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Ⅱ‐73 闇の呪法
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■ボルケーノ火山 洞窟
「馬鹿な! なぜ、見つかったのだ?」
黒い死人達の首領は端正な少年の顔をゆがめて、暗くなってしまった水晶石を見つめなおした。
「あの狼、神獣の力だよ・・・、あれは神の使いだからね。これではっきりした。あいつらは神に・・・、あいつらの神に導かれているのは間違いないね」
「神獣とはいえ、ハイドの場所は外からは見ることも感じることもできぬはずだ」
「いや、あいつ自身が見つけられなくても、ハイドの呪法が出ている場所を感じることが出来るんだろ。それに結界はまだ完成していなかったからね。光の世界とのつなぎ目は見えたのかもしれない・・・」
首領たちは大きな水晶を通じて結界を張っているエルフの里全体を見ていたが、森の外から現れた巨大な白狼はまっすぐにハイドの元へたどり着いた。ハイドは魔石を六芒星の形で配置し終えると、呪法陣の北西に当たる場所で小さな闇の空間を作り、そこに隠れてから呪法を使っていたのだが、隠れた空間は人間には決して見ることも触れることもできない空間・・・のはずだった。
「だけど、これでゲイルや影使い達がどうなったかも分かったんじゃないかい?」
「ああ、あの若い男が手を触れた瞬間にハイドと水晶からの絵が消えた。あれは勇者の魔法具を使って殺したわけではないな」
「そうだよ。あいつもハイドと同じような空間を作ることが出来る、そして、そこにハイドを閉じ込めたのさ」
「だとしたら、ハイドもゲルドもまだ・・・」
「ああ、どこかにいるのかもしれない。だったら、あの若い男はすぐには殺せないね」
「ならば、あの男を生け捕りにせねばならんが。触れただけで我らを取り込めるというのは厄介だ。先に一緒にいた娘たちを捕らえて揺さぶるのが良いだろう」
「だけど、二人も手ごわい相手だよ。あのちっこい娘の魔法を見ただろう?あれも魔法具の力だろうけど、誰も触れないはずの闇の空間ごとハイドを弾き飛ばしていたからね」
「そのとおりだ、水晶にはっきり映らなかったが、持っていたのは勇者の魔法具だろう。そうでなければ、闇の空間を吹き飛ばすなど出来るはずがない。だが、もう一人のエルフの娘も隙が無いぞ。おそらくエルフの戦士なのだろう。それに、例の何かを放つ武器を持っている」
「やっぱり、もう少し情報が必要だよ。あいつらの弱みを見つけなけりゃね」
「うむ。やつらがイースタンの元に戻ればイースタンの息子を使えるが、戻らねば改めて術者を送らねばならんな」
「では、あの女に働いてもらおうかね・・・」
暗い洞窟の中で真っ暗になった水晶玉を見つめながら二人の首領は次の手を打つために、使いの女へと連絡を取った。
■エルフの里
エルフの里に戻るとリンネ達が大勢のエルフに囲まれる騒動になっていた。
「どうした、何があったのだ?」
「あっ! ミーシャ、お帰り! 早くあいつらを何とかしないと!」
見た目は若い美形のエルフ女子がミーシャの元に二人駆け寄ってきた。たしか、前回来たときに一緒に狩りに行った二人だ。
「あいつらって言うのは・・・」
「あの魔獣だよ! あの女はもう動かないって言うけど、さっきまでは動いていたんだ! あの女も少しおかしいし、本当に仲間なのかい?」
二人のエルフはリンネを指さして疑いの目を向けている。やはり、死人であることを感じて取っているのかもしれない。
「ああ、間違いない。リンネは大切な仲間だ。それに、あの魔獣はその・・・、大丈夫だ。な、サトル」
「うん、あれは大丈夫だよ。もう、動かないからね」
「そうか、サトルがそう言うなら・・・」
黒虎たちを警備のために置いて行ったが、エルフ達が戻ってくることは想定していなかった。エルフ達が戻ると見たことの無い魔獣が里を徘徊していたのだ。エルフ達が騒ぐのも無理は無かった。今はリンネの指示で完全に動きを止めていているが、エルフの前でストレージに収納するのはまずいので、後始末をどうするかが問題だ。
―いったん里の外へ運んで、後で収納するか・・・。
「じゃあ、あれは食べても大丈夫か?」
「えっ!? 食べるの? あの魔獣を?」
「ああ、かなり傷があるようだが肉はしっかりついているだろ?」
「いや、その・・・、そうだ!あの魔獣の肉には毒があるんだよ。うん、だから食べない方が良いな」
「毒? 毒の臭いはしないがな・・・。まあ、サトルが言うならそうかもしれないな。何といっても勇者だからな!」
美形のエルフ女子はキラキラと目を輝かせて俺を見てくれる。そう、ここでの俺は人気があるとミーシャが言っていた。里のエルフは実年齢は3桁越えだが、見た目の若い女性が圧倒的に多く、男性は殆ど・・・、いや、エルフ系の男はそういえば見たことが無い。男はドワーフしかいない。長老のノルドもそうだった。今考えるとおかしいな・・・。
「夜は美味しい肉をたくさん持ってきているから、それをみんなで食べよう」
「本当か!? それは嬉しいな! ミーシャ、サトルは本当に良い奴だな!」
「ああ、サトルは良い奴なのだ」
―良い人って言われたら男としては見てもらってない。どこかでそんなことを・・・。
「サトル、長老のところに行こう。何があったのか詳しく聞いた方が良いだろう。長老はどこにいる?」
「長老はミーシャたちが来るのを集会所で待っているよ」
「そうか、サトル、サリナ、集会所へ行くぞ」
「ああ、わかった。リンネ、ハンスとショーイに頼んで黒虎たちは里の外に運んでもらってくれ。俺が後で処分するまで誰にも触らせないようにね」
「ああ、頑張ってもらうさ」
少し不満そうなリンネを残して、俺達が集会所に入ると前回同様に男ドワーフと女エルフの長老が待っていた。二人とも前回よりも笑顔を増やしてサトルを迎えてくれているようだった。
「ああ、ミーシャ、良く戻りましたね。あなたたちが、みんなを助けてくれたんですね」
「長老、ご無事で何よりです。今回はシルバーのおかげです。それに、この娘サリナの魔法の力です」
「あら? こちらの小さい娘さんが・・・、ありがとうございます」
女長老はサリナを見つめて笑顔で礼を言った。男ドワーフのノルドは今日も無口だが、サリナを見る目は温かかった。
「それで、あなたたちはどうやって私たちを暗闇から出してくれたのですか?」
「それは・・・、サトルどうやったのだ?」
「俺にもはっきりとは、だけど風の精霊が言うには・・・」
俺はブーンから話を聞いて、シルバーが連れて行った場所でサリナの魔法をぶちかましたことを説明した。
「・・・、たぶん術士を倒したので、皆さんが閉じ込められていた結界が消えて、もともといた場所に戻れたのだと思います」
「ほう、ブーンがの。ふむ、わしが持っておる護符で闇の力を打ち払おうとしたのじゃが・・・、今回の闇の力は強大じゃった。その術士をな・・・、その小さい娘は前の勇者の子孫じゃな」
「そうです。紹介していませんでしたね。サリナは勇者の一族です、今日は母親も一緒に連れてきました」
「そうか、うむ。勇者の妻とよく似た目をしておる。綺麗な大きな目じゃった」
「私のご先祖を知っているの?おじいちゃんのおじいちゃんだよ?」
「うむ、親しくさせてもらったぞ。とても楽しい思い出じゃ」
そうだった、サリナの祖先とも話したことがあるんだ。それに酒を飲んで楽しかったと言っていた。
「その小さい娘の魔法が闇の世界とこの世界の境目ごと闇の術士を吹き飛ばしたのだろう。小さいのに凄い魔法力じゃな」
「らしいですね・・・」
ノルドは感心しているが、サトルはサリナには半分の力で頼んだことを思い出していた。
「ところで、闇の空間って、どんなところだったのですか?」
「闇が際限なく広がっています。ですが、ノルドの出す護符から伸びる力でかろうじて闇に一か所穴が開いていて、そこから差し込む光で何とか自分達の姿を見ることが出来たんです。もし、あの光が無ければ、本当に何も見えない空間だったでしょう」
女長老の話を聞くと、何だか俺のストレージにちょっと似ている気がしたが、俺は里の人間全員を一度に取り込むというようなことは出来ない。俺の神様との取り決めで、生きているものは入らないし、手が届く距離のものしか入れられないのだ。その代わり死人は入れることが出来た。まさか、こんな風に役立つとは思わなかったが、現時点で4人の死人を暗闇の空間に収容している。
―さっきの奴も話さないだろうが、早めに事情聴取が必要だな。
「それで、今回はこの里に寄ってくれたのはどういう目的だったのですか?」
女長老は首を傾げて興味深そうな目で俺を見ていた。
「はい、サリナの母親が来たいと言っていたのと、水の国の女王がサトルを風の精霊の元に導けと」
「ほお、水の国の女王がの・・・、元気だったか?」
「ええ、昔は何度も来たことがあると言っていましたが、私は初耳でした」
「ふむ。あの女はふらりと現れるからのう・・・、うむ、お主たちにも伝えておかねばならんな。ちょっとついて来い。その小さい娘の母も一緒にな」
「もー!さっきから何度も小さい小さいって! 失礼でしょ!」
サリナは何度も小さいと言われて不服のようだ。顔全体を膨らませて不満の意思を伝えている。
「・・・うむ、失礼じゃったな。サリナか、良い名じゃな。お前の母も連れてくるのじゃ」
「はーい」
サリナはむくれながらも集会所を出てママさんが戻ってきているのを見つけて、集会所の前でノルド達に案内した。
「お母さん、このおじいさんとおばあさんがお母さんに会いたいってさ」
「ま、サリナ。エルフの長老に失礼ですよ! 初めまして、マリアンヌと申します」
「うむ、エルフの長を務めるノルドじゃ・・・、先の勇者とは親しくさせてもらっておった」
「そうですか、それはありがたいことです」
「ふむ、それでな。お前たちに案内したい場所があるから、悪いがついて来てくれ」
ノルドに連れられて集会所から続く小道を歩いていくと広い空き地の前にエルフの小屋にしては大きめな建物が建っていた。
「ここじゃ。ここに勇者は飛んで来たのじゃ。水の国の女王もな」
―飛んでくる? ここに転移するってことか? 単なる空き地に?
「そうですか、では、この地面に聖教石を埋めたのですね」
「うむ、光の石をな。流されんようにと大きいのを5本埋めて行きおった」
ノルドとママさんは二人で頷きながら話を続けている。
「いつも一人で来ていましたか?」
「いや、大勢で来ておったぞ。時には大きな馬車の荷台と一緒にな」
「荷台?・・・そうですか、物も一緒に動かせるのですね」
「ああ、いろんなものを持ってきてくれた。ショーチュウとかをな」
最後の部分はにやりと笑って俺を見ていた。
「ああ、安心してください。お土産で焼酎を今回はお持ちしましたから。あ、でも俺は飲めないですけどね」
「そうか・・・、勇者の子孫は飲めるのか?」
「ええ、喜んでお付き合いしますよ」
「おお、それは楽しみだな」
今日は良くしゃべるノルドは、皺だらけの顔をくしゃくしゃにしていい笑顔をママさんに向けた。
―うん、こんな美人と一緒に酒が飲めるなら嬉しいのだろうな。焼酎・・・何本要るんだろ?
「馬鹿な! なぜ、見つかったのだ?」
黒い死人達の首領は端正な少年の顔をゆがめて、暗くなってしまった水晶石を見つめなおした。
「あの狼、神獣の力だよ・・・、あれは神の使いだからね。これではっきりした。あいつらは神に・・・、あいつらの神に導かれているのは間違いないね」
「神獣とはいえ、ハイドの場所は外からは見ることも感じることもできぬはずだ」
「いや、あいつ自身が見つけられなくても、ハイドの呪法が出ている場所を感じることが出来るんだろ。それに結界はまだ完成していなかったからね。光の世界とのつなぎ目は見えたのかもしれない・・・」
首領たちは大きな水晶を通じて結界を張っているエルフの里全体を見ていたが、森の外から現れた巨大な白狼はまっすぐにハイドの元へたどり着いた。ハイドは魔石を六芒星の形で配置し終えると、呪法陣の北西に当たる場所で小さな闇の空間を作り、そこに隠れてから呪法を使っていたのだが、隠れた空間は人間には決して見ることも触れることもできない空間・・・のはずだった。
「だけど、これでゲイルや影使い達がどうなったかも分かったんじゃないかい?」
「ああ、あの若い男が手を触れた瞬間にハイドと水晶からの絵が消えた。あれは勇者の魔法具を使って殺したわけではないな」
「そうだよ。あいつもハイドと同じような空間を作ることが出来る、そして、そこにハイドを閉じ込めたのさ」
「だとしたら、ハイドもゲルドもまだ・・・」
「ああ、どこかにいるのかもしれない。だったら、あの若い男はすぐには殺せないね」
「ならば、あの男を生け捕りにせねばならんが。触れただけで我らを取り込めるというのは厄介だ。先に一緒にいた娘たちを捕らえて揺さぶるのが良いだろう」
「だけど、二人も手ごわい相手だよ。あのちっこい娘の魔法を見ただろう?あれも魔法具の力だろうけど、誰も触れないはずの闇の空間ごとハイドを弾き飛ばしていたからね」
「そのとおりだ、水晶にはっきり映らなかったが、持っていたのは勇者の魔法具だろう。そうでなければ、闇の空間を吹き飛ばすなど出来るはずがない。だが、もう一人のエルフの娘も隙が無いぞ。おそらくエルフの戦士なのだろう。それに、例の何かを放つ武器を持っている」
「やっぱり、もう少し情報が必要だよ。あいつらの弱みを見つけなけりゃね」
「うむ。やつらがイースタンの元に戻ればイースタンの息子を使えるが、戻らねば改めて術者を送らねばならんな」
「では、あの女に働いてもらおうかね・・・」
暗い洞窟の中で真っ暗になった水晶玉を見つめながら二人の首領は次の手を打つために、使いの女へと連絡を取った。
■エルフの里
エルフの里に戻るとリンネ達が大勢のエルフに囲まれる騒動になっていた。
「どうした、何があったのだ?」
「あっ! ミーシャ、お帰り! 早くあいつらを何とかしないと!」
見た目は若い美形のエルフ女子がミーシャの元に二人駆け寄ってきた。たしか、前回来たときに一緒に狩りに行った二人だ。
「あいつらって言うのは・・・」
「あの魔獣だよ! あの女はもう動かないって言うけど、さっきまでは動いていたんだ! あの女も少しおかしいし、本当に仲間なのかい?」
二人のエルフはリンネを指さして疑いの目を向けている。やはり、死人であることを感じて取っているのかもしれない。
「ああ、間違いない。リンネは大切な仲間だ。それに、あの魔獣はその・・・、大丈夫だ。な、サトル」
「うん、あれは大丈夫だよ。もう、動かないからね」
「そうか、サトルがそう言うなら・・・」
黒虎たちを警備のために置いて行ったが、エルフ達が戻ってくることは想定していなかった。エルフ達が戻ると見たことの無い魔獣が里を徘徊していたのだ。エルフ達が騒ぐのも無理は無かった。今はリンネの指示で完全に動きを止めていているが、エルフの前でストレージに収納するのはまずいので、後始末をどうするかが問題だ。
―いったん里の外へ運んで、後で収納するか・・・。
「じゃあ、あれは食べても大丈夫か?」
「えっ!? 食べるの? あの魔獣を?」
「ああ、かなり傷があるようだが肉はしっかりついているだろ?」
「いや、その・・・、そうだ!あの魔獣の肉には毒があるんだよ。うん、だから食べない方が良いな」
「毒? 毒の臭いはしないがな・・・。まあ、サトルが言うならそうかもしれないな。何といっても勇者だからな!」
美形のエルフ女子はキラキラと目を輝かせて俺を見てくれる。そう、ここでの俺は人気があるとミーシャが言っていた。里のエルフは実年齢は3桁越えだが、見た目の若い女性が圧倒的に多く、男性は殆ど・・・、いや、エルフ系の男はそういえば見たことが無い。男はドワーフしかいない。長老のノルドもそうだった。今考えるとおかしいな・・・。
「夜は美味しい肉をたくさん持ってきているから、それをみんなで食べよう」
「本当か!? それは嬉しいな! ミーシャ、サトルは本当に良い奴だな!」
「ああ、サトルは良い奴なのだ」
―良い人って言われたら男としては見てもらってない。どこかでそんなことを・・・。
「サトル、長老のところに行こう。何があったのか詳しく聞いた方が良いだろう。長老はどこにいる?」
「長老はミーシャたちが来るのを集会所で待っているよ」
「そうか、サトル、サリナ、集会所へ行くぞ」
「ああ、わかった。リンネ、ハンスとショーイに頼んで黒虎たちは里の外に運んでもらってくれ。俺が後で処分するまで誰にも触らせないようにね」
「ああ、頑張ってもらうさ」
少し不満そうなリンネを残して、俺達が集会所に入ると前回同様に男ドワーフと女エルフの長老が待っていた。二人とも前回よりも笑顔を増やしてサトルを迎えてくれているようだった。
「ああ、ミーシャ、良く戻りましたね。あなたたちが、みんなを助けてくれたんですね」
「長老、ご無事で何よりです。今回はシルバーのおかげです。それに、この娘サリナの魔法の力です」
「あら? こちらの小さい娘さんが・・・、ありがとうございます」
女長老はサリナを見つめて笑顔で礼を言った。男ドワーフのノルドは今日も無口だが、サリナを見る目は温かかった。
「それで、あなたたちはどうやって私たちを暗闇から出してくれたのですか?」
「それは・・・、サトルどうやったのだ?」
「俺にもはっきりとは、だけど風の精霊が言うには・・・」
俺はブーンから話を聞いて、シルバーが連れて行った場所でサリナの魔法をぶちかましたことを説明した。
「・・・、たぶん術士を倒したので、皆さんが閉じ込められていた結界が消えて、もともといた場所に戻れたのだと思います」
「ほう、ブーンがの。ふむ、わしが持っておる護符で闇の力を打ち払おうとしたのじゃが・・・、今回の闇の力は強大じゃった。その術士をな・・・、その小さい娘は前の勇者の子孫じゃな」
「そうです。紹介していませんでしたね。サリナは勇者の一族です、今日は母親も一緒に連れてきました」
「そうか、うむ。勇者の妻とよく似た目をしておる。綺麗な大きな目じゃった」
「私のご先祖を知っているの?おじいちゃんのおじいちゃんだよ?」
「うむ、親しくさせてもらったぞ。とても楽しい思い出じゃ」
そうだった、サリナの祖先とも話したことがあるんだ。それに酒を飲んで楽しかったと言っていた。
「その小さい娘の魔法が闇の世界とこの世界の境目ごと闇の術士を吹き飛ばしたのだろう。小さいのに凄い魔法力じゃな」
「らしいですね・・・」
ノルドは感心しているが、サトルはサリナには半分の力で頼んだことを思い出していた。
「ところで、闇の空間って、どんなところだったのですか?」
「闇が際限なく広がっています。ですが、ノルドの出す護符から伸びる力でかろうじて闇に一か所穴が開いていて、そこから差し込む光で何とか自分達の姿を見ることが出来たんです。もし、あの光が無ければ、本当に何も見えない空間だったでしょう」
女長老の話を聞くと、何だか俺のストレージにちょっと似ている気がしたが、俺は里の人間全員を一度に取り込むというようなことは出来ない。俺の神様との取り決めで、生きているものは入らないし、手が届く距離のものしか入れられないのだ。その代わり死人は入れることが出来た。まさか、こんな風に役立つとは思わなかったが、現時点で4人の死人を暗闇の空間に収容している。
―さっきの奴も話さないだろうが、早めに事情聴取が必要だな。
「それで、今回はこの里に寄ってくれたのはどういう目的だったのですか?」
女長老は首を傾げて興味深そうな目で俺を見ていた。
「はい、サリナの母親が来たいと言っていたのと、水の国の女王がサトルを風の精霊の元に導けと」
「ほお、水の国の女王がの・・・、元気だったか?」
「ええ、昔は何度も来たことがあると言っていましたが、私は初耳でした」
「ふむ。あの女はふらりと現れるからのう・・・、うむ、お主たちにも伝えておかねばならんな。ちょっとついて来い。その小さい娘の母も一緒にな」
「もー!さっきから何度も小さい小さいって! 失礼でしょ!」
サリナは何度も小さいと言われて不服のようだ。顔全体を膨らませて不満の意思を伝えている。
「・・・うむ、失礼じゃったな。サリナか、良い名じゃな。お前の母も連れてくるのじゃ」
「はーい」
サリナはむくれながらも集会所を出てママさんが戻ってきているのを見つけて、集会所の前でノルド達に案内した。
「お母さん、このおじいさんとおばあさんがお母さんに会いたいってさ」
「ま、サリナ。エルフの長老に失礼ですよ! 初めまして、マリアンヌと申します」
「うむ、エルフの長を務めるノルドじゃ・・・、先の勇者とは親しくさせてもらっておった」
「そうですか、それはありがたいことです」
「ふむ、それでな。お前たちに案内したい場所があるから、悪いがついて来てくれ」
ノルドに連れられて集会所から続く小道を歩いていくと広い空き地の前にエルフの小屋にしては大きめな建物が建っていた。
「ここじゃ。ここに勇者は飛んで来たのじゃ。水の国の女王もな」
―飛んでくる? ここに転移するってことか? 単なる空き地に?
「そうですか、では、この地面に聖教石を埋めたのですね」
「うむ、光の石をな。流されんようにと大きいのを5本埋めて行きおった」
ノルドとママさんは二人で頷きながら話を続けている。
「いつも一人で来ていましたか?」
「いや、大勢で来ておったぞ。時には大きな馬車の荷台と一緒にな」
「荷台?・・・そうですか、物も一緒に動かせるのですね」
「ああ、いろんなものを持ってきてくれた。ショーチュウとかをな」
最後の部分はにやりと笑って俺を見ていた。
「ああ、安心してください。お土産で焼酎を今回はお持ちしましたから。あ、でも俺は飲めないですけどね」
「そうか・・・、勇者の子孫は飲めるのか?」
「ええ、喜んでお付き合いしますよ」
「おお、それは楽しみだな」
今日は良くしゃべるノルドは、皺だらけの顔をくしゃくしゃにしていい笑顔をママさんに向けた。
―うん、こんな美人と一緒に酒が飲めるなら嬉しいのだろうな。焼酎・・・何本要るんだろ?
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女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
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