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Ⅱ-36 野戦 8
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■森の国 西の砦 近郊の森
-また暗闇の中に戻されてしまった・・・。
ゲルド達は闇の神ネフロスを信じる者であり、暗闇は心が落ち着く場所のはずだった。だが、この場所は全く違う、真の暗闇で一切の光が無いばかりか、音も全くしない。自分が発した声も全て虚空に吸い込まれて行く。
あの若い男が言っていたが、空に現れた黒雲と黒い使徒はゲルドの危機を察知した闇の教皇が遣わしたものだ。ゲルドが助けを呼んだわけでは無いが、闇の教皇はゲルド達の事を離れた場所からでも常に見ている。だが、何体もの使徒を遣わしたと言う事はよっぽどの事態だと判断されたのだろう。ゲルドが黒い使徒を見たのは100年以上も昔の事だったが、その時は一体だけだった。
黒い使徒は人間を蹂躙する・・・、姿を見たもので生き残れるものはいない・・・、はずだった。だが、奴らは魔法を使って一撃で吹き飛ばしたようだ。
-奴らは何者だ? そしてここは?
この暗闇の中にいるとすべてと隔絶されているのが判る。教皇様も私を見つけることを出来ないだろう。
-果たして、黒い使徒は奴らを倒せたのだろうか?
ゲルドは体の復活も止まっていることを感じながら、ただ暗闇の中で一人考えていた。
§
「あのね、お母さんが最後のは自分がやるって言っているけど良いかな?」
無線のイヤホンからサリナの声が聞えてきた。
「ああ、構わない。任せるよ」
サリナママがどうしたいのか判らなかったが、さっきのカマイタチみたいなの以外にも何か技があるなら興味があった。
俺がサリナのバギーを追い掛けながら森の中を走っていると、サリナママは走っているバギーのステップバーですっくと立ちあがって右手を優雅に空へ向けた。手を上げた方向を見ると頭上の高い場所に大きな光るもの-氷か?-鋭い光るつららのようなのもを4本浮かべていた。つららと言っても直径は50㎝、長さは3メートルぐらいありそうだった。
つららが向いている方向からは例の奴が木の間を縫って俺達の方へ走ってきているのが見えた。サリナママは無造作に右手をそいつに向けて振るとつららは見えない速度で移動して走って来たヤツの4つの足の付け根を貫いて地面へ串刺しにした。
-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!
イヤーマフ越しに耳障りな音が伝わって来るが、我慢できないほどでは無かった。100メートル程向こうでは標本のように地面に貼り付けになったソイツが首としっぽを盛んに振っているが、四肢の付け根を氷柱で貫かれているために身動きが取れなくなっている。サリナはソイツの20メートルぐらい手前でバギーを止めて、サリナママと一緒にバギーから降りた。俺達もその横にバギーを止めて、改めてもがき苦しむソイツと対面した。
見た感じは・・・、巨大なサンショウウオだ。口が大きく目の下まで裂けていて、黒い体表は何かぬめぬめした粘液に覆われている。どうやらその粘液があたりの物を全て溶かしているようで、地面の草木が溶けて白い煙を上げている。大きさは胴体だけで20メートルぐらいだろう、長い尾まで入れると30メートル近くなるかもしれない。
-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!
「少し煩いですね」
相変わらず喚き続ける巨大サンショウウオを見て顔をしかめたサリナママが右手をサンショウウオに向けると耳障りな鳴き声が突然止まった。
「何をしたんですか?」
「ええ、喉のあたりを中から凍らせてみました」
「見えないところでも凍らせることが出来るのですか?」
「水があるところなら、見えなくてもどこでも凍らせることが出来ますよ。今度一緒に練習しましょうね」
サリナママは優しく微笑んで解説してくれた。俺には優しいが、目の前の奴には優しくないようで、声は出ないがさっきよりも首振りが激しくなっているところを見ると、凍らされた側はかなり痛いのかもしれない。
「コイツは何ですか?これが魔竜なのですか?」
「・・・わかりません。ですが、闇の世界から出てきたものだと思います。そして、魔竜では無い・・・」
「闇の世界?」
「それもはっきりとは判りません。私達の祖先が魔竜を討伐したときに闇の世界とこの光の世界がつながった・・・、私の祖先が書き残した資料には・・・そういう事が書いてあるのだと思います」
「思います? 見た事が無いのですか?」
「いえ、勿論見た事はあります。ですが、それは我々の世界の文字や言葉では無いのですよ」
サリナママはそう言っていたずらっぽく俺を見てニッコリと笑った。
-言葉が違う・・・、そうか日本語で書いてあるのか!?
この世界の勇者-サリナ達のご先祖-は恐らく地球、それも日本からこの世界に来た人間達だ。書き残すときにこの世界の文字では無く、日本語で書いたのだろう。だが、なぜだろう?俺はこの世界に転移するときにこの世界の文字や言葉が翻訳できる魔法(?)を神に与えてもらったから、いきなりバイリンガルでこの世界の文字と日本語の両方を使う事ができる。サリナの先祖は何故この世界の文字で記録を残さなかったのだろう?
「その資料はまだ残っているのですか?」
「ええ、たぶん残っているはずです。私が村を出るときに隠してきましたからね。無事ならそのまま残っているはずです。あなたにも見てもらった方が良いでしょうね」
勇者の残した資料か・・・、どんどん勇者路線に進んで行っている気がするが・・・、興味が無いと言えば嘘になるな。
-また暗闇の中に戻されてしまった・・・。
ゲルド達は闇の神ネフロスを信じる者であり、暗闇は心が落ち着く場所のはずだった。だが、この場所は全く違う、真の暗闇で一切の光が無いばかりか、音も全くしない。自分が発した声も全て虚空に吸い込まれて行く。
あの若い男が言っていたが、空に現れた黒雲と黒い使徒はゲルドの危機を察知した闇の教皇が遣わしたものだ。ゲルドが助けを呼んだわけでは無いが、闇の教皇はゲルド達の事を離れた場所からでも常に見ている。だが、何体もの使徒を遣わしたと言う事はよっぽどの事態だと判断されたのだろう。ゲルドが黒い使徒を見たのは100年以上も昔の事だったが、その時は一体だけだった。
黒い使徒は人間を蹂躙する・・・、姿を見たもので生き残れるものはいない・・・、はずだった。だが、奴らは魔法を使って一撃で吹き飛ばしたようだ。
-奴らは何者だ? そしてここは?
この暗闇の中にいるとすべてと隔絶されているのが判る。教皇様も私を見つけることを出来ないだろう。
-果たして、黒い使徒は奴らを倒せたのだろうか?
ゲルドは体の復活も止まっていることを感じながら、ただ暗闇の中で一人考えていた。
§
「あのね、お母さんが最後のは自分がやるって言っているけど良いかな?」
無線のイヤホンからサリナの声が聞えてきた。
「ああ、構わない。任せるよ」
サリナママがどうしたいのか判らなかったが、さっきのカマイタチみたいなの以外にも何か技があるなら興味があった。
俺がサリナのバギーを追い掛けながら森の中を走っていると、サリナママは走っているバギーのステップバーですっくと立ちあがって右手を優雅に空へ向けた。手を上げた方向を見ると頭上の高い場所に大きな光るもの-氷か?-鋭い光るつららのようなのもを4本浮かべていた。つららと言っても直径は50㎝、長さは3メートルぐらいありそうだった。
つららが向いている方向からは例の奴が木の間を縫って俺達の方へ走ってきているのが見えた。サリナママは無造作に右手をそいつに向けて振るとつららは見えない速度で移動して走って来たヤツの4つの足の付け根を貫いて地面へ串刺しにした。
-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!
イヤーマフ越しに耳障りな音が伝わって来るが、我慢できないほどでは無かった。100メートル程向こうでは標本のように地面に貼り付けになったソイツが首としっぽを盛んに振っているが、四肢の付け根を氷柱で貫かれているために身動きが取れなくなっている。サリナはソイツの20メートルぐらい手前でバギーを止めて、サリナママと一緒にバギーから降りた。俺達もその横にバギーを止めて、改めてもがき苦しむソイツと対面した。
見た感じは・・・、巨大なサンショウウオだ。口が大きく目の下まで裂けていて、黒い体表は何かぬめぬめした粘液に覆われている。どうやらその粘液があたりの物を全て溶かしているようで、地面の草木が溶けて白い煙を上げている。大きさは胴体だけで20メートルぐらいだろう、長い尾まで入れると30メートル近くなるかもしれない。
-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!-キュエーーーーイ!!
「少し煩いですね」
相変わらず喚き続ける巨大サンショウウオを見て顔をしかめたサリナママが右手をサンショウウオに向けると耳障りな鳴き声が突然止まった。
「何をしたんですか?」
「ええ、喉のあたりを中から凍らせてみました」
「見えないところでも凍らせることが出来るのですか?」
「水があるところなら、見えなくてもどこでも凍らせることが出来ますよ。今度一緒に練習しましょうね」
サリナママは優しく微笑んで解説してくれた。俺には優しいが、目の前の奴には優しくないようで、声は出ないがさっきよりも首振りが激しくなっているところを見ると、凍らされた側はかなり痛いのかもしれない。
「コイツは何ですか?これが魔竜なのですか?」
「・・・わかりません。ですが、闇の世界から出てきたものだと思います。そして、魔竜では無い・・・」
「闇の世界?」
「それもはっきりとは判りません。私達の祖先が魔竜を討伐したときに闇の世界とこの光の世界がつながった・・・、私の祖先が書き残した資料には・・・そういう事が書いてあるのだと思います」
「思います? 見た事が無いのですか?」
「いえ、勿論見た事はあります。ですが、それは我々の世界の文字や言葉では無いのですよ」
サリナママはそう言っていたずらっぽく俺を見てニッコリと笑った。
-言葉が違う・・・、そうか日本語で書いてあるのか!?
この世界の勇者-サリナ達のご先祖-は恐らく地球、それも日本からこの世界に来た人間達だ。書き残すときにこの世界の文字では無く、日本語で書いたのだろう。だが、なぜだろう?俺はこの世界に転移するときにこの世界の文字や言葉が翻訳できる魔法(?)を神に与えてもらったから、いきなりバイリンガルでこの世界の文字と日本語の両方を使う事ができる。サリナの先祖は何故この世界の文字で記録を残さなかったのだろう?
「その資料はまだ残っているのですか?」
「ええ、たぶん残っているはずです。私が村を出るときに隠してきましたからね。無事ならそのまま残っているはずです。あなたにも見てもらった方が良いでしょうね」
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