128 / 343
Ⅰ-128 ライン領へ
しおりを挟む
■王都ゲイルの宿
ハンスが必要な情報を聞き出した後は、サリナとリンネを連れて町の中心部に近い宿へ移った。二部屋しか空いていなかったが、5人で泊まっても問題ないらしい。話をするために5人で一つの部屋に入るとかなり狭いが、短い時間だから我慢するしかない。
女性陣はベッドに腰かけ、俺はキャンピングチェアーに、ハンスは部屋にあった丸椅子に座っている。
「それで、さっきのヤツの話でハンスが聞きたかったことは全部判ったんだよな?」
「ええ、私が探していた剣士も、狼の行き先もラインの領主の所でしたから。情報としては十分です」
「了解、じゃあ、ミーシャもそのライン領に行くってことになるよね?」
「もちろんだ、明日には向かうつもりだ」
「わかった、さっきの件とサリナの件もあるから、どっちにしろ、この町からは早く出た方が良いね」
相手が犯罪者集団とは言え、大勢に怪我をさせたし、サリナに至っては関係ない人たちの倉庫まで破壊したはずだ。早めに立ち去るに限るだろう。
「それで、ライン領ってどの辺なの?」
「私も詳しくは判りませんが、ゲイルから東に行ったところです。馬車なら3,4日ではないでしょうか?」
-かなりアバウトだが、とりあえず東。
「そこの領主って、どんな人なの?お金で狼を返してくれるのかな?ミーシャは知ってる?」
「いや、私はこの国の事は詳しくない」
「かなり評判の悪い領主です。この国の王の叔父にあたる人物なのですが、残虐で女癖も悪いそうです」
-ハンスが言う残虐・・・、どんな感じ?
「具体的にはどんなことをするの?」
「いう事を聞かない奉公人や領民は、拷問にかけて、いたぶるのが趣味のようです」
「・・・」
俺の常識では信じられないが、つい先ほど信じられない光景を見てきた身としては、否定することも出来なかった。
「気に入った若い娘がいると、館に連れ帰って・・・」
「ハンス、もういいや。それって、この国の王様は止めないの?」
「そこは良くわかりませんが、領内では自由にさせているようです」
なんにせよ、そんな奴から、ミーシャの大切な狼をお金で返してもらうのは無理だろう。それに、若い娘が好きならミーシャやサリナも危ないかもしれない。
「ハンスはその剣士とどうやって会うつもりなの?」
「それは・・・」
-ノープランですか。
「ミーシャもお金では無理そうだけど、どうするつもり?」
「そうだな、隙を見て館に忍び込むしかないだろうな」
-無謀だけど、はっきりしている。
「じゃあ、俺達4人は明日の朝からラインの方に行くとして、リンネはどうするの?」
「あたしかい、あたしもみんなと一緒について行くよ」
「そうなの? でも、黒い死人達から聞き出すことはもう無いよ」
「そんな冷たいことを言わないでおくれよ。向こうで色々聞いたりするんだろ?あんた達よりは、あたしの方が目立ないから、役に立つはずだよ。それに、あたしには行く当ても・・・」
確かに、ハンスやミーシャがウロウロすると目を引くのは間違いない。行く当てがないのも本当だろう。本人が行きたいなら、連れて行っても良いかもしれない。
「じゃあ、5人で行こうか」
「本当かい? ありがたいねぇ。きっと役に立ってみせるよ」
■ライン領へ向かう街道
朝一番でイースト商会に立ち寄って、この国の地図をハンスに買って来てもらった。ライン領までは馬車で2日、領主が住んでいる町は馬車で4日、車なら4時間程度の距離だった。
5人で乗る車をどれにするか悩んだが、RVタイプのミニバンを新たに採用した。国産モデルなので、サリナでも運転できる大きさだ。デカいハンスを助手席に座らせて、俺は3列シートの一番後に一人で座って、昨日の事を思い出していた。
殺された宿の主人の光景が頭から離れない。あんなに簡単に人を殺す奴らが身近にいるのだ。それに、俺も人に向けて銃を撃ったり、スタンガンで脅したり、かなりの事をやった。ストレージがあるから、異世界でも現世のように暮らせるつもりでいたが、世捨て人にならない限りは無理だったのだろう。この世界の人間たちは野蛮で危険だ、俺も生き方を変えて行くしかない。
今から行くラインの領主も評判通りなら獣に近い人間なのだろう。だからと言って俺が裁く必要も無いが、押し入って狼を取り返すことに躊躇する必要もない。俺の魔法を有効に使うべきだと思い始めていた。
§
大きな川を越えてライン領に入ってからも、辺りの風景は変わらない。森の国ほどは木が多くないが、整備されてない雑木林がたくさんある。小さな集落の周りには畑があり、それ以外には緩やかな丘陵地帯が続いて遠くには高い山が見えていた。
ラインの領主が住んで居る町に行く前に、地図に載っていたトレスと言う町に立ち寄った。トレスは遠くからは建物が並ぶ街道沿いの大きな町に見えたが、歩いて町の中に入ると空き家や壊れた店が多くあるのが判った。
「なんだか、さびれた感じだな」
「そうですね、人が減っているのでしょう」
ハンスの言う通りなのだろう、街道から続く大きな通りにも人影は少ない。今まで見てきた“町”と言われる場所は、通りには必ず露店がでていて、人通りが多かった。
「この町で領主と館の事が判らないか聞いて行こう。ハンスとミーシャは目立つから、リンネとサリナで店を回りながら聞いてみてよ。俺達3人は離れてついて行くから。サリナは魔法を使うのは・・・、任せるよ。好きに使って良い」
「良いの?」
「ああ、良いよ。好きなようにやれ、だけど結果には自分で責任を持てよ」
「責任・・・、うん、わかった」
俺はサリナのベストに無線機を入れ、大きな胸の上にマイクをセットしながら自分自身の責任についても考えていた。
サリナの魔法も俺の武器もこの世界で与える影響は計り知れない、その結果に責任を持つことが俺自身にできるのだろうか?
ハンスが必要な情報を聞き出した後は、サリナとリンネを連れて町の中心部に近い宿へ移った。二部屋しか空いていなかったが、5人で泊まっても問題ないらしい。話をするために5人で一つの部屋に入るとかなり狭いが、短い時間だから我慢するしかない。
女性陣はベッドに腰かけ、俺はキャンピングチェアーに、ハンスは部屋にあった丸椅子に座っている。
「それで、さっきのヤツの話でハンスが聞きたかったことは全部判ったんだよな?」
「ええ、私が探していた剣士も、狼の行き先もラインの領主の所でしたから。情報としては十分です」
「了解、じゃあ、ミーシャもそのライン領に行くってことになるよね?」
「もちろんだ、明日には向かうつもりだ」
「わかった、さっきの件とサリナの件もあるから、どっちにしろ、この町からは早く出た方が良いね」
相手が犯罪者集団とは言え、大勢に怪我をさせたし、サリナに至っては関係ない人たちの倉庫まで破壊したはずだ。早めに立ち去るに限るだろう。
「それで、ライン領ってどの辺なの?」
「私も詳しくは判りませんが、ゲイルから東に行ったところです。馬車なら3,4日ではないでしょうか?」
-かなりアバウトだが、とりあえず東。
「そこの領主って、どんな人なの?お金で狼を返してくれるのかな?ミーシャは知ってる?」
「いや、私はこの国の事は詳しくない」
「かなり評判の悪い領主です。この国の王の叔父にあたる人物なのですが、残虐で女癖も悪いそうです」
-ハンスが言う残虐・・・、どんな感じ?
「具体的にはどんなことをするの?」
「いう事を聞かない奉公人や領民は、拷問にかけて、いたぶるのが趣味のようです」
「・・・」
俺の常識では信じられないが、つい先ほど信じられない光景を見てきた身としては、否定することも出来なかった。
「気に入った若い娘がいると、館に連れ帰って・・・」
「ハンス、もういいや。それって、この国の王様は止めないの?」
「そこは良くわかりませんが、領内では自由にさせているようです」
なんにせよ、そんな奴から、ミーシャの大切な狼をお金で返してもらうのは無理だろう。それに、若い娘が好きならミーシャやサリナも危ないかもしれない。
「ハンスはその剣士とどうやって会うつもりなの?」
「それは・・・」
-ノープランですか。
「ミーシャもお金では無理そうだけど、どうするつもり?」
「そうだな、隙を見て館に忍び込むしかないだろうな」
-無謀だけど、はっきりしている。
「じゃあ、俺達4人は明日の朝からラインの方に行くとして、リンネはどうするの?」
「あたしかい、あたしもみんなと一緒について行くよ」
「そうなの? でも、黒い死人達から聞き出すことはもう無いよ」
「そんな冷たいことを言わないでおくれよ。向こうで色々聞いたりするんだろ?あんた達よりは、あたしの方が目立ないから、役に立つはずだよ。それに、あたしには行く当ても・・・」
確かに、ハンスやミーシャがウロウロすると目を引くのは間違いない。行く当てがないのも本当だろう。本人が行きたいなら、連れて行っても良いかもしれない。
「じゃあ、5人で行こうか」
「本当かい? ありがたいねぇ。きっと役に立ってみせるよ」
■ライン領へ向かう街道
朝一番でイースト商会に立ち寄って、この国の地図をハンスに買って来てもらった。ライン領までは馬車で2日、領主が住んでいる町は馬車で4日、車なら4時間程度の距離だった。
5人で乗る車をどれにするか悩んだが、RVタイプのミニバンを新たに採用した。国産モデルなので、サリナでも運転できる大きさだ。デカいハンスを助手席に座らせて、俺は3列シートの一番後に一人で座って、昨日の事を思い出していた。
殺された宿の主人の光景が頭から離れない。あんなに簡単に人を殺す奴らが身近にいるのだ。それに、俺も人に向けて銃を撃ったり、スタンガンで脅したり、かなりの事をやった。ストレージがあるから、異世界でも現世のように暮らせるつもりでいたが、世捨て人にならない限りは無理だったのだろう。この世界の人間たちは野蛮で危険だ、俺も生き方を変えて行くしかない。
今から行くラインの領主も評判通りなら獣に近い人間なのだろう。だからと言って俺が裁く必要も無いが、押し入って狼を取り返すことに躊躇する必要もない。俺の魔法を有効に使うべきだと思い始めていた。
§
大きな川を越えてライン領に入ってからも、辺りの風景は変わらない。森の国ほどは木が多くないが、整備されてない雑木林がたくさんある。小さな集落の周りには畑があり、それ以外には緩やかな丘陵地帯が続いて遠くには高い山が見えていた。
ラインの領主が住んで居る町に行く前に、地図に載っていたトレスと言う町に立ち寄った。トレスは遠くからは建物が並ぶ街道沿いの大きな町に見えたが、歩いて町の中に入ると空き家や壊れた店が多くあるのが判った。
「なんだか、さびれた感じだな」
「そうですね、人が減っているのでしょう」
ハンスの言う通りなのだろう、街道から続く大きな通りにも人影は少ない。今まで見てきた“町”と言われる場所は、通りには必ず露店がでていて、人通りが多かった。
「この町で領主と館の事が判らないか聞いて行こう。ハンスとミーシャは目立つから、リンネとサリナで店を回りながら聞いてみてよ。俺達3人は離れてついて行くから。サリナは魔法を使うのは・・・、任せるよ。好きに使って良い」
「良いの?」
「ああ、良いよ。好きなようにやれ、だけど結果には自分で責任を持てよ」
「責任・・・、うん、わかった」
俺はサリナのベストに無線機を入れ、大きな胸の上にマイクをセットしながら自分自身の責任についても考えていた。
サリナの魔法も俺の武器もこの世界で与える影響は計り知れない、その結果に責任を持つことが俺自身にできるのだろうか?
0
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる