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Ⅱ-31 野戦 3

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■森の国 西の砦 近郊の森

 火の国の将軍バーラントは先陣を切って街道へ向かって馬を走らせた。後ろには10騎ほどの騎馬兵がついて来るだけで、残りの歩兵は遅れながら走って来る。背後からの追撃は今のところ無いようだが、油断は出来なかった。

 -離れた場所、どのぐらい離れれば安全なのだろうか・・・

 バーラントは30分ほど馬を走らせて街道にたどり着いたところで馬を止めた。馬も少し休ませる必要があったのと、後続の兵が追いつくのを待つためだった。火の国へと続く南西に向かう街道には人や馬車は全く通っていない。この戦を避けてだれも近寄らないのだろう。街道の脇で馬から降りて兵が集まって来るのを見守りながら、国へ帰ってからの事を考え始めた。

 -何の言い訳も出来ない失態だ・・・、戻って首を刎ねられても仕方ないだろう・・・

 バーラントが離れた国の事に思いを馳せていると、木につないだ馬たちが突然いななき、暴れ始めた。

「どうしたのだ? 何事だ?」
「将軍! あれを!」

 騎馬兵の一人が指さした方向を見ると木をかき分けて進んでくる何かが見えた。

「何なのだ! あれは!?」

 バーラント達が目にしたのはリンネが南に向かわせていたステゴもどきだった。周りの木よりも高い位置にある背びれが森の中をどんどんと進んでくる。だが、そちらに目を奪われえているときに、静かに近寄っていたラプトル達がつないだ馬に襲い掛かった。

 リンネからは馬を食って来いと送り出されたラプトルは巨大な口で馬の首筋にむしゃぶりついた。馬は肉と骨を断たれてその場で血を流しながら横倒しになった。既に死んで居るはずのラプトルだが、肉をむさぼり食っている。

「ば、化け物だ! 将軍、早くお逃げください! ここは我らが!」

 騎馬兵達は剣を抜き、ラプトルと将軍の間に立ちはだかった。

 -逃げる? 何処へ逃げると言うのだ・・・

 南への退路を塞がれた将軍は、やむなく東の方角-火の国からは遠ざかる方向に向かって、必死で走り始めた。

 -国へ帰ることも出来ないと言うのか・・・

 §

 ゲルドは巨大な土人形を風魔法で吹き飛ばされたことに驚きはしたが、固い岩石のようになっている土人形の体は、壊れることも無くすぐに立ち上がることが出来た。立ち上がると先ほどよりも姿勢を低くして、嵐の中を突き抜けるかのように土人形を敵の魔法士に向けてまっしぐらに走らせた。

 敵の魔法士は先ほどと同じ風魔法をぶつけてきたが、威力はかなり弱っている。やはり、魔法力が無限では無いのだろう。先ほどのような威力のある魔法を使えば、どうしても疲れて次の魔法は弱くなってしまう。それでも、かなりの威力のある風だった。人間なら決して立っていることは出来ない風の強さで土人形の前進を阻まれてしまった。

 そして、動きが止まったと思った時に魔法士の横に居る男の肩が光ったように見えて、次の瞬間には轟音が聞え、何かが自分の方向に真っすぐ飛んでくるのがわかった。もっとも、それは自分の体と土人形の上半身が粉々になり地面に散らばってから思い返した映像だったのだが。

 土人形の中にあったゲルドの体は四散していた。見事に手足が吹き飛び、思念が残っている頭部だけが地面に転がっている。ここまで体が破壊されたのは初めてだが、思念が残っている以上は、頭部を起点としてやがて体が形作られていくはずだった。眼球に傷がつかなかったせいか、しばらくすると周りの景色は見えるようになった。周りには粉々になった土人形の残骸と自分の肉体の一部が見えるが、首を回すことも出来ないので見えている範囲の情報しか判らない。

 -だが、さっきのは一体? 風魔法とは別の魔法だが・・・、岩を砕く魔法?

「そうか、土人形の中に入っていたのか。ひょっとすると、それで動きが早かったのかな? ミーシャ、魔法士は見つからないだろう? ああ・・・、そうだこっちにいるから戻ってきていいよ」

 頭部だけとなったゲルドの耳に背後から近づいて来た男の声が聞えてきた。

 -さっきの岩を壊す魔法を使った男だろうか?

 足音が近づいて来て、頭の後ろに触れられたと思った瞬間にゲルドの頭部は暗黒の中に放り込まれた。地面の上ではないどこかに入れられたのだろう。しかし・・・、何の音も空気の揺れも、そして光も・・・何一つない空間のようだ。

 -果たして、ここは何処なのだろう?

 §

 俺達は土人形が起き上がることを警戒しながら、ロケット砲を担いでゆっくりと土人形の残骸の周りをまわって様子を見た。今のところ動く気配は無かったので、ロケット砲をアサルトライフルに持ち替えて、少しづつ近づいて行った。

「ショーイ、周りから誰か来ないかを見ておいてくれ。サリナは土人形が動き出したら、今度は全力で風魔法をぶちかましてくれ」
「ああ、わかった」
「うん、任せて♪ 全力は得意なの!」

 何処かにこいつを動かしていた魔法士が居るはずだった。それも一人とは限らないし、敵が違う魔法を使ってくる可能性もある以上、慎重に行く方が賢明だ。それに・・・、死んだふりをする死人が居るかもしれないのだ。

 ゆっくりと近づいて行くと、土人形の破片の中に人間の手足が転がっているのが見えた。

 -なるほどね。中に居たのか・・・

 俺はミーシャに無線で連絡をとりながら、ばらばらになった人間-死人の一部を見つけてはストレージに入れて行った。向こう向きだったが、頭も見つけることが出来た。

「もう、大丈夫だろう。土人形の中で操っていたんだな。だから、あんなに動きが滑らかだったのかな? マリアンヌさんは土魔法の事は詳しくないんですか?」
「ええ・・・、土魔法は魔竜と戦うまでは使ってはいけないと父から言われていました」
「それはどうしてなんですかね?」
「土魔法は闇の魔法に近い魔法とされています。死者が蘇るのも土魔法で体の一部を補っている・・・、恐らくそういう事のはずです」

 細かいことは分らないが、要するに悪い魔法に近いってことなのだろう。だが、魔竜と戦う時には使って良いと言う事は戦いには役立つのか? 確かにあれだけのゴーレムを操れるなら十分な戦闘力だろう。大きさもアニメのモビルスーツぐらいはあるし、この世界の兵なら、皆殺しにできるかもしれない。

「でも、使おうと思えば使う事も出来るってことですよね?」
「ええ、試してはいませんが、土魔法も使えるはずです」

 そうか、今度サリナをコックピットに入れた土人形のモビルスーツでも作ってもらうか。何か武器を持たせて・・・。

「魔法士は土人形の中にいたのだな?」
「ああ、そうみたいだ。だから、あんなに大きくて素早い動きが出来たんじゃないか?」

 俺がモビルスーツの妄想を膨らませていると、ミーシャが重たい対戦車ライフルを担いで戻ってきてくれた。俺は重たいライフルを収納して、アサルトライフルを代わりに渡した。

「この後はどうするのだ?」
「南に向かったはずの敵の本隊は待ち伏せた恐竜を見て逃げたはずだから、そいつらを探しに行こう。敵の将軍が居ればそいつを捕まえて終わりだな。見つからなくても敵を追い払ったから、もう良いんじゃないか?」
「ああ、戦いとしては完勝だろう。森の国の王は火の国へ攻め入るつもりは無いからな。お前とサリナには感謝の言葉も無い」
「いや、成り行きだからね」

 そうなのだ、これはすべて成り行き。火の国がエルフの里のある国へ攻める等と言う事をしなければ、こんなことには・・・、それにサリナママの事や黒い死人達の事もあって、火の国と戦う事になったが、サリナとミーシャに会っていなければ・・・、だが、よく考えると異世界から来た俺が偶然サリナに会ったのだろうか?それにミーシャとも・・・、それとも、これが神の狙いだったのだろうか?
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