上 下
140 / 343

Ⅰ-140 王様って・・・

しおりを挟む
■風の国の王宮

 素っ裸の領主を前面に押し出して、王が居るはずの部屋に入った。吹っ飛んだ扉の両脇には兵士が折り重なって倒れている。埃が舞っている大きな部屋は手前に会議用の大きなテーブルと両脇に二組の応接セット、奥には執務用の机が見えている。机の手前に二人の兵士が剣と楯を持って構えていた。

「お前たちは何者だ!・・・、あ、あなたはマイヤー様ですか!?」

 素っ裸の領主を知っている兵士のようだった。

「領主、あれは誰?王様なの?」
「こ、近衛隊の隊長のはずだ」

 近衛隊の隊長・・・、王にとって最後の砦なのだろう。

「隊長さん、私は旅の者ですがこの国の王様に話をしに来ました」
「話!? 話をするのに宮殿へ攻め込むとはどういう了見だ!」
「えーっと、あんたじゃダメなんで、王様を出してよ。どうせ、机の後ろにでも隠れているんでしょ?出てこないと、扉みたいに机ごと吹き飛ばすよ」

「ま、待て。王は私だ。これ以上、兵を傷つけるのはやめてくれ」

 大きな執務机の向こうから若い男の顔が出てきた。

「あの人が王様で間違いない?」
「間違いない、この国のワグナー王だ」

 領主の甥にあたる人物は俺より少し年上ぐらいに見えた。

「じゃあ、あなたが王様ね。抵抗しなければこれ以上は攻撃しない。隊長や他の兵にも剣を捨てるように言って」
「わ、わかった。お前たち、剣を捨てるのだ」
「しかし、陛下・・・」
「良いのだ、お前たちではどうしようもないだろう。後ろにもまだ・・・」
「ク、クゥッ!」

 隊長ともう一人の兵士は後ろのラプトルを見て、悔しそうに剣を床へ放り投げた。

「よし、この領主をあんたは知っているのか?」
「もちろんだ、私の叔父上、ライン領主のワグナー殿だ・・・、酷い扱いを・・・」
「酷い?お前はこいつが領内で女を連れ去っているのを知らなかったと言うのか?」
「い、いや、その・・・」

 否定しないと言う事は知っていたという事ね。

「こいつのバカ息子達はさらった女を弓で撃って遊んでいたんだぞ!」
「そ、それは知らない。そこまでは・・・」
「なるほど、女を攫う事はお前が認めていたという事だな?」
「違う、私が認めていたわけではない!ただ、先王からの取り決めでライン領には口出しせぬようになっていたのだ・・・」
「へえ、じゃあライン領は風の国ではないのか?領民はこいつらが好き勝手に殺したりしても、お前は何もしないつもりだったのか!」
「それは・・・」

 どうも、この王様には当事者意識がかけらも無いようだ。

「お前は王様の役目は何だと思っているんだ?」
「国を発展させて、民を守る・・・」
「ふーん、意外とまともな事をいうんだな。それで、ラインの領民は守られているのか?」
「努力をしていたつもりだ・・・」
「人攫いや人殺しを温かく見守るっていうのがお前の努力なのか?」
「そうではないが、どうしようもなかったのだ・・・」

 どうやら、やる気も無いようだ。

「この王宮には兵は何人いるんだ?俺が倒した奴らだけでも50人はいただろう?その気になれば、この馬鹿領主のとこに乗り込んで縛りあげて来ることだってできたはずだ。お前はできたけど何もしていないんだよ!」
「そうはいっても、叔父上にそのようなことは・・・」

 根性も実行力も無いようだ。

「やっぱり、お前はダメダメな王だな。だが、安心しろ。俺もそう思ったからライン領は俺の権限で廃止しておいた」
「廃止? それはどういう意味なのだ?」
「こいつの屋敷はもう無くなった。息子達も素っ裸でここに運ばれてくる予定だ。こいつがラインの領主として戻ることは無い。元領主もそれで良いよな?」
「ああ、もちろんだ。何でもお前の言う通りにする」

 元領主は聞き分けが非常に良くなっている。全裸の今だけなのかもしれないが・・・

「だから、後はちゃんとお前が王として面倒を見ろよ。出来なかったら、今度はお前を素っ裸にして檻の中に入れてやるからな」
「わ、わかった。私の国として責任を持つ。それで、お前たちの要求は何なのだ?金なのか?」

 ポンコツの王様は、全然判って無いようだった。

「いや、なにもいらない。お前が王様の仕事を真面目にすることが俺の要求だ」
「それだけのために、こんなことを!?」
「それだけ? こんなことって・・・、このぐらい大したことないだろう。攫われた娘たちやその家族が受けた苦しみに比べれば・・・、やっぱりお前やお前の家族を攫ってやろうか?それともこの王宮を吹き飛ばそうか?」
「も、申し訳ない。わかった、お前の言う通りに民のために働くことを約束する」
「そうか、それは良かった。そういえば一つだけ頼みがあるんだ」
「なんなのだ?」
「それは・・・」

 §

 王様との噛み合わない面談を終えて、すっきりしないままハンス達が待つ宿へ向かった。民の苦しみっていうのは、王には判らないものなのだろう。このあたりは現世でも同じかもしれない。宮殿では手榴弾で大けがをしていた兵士とショットガンで目が見えなくなっていた兵士をサリナに治療させた。まあ、飴と鞭って感じだな。近衛隊の隊長と動員された新たな兵は俺達を遠巻きに囲んでいたが、宮殿を出るまで襲ってくる奴はいなかった。

 宿でハンス達と合流して、俺がハンスに頼んでいたことの結果を聞いた。今日は3部屋取ることが出来たが、6人で狭い部屋に入ると酸素が薄くなった気がするぐらい圧迫感があった。

「それで、あそこの宿はどうなっていたの?」
「死んだ主人と娘が後を継いでいました。金貨30枚なら売ると言っています」
「そう、じゃあ金貨100枚で買ってよ」

 俺は目の前で殺された宿の主人の事が気になっていたので、あの宿を買い取って罪滅ぼしをしたいと思っていた。

「わかりました。それで、あの宿を買ってどうされるのですか?」
「しばらくはあそこを拠点として黒い死人達を狩りにいくつもり」
「拠点ですか・・・、ならばあのような汚い宿でなくとも・・・」
「中は改装する。みんなもしばらくは一緒に居るつもりなのかな?」
「ええ、私とサリナ、ショーイはサトル殿と行動を共にします」
「私も森の国に戻るまでは、お前と一緒に居るつもりだ」
「あたしは、行くところが無いんだからずっと一緒だよ」

 リンネの“ずっと”が気になったが、俺にもお願いしたいことがあるのでちょうどいいだろう。

「よし、じゃあ、明日は拠点を回収してギルドに依頼を出しに行こう」
「ああ、黒い死人達に懸賞金をかけるんだ。ここの王様の名前でね」

 ポンコツの王でも名前ぐらいは役に立つだろう。
 領主の次は犯罪者集団を懲らしめないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

猟師異世界冒険記

PM11:00
ファンタジー
 日本で猟師をしていた昌彦(75歳)は老衰によって亡くなってしまう。  昌彦は、長年害獣を駆除し続けた功績とその腕前を神に買われ、強大で凶暴な"モンスター"が暴れている世界、エイリエナへと送られた。  神によって若返らせてもらったその身体と、神から狩猟用に授かった猟銃を持って、昌彦(40歳)いざ異世界を冒険!  しかし、転生先の山には、人っこ1人見当たらなかった。山の頂上から周りを見渡しても、見えるのは、どこまでも連なる雄大な山々だけだった。 「…どこに行けば人里なのかも分からないな…そもそもこの世界に人って居るのか? まあ、どうしようもないか…あきらめて、この山で狩りをして暮らしていくしかないな」  昌彦の異世界サバイバル生活が、今始まった。

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...