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Ⅱ‐65 休暇の後は?

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■火の国の南海岸

 海水浴二日目は、少女たちは潜り続け、ママさんとハンスは獣人の村へ向かい、リンネは絵をかき、ショーイは森の中へ刀を持って消えていった。そして、リカルドは相変わらず俺が与えた本や雑誌などを車の中で読み漁っている。

 俺はと言うと、少女たちに潜りすぎないように注意を与えて、少しだけ自分も海に入ったが20分ほどで上がってきて、ビーチチェアでゆったりと寛いでいた。横ではリンネが座ったまま絵を描いている。ちらっと覗いてみたが海と太陽、そして白い砂浜を描いていた。

「なんだい?気になるのかい?」
「いや、上手だなと思っただけ」
「そうかい、ありがとうよ。ところで、海の後はエルフの里に行くんだろ?」
「そうだけど」
「休暇の後はどうするんだい?」
「その後は王国会議次第じゃないかな」
「王様たちの会議だね?」

 そうだ、王様たちの会議になぜか俺が参加することになっている。他称勇者だから仕方ないとはいえ、高校生が参加する場所ではない気がする。それに、その会議の結果にかかわらず、黒い死人達とネフロスの信者とは敵対しているからケリをつける必要がある。

 ―休暇の後・・・か。夏休み明けの気分かな?

 転がっていても退屈になったので、昼はカレーを作ることにした。美味しくできたものを何でも出せるが、やはり作るというのも大事な気がしてきたのだ。野菜を切って、玉ねぎをしっかりと炒めてから鍋に野菜を入れた。大きなバケツの中に残っているアワビとサザエの身を取り出して、ネット情報をもとに白ワインで茹でてから野菜と一緒に煮込むことにする。炊飯器をキャンピングカーで予約を入れて、後は鍋の横で待っていると少女たちが浜に帰ってきた。今日は昨日より気温も高く、4人とも顔色が良かった。ぶら下げた袋の中には色々なものが入っている。

「サトル兄ちゃん! 今日は綺麗な石をみつけたの!」

 エルが嬉しそうに光る石を持ってきてくれた。水晶のような透明な石だが、拳ぐらいの大きさでかなり透明度が高い。ダイヤ? まさかな・・・

「キレイだな。たくさんあったのか?」
「うん! 海の底に固まって落ちていたよ」
「そうか、よかったな」
「私はこれを見つけた! 美味しいかな?」

 サリナはデカい伊勢海老?を袋に2匹入れていた。

「素手でよく捕まえたな。それは美味そうだぞ」
「本当? どうやって食べようかな?」
「そうだな、昼はカレーだからな、一匹は焼いて、もう一匹は茹でてサラダに入れてみるかな」
「ふーん、カレー!? サトルが作ってるの?」
「ああ、鍋でじっくり野菜を煮込んでいるところだよ」
「サリナも手伝う!」
「でも、あんまりやることがないんだよな。じゃあ、そのエビを茹でておいてくれ」
「わかった! でも、その前にシャワーを浴びるね。エル、アナ、行こう!」
「はーい」

 3人は本当の姉妹のように仲良く過ごしている。シャワーもルーティーンとなって、生活に溶け込んできた。さて、三人娘の後ろには今日も大漁のミーシャ様が袋を背負って待っていた。

「ミーシャ、今日は・・・」
「ああ、今日はヒラメだけを獲ってきた。また、あの天ぷらが食べたいのだ」

 背中から降ろした網目のネット袋には大きなヒラメが7匹ぐらい入っている。よっぽど昨日の天ぷらが気に入ったのだろう。

「そうか、夜でもいいかな?」
「もちろんだ、夜で良いぞ。足りなければ、もっと獲ってくるが?」
「いや、多すぎるだろう。獲るなら他のにしてくれ、それとあんまり長い間、海に入るなよ。少しはゆっくりしてくれ」
「うん、わかった。だがな、せっかくだからな、できるだけ海を味わいたいのだ。簡単に来られる場所でもないのでな」
「そうか・・・」

 ミーシャは俺と離れた後のことも考えているのだろう。思い出さないようにしていたが、婚約者という人もいるのだ。そろそろ、別行動・・・なのかな。

 昼食のシーフードカレーは美味しくできた。アワビの肝を少しだけ入れて旨味を増したのが良かったのだろう。だが、少し辛すぎたようで、エルとアナは水がたくさん必要になった。贅沢な伊勢海老サラダも当然に美味い。焼いた伊勢海老は少しずつだったが、マヨネーズをつけてみんなで堪能した。

「サトル! このエビも美味しいね。また、獲ってこよっと」
「たくさんいたのか?」
「うん、えーとね。海の底が動いているなって思ったら、えびがいっぱい!でも、近づくとビューンって逃げていくの」
「そんなにか? だったら、ミーシャと同じモリを使って刺してこいよ。素手だと逃げられるだろ?」
「モリ? 刺すの?・・・、何だか可哀そう・・・」
「いやいや、お前食うんだろ? それも腹いっぱいになるまで」
「そっか。食べるから一緒か。わかった!ミーシャ、あとでえびを獲りに行こうよ」
「ああ、いいぞ。たくさん獲ろう。これも格別に美味いな・・・、サトル、これは天ぷらにできないのか?」

 ―天ぷらにドはまりですな。

「ああ、できるよ。エビの天ぷらも美味しいからな。じゃあ、夜は天ぷらにするからエビをたくさん獲ってきてくれ」
「任せてくれ、必ず満足させて見せる」

 ―そこまで気合い入れなくても・・・、揚げるのが追いつくか?

 美味しいランチを堪能していたが、ママさんとハンスは俺達が食べ終わっても戻って来なかった。村で何か食べさせてもらったのかもしれない。ショーイは汗だくで帰ってきて、カレーをがつがつ食うとビールを飲んで昼寝を始めている。車のリカルドにもカレーをサリナが持って行ってやったが、匂いを嗅いでカレー料理のことを根ほり葉ほり聞き始めたのでサリナが逃げ出してきた。

「サトル! カレーのことをお父さんに教えてあげて!」
「いや、面倒だからな。料理の本を渡して、見といてもらえばいいよ」

 ーいちいち相手にしてられない。本でごまかせば良いだろう。

 サリナが料理の本を3冊持っていくと、リカルドの知識欲は満足したようだ。夢中になって読めない言語の解読に取り組み始めて、質問攻撃は止まったらしい。

 俺の指示で昼食後1時間は海に入れないサリナ達は、リンネの絵をみて自分達も絵を描くと言い出した。水彩はハードルが高そうだったので、お絵かきセット(画用紙、画板がばん、クレヨン)を渡すと嬉しそうに思い思いの場所へと走って行った。ミーシャは絵に興味が無いようで、おとなしくビーチチェアで横になっている。

 ―それにしても・・・、ママさんたちは?

 ママさんたちはサリナ達の午後の漁が終わり、天ぷらの準備が整ってもまだ帰ってこなかった。16時を過ぎて、日が傾きだしているのだが、何かあったのだろうか?

「ショーイ、ミーシャ、二人で獣人の村まで行って、見て来てくれないか?」
「ああ、良いぜ」
「承知した」

 二人は波打ち際の走りやすい場所を見つけて、村へ向かって駆け出した。

「どうしたのかな?」

 サリナは心配というよりは不思議そうな表情を浮かべて俺を見上げた。

「さあな。ママさんが一緒だから大丈夫だとは思うが、少し遅すぎるな」

 村からは1kmほど離れているが、遮るものもなく木造の柵が広がっているのがここからでも見えている。丸太で組まれた柵は外部から侵入されない砦のような作りになっている。

 ―外敵は人なのか? それとも他の何かか?
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