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Ⅱ‐56 炎の国統治問題2

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■セントレア王宮

 俺が応接間に入ろうとすると扉の向こうからはサリナの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
 衛兵がノックしてドアを開けると3人の綺麗な目が俺を見つめていた。三人とも口元には笑みを浮かべているが、一体俺抜きでどんな話をしていたのだろうか?

「あなたの知りたいことは聞くことができましたか?」

 女王は優雅にソファーに体を預けながら、入ってきた俺に声をかけた。

「ええ、どうやら。カーネギー達にとっては火の国の王妃が女王になったのは想定外のようです。王位は第一王子のエミリオが継ぐはずだったということです」
「私もそう聞いていました。ですから、カーネギー王も知らない理由で王妃が王位を簒奪したのでしょう」
「奪った? クーデターということですか?」
「クーデター? 言葉の意味が分かりませんが、予定していないものが王位を奪ったということですね。問題は王妃一人でそのようなことが出来るはずがありませんから、誰かそれを支援したものがいるということです。その人物が誰なのかがカギですね」
「黒幕ですか。カーネギーは近衛侍従がエミリオの即位を取り仕切るはずだと怒っていました」
「近衛侍従ですか、その者がどうなって、なぜ王妃が女王となったのか?我が王の使徒に調べてもらいましょう。何かわかれば、あなたに連絡します」
「ありがとうございます。それで、カーネギー達は向こうの国にいつ送るつもりですか?」
「本当はすぐに送るつもりだったのですが、女王即位の件を聞いて先送りにしています。もう少し情報を集めてから送ろうと思いますが、それで良いですか?」
「はい、問題ありません。私もその方が良いと思います」

 本当は後継者問題にはあまり巻き込まれたくもないのだが、ここまで来ると知らん顔もできない。何といっても、前の王様を追放したのは俺なのだから。

■イースタンの屋敷

 夕食は俺がハンバーグステーキをイースタンも含めて振舞ってやった。この世界一の大富豪イースタンは人生で最もおいしい肉だと言って驚いてくれた。

「そーでしょ。サトルのごはんは世界一だからね!」

 いつものようにサリナは自分の手柄のように自慢している。まあ、そんな風に育てたのは俺の責任でもあるのだが。やはり、喜んでくれると嬉しくて、どんどん食わせてしまう。今のところ、サリナの体形は“ぽっちゃり”くらいで収まっているが、そのうち“デブ”というゾーンに入るかもしれない。

「それで、サトルさんは王国会議に参加されて、どうするつもりなのですか?」
「まずは、獣人とエルフを普通の人と同じように扱ってもらいます。それと人の売り買いを禁止してもらうつもりです」
「そうですか、それは良いことだと思いますね」

 マリアンヌはパンを片手ににっこりとほほ笑んでくれた。

「ですけど、少し時間がかかるでしょうね」
「どうしてですか?そんなに難しいことでしょうか?」
「難しい・・・、いえ、そう言った決まり事を国の中に伝えていくのには時間がかかるのです。すべての町や村に情報が行き渡って、それが徹底されるまでには1年ぐらいはかかると思います」

 ―一年かぁ、長いような気がするが。この世界ではそんなものか・・・

「実際にはどうやって国中に伝えていくのですか?」
「基本的には新しい決まりごとの札や書状が町や村の長の元へ届きます。その札等を掲示して、皆に周知するのです。一部の村では教会がその役割をまだ果たしています。札や書状を用意するのも、それを配布するにも時間がかかります」

 ―なるほど・・・、そのやり方なら時間がかかるだろうな。

「だったら、俺が書状を作ったり配ったりするのも協力しますよ。それも火の国の人と相談してみます」
「そうですね、あなたならもっと良い方法を見つけるのでしょう。ですが、広く知れ渡るにはある程度の時間は必要ですね」

 ―それはその通りだな、知らない間にルールが変わると混乱する・・・、法の周知期間ってやつだ。


「それで、王国会議までは時間があるので、その間にみんなで休暇をとって旅に行きたいんですけど」

 俺がそういうとサリナが身を乗り出した。

「そうそう!お休みでどこかに連れて行ってくれるって約束した!」
「ああ、海に行きたいんだけどな。海は南のほうにあるんだよな? バーンの南だと厄介な恐竜が出て来るしな・・・」
「でしたら、もっと西のほうから南へ向かえば大丈夫ですよ。火の国から南に行けば、途中で大きな森がありますけど、そこを回り込めばすぐに海へ出ます」
「そうですか! 火の国のムーアからだったら、どのぐらいかかりますか?」
「ムーアから森までが馬車で5日、森は歩いて迂回すると10日ぐらいでしょうかね・・・」

 ―車で5時間プラス、バギーで3~4時間って感じかな?こういう時に空でも飛べると便利だが・・・、それか転移魔法だな。一度行けば次はあっという間のはずだ。

「マリアンヌさん、この世界に空を飛ぶ魔法は無いのですか?」
「空を飛ぶ魔法・・・、先の勇者は風の腕輪を使って空を飛ぶことが出来たと伝えられています。ですが、その風の腕輪もどこにあるか行方知れずとなりました。南の迷宮では見つからなかったのですよね?」

 ―腕輪は無かったな・・・、だが、腕輪? どこかで・・・。

「腕輪は無かったですね」
「そうですか、その腕輪はミーシャの里で作ってもらったそうですよ」
「そうなのですか? では、長老が勇者のために用意したのだな。先の勇者とは何度も酒を飲んだと嬉しそうに話していたからな」
「はい、勇者はエルフの里が気に入って、何度も訪れたと聞いていますから。いずれにせよ、私も近いうちにエルフの里へ行ってみたいと思います。サトルさん、連れて行ってくれますか?」
「ええ、もちろん。喜んでご一緒しますよ」
「サリナも行く!」
「ああ、そうだろうな。お前だけ置いて行ったりはしないから、安心しろ」
「やったー! じゃあ、海とミーシャの村だね」

 ―両方行くとすると、移動を含めて海に6日、エルフの里は4日ぐらい見ておけば良いかな?王国会議が2週間後だから、それまでに戻って来られるだろう。いや、南の海に行って、北の森だから海から一度、セントレアに戻ってから考えても良いか。

 うん、ミーシャ達の水着を見てから海に何日滞在するかを決めることにしよう!
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