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Ⅰ-138 出陣式
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■ライン領主 マイヤーの屋敷
ストレージのベッドで目を覚ましたのは未明の2時過ぎだった。まだ、体はだるかったが、壁を壊したり、人を撃ったりして埃まみれだったので、風呂に入ることにした。温泉宿をタブレットで検索して、信州の野沢温泉から湯を浴槽に入れた。湯船につかって刺されたはずの脇腹を見たが傷跡は無くなっている。魔法万歳ということだろう。
即死じゃなければ元通りになるような気がしてきたが油断は禁物だ。今日も自分では治療できる気力が無かった。サリナが居なければ、危なかったかもしれないのだ。それに、何度自分に言い聞かせても、先に相手を攻撃することに抵抗があった。だが、それも今日で終わりだ。今日は何人も撃ち倒した・・・、相手が死んでも意外と後悔は無かった。結局、相手が変わらない以上は俺が気を遣うのは無意味なのだろう。俺が優しくしても、女を攫う領主や平気で人を殺す犯罪者集団が改心することは無い。これからも黒い死人達は俺を狙ってくるはずだ、こっちもその気で立ち向かうことにしよう。躊躇は死を招く。
翌朝までベッドでまどろみながら、これからの事を考えていた。南に行って魔獣狩りを楽しもうかと思っていたが、昨日の襲撃で考えを変えた。黒い死人達に狙われるのではなく、あいつらを狩ることにする。そのためには・・・。
5時にストレージからキャンピングカーに出ると、外はうっすらと明るくなって来ていた。車の横には二頭のラプトルが巡回している。リンネが見張りを立ててくれたようだ。
「サトル! 起きたの!? もう大丈夫?」
まだ寝ているかと思ったが、サリナが主寝室から出てきた。目が赤くなっている、心配してくれていたのかもしれない。
「ああ、よく寝たから、大丈夫だ」
「そう・・・、良かった」
「俺は檻に入れた領主達を見てくるよ」
「ついて行っても良い? ですか?」
「ああ、良いよ」
外に出ると、大きな狼がしっぽを振りながらついて来る。どう見ても犬のしぐさだが、狼も人懐っこい奴は犬と同じなのだろうか?
車の外の空気はひんやりとしていた。素っ裸の領主達はかなり寒かったかもしれないが、死ぬほどではないだろう。檻に近づくと足音で領主が目を覚ました。
「た、頼む。ここから出してくれ。さ、寒いのだ」
「そうだろうな。だが、生きているだけ感謝しろ」
領主はすっかり従順になっている。だが、息子達は目を覚まして檻を掴んで吠え始めた。
「おい、お前たち。こんなことをしてこの国の王が黙っていないぞ!ただで済むと思うなよ!」
「ああ、その王ってのにも会いに行くよ。お前らは連れて行かないけど、父親も連れて行って説教してやる。言う事を聞かなければ王も裸にして檻に入れるつもりだ」
「そ、そんなことが出来るわけないだろ!」
ツインズが二人とも元気で何よりだった。この後の予定があるので、水だけやれば3日ぐらいは死なないことが大事だ。他の黒い死人達は服を着たまま檻に入っているが、全員撃たれているのでかなり衰弱して静かにしている。
キャンピングカーに戻ると女性陣は全員起きてきたので、外で朝食をとることにした。コンビニのサンドイッチとペットボトルの飲料をテーブルの上に適当に並べた。俺はコーンスープを飲みながら野菜サンドをかじる。
「具合は良くなったようだな」
「ああ、もう大丈夫。昨日は働きすぎた」
「改めて礼を言う、お前のおかげでシルバーを自由にしてやることが出来た」
「良かったね。聞いていたけど、ここまで大きいとは思わなかったよ」
今も俺の傍でお座りしているシルバーを見て、こいつの朝飯が必要なことに気が付いた。
「シルバーはやっぱり肉しか食べないのかな?」
「それは・・・どうだろう?私は食事をやったことは無かったな」
そうなのか・・・、試しにドッグフードを出してみよう。大きなアルミトレイに肉がメインのドッグフードを少し入れてやると、しっぽを振ってすぐに完食した。お座りして俺が手に持っている袋をじっと見ている。全部よこせと言う事だろう。2㎏入りの袋の中身をトレイに全部入れてやったが、あっという間に無くなって、悲しそうな顔をして俺を見ているような気がする。同じ量をもう一度入れてやり、水のボウルも用意してやった。
-デカいだけで、お利口な飼い犬と同じだな。
「シルバーもお前の事を気に入ったのだな」
「そうかな?エサをくれるからじゃない?」
「いや、シルバーは私たちよりも相手の心の中を理解できるはずだ」
俺の心の中は別にしても、助けたことは理解しているようだ。しかし、こいつもこれからどうするんだろ?
「それで、お前は結局これからどうするのだ?」
ミーシャはシルバーでは無く俺のこれからを心配してくれていた。そう言えば昨日はこの話題で矢が飛んできた。あたりを見まわしたが、今日は何も飛んでこない。その代わりにハンスとショーイが起きてきた。丁度良い、俺の考えを伝えるべきだろう。
「二人も腹が減ってるなら適当に食べながら聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
ハンスはテーブルのサンドイッチをショーイに渡しながらキャンピングチェアーに座った。
「まず領主だけど、この国の王様の所に連れて行く。それで、この領地をちゃんと管理しなければ、王も同じ目に合わせると脅す」
「王を脅すのですか!?」
「ああ、邪魔する奴がいれば全員倒して手加減はしない」
「わかりました・・・。息子や黒い死人達は?」
「息子は市中引き回しだ。檻のまま荷馬車に乗せて、王都まで恐竜に運ばせる。黒い死人達はここに置いて行く」
「恐竜で・・・、王都に」
俺はディスる張り紙をたくさんつけた荷馬車でツインズを運ぶつもりだった。王都までたどり着かない可能性もあるが問題は無い。噂は確実に広まるはずだから、ツインズに酷い事をされた人たちの溜飲が下がることを期待していたのだ。
「それで、みんなとはゲイルまで行ってから別れることにする」
「お一人で王の所へ行かれるのですか!?」
「ああ、みんなはこのドリーミアの人だから、王様を脅すのはまずいだろ?」
「ええ、お尋ね者になると思います」
「だったら、俺一人で・・・」
「私はお前の後をついて行くぞ、お前の背中は私が守ってやると約束した。それに返しきれない恩がお前にはある」
「ミーシャ・・・」
「サリナもどこまでもついて行く!・・行きます!」
「あたしはついて行かないけど、あたしの替わりに恐竜を連れて行けばいいさ」
女性陣は3人とも積極的だった。一人でもなんとかなると思うが、殺しすぎないようにするためには背中を守ってもらえるのは助かる。ここは甘えさせてもらおう。
「ありがとう、3人とも。じゃあ、ゲイルではよろしく。その前に出陣式をやらないといけないな」
「出陣式?」
朝食を食べ終わったところで、ハンスとショーイに馬小屋にいる馬と荷馬車を出してきてもらった。馬は放してやり、荷馬車はラプトルにつないでおく。喚き続けるツインズの檻を荷台に乗せて、檻の隙間からから水をチューブで飲めるようにしてやる。
俺はストレージで用意していたメッセージ入りのプラスチックケースを荷馬車の両側に釘で留めて行った。メッセージは右と左で違っているが右側には-僕たちは獣の双子です。どうか石をぶつけてください。-、左側には-僕たちの趣味は人攫いと人殺しです。何か問題でも?-と書いておいた。領民が怒ってくれることを期待している。
「じゃあ、その道をひたすら真っすぐ歩くように命令してよ」
「わかったよ。ゆっくりでいいんだね」
リンネはラプトルの肩を軽くなでると前傾姿勢になって、鬼畜の双子を載せた荷馬車をゆっくりと引き始めた。このまま進めば街道に合流して王都までは3・4日掛かるが、無事にたどり着いてほしいものだ。
「よし、じゃあ、最後の仕上げだ。サリナ、この屋敷を吹き飛ばしてくれ」
「吹き飛ばすってどうするの?」
「この間倉庫に閉じ込められた時と同じで良いよ。お前のすべての力で風が出せるように神様に祈るんだ」
「うん、わかった!」
屋敷の玄関から10メートル程の場所にサリナを連れて行って頷いて見せた。
サリナは目を瞑った後に手にした水のロッドを屋敷に向けて叫んだ。
「じぇっとぉー!!」
サリナの掲げた手に空気が吸い込まれたように集まった後に前方へ爆風が走った。肉眼でも空気が走るのが見えていた。石造りの柱と壁が轟音と共に次々と弾けて飛んで行く。火薬は使っていないのに、大爆発を起こしたように建物の中央部分が基礎以外は無くなっていった。
凄まじい破壊力で気化爆弾ぐらいの威力を発揮している。
この世界の魔法は凄かった。いや、俺がこいつの魔法を強くしてしまったのかもしれない・・・
ストレージのベッドで目を覚ましたのは未明の2時過ぎだった。まだ、体はだるかったが、壁を壊したり、人を撃ったりして埃まみれだったので、風呂に入ることにした。温泉宿をタブレットで検索して、信州の野沢温泉から湯を浴槽に入れた。湯船につかって刺されたはずの脇腹を見たが傷跡は無くなっている。魔法万歳ということだろう。
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5時にストレージからキャンピングカーに出ると、外はうっすらと明るくなって来ていた。車の横には二頭のラプトルが巡回している。リンネが見張りを立ててくれたようだ。
「サトル! 起きたの!? もう大丈夫?」
まだ寝ているかと思ったが、サリナが主寝室から出てきた。目が赤くなっている、心配してくれていたのかもしれない。
「ああ、よく寝たから、大丈夫だ」
「そう・・・、良かった」
「俺は檻に入れた領主達を見てくるよ」
「ついて行っても良い? ですか?」
「ああ、良いよ」
外に出ると、大きな狼がしっぽを振りながらついて来る。どう見ても犬のしぐさだが、狼も人懐っこい奴は犬と同じなのだろうか?
車の外の空気はひんやりとしていた。素っ裸の領主達はかなり寒かったかもしれないが、死ぬほどではないだろう。檻に近づくと足音で領主が目を覚ました。
「た、頼む。ここから出してくれ。さ、寒いのだ」
「そうだろうな。だが、生きているだけ感謝しろ」
領主はすっかり従順になっている。だが、息子達は目を覚まして檻を掴んで吠え始めた。
「おい、お前たち。こんなことをしてこの国の王が黙っていないぞ!ただで済むと思うなよ!」
「ああ、その王ってのにも会いに行くよ。お前らは連れて行かないけど、父親も連れて行って説教してやる。言う事を聞かなければ王も裸にして檻に入れるつもりだ」
「そ、そんなことが出来るわけないだろ!」
ツインズが二人とも元気で何よりだった。この後の予定があるので、水だけやれば3日ぐらいは死なないことが大事だ。他の黒い死人達は服を着たまま檻に入っているが、全員撃たれているのでかなり衰弱して静かにしている。
キャンピングカーに戻ると女性陣は全員起きてきたので、外で朝食をとることにした。コンビニのサンドイッチとペットボトルの飲料をテーブルの上に適当に並べた。俺はコーンスープを飲みながら野菜サンドをかじる。
「具合は良くなったようだな」
「ああ、もう大丈夫。昨日は働きすぎた」
「改めて礼を言う、お前のおかげでシルバーを自由にしてやることが出来た」
「良かったね。聞いていたけど、ここまで大きいとは思わなかったよ」
今も俺の傍でお座りしているシルバーを見て、こいつの朝飯が必要なことに気が付いた。
「シルバーはやっぱり肉しか食べないのかな?」
「それは・・・どうだろう?私は食事をやったことは無かったな」
そうなのか・・・、試しにドッグフードを出してみよう。大きなアルミトレイに肉がメインのドッグフードを少し入れてやると、しっぽを振ってすぐに完食した。お座りして俺が手に持っている袋をじっと見ている。全部よこせと言う事だろう。2㎏入りの袋の中身をトレイに全部入れてやったが、あっという間に無くなって、悲しそうな顔をして俺を見ているような気がする。同じ量をもう一度入れてやり、水のボウルも用意してやった。
-デカいだけで、お利口な飼い犬と同じだな。
「シルバーもお前の事を気に入ったのだな」
「そうかな?エサをくれるからじゃない?」
「いや、シルバーは私たちよりも相手の心の中を理解できるはずだ」
俺の心の中は別にしても、助けたことは理解しているようだ。しかし、こいつもこれからどうするんだろ?
「それで、お前は結局これからどうするのだ?」
ミーシャはシルバーでは無く俺のこれからを心配してくれていた。そう言えば昨日はこの話題で矢が飛んできた。あたりを見まわしたが、今日は何も飛んでこない。その代わりにハンスとショーイが起きてきた。丁度良い、俺の考えを伝えるべきだろう。
「二人も腹が減ってるなら適当に食べながら聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
ハンスはテーブルのサンドイッチをショーイに渡しながらキャンピングチェアーに座った。
「まず領主だけど、この国の王様の所に連れて行く。それで、この領地をちゃんと管理しなければ、王も同じ目に合わせると脅す」
「王を脅すのですか!?」
「ああ、邪魔する奴がいれば全員倒して手加減はしない」
「わかりました・・・。息子や黒い死人達は?」
「息子は市中引き回しだ。檻のまま荷馬車に乗せて、王都まで恐竜に運ばせる。黒い死人達はここに置いて行く」
「恐竜で・・・、王都に」
俺はディスる張り紙をたくさんつけた荷馬車でツインズを運ぶつもりだった。王都までたどり着かない可能性もあるが問題は無い。噂は確実に広まるはずだから、ツインズに酷い事をされた人たちの溜飲が下がることを期待していたのだ。
「それで、みんなとはゲイルまで行ってから別れることにする」
「お一人で王の所へ行かれるのですか!?」
「ああ、みんなはこのドリーミアの人だから、王様を脅すのはまずいだろ?」
「ええ、お尋ね者になると思います」
「だったら、俺一人で・・・」
「私はお前の後をついて行くぞ、お前の背中は私が守ってやると約束した。それに返しきれない恩がお前にはある」
「ミーシャ・・・」
「サリナもどこまでもついて行く!・・行きます!」
「あたしはついて行かないけど、あたしの替わりに恐竜を連れて行けばいいさ」
女性陣は3人とも積極的だった。一人でもなんとかなると思うが、殺しすぎないようにするためには背中を守ってもらえるのは助かる。ここは甘えさせてもらおう。
「ありがとう、3人とも。じゃあ、ゲイルではよろしく。その前に出陣式をやらないといけないな」
「出陣式?」
朝食を食べ終わったところで、ハンスとショーイに馬小屋にいる馬と荷馬車を出してきてもらった。馬は放してやり、荷馬車はラプトルにつないでおく。喚き続けるツインズの檻を荷台に乗せて、檻の隙間からから水をチューブで飲めるようにしてやる。
俺はストレージで用意していたメッセージ入りのプラスチックケースを荷馬車の両側に釘で留めて行った。メッセージは右と左で違っているが右側には-僕たちは獣の双子です。どうか石をぶつけてください。-、左側には-僕たちの趣味は人攫いと人殺しです。何か問題でも?-と書いておいた。領民が怒ってくれることを期待している。
「じゃあ、その道をひたすら真っすぐ歩くように命令してよ」
「わかったよ。ゆっくりでいいんだね」
リンネはラプトルの肩を軽くなでると前傾姿勢になって、鬼畜の双子を載せた荷馬車をゆっくりと引き始めた。このまま進めば街道に合流して王都までは3・4日掛かるが、無事にたどり着いてほしいものだ。
「よし、じゃあ、最後の仕上げだ。サリナ、この屋敷を吹き飛ばしてくれ」
「吹き飛ばすってどうするの?」
「この間倉庫に閉じ込められた時と同じで良いよ。お前のすべての力で風が出せるように神様に祈るんだ」
「うん、わかった!」
屋敷の玄関から10メートル程の場所にサリナを連れて行って頷いて見せた。
サリナは目を瞑った後に手にした水のロッドを屋敷に向けて叫んだ。
「じぇっとぉー!!」
サリナの掲げた手に空気が吸い込まれたように集まった後に前方へ爆風が走った。肉眼でも空気が走るのが見えていた。石造りの柱と壁が轟音と共に次々と弾けて飛んで行く。火薬は使っていないのに、大爆発を起こしたように建物の中央部分が基礎以外は無くなっていった。
凄まじい破壊力で気化爆弾ぐらいの威力を発揮している。
この世界の魔法は凄かった。いや、俺がこいつの魔法を強くしてしまったのかもしれない・・・
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