上 下
181 / 343

Ⅱ-20 追い込まれる将軍

しおりを挟む
■火の国王都ムーアの王宮

 火の国の王と大臣を担架に乗せた死人達を従えて、俺達は王宮の出口へと向かった。俺に撃たれた多くの兵が扉の前で足を抑えて床でもがいている。

「あなたの魔法はどうなっているのですか? 矢のようなものなのでしょうか?」
「そうですね、小さな矢が沢山飛んで行く魔法だと思ってください。小さくても矢よりも強力ですから、人間の体を突き抜けて行きます」
「凄いですねぇ!? 今度、教えてください。わたくしも使ってみますから」
「ええ、良いですよ」

 あんなに強烈な風魔法があればママさんには必要ないと思いますが・・・、俺は心の中でつぶやいた。

 王宮の扉を開けると中庭に大勢の兵士が走り込んできたところだった。

「まだ、あんなにいるんですね」
「これでも少ない方です。森の国を攻めに行っていますから、王都の守備隊は全員合わせても1,000人もいないでしょう。あの兵達は王都内にある兵舎から急に呼び寄せられたのでしょうね」

 俺が見たところ200名ぐらいの兵が槍を持ってステゴもどきと俺達に向かって来ている。

「あの大きなのはどうするのですか?」
「持って帰りますよ」
「どうやって? あんな大きなものを?」
「それも魔法です。大きなものでも持ち運べる魔法なんですよ」
「凄いですねぇ、その魔法も今度教えてください」
「そっちは無理です。私しか使えないので」
「固有魔法ですか、残念です・・・」

 -固有魔法? そんなのがあるのか?・・・、今はそれよりも目の前の兵だな。

 俺は走って来る兵に向かって、6連装のグレネードランチャーを立て続けに発射した。

 -シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!

 軽い弾けるような音で榴弾が放物線を描いて兵士達の足元へ飛んで行き、周りにいた兵士達を爆発音とともに吹き飛ばしていく。

「まぁ!? あんなに大勢を!?」

 ママは感心しているが、恐らく風魔法なら一撃で全員を敷地の外まで叩き出せたかもしれないと思っていた。もっとも、どちらが兵士たちにとっての生存確率が高いかは微妙だったが。

「では、残りはわたしが!」

 ママはそう言って右手を上げて、まだ立っている兵達を王宮の門がある方向へ吹き飛ばした。50人以上の人間が子供に放り投げられた人形のように敷地の外へ飛んで行く。

 -生き残っている方が少ないんじゃないか?

 50メートルぐらい飛ばされて石畳の上に叩きつけられた兵士達は誰一人起き上がって来なかった。少しだけ残っていた兵は俺がアサルトライフルで倒して、敵兵が居なくなったところで、頑張ってくれたステゴもどきと虎系魔獣達ををストレージに収納した。

「まぁ!? 本当に・・・、消えるのですね!?」
「ええ、いろんなものを入れておくことが出来ます。出すのも簡単で・・・」
「これは!?」

 俺はピックアップトラックと大型犬用の檻を出して帰る支度を始めた。

「これは、私たちが乗る馬車です。檻は元王様と元大臣を入れるための物です」
「檻!? そんなものに!?」
「やっぱり可哀想だと思いますか?」
「とんでもない!? 素敵です! 二人とも檻の中がお似合いだと思いますよ」

 サリナママが話の分かる人で良かった。むしろ、俺よりもドライ? というか残酷な人なのかもしれなかった。死人の手を借りて檻に入れた王と大臣をピックアップトラックの荷台に乗せて、俺達は王宮を後にすることにした。

 -嫌だけど、まずはリカルドの所だな・・・

 立ちはだかろうとする兵が居なくなった王都バーンの石畳の上を、クラクションを鳴らしながら南門に向かってビックアップトラックを走らせた。

■森の国 西の砦近くの森

 火の国の将軍バーラントは土魔法士と弓兵隊の少し後ろを親衛隊になる騎馬兵に守られながらゆっくりと馬を進めていた。土人形のおかげでエルフの弓を弾き返しながら、森の奥へと敵を追い込んで行っている。兵力は敵の3倍から4倍はあるはずだから、両翼に展開させた歩兵部隊もが相手を包み込むように回り込めれば・・・

「将軍、新たな伝令が参りました!」
「今度は何だ!?」

 今度は左翼に展開していた部隊からの伝令だった。今日は伝令のもたらす情報は凶報しかなかったので、顔をしかめながら走って来る兵を迎えた。

「申し上げます!西側より森を吹き飛ばす突風が吹き荒れており、20小隊が壊滅いたしました!」

 -20小隊!? 約1000名の兵か!?

「き。貴様は正気か!? 晴れ渡った空で風ひとつない晴天の日に突風だと!? いや・・・、風の魔法なのか!? どの程度の風の力なのだ? 人間を飛ばせるほどか!?:
「はい!突風は森の木を根こそぎ吹き飛ばし、兵に森の木を叩きつけております」

 -ば、ばかな! あの女・・・勇者の一族でさえそんな風は使わないぞ!?

「魔法を使っている敵の姿は見えているのか?」
「はい! 遠くに動く馬車のようなものが見えております!」
「ならば、なぜ両側から回り込んで弓を放たんのだ!? 左翼にも弓兵がおるであろうが!」
「恐れながら、弓の届く距離に入る前に全員が肩から血を流して腕が動かなくなっております!」

 -後方の部隊を襲っていた魔法か!?

 バーラントは伝令の報告を聞いて怒りでは無く恐怖を感じ始めていた。

 -5000名の部隊を行動不能にして、今度は左翼の2中隊1000名を壊滅・・・
 目の前の敵の兵力は1500程度と見ていたが、後方から来る敵は一体何人・・・

 バーラントの考えなど全く知らない二人は、敵が集まっていそうな場所を見つけるとサリナが風魔法で森の木と兵を吹き飛ばし続けていた。

「サリナ、そろそろ味方の兵が居るかもしれないから、運転を代わってくれ」
「わかった! もう、たくさんやっつけたよね!?」
「ああ、十分だ。このあたりに残っているのは部隊としては機能しないだろう」

 突風と吹き飛んでくる木に巻き込まれて、多くの兵が森の中で血まみれになって横たわっている。バギーを見つけて近づこうとする敵の弓兵は見つけ次第、ミーシャがアサルトライフルで倒していた。

 ミーシャ達は西の方角-敵陣の左翼から北東に向かって進んできたが、敵の布陣から考えるとこの先で森の国の守備隊と火の国の兵が交戦しているはずだった。サリナの魔法は破壊力がありすぎるから、敵兵の向こうに居る味方にも飛んで行く木が激突する恐れがあった。ここからは、ミーシャの射撃で敵だけを確実につぶしていきながら、敵の将軍を追い込むつもりだった。

「良かった! 思ったより早く終わりそうだね? サリナはまだまだ魔法が使えるから、いつでも言ってね!」
「あ、ああ、その時は頼む。もう少し右の方から進んでくれ」
「わかった!」

 サリナは森を広範囲に荒れ地に変えた魔法を使っても全く疲れを見せていなかった。楽しそうにばぎーのハンドルを握って、ミーシャが指し示した森の奥へと進み始めている。

 -最初に会った時に魔法力が桁外れなのはすぐわかったが・・・、人の域を超えている・・・

 ミーシャは感心すると同時に小さい相棒の力に畏怖していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

処理中です...