225 / 343
Ⅱ‐64 魚料理と獣人たち
しおりを挟む
■火の国の南海岸
マリアンヌとハンスがいると分かった獣人たちは、いったん村に帰って酒や魚を大量に持ってきた。皆が座れるように砂浜にレジャーシートを敷いてやり、車座で飲める環境を作ってマリアンヌさんを中心に大人たちの大宴会が始まった。ハンスやショーイも目覚めて、獣人たちの中で楽しそうに飲み始めた。リンネはビーチチェアで寝そべったまま、その様子を見ている。
14時を回ったところで少女たちも袋がいっぱいになったと言って、海から戻ってきたが、サリナ達の唇は紫色で鳥肌が立っていたので、今日は水に入るのを禁止した。3人とも少し疲れてきたのか、抵抗せずにシャワーを浴びて、パーカーを被ってバーベキューコンロの傍に座り込んでいる。
「疲れたのか?」
「うん、少し寒くなってきたの」
「エルとアナは大丈夫か?」
「私も少し寒い」
「私も・・・」
「だったら、車の中で昼寝してきても良いぞ。3人で布団に入ればあったまるだろう?」
「うん、ありがとう。・・・じゃあそうする。夜ご飯の支度は手伝うから、ちゃんと起こしてね」
「ああ、判ったよ。3人でゆっくりしてこい」
「はーい、エル、アナ、行こう!」
娘たちに昼寝をさせて海のほうを見るが、ミーシャはまだ上がってこない。さっき海面から潜る素敵なお尻と足を見たから、溺れているはずはないが、満足いく魚が見つからないのだろうか?
大人たちは何かよくわからない酒で、よくわからない話をしながら盛り上がり始めた。どうも、昔話のようで全く興味がわかないので、俺はネット情報をベースに炊き込みご飯の準備をしておくことにした。コメを洗って水につけて、しょうがと人参を細かく切って、大量にあるアワビを薄くスライスする。時間をおいて調味料と一緒に炊けば出来上がり・・・と。
―うん、思ったより簡単だな。
意外と手順通りに進むことに満足して、サザエで同じ準備をして二種類の炊き込みご飯を作ることにした。獣人たちも食べるだろうから、少しの量では足りないはずだった。
―いざとなればストレージから材料を追加しよう。
キャンピングカーで炊飯器のスイッチを入れるときにようやくミーシャ様が戻ってきた。
―うん、明らかに獲りすぎだな。
戻ってきたミーシャは白い顔が青くみえて、綺麗な唇にも血の気は無かった。その代わりモリを天秤棒のようにしてネットの袋二つに大量の魚を入れて歩いてくる。
「どうだ! お前の言う美味しそうな奴があるだろうか?」
袋から見えている魚は少なくとも大きなヒラメが2匹と根魚と青魚が入っている。美味しいのは確実だな。
「ああ、完璧だな。だが、まずはシャワーを浴びて来いよ。お湯を足してやるから体を温めないとダメだ」
「うん? そうか、そうだな。確かにずいぶんと体温が下がっているな」
俺はミーシャのためにポータブルシャワーに熱めのお湯を入れて、頭からシャワーをかけてやった。もちろんミーシャのためであって、俺を満足させるためではない。
「おぉ・・・、やはりシャワーは気持ち良いなぁ・・・、うん、ありがとう、サトル」
「いや、どういたしまして」
水着のミーシャの肌を間近で見ることができて、お礼を言いたいのはこっちだった。ただでさえ白い肌が冷え切ってさらに白くなっていたが、熱いシャワーのお湯で血行が戻り、ピンク色に変わっていく・・・、手を伸ばせば届く距離で・・・、最高です!
5分以上お湯をかけてから、バスタオルで体を拭いてもらった。
「今日はもう水に入らないだろう? 着替えてきたらどうだ? 乾いた服のほうが気持ちいいだろ?」
「そうだな、そうさせてもらおう」
「それで、良かったらこれを着てくれないかな?」
あえて水着から着替えてもらいたかったのはピンクのアロハシャツと白いキュロットのセットだった。南国気分で過ごせるデザインだし、アロハは俺も着ていて・・・、色違いのものだ。
「これか・・・、ふん、下は短いがズボンのようになっているのだな。動きやすそうだな。分かった、着替えてこよう」
「サリナ達が寝ているから、同じのを枕元に置いてやってくれ。まだ、起こさなくていいよ」
「うん、わかった」
ずっと水着姿を見ていたいという思いもあるが、あまり快適ではないだろうからな。明日もあるし、今日のところはこのぐらいで我慢しておこう。さて、ミーシャが獲ってきた獲物は・・・、デカいなぁ・・・、たくさんあるし、さばくのが大変だ。
「勇者様、その魚はどうされるおつもりですか?」
魚をネットから出して、大きなバケツの中に移していると後ろから声がかかった、振り返ると獣人の老人が3人立っている。一人はさっきも話していたジルと呼ばれた人だった。
「ええ、美味しそうな魚なので、食べようと思っています」
「そうですか、でしたらこちらの二人がお手伝いしますよ。魚をさばくのは得意ですからな」
「本当ですか!? それは助かるなぁ、少し多すぎてどうしようかと思っていたんです」
「ええ、ええ、お任せください」
ジルの後ろには、おそらくお婆さん?と言う感じの虎系と狼系の獣人が二人いる。口元に笑みを浮かべてニコニコしながら俺の傍に来た。
「それで勇者様、どのように料理しますか?」
「そうですねぇ、じゃあ・・・」
二人の獣人は俺のリクエストで手早く魚のうろこを落として、大きなヒラメは5枚におろして、それ以外の魚は内臓やエラを取る下処理をしてくれた。ヒラメは刺身にするとして、根魚はメバルとハタ系の魚だから・・・、福岡のばあちゃんなら・・・、やっぱり煮魚だな。だが、味付けは大丈夫か? 鍋のほうが楽そうだな・・・。
テントの奥に行って、何もない場所からこっそりと調理道具や調味料を追加で持ち出してきたところで、俺のミーシャ様が戻ってきた。ドライヤーで髪も乾かしたのだろう。金髪がふわふわになって、ピンクのアロハの上で踊っている。白いキュロットから出ている引き締まった足がとても素敵だった。
「もう、料理を始めているのだな。私も手伝うぞ」
「ああ、魚はこの人たちがさばいてくれたんだ。美味しそうなのは刺身で残りは焼き魚と鍋にしようと思う」
「うん、お前に任せる。それで、私は何をすればよいのだ?」
「そうだな・・・」
俺はミーシャに鍋に入れる野菜を切ってもらうことにした。獣人のおばあさんたちには魚を適当なサイズに切ってもらい、俺は大きな鍋を二つカセットコンロの上に置いて、アゴだしスープを入れて火にかけた。時間はまだ15時過ぎだが、大人の宴会モードだとこのまま夕食だか何だかわからない時間に食事が始まるのは確実だ、いや、既に始まっているのだろう。
つまみ用に先にアジに似た形の魚に塩を振って、串にさして焼き始めることにした。焼き奉行はお婆さんに任せて、俺はヒラメを刺身用と天ぷら用に切り分けた。カセットコンロと天ぷら用の鍋も追加で用意して、ヒラメの天ぷらを先に揚げる準備もする。ヒラメは刺身も美味しいが、天ぷらも柔らかくとても美味い。
「それはなんだ?」
「これは天ぷら油だな。今からミーシャが獲ってきたヒラメを揚げるんだよ」
「揚げる?」
「まあ、見ててよ」
適温になった油の中に溶いたてんぷら粉をつけてヒラメの切り身を投入すると、ジュワっという音ともに油の中で白い衣が躍っている。油の中から泡が沸き上がり、だんだんと色が変わってきたところで油から取り出して油切りの上に置いておく。
「何か、違うものになったようだな・・・」
「いや、揚げるとさっきの白い液体が衣になるんだよ」
「衣?」
「まあ、食べてみろよ」
俺は軽く塩を振った天ぷらを手でつまんでミーシャの口に運んだ。ミーシャは俺の手から躊躇なく口に入れて噛みしめ・・・。
「うぉッ! これはなんだ!? ふわふわして・・・本当に魚か? 美味いな、凄いぞ!」
―よし、初めての“あーん”だが、味も気に入ってくれた。
「気に入ってくれてよかったよ。たくさんあるからどんどん食ってくれよ」
「ああ、やはり自分で獲ってきた獲物が美味しいと嬉しいな」
「あー、なんか新しいの食べてるんでしょ!?こっちにもお願いしまーす」
ママさんが酔っぱらったままで俺に向かって手を振っている。目ざといのか耳ざといのか、新しい料理に気が付いたようだ。もちろん、おつまみにも良いと思って先に揚げ始めたのだが。魚料理はばあちゃんがやっているのを小さいころから見ていた。じいちゃんが釣ってきた魚を俺が好きな食べ方で食べさせてくれて、天ぷらは俺も手伝ったことがあるから、手順を覚えていてよかった。
油の温度を気にしながらどんどんヒラメを揚げて、ママさんと獣人たちに持っていくと驚きの声が上がった。
―これは凄い! 塩の味だが、何とも言えず美味い!
―周りについているのはパンだろうか?
―魚とは思えない味だな!
「サトルさん、これも美味しいわぁ。もっと頂戴ねぇ」
ママさんは色っぽい目線で俺に追加を要求してきたので、揚げる手を止めずにどんどん上げると、たくさんあると思った切り身があっという間に減っていく。サリナ達にも食わせないといけないから、天ぷらはここまでにして、次は焼き魚を食ってもらおう。
おばあさんたちが焼いていた魚を串から外して、食べやすいサイズに切って巣立ちを軽く振ってから皿に乗せて持って行ってもらった。何だかんだで17時を回ったので、そろそろ本格的な食事でも良いころだ。
「ミーシャ、鍋に野菜と魚を入れておいてくれよ。俺はサリナを起こしてくるよ」
「ああ、承知した」
キャンピングカーに戻ると炊き込みご飯も炊きあがったところだった。ベッドルームで少女たちは大きなベッドで3人一緒に布団にくるまっている。サリナを真ん中にエルとアナはしがみつくようにサリナに引っ付いている。アナの髪を撫でてやると少し汗ばんでいるぐらいだから、体はすっかり温まったのだろう。
アナを眺めていると二人の行く末が気になってきた。親元には返せないとして、サリナが面倒をずっと見るのか? ふむ、ママさんとも相談した方が良いな。それと、このバカンスが終わったら俺達の拠点を考える必要もある。ずっと、イースタンのところに居る訳にもいかないからな・・・、だが、本拠地があると敵に襲われる可能性があるから・・・いっそ・・・、いずれにせよ、エルとアナをずっと連れ歩くわけにはいかない。さて、サリナは何と言うだろう?それに、ミーシャともこの先・・・。
マリアンヌとハンスがいると分かった獣人たちは、いったん村に帰って酒や魚を大量に持ってきた。皆が座れるように砂浜にレジャーシートを敷いてやり、車座で飲める環境を作ってマリアンヌさんを中心に大人たちの大宴会が始まった。ハンスやショーイも目覚めて、獣人たちの中で楽しそうに飲み始めた。リンネはビーチチェアで寝そべったまま、その様子を見ている。
14時を回ったところで少女たちも袋がいっぱいになったと言って、海から戻ってきたが、サリナ達の唇は紫色で鳥肌が立っていたので、今日は水に入るのを禁止した。3人とも少し疲れてきたのか、抵抗せずにシャワーを浴びて、パーカーを被ってバーベキューコンロの傍に座り込んでいる。
「疲れたのか?」
「うん、少し寒くなってきたの」
「エルとアナは大丈夫か?」
「私も少し寒い」
「私も・・・」
「だったら、車の中で昼寝してきても良いぞ。3人で布団に入ればあったまるだろう?」
「うん、ありがとう。・・・じゃあそうする。夜ご飯の支度は手伝うから、ちゃんと起こしてね」
「ああ、判ったよ。3人でゆっくりしてこい」
「はーい、エル、アナ、行こう!」
娘たちに昼寝をさせて海のほうを見るが、ミーシャはまだ上がってこない。さっき海面から潜る素敵なお尻と足を見たから、溺れているはずはないが、満足いく魚が見つからないのだろうか?
大人たちは何かよくわからない酒で、よくわからない話をしながら盛り上がり始めた。どうも、昔話のようで全く興味がわかないので、俺はネット情報をベースに炊き込みご飯の準備をしておくことにした。コメを洗って水につけて、しょうがと人参を細かく切って、大量にあるアワビを薄くスライスする。時間をおいて調味料と一緒に炊けば出来上がり・・・と。
―うん、思ったより簡単だな。
意外と手順通りに進むことに満足して、サザエで同じ準備をして二種類の炊き込みご飯を作ることにした。獣人たちも食べるだろうから、少しの量では足りないはずだった。
―いざとなればストレージから材料を追加しよう。
キャンピングカーで炊飯器のスイッチを入れるときにようやくミーシャ様が戻ってきた。
―うん、明らかに獲りすぎだな。
戻ってきたミーシャは白い顔が青くみえて、綺麗な唇にも血の気は無かった。その代わりモリを天秤棒のようにしてネットの袋二つに大量の魚を入れて歩いてくる。
「どうだ! お前の言う美味しそうな奴があるだろうか?」
袋から見えている魚は少なくとも大きなヒラメが2匹と根魚と青魚が入っている。美味しいのは確実だな。
「ああ、完璧だな。だが、まずはシャワーを浴びて来いよ。お湯を足してやるから体を温めないとダメだ」
「うん? そうか、そうだな。確かにずいぶんと体温が下がっているな」
俺はミーシャのためにポータブルシャワーに熱めのお湯を入れて、頭からシャワーをかけてやった。もちろんミーシャのためであって、俺を満足させるためではない。
「おぉ・・・、やはりシャワーは気持ち良いなぁ・・・、うん、ありがとう、サトル」
「いや、どういたしまして」
水着のミーシャの肌を間近で見ることができて、お礼を言いたいのはこっちだった。ただでさえ白い肌が冷え切ってさらに白くなっていたが、熱いシャワーのお湯で血行が戻り、ピンク色に変わっていく・・・、手を伸ばせば届く距離で・・・、最高です!
5分以上お湯をかけてから、バスタオルで体を拭いてもらった。
「今日はもう水に入らないだろう? 着替えてきたらどうだ? 乾いた服のほうが気持ちいいだろ?」
「そうだな、そうさせてもらおう」
「それで、良かったらこれを着てくれないかな?」
あえて水着から着替えてもらいたかったのはピンクのアロハシャツと白いキュロットのセットだった。南国気分で過ごせるデザインだし、アロハは俺も着ていて・・・、色違いのものだ。
「これか・・・、ふん、下は短いがズボンのようになっているのだな。動きやすそうだな。分かった、着替えてこよう」
「サリナ達が寝ているから、同じのを枕元に置いてやってくれ。まだ、起こさなくていいよ」
「うん、わかった」
ずっと水着姿を見ていたいという思いもあるが、あまり快適ではないだろうからな。明日もあるし、今日のところはこのぐらいで我慢しておこう。さて、ミーシャが獲ってきた獲物は・・・、デカいなぁ・・・、たくさんあるし、さばくのが大変だ。
「勇者様、その魚はどうされるおつもりですか?」
魚をネットから出して、大きなバケツの中に移していると後ろから声がかかった、振り返ると獣人の老人が3人立っている。一人はさっきも話していたジルと呼ばれた人だった。
「ええ、美味しそうな魚なので、食べようと思っています」
「そうですか、でしたらこちらの二人がお手伝いしますよ。魚をさばくのは得意ですからな」
「本当ですか!? それは助かるなぁ、少し多すぎてどうしようかと思っていたんです」
「ええ、ええ、お任せください」
ジルの後ろには、おそらくお婆さん?と言う感じの虎系と狼系の獣人が二人いる。口元に笑みを浮かべてニコニコしながら俺の傍に来た。
「それで勇者様、どのように料理しますか?」
「そうですねぇ、じゃあ・・・」
二人の獣人は俺のリクエストで手早く魚のうろこを落として、大きなヒラメは5枚におろして、それ以外の魚は内臓やエラを取る下処理をしてくれた。ヒラメは刺身にするとして、根魚はメバルとハタ系の魚だから・・・、福岡のばあちゃんなら・・・、やっぱり煮魚だな。だが、味付けは大丈夫か? 鍋のほうが楽そうだな・・・。
テントの奥に行って、何もない場所からこっそりと調理道具や調味料を追加で持ち出してきたところで、俺のミーシャ様が戻ってきた。ドライヤーで髪も乾かしたのだろう。金髪がふわふわになって、ピンクのアロハの上で踊っている。白いキュロットから出ている引き締まった足がとても素敵だった。
「もう、料理を始めているのだな。私も手伝うぞ」
「ああ、魚はこの人たちがさばいてくれたんだ。美味しそうなのは刺身で残りは焼き魚と鍋にしようと思う」
「うん、お前に任せる。それで、私は何をすればよいのだ?」
「そうだな・・・」
俺はミーシャに鍋に入れる野菜を切ってもらうことにした。獣人のおばあさんたちには魚を適当なサイズに切ってもらい、俺は大きな鍋を二つカセットコンロの上に置いて、アゴだしスープを入れて火にかけた。時間はまだ15時過ぎだが、大人の宴会モードだとこのまま夕食だか何だかわからない時間に食事が始まるのは確実だ、いや、既に始まっているのだろう。
つまみ用に先にアジに似た形の魚に塩を振って、串にさして焼き始めることにした。焼き奉行はお婆さんに任せて、俺はヒラメを刺身用と天ぷら用に切り分けた。カセットコンロと天ぷら用の鍋も追加で用意して、ヒラメの天ぷらを先に揚げる準備もする。ヒラメは刺身も美味しいが、天ぷらも柔らかくとても美味い。
「それはなんだ?」
「これは天ぷら油だな。今からミーシャが獲ってきたヒラメを揚げるんだよ」
「揚げる?」
「まあ、見ててよ」
適温になった油の中に溶いたてんぷら粉をつけてヒラメの切り身を投入すると、ジュワっという音ともに油の中で白い衣が躍っている。油の中から泡が沸き上がり、だんだんと色が変わってきたところで油から取り出して油切りの上に置いておく。
「何か、違うものになったようだな・・・」
「いや、揚げるとさっきの白い液体が衣になるんだよ」
「衣?」
「まあ、食べてみろよ」
俺は軽く塩を振った天ぷらを手でつまんでミーシャの口に運んだ。ミーシャは俺の手から躊躇なく口に入れて噛みしめ・・・。
「うぉッ! これはなんだ!? ふわふわして・・・本当に魚か? 美味いな、凄いぞ!」
―よし、初めての“あーん”だが、味も気に入ってくれた。
「気に入ってくれてよかったよ。たくさんあるからどんどん食ってくれよ」
「ああ、やはり自分で獲ってきた獲物が美味しいと嬉しいな」
「あー、なんか新しいの食べてるんでしょ!?こっちにもお願いしまーす」
ママさんが酔っぱらったままで俺に向かって手を振っている。目ざといのか耳ざといのか、新しい料理に気が付いたようだ。もちろん、おつまみにも良いと思って先に揚げ始めたのだが。魚料理はばあちゃんがやっているのを小さいころから見ていた。じいちゃんが釣ってきた魚を俺が好きな食べ方で食べさせてくれて、天ぷらは俺も手伝ったことがあるから、手順を覚えていてよかった。
油の温度を気にしながらどんどんヒラメを揚げて、ママさんと獣人たちに持っていくと驚きの声が上がった。
―これは凄い! 塩の味だが、何とも言えず美味い!
―周りについているのはパンだろうか?
―魚とは思えない味だな!
「サトルさん、これも美味しいわぁ。もっと頂戴ねぇ」
ママさんは色っぽい目線で俺に追加を要求してきたので、揚げる手を止めずにどんどん上げると、たくさんあると思った切り身があっという間に減っていく。サリナ達にも食わせないといけないから、天ぷらはここまでにして、次は焼き魚を食ってもらおう。
おばあさんたちが焼いていた魚を串から外して、食べやすいサイズに切って巣立ちを軽く振ってから皿に乗せて持って行ってもらった。何だかんだで17時を回ったので、そろそろ本格的な食事でも良いころだ。
「ミーシャ、鍋に野菜と魚を入れておいてくれよ。俺はサリナを起こしてくるよ」
「ああ、承知した」
キャンピングカーに戻ると炊き込みご飯も炊きあがったところだった。ベッドルームで少女たちは大きなベッドで3人一緒に布団にくるまっている。サリナを真ん中にエルとアナはしがみつくようにサリナに引っ付いている。アナの髪を撫でてやると少し汗ばんでいるぐらいだから、体はすっかり温まったのだろう。
アナを眺めていると二人の行く末が気になってきた。親元には返せないとして、サリナが面倒をずっと見るのか? ふむ、ママさんとも相談した方が良いな。それと、このバカンスが終わったら俺達の拠点を考える必要もある。ずっと、イースタンのところに居る訳にもいかないからな・・・、だが、本拠地があると敵に襲われる可能性があるから・・・いっそ・・・、いずれにせよ、エルとアナをずっと連れ歩くわけにはいかない。さて、サリナは何と言うだろう?それに、ミーシャともこの先・・・。
0
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる