった行列がなくなって落ち着いてきていた。

 ノルドは広場の中心で地面に敷いた敷き革の上にママさん達と座って、肉をつまみに酒を飲んでいた。俺が行くと手招きして、横に座るようにと誘ってくれた。

「ノルドさんから、私のご先祖の話を聞いていました。仲間を連れて、ここで一緒に酒を飲んだのが懐かしいと」

 ママさんは既に少し頬が赤くなっているが、いつも通り陽気に酒を楽しんでいた。

「うむ、楽しかったの。じゃが、今日食べた肉は今までで一番うまかった」
「お口にあったなら良かったです、焼酎も前と同じ物でしたか?」
「少し違うかもしれんが、美味いことに変わりはない。ありがとう」
「いえ、焼酎も材料が色々あるみたいなんで、今度は違うのを持ってきます」
「そうか、前の勇者は芋が良いと言っておったな。わしらも芋からショーチュウを作ろうとしてみたのじゃが、同じ味にはならんのだ」

 酒の造り方か・・・、俺自身が飲む気は無いが焼酎の造り方を調べておこう。

「それで、長老に見て欲しいものがあるんです。これです・・・」
「ほぉ、これは・・・わしが作ったものじゃな」

 俺がベストから取り出した腕輪を見せると、少し笑みを浮かべて手に取って眺めている。

「この腕輪で魔法が使えるんですか?」
「魔法・・・ではないな、この腕輪をつければ精霊の風をその身にまとうことが出来る。前の勇者はこれで空を飛んでおったな」
「空を! 風の力で空を飛べるんですか?」
「うむ、馬車の荷台のようなものを作ってそれに人を乗せてもおったな」
「荷台で飛んだ?腕輪をつければすぐに飛べるんでしょうか?」

空を飛べる!? それは凄い!だが、あまりうれしくもなかった。

「いや、精霊の加護が必要じゃな。ブーンのところに行って聞いてみるがいい」
「風の精霊ブーン・・・、あの精霊は大昔からここに居るんですよね? 前の勇者の事も知っているんでしょうか?」
「もちろん知っておる。腕輪の使い方を教えたのはブーンじゃ」
「じゃあ、俺にも教えてくれると?」
「うむ、教えてくれるかもしれんな」
「長老、私にも精霊の姿が見えました」
「そうか、ミーシャにもな。うむ、お前たちがわしらの苦境を救えるとブーンが思ったからじゃろうな」
「それで、気になることがあります。ブーンの話では、術士は魔石をこの里の周りに埋めたと言っています。術士はサトルが閉じ込めていますが、魔石が残ったままだと同じ事が起こるかもしれません」
「ふむ。そうじゃな・・・、魔石を探さねばならんな。明日は里の者が総出で探すことにしよう」
「はい、承知しました。私も一緒に探します」

 ミーシャが心配していた魔石の事は明日捜索することになった。魔石についてハイドは何も言わなかったが、この森の中をどんなものかもわからない石を探して果たして見つかるだろうか?やはり、もう少し情報収集が必要だ。俺はまだまだ続きそうな宴会のために食材を追加で用意してから、リンネを連れて無限に物が出て来るテントの中に入った。

「ああ、やっと休憩させてくれるのかい。もう、肉を渡すのは飽きちまったよ」
「でも、みんな喜んでくれただろ?」
「確かにね、黒虎を使っていたときはエルフに殺されるかと思ったけどね。肉を渡したらみんながあたしを見る目も変わったからね。それで、なんで私だけをテントに連れてきたんだい。まさか、何か変なことを・・・」
「違うよ! うん、前から一度試してみたかったことがあるんだ」
「試したいこと? やっぱり、何か変なことを・・・」
「だから、違うって!」
「冗談さ、あんたにそんな度胸が無いことはみんな知っているさ」
「えっ!?それって、どういう意味なの?それにみんなって?」
「ふん、自分で考えな」

 リンネはにやりと笑って、それ以上は何も言わなかった。要するに女性に手出しをできるような男ではないと思われているのだろう。みんな・・・、ミーシャも入っているのか?

だが、そう思われてもそれは仕方が無い。うん、それは事実だ。 
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