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Ⅱ‐66 勇者の神殿
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■火の国の南海岸
ショーイ達が獣人の村へ向かって10分ほどで、ミーシャ一人が凄い勢いで戻ってきた。良くないことがあったのだろう。息も切らさずに俺の前に戻ってきたミーシャの表情は険しい。
「どうした? ママさんたちは?」
「いなくなった・・・、獣人の長老たちはそう言って、取り乱している」
「いなくなったって、何処でいなくなったんだ?」
ミーシャが聞いた話では勇者の神殿に長老たちと一緒に行って、ママさんとハンスが二人で入ったとたんに神殿が消えた・・・ということらしい。
―神殿が消える・・・?
「それで、ショーイは?」
「うん、念のため獣人が逃げないように見張っている。万が一、嘘と言う可能性もあるからな。それで、お前を呼んで来いと言っている」
「わかった。じゃあ、サリナ。お前も来いよ。ミーシャはここでみんなを守ってやってくれ、念のために色々出しておこう。リンネ、新しいのも頼むよ」
「ああ、良いよ・・・って、何だい! そのデカいのは!?」
俺はリンネの練習を兼ねて砂浜にティラノザウルスを大小二つ出して、その周りに黒虎を並べて置いた。
「この大きいのはティラノだ。戦力としては最強だから、仲良くなれるようにしてくれよ」
「ふぅーん、わかったよ。しかし、デカい歯だねぇ・・・、あたしの頭より大きいよ」
「じゃあ、ミーシャ。エルとアナ、ついでにリカルドを頼んだぞ」
「任せておけ」
俺とサリナは小走りに砂浜を走り、歩き、息を切らせて獣人の村へたどり着いた。近くで見ると丸太の柵はところどころ腐ったり壊れたりして、今は機能していないようだ。柵沿いに進むと、幅の狭い入り口があったので中に入るとショーイと獣人たちが集まっていた。
「おお! 勇者様! よくぞお越しくださいました。ま、マリアンヌ様が!」
「話は聞きましたが、勇者の神殿はどこにあったのですか?」
「森を20分ほど歩いたところです。お二人が中に入ると扉が勝手に閉じて、突然消えたのです」
長老のジルはかなり慌てている。芝居のようには見えないが・・・、何とも言えないな。
「じゃあ、そこに連れて行ってください」
「ええ、ええ、参りましょう」
ジルと二人の獣人を先頭に村を出て、森の中へと入って行った。森の中は開墾された後に雑草が生えているのだろう。道は無いが歩きにくいほどではなかった。15分ほど進んだところでジルが大声を上げた。
「なんと!? 神殿が戻ってきています!」
ジルが指し示す方向を見ると、確かに白亜の建物が木々の間から見えている。
本当に消えていたのか?俺の中ではジルたちへの疑念が膨らんできたので周囲を警戒したが、ショーイも同じことを考えていたのだろう。素早くあたりを見回して、右手は刀にかかっている。だが、待ち伏せされることもなく神殿の前にたどり着くと、ジルたちはその場で神殿に向かって平伏した。
「ああ、良かった。無事に戻ってきてくださった」
「あの中に入って行ったんですよね? 消えたって言うのは飛んでいく感じなんですか?」
「飛んで・・・?いえ、文字通り目の前から消えたのです。勇者様の神殿は勇者様が入ると消えてどこかに行くと言い伝えられていますが、実際に消えたのを見るのは初めてです」
「・・・」
この世界なら何があってもおかしくないが・・・、この目の前の大きな建物が消える・・・のか?それよりも、中にママさんとハンスがいるのか? 俺が神殿に近づくのを躊躇いながら考えていると、神殿の扉が突然開いた!だが、誰も出てこない。
「ショーイ、後ろを頼んだ」
「ああ、任せろ」
俺は、サブマシンガンを片手に扉の外から神殿の中を伺った。神殿はテニスコートぐらいの広さだ。中は綺麗な装飾の柱が壁と天井を支える構造で、両側の壁の下には水路があり水が流れている。突き当りには大きな背もたれのある赤い布で包まれた椅子だけがある。見た感じ、玉座って感じで王様の部屋のように感じたが、中には誰もいない。
「サトル、お母さんは居るの?」
「いや、誰もいないな」
「そうなんだ・・・、どこかな?」
「さあ、俺にはさっぱり・・・」
―勇者よ、神殿に入りなさい。
「! サリナ! 今の声聞こえたか?」
「声? なんの声?」
俺の頭の中に突然語り掛けてくる奴がいる。
―早く、長く待ったのだから、神殿に入って・・・
「お前は誰だ?マリアンヌさんをどこにやったんだ?」
「サトル? 誰と話してるの?」
―ふふ、前の勇者の一族は神の庭に居ますよ。さあ、早く、あなたも・・・
俺の頭の中だけに響く声なのだろう、サリナは俺が変になったと思っているようだが、女性の柔らかい声が俺を神殿の中に誘っている。明らかに胡散臭いのだが、不思議なことに俺は入っても良いと思い始めていた。
「ショーイ、お前はあの神殿から敵意のようなものを感じるか?」
「・・・いや、敵意は感じられないな。それどころか、なにか懐かしいような温かさを感じる」
「そうか・・・、じゃあ、俺とサリナが入るからお前は外で見張っておいてくれ、俺達が戻れなかったら、後のみんなを頼むぞ」
「待て! 俺も一緒のほうが良いんじゃないか?それか、サリナに残ってもらって・・・」
「ダメ! サトルとはサリナが一緒に行くの! ショーイはここでお留守番!」
「留守番と言うより、ショーイはこの扉が閉じないように外で見張っておいてほしいんだよ」
「ああ、そうか。わかったよ。だが、気をつけろよ。マリアンヌさんがここから消えたなら何か仕掛けがあるはずだ」
「そうだな、さっきも扉が勝手に開いたが、中には誰もいないし、ばね仕掛けもない。仕掛けというよりは、何かの力が働いているのは間違いない」
―問題はその力が敵か、それとも味方か・・・
俺はヘルメットやタクティカルベスト等の装備を整えてから、神殿に足を踏み入れた。中には正面の立派な椅子以外は何もない、両側の水路をきれいな水が流れているのが見える。サリナも自発的に炎のロッドをもって、俺の後へ続いた。ショーイはサリナの後ろで扉が閉まらないように体を入れた・・・。
―バーン!
激しい音ともに扉が閉まり、俺が駆け寄った時には押しても引いてもびくともしない。いきなり閉じ込められてしまった。
―ショーイ! 全然警戒できてないじゃん!
「さ、サトル! あそこ!」
「あぁ・・・!?」
振り返ってサリナの指さす方向を見ると、さっきまで誰もいなかった玉座に女性が…全裸の女性が座っていた。
§
ショーイは扉が閉まらない位置に立ったと思った瞬間に強烈な力で弾き飛ばされた。あまりの速さで全く反応することが出来なかった。受け身をとりながら神殿を見ていたが、忽然と神殿は消えた。左腕の痛みをこらえて起き上がると神殿があった場所には確かに建物があった跡が見える。
「おい! 神殿は?どうなったんだ!?」
「わ、判りません! これはさっきと同じで・・・、突然消えたのです・・・、勇者様・・・」
獣人の長老たちも呆然としている。油断した・・・いや、油断と言うよりは甘く考えていたのだろう。あんな人外の力が使われる神殿を外から抑えることなどできる筈が無かったのだ。
―まずいな・・・、闇の力とは違うはずだが・・・、サトルとサリナが消えた・・・、ミーシャが怒るだろうな・・・。
ショーイはキャンプ地に戻らずに、ここでしばらく様子を見ることに決めた。
―さっきも戻ってきたって言うしな、また、戻ってくるかも・・・。
ショーイ達が獣人の村へ向かって10分ほどで、ミーシャ一人が凄い勢いで戻ってきた。良くないことがあったのだろう。息も切らさずに俺の前に戻ってきたミーシャの表情は険しい。
「どうした? ママさんたちは?」
「いなくなった・・・、獣人の長老たちはそう言って、取り乱している」
「いなくなったって、何処でいなくなったんだ?」
ミーシャが聞いた話では勇者の神殿に長老たちと一緒に行って、ママさんとハンスが二人で入ったとたんに神殿が消えた・・・ということらしい。
―神殿が消える・・・?
「それで、ショーイは?」
「うん、念のため獣人が逃げないように見張っている。万が一、嘘と言う可能性もあるからな。それで、お前を呼んで来いと言っている」
「わかった。じゃあ、サリナ。お前も来いよ。ミーシャはここでみんなを守ってやってくれ、念のために色々出しておこう。リンネ、新しいのも頼むよ」
「ああ、良いよ・・・って、何だい! そのデカいのは!?」
俺はリンネの練習を兼ねて砂浜にティラノザウルスを大小二つ出して、その周りに黒虎を並べて置いた。
「この大きいのはティラノだ。戦力としては最強だから、仲良くなれるようにしてくれよ」
「ふぅーん、わかったよ。しかし、デカい歯だねぇ・・・、あたしの頭より大きいよ」
「じゃあ、ミーシャ。エルとアナ、ついでにリカルドを頼んだぞ」
「任せておけ」
俺とサリナは小走りに砂浜を走り、歩き、息を切らせて獣人の村へたどり着いた。近くで見ると丸太の柵はところどころ腐ったり壊れたりして、今は機能していないようだ。柵沿いに進むと、幅の狭い入り口があったので中に入るとショーイと獣人たちが集まっていた。
「おお! 勇者様! よくぞお越しくださいました。ま、マリアンヌ様が!」
「話は聞きましたが、勇者の神殿はどこにあったのですか?」
「森を20分ほど歩いたところです。お二人が中に入ると扉が勝手に閉じて、突然消えたのです」
長老のジルはかなり慌てている。芝居のようには見えないが・・・、何とも言えないな。
「じゃあ、そこに連れて行ってください」
「ええ、ええ、参りましょう」
ジルと二人の獣人を先頭に村を出て、森の中へと入って行った。森の中は開墾された後に雑草が生えているのだろう。道は無いが歩きにくいほどではなかった。15分ほど進んだところでジルが大声を上げた。
「なんと!? 神殿が戻ってきています!」
ジルが指し示す方向を見ると、確かに白亜の建物が木々の間から見えている。
本当に消えていたのか?俺の中ではジルたちへの疑念が膨らんできたので周囲を警戒したが、ショーイも同じことを考えていたのだろう。素早くあたりを見回して、右手は刀にかかっている。だが、待ち伏せされることもなく神殿の前にたどり着くと、ジルたちはその場で神殿に向かって平伏した。
「ああ、良かった。無事に戻ってきてくださった」
「あの中に入って行ったんですよね? 消えたって言うのは飛んでいく感じなんですか?」
「飛んで・・・?いえ、文字通り目の前から消えたのです。勇者様の神殿は勇者様が入ると消えてどこかに行くと言い伝えられていますが、実際に消えたのを見るのは初めてです」
「・・・」
この世界なら何があってもおかしくないが・・・、この目の前の大きな建物が消える・・・のか?それよりも、中にママさんとハンスがいるのか? 俺が神殿に近づくのを躊躇いながら考えていると、神殿の扉が突然開いた!だが、誰も出てこない。
「ショーイ、後ろを頼んだ」
「ああ、任せろ」
俺は、サブマシンガンを片手に扉の外から神殿の中を伺った。神殿はテニスコートぐらいの広さだ。中は綺麗な装飾の柱が壁と天井を支える構造で、両側の壁の下には水路があり水が流れている。突き当りには大きな背もたれのある赤い布で包まれた椅子だけがある。見た感じ、玉座って感じで王様の部屋のように感じたが、中には誰もいない。
「サトル、お母さんは居るの?」
「いや、誰もいないな」
「そうなんだ・・・、どこかな?」
「さあ、俺にはさっぱり・・・」
―勇者よ、神殿に入りなさい。
「! サリナ! 今の声聞こえたか?」
「声? なんの声?」
俺の頭の中に突然語り掛けてくる奴がいる。
―早く、長く待ったのだから、神殿に入って・・・
「お前は誰だ?マリアンヌさんをどこにやったんだ?」
「サトル? 誰と話してるの?」
―ふふ、前の勇者の一族は神の庭に居ますよ。さあ、早く、あなたも・・・
俺の頭の中だけに響く声なのだろう、サリナは俺が変になったと思っているようだが、女性の柔らかい声が俺を神殿の中に誘っている。明らかに胡散臭いのだが、不思議なことに俺は入っても良いと思い始めていた。
「ショーイ、お前はあの神殿から敵意のようなものを感じるか?」
「・・・いや、敵意は感じられないな。それどころか、なにか懐かしいような温かさを感じる」
「そうか・・・、じゃあ、俺とサリナが入るからお前は外で見張っておいてくれ、俺達が戻れなかったら、後のみんなを頼むぞ」
「待て! 俺も一緒のほうが良いんじゃないか?それか、サリナに残ってもらって・・・」
「ダメ! サトルとはサリナが一緒に行くの! ショーイはここでお留守番!」
「留守番と言うより、ショーイはこの扉が閉じないように外で見張っておいてほしいんだよ」
「ああ、そうか。わかったよ。だが、気をつけろよ。マリアンヌさんがここから消えたなら何か仕掛けがあるはずだ」
「そうだな、さっきも扉が勝手に開いたが、中には誰もいないし、ばね仕掛けもない。仕掛けというよりは、何かの力が働いているのは間違いない」
―問題はその力が敵か、それとも味方か・・・
俺はヘルメットやタクティカルベスト等の装備を整えてから、神殿に足を踏み入れた。中には正面の立派な椅子以外は何もない、両側の水路をきれいな水が流れているのが見える。サリナも自発的に炎のロッドをもって、俺の後へ続いた。ショーイはサリナの後ろで扉が閉まらないように体を入れた・・・。
―バーン!
激しい音ともに扉が閉まり、俺が駆け寄った時には押しても引いてもびくともしない。いきなり閉じ込められてしまった。
―ショーイ! 全然警戒できてないじゃん!
「さ、サトル! あそこ!」
「あぁ・・・!?」
振り返ってサリナの指さす方向を見ると、さっきまで誰もいなかった玉座に女性が…全裸の女性が座っていた。
§
ショーイは扉が閉まらない位置に立ったと思った瞬間に強烈な力で弾き飛ばされた。あまりの速さで全く反応することが出来なかった。受け身をとりながら神殿を見ていたが、忽然と神殿は消えた。左腕の痛みをこらえて起き上がると神殿があった場所には確かに建物があった跡が見える。
「おい! 神殿は?どうなったんだ!?」
「わ、判りません! これはさっきと同じで・・・、突然消えたのです・・・、勇者様・・・」
獣人の長老たちも呆然としている。油断した・・・いや、油断と言うよりは甘く考えていたのだろう。あんな人外の力が使われる神殿を外から抑えることなどできる筈が無かったのだ。
―まずいな・・・、闇の力とは違うはずだが・・・、サトルとサリナが消えた・・・、ミーシャが怒るだろうな・・・。
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