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Ⅰ-142 戦力
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■王都ゲイル 下町の宿
組合で仕事の発注を終えた後に宿へ戻ると、一階も二階も掃除は終わっていた。壁紙はちびっ娘とショーイが二人がかりでやっているので、あと一部屋を残すのみとなっている。綺麗になった部屋にセミダブルのベッドを置いて、余った場所に小さなテーブルセットと木製の棚を置くと居心地の良さそうな部屋になった。5部屋を寝る部屋として整えて、残りの一部屋には丸い大きなテーブルと背もたれのある大き目の椅子を6脚用意して、食事をするための部屋にした。
最近は破壊することばかりだったから、こういった作業も楽しく感じている。ここにも長居をするわけではないと思うが、たとえ1週間でも全員が快適に過ごせるようにしておきたかった。
「サトル殿、組合から求人の紹介者が来ています」
一階で外を見張っていたハンスが俺を呼びに来た。さっそく応募者が来たと言う事は、一日あたり銀貨二枚は条件として悪くなかったようだ。
一階に降りて行くと、くたびれたオッサン二人が立っていた。誰でもいいとは言え、居眠りされては困る。襲われたら防犯ベルだけでも鳴らせる人材であって欲しいのだが・・・
「仕事の内容は聞いてくれた?」
「へい、一晩中起きていればいいんですよね?」
「ああ、黒い死人達が襲ってくるはずだから、来たらこのベ・・・」
「黒い死人! そいつは聞いてねえよ! それなら、いくらもらっても割が合わねえ、無かったことにしてくれ!」
「良いけど、断ったって組合に言ってくれよ!」
扉を開けて逃げ出した二人の背中に声を掛けたが聞こえたのだろうか。やはり、黒い死人達の名前を出すとまずいのかもしれない。良い人材が見つかるまでは、交替で見張りを立てることにしよう。
少し時間が早いが日が沈みかけているので夕食にすることにした。一階にはラプトルを置いておいたので、勝手に入ってくる奴は居ないだろう。
ハンバーグとステーキを皆で食べながら、拠点の使い方を五人に説明した。
「二階に5部屋寝るところを作ったから、一人一部屋ずつ使って。一階にはお風呂を置いてあるけど、お湯が出ないから。シャワーを浴びたいときは自分でお湯を沸かして、準備をするように。お湯の沸かし方とシャワーの使い方はサリナに聞いてくれ」
全員に教えるのは面倒なので、サリナが出来ることはすべて任せることにしている。本人は喜んでいるのでウィンウィンの関係だ。
「部屋は見違えたねぇ。壁の色も変わったし、立派な絨毯まであって、まるでお屋敷みたいだね」
リンネの言う通り、今なら銀貨3枚ぐらいで部屋を貸すことが出来るかもしれないと思っていた。
「それと、今晩から交替で見張りを立てたいんだ。この画面を見て、襲ってきたら赤いこのボタンを押してくれ」
俺は監視カメラの画像を映したタブレットをみんなに見せて、机の上に赤い防犯ブザーを置いた。防犯ブザーはボタンを押すと建物中に響くベルが鳴るようになっている。
「その小さな板から外が見えるのですね」
「ああ、夜は明かりもつくようにしてあるから暗くても見えるはずだ」
「でしたら、今晩は私とショーイが起きておきましょう」
「いや、俺とショーイはこれから出かける。代わりにリンネと交替で見張ってくれ。リンネも良いかな?」
「良いよ。綺麗な部屋に美味しい食事も用意してくれたんだから、頑張らないとね」
「それと、夜の間は俺たち以外が入ってきたら、ラプトルで追い払うようにしてくれ」
「ああ、わかったよ。あの子も死んでからの方が忙しいかもしれないね」
いや、死ぬ前も忙しかったと思うぞ。俺達を食おうとしていたんだから・・・。
§
■ゲイルの町はずれ
「ショーイ、あの白い壁の大きな家か?」
「ああ、間違いない。俺がこの町来たときは倉庫じゃなくて、あそこに集まっていた」
俺とショーイは暗視双眼鏡で林の中からショーイの言う大きな家を覗いていた。このあたりは林の中に何軒か家が建っているが、無人の家が多いようで、白い家以外には明かりがついていなかった。ここが黒い死人達のゲイル本部になっているらしい。
「しかし、凄いな。こんなに暗くても扉の位置まで見えるんだな」
「ああ、ショーイはこのまま、ここで見張っていてくれ。何かあれば、胸の黒いのに話しかければ俺に聞こえるから」
「わかった、サトルはどうするんだ?」
「もう少し近づくつもりだ」
「一人でか? 俺も行くぞ」
「いや、大丈夫だ。ショーイは離れていた方が良いんだ」
ショーイの事を完全に信用しているわけでは無かったので、黒い死人達のアジトとショーイの両方をストレージから見張るつもりだった。サブマシンガンを持って、暗視ゴーグルの緑色の世界を慎重に建物へ近づいて行く。建物の入り口には見張りが二人居たので、反対側まで大きく回り込んでから壁に背を付けた。中には大勢の人間が居るようだが、何を話しているのかは判らなかった。
壁の振動から音声が拾えるコンクリートマイクを壁にセットして、イヤホンで中の声を聴く・・・。全然だめだった、何を話しているのかが全く聞き取れない。建物の横から回り込んで、入り口が見える場所でストレージの中に隠れて監視することにした。暗闇の中で見張りの二人が話している声が聞えてくる。
「兄貴も随分と慎重だよな。もう、100人近く集まってるってのに、今日は襲わねえらしいぞ」
「バカ、余計な事を言うな! 聞かれたら殺されるぞ! それに、このまえ襲いに行った奴らは、全員歩けないほど足をやられたらしい」
「けど、4人なんだろ? 囲んじまえば終わりだろうが」
「ああ、兄貴も今度しくじると自分の命が無いことが判ってるからな、この国の手下全員を集めて囲むつもりなんだよ」
なるほど、貴重な情報をありがとう。とりあえず、今日は襲ってこないようなので、このままここで寝ることにしよう。ショーイは・・・、忠誠心を確認するために朝まで放置することにした。
もう少し相手の戦力を集めてから襲うことにしよう。
組合で仕事の発注を終えた後に宿へ戻ると、一階も二階も掃除は終わっていた。壁紙はちびっ娘とショーイが二人がかりでやっているので、あと一部屋を残すのみとなっている。綺麗になった部屋にセミダブルのベッドを置いて、余った場所に小さなテーブルセットと木製の棚を置くと居心地の良さそうな部屋になった。5部屋を寝る部屋として整えて、残りの一部屋には丸い大きなテーブルと背もたれのある大き目の椅子を6脚用意して、食事をするための部屋にした。
最近は破壊することばかりだったから、こういった作業も楽しく感じている。ここにも長居をするわけではないと思うが、たとえ1週間でも全員が快適に過ごせるようにしておきたかった。
「サトル殿、組合から求人の紹介者が来ています」
一階で外を見張っていたハンスが俺を呼びに来た。さっそく応募者が来たと言う事は、一日あたり銀貨二枚は条件として悪くなかったようだ。
一階に降りて行くと、くたびれたオッサン二人が立っていた。誰でもいいとは言え、居眠りされては困る。襲われたら防犯ベルだけでも鳴らせる人材であって欲しいのだが・・・
「仕事の内容は聞いてくれた?」
「へい、一晩中起きていればいいんですよね?」
「ああ、黒い死人達が襲ってくるはずだから、来たらこのベ・・・」
「黒い死人! そいつは聞いてねえよ! それなら、いくらもらっても割が合わねえ、無かったことにしてくれ!」
「良いけど、断ったって組合に言ってくれよ!」
扉を開けて逃げ出した二人の背中に声を掛けたが聞こえたのだろうか。やはり、黒い死人達の名前を出すとまずいのかもしれない。良い人材が見つかるまでは、交替で見張りを立てることにしよう。
少し時間が早いが日が沈みかけているので夕食にすることにした。一階にはラプトルを置いておいたので、勝手に入ってくる奴は居ないだろう。
ハンバーグとステーキを皆で食べながら、拠点の使い方を五人に説明した。
「二階に5部屋寝るところを作ったから、一人一部屋ずつ使って。一階にはお風呂を置いてあるけど、お湯が出ないから。シャワーを浴びたいときは自分でお湯を沸かして、準備をするように。お湯の沸かし方とシャワーの使い方はサリナに聞いてくれ」
全員に教えるのは面倒なので、サリナが出来ることはすべて任せることにしている。本人は喜んでいるのでウィンウィンの関係だ。
「部屋は見違えたねぇ。壁の色も変わったし、立派な絨毯まであって、まるでお屋敷みたいだね」
リンネの言う通り、今なら銀貨3枚ぐらいで部屋を貸すことが出来るかもしれないと思っていた。
「それと、今晩から交替で見張りを立てたいんだ。この画面を見て、襲ってきたら赤いこのボタンを押してくれ」
俺は監視カメラの画像を映したタブレットをみんなに見せて、机の上に赤い防犯ブザーを置いた。防犯ブザーはボタンを押すと建物中に響くベルが鳴るようになっている。
「その小さな板から外が見えるのですね」
「ああ、夜は明かりもつくようにしてあるから暗くても見えるはずだ」
「でしたら、今晩は私とショーイが起きておきましょう」
「いや、俺とショーイはこれから出かける。代わりにリンネと交替で見張ってくれ。リンネも良いかな?」
「良いよ。綺麗な部屋に美味しい食事も用意してくれたんだから、頑張らないとね」
「それと、夜の間は俺たち以外が入ってきたら、ラプトルで追い払うようにしてくれ」
「ああ、わかったよ。あの子も死んでからの方が忙しいかもしれないね」
いや、死ぬ前も忙しかったと思うぞ。俺達を食おうとしていたんだから・・・。
§
■ゲイルの町はずれ
「ショーイ、あの白い壁の大きな家か?」
「ああ、間違いない。俺がこの町来たときは倉庫じゃなくて、あそこに集まっていた」
俺とショーイは暗視双眼鏡で林の中からショーイの言う大きな家を覗いていた。このあたりは林の中に何軒か家が建っているが、無人の家が多いようで、白い家以外には明かりがついていなかった。ここが黒い死人達のゲイル本部になっているらしい。
「しかし、凄いな。こんなに暗くても扉の位置まで見えるんだな」
「ああ、ショーイはこのまま、ここで見張っていてくれ。何かあれば、胸の黒いのに話しかければ俺に聞こえるから」
「わかった、サトルはどうするんだ?」
「もう少し近づくつもりだ」
「一人でか? 俺も行くぞ」
「いや、大丈夫だ。ショーイは離れていた方が良いんだ」
ショーイの事を完全に信用しているわけでは無かったので、黒い死人達のアジトとショーイの両方をストレージから見張るつもりだった。サブマシンガンを持って、暗視ゴーグルの緑色の世界を慎重に建物へ近づいて行く。建物の入り口には見張りが二人居たので、反対側まで大きく回り込んでから壁に背を付けた。中には大勢の人間が居るようだが、何を話しているのかは判らなかった。
壁の振動から音声が拾えるコンクリートマイクを壁にセットして、イヤホンで中の声を聴く・・・。全然だめだった、何を話しているのかが全く聞き取れない。建物の横から回り込んで、入り口が見える場所でストレージの中に隠れて監視することにした。暗闇の中で見張りの二人が話している声が聞えてくる。
「兄貴も随分と慎重だよな。もう、100人近く集まってるってのに、今日は襲わねえらしいぞ」
「バカ、余計な事を言うな! 聞かれたら殺されるぞ! それに、このまえ襲いに行った奴らは、全員歩けないほど足をやられたらしい」
「けど、4人なんだろ? 囲んじまえば終わりだろうが」
「ああ、兄貴も今度しくじると自分の命が無いことが判ってるからな、この国の手下全員を集めて囲むつもりなんだよ」
なるほど、貴重な情報をありがとう。とりあえず、今日は襲ってこないようなので、このままここで寝ることにしよう。ショーイは・・・、忠誠心を確認するために朝まで放置することにした。
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