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Ⅱ-28 親子の再会 8
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■森の国 西の砦 近郊の森
「命じた・・・って、ずっと車の中に居るように言ったんですか?」
「ええ、あそこから動いたら許さないと伝えてあります」
「いや、その・・・許さないって。あんな人でもサリナのお父さんなんですよね? 10年ぶりぐらいの再会だから・・・、それに夕食もとらないと・・・」
俺もリカルドの事は嫌いだが、サリナの父親でもあり、そこまで邪険にするのはどうかと思って、いままでは簡単な食事だけは出してやっていたのだが。
「大丈夫ですよ。あの人は気になることがあれば2・3日食事をしないことは良くありましたから。今も車というものが何なのかを考えて何かを書いていると思います」
確かにピックアップトラックのルームライトがついていて、リカルドは中でごそごそしている。キャンピングカーに一人で居た時も、全ての扉や引き出しなどを開けてみて、俺が渡したノートに何かをずっと書いていたようだ。
「サリナは良いのか? 久しぶりにお父さんに会えたのに、話をしてないんだろ?」
「うん、良いの! お父さんは一人の方が楽しいみたいだから」
「・・・」
サリナはニッコリ笑ってチーズバーガーを片手にコーラを飲み始めた。妻と一人娘に見限られて少しかわいそうな気もしたが、リカルドの場合はそうなって当然のような気もしていた。だが、なぜあんな男を・・・。
「マリアンヌさんは、リカルドさんのことを・・・、その、好きで結婚したんですよね?」
「・・・その時は好きでしたが・・・。若かったのですよ」
-若気の至りってやつかい!
「あの人の事は放っておいてください。何か食べたくなれば言ってくるでしょうから。それよりも、これは不思議な味で美味しいですねぇ。お肉もパンも食べたことが無いぐらい柔らかいです」
「そうでしょ! サトルのご飯は世界一なの! 凄いでしょ!?今度はお母さんと焼肉を食べさせてもらえると良いなぁ。サリナは今日も頑張ったし!」
サリナは満面の笑みで俺の方を見ている。
「ええ、でもサリナ。あなたは何か勘違いをしているのではありませんか?」
「勘違い? なんで、焼肉が一番美味しいんだよ?」
「そうではありません。あなたの役割は勇者を助けて魔竜を討伐することです。そのあなたが勇者に食事をご馳走になってどうするのですか!本来ならあなたとハンスが勇者のお世話をするのが筋というものです」
「そっか・・・、サリナがお世話をしないと・・・無理! 絶対にこんなに美味しいものは出来ないもん!」
「確かにそうですね。これは絶対に無理です。あきらめた方が良いかもしれませんね」
-え!? ママさんアッサリ諦めたんかい!
「でも、食事は無理としても、勇者の魔竜討伐が成功するようにあらゆる協力をするのが私達の務めです。サトルさん、これからもサリナをよろしくお願いしますね」
「えーと、何度でも言いますけど、俺は勇者とやらでは無いので、よろしくできないです。それに、俺の魔法は必要な物が何でも出せるのでお世話も不要です」
「そうですか・・・、でもその時が来れば判るはずです。それまでサリナを傍に置いてやってください」
「時が来れば・・・、その魔竜がいつ復活するかは判らないんですよね?」
「はい、いつ、どこで、そして魔竜が何かも判っていません」
「でも、何かも判らない物を討伐って・・・、そもそも本当に復活するんですか?」
「ええ、魔竜は必ず復活します。そして、その時が来ればサトルさんも自分が勇者だと言う事に気が付かれるはずです。それまでは、この世界をあちこち見ていただくのが良いと思います」
魔竜の事は置いといて、戦い以外で他の場所に行くのは良いかもな。だが、この戦いが終わっても、黒い死人達の問題は残っている。あいつ等が俺達の事を認識しているのだったが、警戒が必要だ。いや、むしろこちらか攻撃を仕掛けた方が良いのかも・・・。
感動の再会が微妙な空気になった夕食会は早めに切り上げて、二台のキャンピングカーで女性と男性で別々に寝てもらうことにした。明日は日が昇る1時間前の4時に全員を起こすと伝えた。リカルドは相変わらず車の中にいたが、ランプをつけっぱなしにするとバッテリーが上がるので、車から降ろしてキャンピングカーに連れて行った。
「マリアンヌに動くなと言われているんだ。ここから出ても大丈夫だろうか?」
「ああ、別の寝るところを用意したから大丈夫だ。あんたはショーイと二人で寝てくれ。ところで、あんたはサリナとは話をしたくないのか?」
「そんなことは無い! もちろん、話したいが・・・、マリアンヌが凄く怒っているんだ。なぜだろう? 僕は自分が好きなことをしたかっただけなのに・・・」
「それがまずいんだろ? 自分の好きな事しか見えてないから、サリナやマリアンヌさんに迷惑が掛かってるっていう自覚と反省が無い。だから、更にマリアンヌさんが怒る・・・、結局はそれを延々と繰り返しているんだろ?」
「・・・、でも、僕はそういう生き方しかできないんだよ」
高校生の俺からみても驚くほどのダメ親父をキャンピングカーに放り込んで、後はショーイにすべてを委ねて俺もストレージの中で風呂に入ってから、明日の用意を始めた。
明日は本格的な戦争だが、現代兵器だと多くの敵兵を葬ることになる・・・。まてよ?サリナの魔法の方がもっと多くの敵兵が死ぬような気がするな・・・。果たして、どこまでやってよいのか・・・、戦うと決めたものの相変わらず俺の中では優柔不断な自分が残っていた。
§
ゲルドは時間の感覚が無かったが、自分の魔力が枯渇するまでひたすら体の上の土を左右に動かし続けた。土が動いている感覚が続いているので確実に成果があったはずだが、いまだに体は全く自由にならなかった。ゲルドの魔力は常人をはるかに上回る魔力量だが、さすがに次の日の朝には魔力が突きて、何もできなくなってしまった。
-果たして、どれほどの量の土がこの上にあるのだろうか? それとも、他の方法が必要なのだろうか?
暗い土の中で一晩中土を動かしたゲルドはしばらくそのままの姿勢で休むことにした。
-土を動かす・・・、この土を塊として動かせれば・・・
§
翌朝はアラームを3時30分に鳴らして顔を洗ってから戦争の準備を始めた。皆が寝ている間に戦闘服とコンバットブーツにヘルメットを装着して、手榴弾などを詰め込んだタクティカルベストを羽織った。腰にはハンドガンを2丁装備してある。
まだ暗い森の中に一人で出て、最初に車の用意を始めることにする。今日の移動車両は1台目をピックアップトラックの後部座席に機関銃を装備したテクニカルと言われるタイプにした。紛争地帯のゲリラや治安部隊が愛用しているものだが、サリナに運転してもらって、俺は荷台の銃座に立っているつもりだ。もう一台はバギーでミーシャに運転してもらって、こっちでリカルドとショーイを運んでもらう。サリナの両親を同じ車に乗せると良くない気がしたので、二人を分けるためでもあった。ピックアップトラックの荷台には銃弾ケースを弾帯が取り出しやすいように並べて置き、アサルトライフルとその銃弾が入ったコンテナボックスも荷台に並べてから、携行缶でそれぞれのガソリンタンクを満タンにしておく。
車の次にはステゴもどきとラプトルを呼び出して地面に置いた。リンネに頼んで敵の側面に回ってもらうつもりだった。
一通り準備が終わったところで、暗い森の中から小さな声が聞えていることに気が付いた。
「・・・けて、・・・助けてくれ・・・」
声の主は昨日の夜から檻の中で放置してある元王だった。
「どうした? 死んだのか? 死んだら呼んでくれって言っただろう?」
「さ、寒いのだ。それに何か飲むものと食べる物を分けてくれないだろうか?」
王様はさすがに一晩放置されて大人しくなったようだった。人にものを頼む態度になって来ている。俺も殺すつもりは無かったから、食事を出してやることに異存は無かった。
「良いよ。じゃあ、毛布と水と・・・パンをやる」
俺は一旦車の運転席に戻ってから物資を取り出して、元王と元大臣の檻の隙間から突っ込んでやった。ペットボトルの蓋の開け方と菓子パンの袋の開け方を説明すると、二人はむさぼるようにパンを食べつくした。
「こ、これはなんと柔らかいパンなのだ!? 一体どこでこのような美味いものが・・・」
感動している王を見ながら、この二人の事を忘れていたことに気が付いた。
-連れて行くと邪魔だが、置いておくのも問題だな・・・
俺は最初のプランをあっさりと諦めて、違うフォーメーションで行くことに決めた。
「命じた・・・って、ずっと車の中に居るように言ったんですか?」
「ええ、あそこから動いたら許さないと伝えてあります」
「いや、その・・・許さないって。あんな人でもサリナのお父さんなんですよね? 10年ぶりぐらいの再会だから・・・、それに夕食もとらないと・・・」
俺もリカルドの事は嫌いだが、サリナの父親でもあり、そこまで邪険にするのはどうかと思って、いままでは簡単な食事だけは出してやっていたのだが。
「大丈夫ですよ。あの人は気になることがあれば2・3日食事をしないことは良くありましたから。今も車というものが何なのかを考えて何かを書いていると思います」
確かにピックアップトラックのルームライトがついていて、リカルドは中でごそごそしている。キャンピングカーに一人で居た時も、全ての扉や引き出しなどを開けてみて、俺が渡したノートに何かをずっと書いていたようだ。
「サリナは良いのか? 久しぶりにお父さんに会えたのに、話をしてないんだろ?」
「うん、良いの! お父さんは一人の方が楽しいみたいだから」
「・・・」
サリナはニッコリ笑ってチーズバーガーを片手にコーラを飲み始めた。妻と一人娘に見限られて少しかわいそうな気もしたが、リカルドの場合はそうなって当然のような気もしていた。だが、なぜあんな男を・・・。
「マリアンヌさんは、リカルドさんのことを・・・、その、好きで結婚したんですよね?」
「・・・その時は好きでしたが・・・。若かったのですよ」
-若気の至りってやつかい!
「あの人の事は放っておいてください。何か食べたくなれば言ってくるでしょうから。それよりも、これは不思議な味で美味しいですねぇ。お肉もパンも食べたことが無いぐらい柔らかいです」
「そうでしょ! サトルのご飯は世界一なの! 凄いでしょ!?今度はお母さんと焼肉を食べさせてもらえると良いなぁ。サリナは今日も頑張ったし!」
サリナは満面の笑みで俺の方を見ている。
「ええ、でもサリナ。あなたは何か勘違いをしているのではありませんか?」
「勘違い? なんで、焼肉が一番美味しいんだよ?」
「そうではありません。あなたの役割は勇者を助けて魔竜を討伐することです。そのあなたが勇者に食事をご馳走になってどうするのですか!本来ならあなたとハンスが勇者のお世話をするのが筋というものです」
「そっか・・・、サリナがお世話をしないと・・・無理! 絶対にこんなに美味しいものは出来ないもん!」
「確かにそうですね。これは絶対に無理です。あきらめた方が良いかもしれませんね」
-え!? ママさんアッサリ諦めたんかい!
「でも、食事は無理としても、勇者の魔竜討伐が成功するようにあらゆる協力をするのが私達の務めです。サトルさん、これからもサリナをよろしくお願いしますね」
「えーと、何度でも言いますけど、俺は勇者とやらでは無いので、よろしくできないです。それに、俺の魔法は必要な物が何でも出せるのでお世話も不要です」
「そうですか・・・、でもその時が来れば判るはずです。それまでサリナを傍に置いてやってください」
「時が来れば・・・、その魔竜がいつ復活するかは判らないんですよね?」
「はい、いつ、どこで、そして魔竜が何かも判っていません」
「でも、何かも判らない物を討伐って・・・、そもそも本当に復活するんですか?」
「ええ、魔竜は必ず復活します。そして、その時が来ればサトルさんも自分が勇者だと言う事に気が付かれるはずです。それまでは、この世界をあちこち見ていただくのが良いと思います」
魔竜の事は置いといて、戦い以外で他の場所に行くのは良いかもな。だが、この戦いが終わっても、黒い死人達の問題は残っている。あいつ等が俺達の事を認識しているのだったが、警戒が必要だ。いや、むしろこちらか攻撃を仕掛けた方が良いのかも・・・。
感動の再会が微妙な空気になった夕食会は早めに切り上げて、二台のキャンピングカーで女性と男性で別々に寝てもらうことにした。明日は日が昇る1時間前の4時に全員を起こすと伝えた。リカルドは相変わらず車の中にいたが、ランプをつけっぱなしにするとバッテリーが上がるので、車から降ろしてキャンピングカーに連れて行った。
「マリアンヌに動くなと言われているんだ。ここから出ても大丈夫だろうか?」
「ああ、別の寝るところを用意したから大丈夫だ。あんたはショーイと二人で寝てくれ。ところで、あんたはサリナとは話をしたくないのか?」
「そんなことは無い! もちろん、話したいが・・・、マリアンヌが凄く怒っているんだ。なぜだろう? 僕は自分が好きなことをしたかっただけなのに・・・」
「それがまずいんだろ? 自分の好きな事しか見えてないから、サリナやマリアンヌさんに迷惑が掛かってるっていう自覚と反省が無い。だから、更にマリアンヌさんが怒る・・・、結局はそれを延々と繰り返しているんだろ?」
「・・・、でも、僕はそういう生き方しかできないんだよ」
高校生の俺からみても驚くほどのダメ親父をキャンピングカーに放り込んで、後はショーイにすべてを委ねて俺もストレージの中で風呂に入ってから、明日の用意を始めた。
明日は本格的な戦争だが、現代兵器だと多くの敵兵を葬ることになる・・・。まてよ?サリナの魔法の方がもっと多くの敵兵が死ぬような気がするな・・・。果たして、どこまでやってよいのか・・・、戦うと決めたものの相変わらず俺の中では優柔不断な自分が残っていた。
§
ゲルドは時間の感覚が無かったが、自分の魔力が枯渇するまでひたすら体の上の土を左右に動かし続けた。土が動いている感覚が続いているので確実に成果があったはずだが、いまだに体は全く自由にならなかった。ゲルドの魔力は常人をはるかに上回る魔力量だが、さすがに次の日の朝には魔力が突きて、何もできなくなってしまった。
-果たして、どれほどの量の土がこの上にあるのだろうか? それとも、他の方法が必要なのだろうか?
暗い土の中で一晩中土を動かしたゲルドはしばらくそのままの姿勢で休むことにした。
-土を動かす・・・、この土を塊として動かせれば・・・
§
翌朝はアラームを3時30分に鳴らして顔を洗ってから戦争の準備を始めた。皆が寝ている間に戦闘服とコンバットブーツにヘルメットを装着して、手榴弾などを詰め込んだタクティカルベストを羽織った。腰にはハンドガンを2丁装備してある。
まだ暗い森の中に一人で出て、最初に車の用意を始めることにする。今日の移動車両は1台目をピックアップトラックの後部座席に機関銃を装備したテクニカルと言われるタイプにした。紛争地帯のゲリラや治安部隊が愛用しているものだが、サリナに運転してもらって、俺は荷台の銃座に立っているつもりだ。もう一台はバギーでミーシャに運転してもらって、こっちでリカルドとショーイを運んでもらう。サリナの両親を同じ車に乗せると良くない気がしたので、二人を分けるためでもあった。ピックアップトラックの荷台には銃弾ケースを弾帯が取り出しやすいように並べて置き、アサルトライフルとその銃弾が入ったコンテナボックスも荷台に並べてから、携行缶でそれぞれのガソリンタンクを満タンにしておく。
車の次にはステゴもどきとラプトルを呼び出して地面に置いた。リンネに頼んで敵の側面に回ってもらうつもりだった。
一通り準備が終わったところで、暗い森の中から小さな声が聞えていることに気が付いた。
「・・・けて、・・・助けてくれ・・・」
声の主は昨日の夜から檻の中で放置してある元王だった。
「どうした? 死んだのか? 死んだら呼んでくれって言っただろう?」
「さ、寒いのだ。それに何か飲むものと食べる物を分けてくれないだろうか?」
王様はさすがに一晩放置されて大人しくなったようだった。人にものを頼む態度になって来ている。俺も殺すつもりは無かったから、食事を出してやることに異存は無かった。
「良いよ。じゃあ、毛布と水と・・・パンをやる」
俺は一旦車の運転席に戻ってから物資を取り出して、元王と元大臣の檻の隙間から突っ込んでやった。ペットボトルの蓋の開け方と菓子パンの袋の開け方を説明すると、二人はむさぼるようにパンを食べつくした。
「こ、これはなんと柔らかいパンなのだ!? 一体どこでこのような美味いものが・・・」
感動している王を見ながら、この二人の事を忘れていたことに気が付いた。
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